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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
異能編(最終章)
122/151

第14羽 MD ②小鳥 ②


……。

速水朔は目を開けた。


「大丈夫?」

ノアがのぞき込んだ。若干あきれ顔かもしれない。

速水は無言で身を起こした。そして痛む首を押さえて項垂れた。


部屋はそれほど広くないが、別に狭くも無い。

ただの白い部屋だった。

特に何も無い。…とりあえず、一時的に閉じ込められたのか?


今ごろ、ベス達は速水が出した負傷者の手当をしているだろう。それがせめてもの慰めか…。だが。

「全然大丈夫じゃない」

速水は憮然とした。

こんな事なら、手加減せずにもっと派手に暴れれば良かった。


「…くそっ」

速水は悪態をついた。少し項垂れる。

「ハヤミって、馬鹿だよね…」

ノアは苦笑して言った。少し明るい声色。慰めているようだ。

ノアの肩には小さな鳥が止まっている。

…ベス?が作り出した鳥だ。


「…その鳥って、餌食べるのか?」

ひどく落ち込んでいたが、プロジェクトへの恨みも収まっていなかったが、速水は気になった事を聞いた。

監禁されている状態に付き合わせるのは、小鳥には良くないかもしれない。

…小鳥だって俺のとばっちりなんて嫌だろう。


黄緑色の小鳥はちゅちゅ、と首を傾げて鳴いた。


「さぁ。コレって何の鳥?」

「見た目はアトリ科の鳥、みたいな感じだけど、アトリは背中がこんな色じゃないし…分からない」

速水はよどみなく答えた。

この鳥は、頭が黄緑色、胸が薄いオレンジ色、背中の色合いは若干の黄色で、羽の付け根に黒と白の模様が入り、羽が黄緑色をしている。…アトリによく似ているが、アトリはもう少し水色、薄いグレー、という感じの鳥だ。

アトリの、ほんの若干の色違いバージョン…?近い種類か、あるいはベスが色を決めたのか…。

速水は笑い出したくなった。


…手を伸ばしたら、触れられるだろうか。逃げるかな。

そう思って速水が手を伸ばすと、小鳥は速水の指先に乗って、少しはねて、またノアの元へ戻った。


「そういえばハヤミってさー、やっぱり、頭いいの?」

ノアが言って、壁にもたれて速水の隣に、横並びに座る。速水は片膝を立てて座る。

速水はスクールでもこんな事あったな、と思った。


「別に…普通だと思うけど」

「――嘘だろそれ」

ノアが言った。


…そう、嘘だ。

もう何十回もついた嘘。癖になってる。


はぁ…。

と、二人とも、うつむいて溜息を付いた。

速水は小さくノアは大きく。


「……ねえハヤミ、君はどう思う…?アレってベスだと思う?」

ノアの肩で小鳥が、ノアの頰にすり寄っている。

ノアは途方に暮れたような表情はそのままに、指先で小鳥のくちばしを触った。

小鳥が嬉しげにさえずった。


ノアが少し上を向く。

「俺、もう訳分からない……。…俺は、アレは絶対ベスじゃ無いって思うけど。ハヤミはどう思う?…」

そこでノアの言葉が切れた。


しばらく待ってもノアが無言だったので、速水は自分の考えを言うことにした。


「…俺も、多分あれはベスじゃないと思う。彼女は死んだ……」

自分の考えとは裏腹な事を言ってしまった。

速水は彼女をベスだと思っている。

「―本当にそう思ってる?目が泳いでるよ…」「…ノア。こっち見て言え」


ノアにあてずっぽうで言われて、速水もノアを見ずに溜息をついた。


速水は考えながら口を開いた。

「分からない。けど…俺はあれが、本当のベスだと思う。だから俺達の仲間だったクイーンは…元からいなかったか、いたけどそれは本当にシャドーで、あの時死んだのか……。けど、エリーもいるし……俺達のチームの『クイーン』がいた事は間違い無い」


ノアは…うううーん…、と唸るような溜息を付いた。

ノアも、あまりに想定外の出来事に、途方に暮れているようだ。


そしてノアは速水を見て…、違ってたらゴメン。と前置きした。


「なあ。この際だから聞くけど。ハヤミって、実はベスの事…結構、本気で…好きだったよね」

控えめに言った。

「……」

いきなり言われた速水は、バツが悪そうに目をそらした。

「そんなことない」

そう言ったが。

「―まあ、無理も無いよね…。ベス、美人だし。俺、見ててすぐ分かった」

クスクスと、ノアが速水を指さし笑った。

「………確かにそうだけど」

とついに認めた速水としては。

…今だからこそ、あれは致し方なかったと言いたい。


いきなり誘拐されて、地下に閉じ込められて、体調が悪くなっていく中。気遣われて。

……少しなびいてしまった。


ベスにはノアが居て、ノアにはベスがいる、それでかえって、自分が幾ら想っていても安全だ、と思ってしまったのか。…最低だ。

つまり横恋慕……これはかなり情けない。


速水は、女性関係にまつわる恐ろしい事態を何回も経験したことがある。

出所が不明な噂のように、未亡人や処女をひたすら食った結果、隠し子が百人いる、等では無くて。

速水としては特に何も無く、ただ普通に接していたら。

ある日いきなり、彼氏と別れた、夫と離婚するとか言われた事があった。刃傷沙汰までは行かないが、殴り込まれた事や、夜道で絡まれた事はある。…説明して女性にも分かって貰えたのは全くの奇跡だ。たまに殴られる。

面識の無い女性の場合もあるが、それはファン心理?


自分は父や隼人に比べてそこまで美形と言う訳でも無いし、たぶん、どこかで思わせぶりな態度をしてしまったんだろう…。

――あるいは、ここで自分に非があると思うこと自体が、やはり良くないのかも知れない。


「…反省する。これからはもっと真面目に生きる」

速水はひたすら落ち込んで言った。

…二代目JACKが悪戯に浮き名を流すのは、死んだジャックも望まないだろう。

当分は恋愛禁止で、ダンスダンスダンスだ。


「けど、…ベスは浮気はしてない」

速水はノアを見て言った。

あれは自分が勝手に少し?好きだっただけ、と伝えなくては。

「当たり前だろ。だったらブッ殺してるよ」

ノアは呆れたように言った。

「…ごめん」

速水は小さく言って、黙るしか無い。


「あっ。ねえそうだハヤミ、君、アンダーで何人くらいとヤった?ほら、シンディとか、良い感じだったよね、どうだった?あとお出かけの時とか――」

ノアがワクワクと、下品な話を始めようとした。


――それは無視して、速水は、ノアの肩の小鳥を眺めていた。


小鳥はノアの左肩に、涼しい顔をしてとまっている。


本当に鳥だ。

……こんな力が実在する?


レシピエント…。

どんな力なのか、未だ分からない。

だくさんの小鳥を作り出す能力?…何の役に立つんだ?

ネットワークは世界緑化計画でも立ててるのか?

木を植えて、そこに鳥を放すとかか?…ものすごく平和的だ。無いだろうけど。

――隼人が聞いたら喜ぶだろうな――。


アメリアも…?スクールの人間も、もしかしたらそうなる可能性を秘めていた?


俺が、万が一、レシピエントだとしたら。

…俺は…この先一体どうなるんだ?


〈おわり〉

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