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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
異能編(最終章)
133/151

第14羽 MD ⑥ラストステージ(前編) -3/6-


四月十日。チャス・ゴールディングは報告書を読み、テーブルを叩いた。


彼は六十過ぎで中背…といっても平均よりやや低い程度。

中肉中背の年相応にがっしりしたと言える体型。

やや白髪の交じり始めた金髪、整えられた髭。グレーの目。そこそこ見られる顔立ち。

服装はありきたりな、黒の、だがどこか趣味の悪いスーツに赤色のネクタイ。

時計は金でネクタイピンも金。左手の薬指と、中指に太めの指輪をはめている。


サングラスの下には、左目から額にかけかかる大きな傷跡がある。

……この傷はサク・ハヤミにアンダーで付けられたものだ。

失明には至らなかったものの、一体どうしたとマスコミやパパラッチに騒がれ、煙に巻くのに苦労した。

休暇中の事故と言うことにして片付けたが……この傷は高く付く。

ゴールディングはネットワークの上位会員で、アメリカ国内のプロジェクトをまとめる立場にある。


……報告書の内容は、アメリカ、ユタ州のとあるハウスに関するものだ。

この施設はアメリカ国内の最重要施設だったのだが、副主任のエリックが逃げ出す際に、一番重要な『装置』を物理的に破壊していた。

この報告を書いたのはプロジェクト主任のエリザベス。

添付資料には機械の修繕にかかる費用と、それに必要な時間が記載されている。


修繕費用はかるく見積もっても五億から十億。

修理期間は急いでも半年から一年……。


プロジェクトは現在、その拠点をカナダのピーリー島に移している。

ピーリー島のハウスには全ての装置と研究データのバックアップが残っている為、ユタ州のハウスがなくても研究には支障無い。

エリザベス主任も今はピーリー島に詰めていて、今回の報告書で、該当の施設はもう潰して構わないと言ってきているのだが、アメリカとしては、それはしたくない。

ユタ州のハウスが使えないとなると、国内で使える『装置』があるのは現在建設中の一カ所だけになってしまう。

そうなると、今この最終局面で。大きく遅れることになる。


「くそっ!!!」

ゴールディングは報告書を派手に破り捨て、さらに机を叩いた。

カナダ政府が大喜びで研究成果や、その後の利益をかすめ取る様が目に浮かぶ!

わが国が、どれだけの時間と金をかけたと思っている!?


はらわたが煮えくりかえる思いだった。

プロジェクトの成否は、アメリカとゴールディング自身の未来に直結している。

――それだけは絶対に阻止しなければ。


現在、プロジェクトはカナダのピーリー島を無期限に借用している。

……美しく、のどかな島を借すにあたって、カナダ政府は一つ条件を付けた。


『ワイン畑は潰さないこと』


要するに、カナダ政府はアメリカの惨状を見て島一つで済むなら安いと考えたのだ。

カナダ政府はさらに「この島をやるから、わが国には入ってくるな」という条件もつけた。

……プロジェクトが欲しいのは自然保護区の部分だったので、ジョーカーは快く了承した。

そして現状、ネットワークはカナダにはノータッチ。

それがいつまで続くか不明だが、そのあたりはのジョーカー次第と言った所か。


ネットワークの最終目標は世界平和。

それに一番必要なのは、歌やダンスではなく、プロジェクトの成果だった。

……レシピエントの能力には無限の可能性がある。国家の利益は、全てにおいて優先される。


ゴールディングの周囲はダンスだ歌だと騒いでいたが、元々彼は踊りに興味などなかった。他の『メンバー』とのつきあいで顔を出す程度だ。

しかし付き合いで見たとあるショーの後、直属の部下がふとした『懸念』を伝えてきた。

たった一言だったが、その一言で十分だった。

ゴールディングはサク・ハヤミという日本人ダンサーについて徹底的に調べた。


そして古いリストに残った名前を見つけた。

チャスの勘が告げていた。コイツは大当たりだと。ジャパンの医者はこういうつまらない事をよくする。


何も無理強いする事は無い。国家の為だし、ジャパンとは関係も大変良好。

「我が国の、栄えあるプロジェクトの一員として迎えたい」そう言えばいいのだ。

ゴールディングがハヤミを説得してしまえば、上手く行くはずだったのだが……説得は失敗し、事態はさらに予測不可能な方向へと進んでいった。


主任の正体が、ハヤミのチームのエリザベスだったことは、実に不愉快だ。

国内のプロジェクトの関係者は皆、あの女一人に手玉に取られていた。


もちろん政府も黙っていない。

エリック、エリザベス。この両名を拘束しようとした矢先、エリックは逃げ、エリザベスは協力を申し出た。

エリザベスは今のところは協力的だが、あの女は腹の内に何を隠しているか分かった物ではない。

カナダに拠点のある状態で研究成果が発表されてしまえば、アメリカ国内のプロジェクトは確実に頓挫する。それを阻止するために、どうしてもあの女を始末して、サク・ハヤミをこちらに取り込む必要があった。


完全なレシピエントが一人いれば、それだけで圧倒的な切り札になる。

現にネットワークはルイーズという女一人で、ホワイトハウスを牛耳っているのだから。


「――」

ゴールディングは悪態を付き、パソコンを立ち上げた。

ダンスパーティーにはもちろんゴールディングも招待されている。

……サク・ハヤミのステージがあるのだから当然だ。


彼はその前に、研究の状況も見に行くつもりだった。


■ ■ ■


――同日。深夜。

業務を終えた主任は私室でパソコンに向かっていた。

画像通信の相手は、チャス・ゴールディングだ。


主任は先程入浴を終えたばかりで、バスローブ姿に濡れ髪という艶やかな姿だった。

赤い髪は少し伸びてきている。パソコンの近くには珈琲の入ったマグカップが置かれていて、少し薄い珈琲からは湯気が立ち上っている。


『それで、その後の状況は?報告が雑すぎる!』

ゴールディングは画面の向こうで怒鳴り、主任はボリュームを下げた。


「あら、じゃあ、直接来ればいいんじゃない?」

主任は微笑んで言った。ゴールディングがまた怒鳴る。


「それとも忙しいのかしら?じゃあ直行便を手配するから、またいつでも見に来ると良いわ」

『――ちっ』

ゴールディングが、そんな事より報告をしろ!と怒鳴った。


『……シャドーを抑える方法は分かったのか?』


「ええ。分かったわ」

ゴールディングの言葉に主任は頷いた。


「レシピエントの能力開発では、次のステージに上がるのを阻むように、シャドーが出現する」

主任は、歌うように言った。

画面の向こうでゴールディングが苛立ち顔で頷く。


今までのケースでは、ステージを進めようとする度にシャドーが出てしまうのがネックだった。

「――シャドーは表人格を守る為にそうしているのだけど。これはシャドー自身が意識している場合とそうでない場合があるわ。大半は表の人格を守ろうとして、『無意識』に出てきてしまう。……けれど、私のように、好きな時に出て、自由に行動できるシャドーも存在する」


『……』

「意識しているシャドーを持つのは、私の他には、ハヤミ、ルイーズ、アビゲイル。今のところそれだけしかいない。彼らの持つシャドーは人知を超えた存在で、色々な事を知っているけれど。ほら、私達はとても扱いにくいでしょう?だから私は直接ジャックに聞いたの」


『私達は貴方ほどレシピエントについて詳しく無いから、ハヤミの負担にならない方法を教えて欲しいの。そうしないと、ハヤミが壊れてしまうわ』


「――ってね。彼は快く教えてくれたわ。一昨日レコーディングも終わって、あとは実験するだけ」

主任は微笑み、マグカップを口に運んだ。


『そんな方法で、本当にヤツを抑えられるのか?』

ゴールディングが言ったので、主任はクスクスと笑った。

「……その為の実験よ?もちろん、まだ彼以外に応用はできないないけど。それも私達やハヤミが頑張れば何とかなるかもしれない。ようやく光が見えてきたわ!!これで、プロジェクトは飛躍的に進歩する。そうなれば、世界平和は目前よ。じゃあ、出資の件はよろしくね」


『チッ。分かった。だが我々を裏切ったら、ただでは済まない。視察は明後日だ。用意しておけ』

ゴールディングが低い声で言って、通信は一方的に切れた。


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