第14話 MD ④レイ -1/3-
…空港を出たレオンはひとり、アビー達から離れ十メートルほど歩いた。
そこには車が止まっていて、レオンを見つけて直ぐにアルヴァが下りて来た。
――アルヴァはレオンの運転交代要因としてベガスに来て、有事の時の為、車で待機していた。
……空港周辺には、レオン達以外はいない。
百メートルほど向こうに、通行禁止のバリケードがあって、今丁度、現地警察だがネットワークの連中だかが、無線片手に片付けを始めたところだ。
レオン達は、アビーがレオンも行くと連絡しておかげで問題無く通ることができたが…、ウルフレッドは検問をぶっちぎってきたのだろう。
車寄せのそばに、フロントが大破したキャンピングカーが放置されていた。
向こうのバリケードの一部が飛んでいて、植え込みの一部も壊れている。
出入り口右横ではアビーの止血が終わり、クリフが歌のジャックの鎖を解いている。
車から見える位置だった。
「……どうだった?」
レオンは確認した。
「いや。周囲も見たけど、何も。…中は?」
アルヴァが声を潜めて言った。
レオンは顔をしかめた。
「空振りだが……。いたのかもしれない。…泥臭い」
「ふー、やっと取れたぜ」
という声が聞こえた。歌のジャックが手の筋を伸ばしていた。
「アルヴァ。怪我人がいる。彼女を運んでくれ」
レオンはアルヴァに言って、アビー達の元へと戻った。アルヴァは車を移動する。
「アビー、大丈夫か?俺は業務再開を待って飛ぶが、君はどうする?」
レオンが言った。見るとおそるおそる、あるいは堂々と一般車両が入って来ている。同じく、観光客も見える。
「血が止まったら行くわ」
アビーが言った。
「ハァ。何言ってんだ。休んどけ」
歌のジャックが言う。
「でも」
アビーが何か言おうとする。
「駄目だ。ホラ乗った乗った。悪いな、アンタ。この人の仲間だろ?クイーンを頼む」
レイがアルヴァに言った。
「クリフ頼む。ちゃんと見張って休ませろ」「分かった。ジャック、後は頼んだ」
レイが言うと、クリフが携帯を歌のジャックに渡して言い、乗り込んだ。
「分かったわ…ダーリン、一緒に来て」「アビーちゃんっしっかりして!」
アビーは言って、大人しくウルフレッドと後部座席に乗り込んだ。
レオンは感心した。
――どうやらレイがいると話が早いようだ。
「おい犬。近くに宿を取ってある。そこで医者でも呼べ」
レオンは車中をのぞき込んで言った。
残ったのは、レオン、イアン、そして歌のジャックの三人だ。
レオンはデータを思い起こす。
確かツキミヤ…とか言ったな。
日本語では月宮レイ。
速水と同じ日本人。ただしレイは祖母がアメリカ人で、つまりクオーターという事になる。
速水と同い年だが、速水より大人びて年上に見える。
…目つきのきつい速水と比べたら、多少だが目元は柔らかい。むしろ誠実そうな印象を受ける。
薄茶色の髪は四方に跳ねている――これはセットしているようだ。うなじ辺りの髪を少し伸ばして三つ編みにしていて、耳にはシルバーのピアスがやたら付いている。右耳にはさらに黒い十字架のイヤリング。指には指輪を幾つも付けている。
メイクはしていないようだが、肌は白く、顔立ちはひどく整っている。睫毛はやたら長い。
目は青いが自然な青さでは無いので、カラーコンタクトだろう。
…つまり日本のビジュアル系、という感じだが…先程のやり取りを見るに、年相応の落ち着きがありそうだ。
「で??俺達はどうするんだ?ぶっちゃけ俺は何も聞いて無いぜ。何かする事があるのか?」
レイがクリフの携帯をもてあそびながら言った。
――携帯に指輪が当たってカチャカチャと音がする。
「イアン、説明頼む」
「何だと?」
イアンが舌打ちした。
「人手は多いに越したことは無い。運行再開まで時間もある」
レオンが言うと、イアンはさらに憮然とした。
「俺は腹が減った。朝からずっとスロットやってんだぜ?あいつら」
レイが言う。あまりに派手なレイは多少、目立っていた。
レオンはレイを横目で見た。
「あいつら?」
イアンが聞きとがめ、怪訝そうな顔をした。
「――中で適当な店にでも入ろう」
レオンは話題が続かないように遮った。