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第3話 自決 (後編) -1/2-


──平和的な協議の結果。


「良いでしょう。まず、今日は昨日落としたB-10に再挑戦、クリアして貰います。その後、C-1~F-1まで、今日中に2にランクアップして下さい。出来なかったらペナルティです」

サラから紙を渡される。殴り書きだった。

ランクアップ、つまりは1000点取れと言う事だ。

ムチャクチャだ、とレオンは頭を抱えた。


Cヒップホップ、Dウォーグ、Eハウス、Fロック。

確かに1は初歩と言えば初歩だが。クリアならともかく、いきなりどれも1000点はムチャクチャだ。そもそも時間が足りないのではないだろうか。


「明日からのメニューはまた作ります」

「分かった、ああ、そうだサラ―」

速水は二三の確認して、それを受け取った。


朝食後。早速、速水の別メニューが開始された。



―。



「…と、まあ、当然だな」

「…痛った…」

その日の終了後、速水とレオンは医務室にいた。


「まあ、なぜか俺はあまり殴られなかった訳だが…。お前ホントに馬鹿だな」

レオンはベッドの上で横になる速水を見て、深い溜息を付いた。

「落としたのは一つだから、また明日取る」

速水は呻きながらそう言った。

「お前な。スケジュール、明日も別のがあるんだぞ?リトライは来週だろ?」

「明日サラに頼む。でなきゃ、一月で7までは行けない」


速水は予定表を受け取った時、サラに、必ず順番に回らないといけないのか?と確認していた。

そして、お好きな順でかまいませんと言われた。

さらに一日の予定を増やす事は出来るか?と聞き、連絡を直接したいとも言った。

彼女の返答はしぶしぶのイエス。内線を使って下さいと言われた。


妥協点としてはまあまあだと思う。

しかし彼はそれを口にはしなかった。


「お前な…」

レオンは舌打ちした。

「レオン。サラは多分、不可能なスケジュールは立てない。目標だってそうだ。7ってのが俺に出来ると踏んで言いつけたんだと思う。…今日はラストランも無かったし。時間もギリギリできるように調整されてた。…ミスしたのは俺」

「確かに、彼女はそういう感じだが…お前、本当にできるのか。体が持たないだろ」

レオンは言った。


今日は9月20日の金曜日で、明日は21日の土曜日だった。

明後日22日の日曜は安息日で休みだが…、それには土曜のあと一日乗り切らないといけない。


「ペナルティ、命までは取られないだろうから…、きついけど」

速水のペナルティはかなり加減されているようだった。

彼は今日も受けてみて、このくらいなら、吐きはするが死にはしない。そう思った。


「うっかり死ぬって事もあるぞ」

「その時は、寸前でレオンに助けて貰う。その為のナイフだろ」


速水は目を閉じた。


今日、速水は他の項目で1000点を取るため、出来そうなダンスをわざと一つ落とした。

落としたのはペナルティを見るためでもあったが…。

7まで行こうと思うなら、全てに全力で当たっていては、体力が持たないし、効率も悪い。

部屋に行くことさえしなかった。


彼が、即降格でも良いと思ったのは本当だ。

…こんなのは、馬鹿げている。


問題は、大会用メニューが割り込んできた時だが…それまでに幾つ取れるか…。

幾つペナルティを受ける事になるのか…。彼は溜息を付いた。


「俺もナイフ…、練習しないと。レオン、後頼んだ」

速水は思考を巡らせながら、意識を手放した。


■ ■ ■



そして問題の土曜。

速水とレオンはまたペナルティルームに居た。


速水は部屋の中心でまた正座をしている。


「ハァ…、お前なあ。土曜はヤバイ奴だから気をつけろって言っただろ…」

レオンはもう付き添いの保護者と言う感じだ。

「…悪い」

謝罪した。


口調はいつもと変わらないが、速水は完全に開き直ったようだ。

レオンにはそれが分かるようになった。


「ヤバイって、どんな―」

速水がレオンを見上げた時、カチカチャという軍靴の音が聞こえた。


「はじめまして!!」

「―」

なるほど、これはヤバイ。

何がヤバイって、全身くまなく、カラフルな入れ墨がある。前衛的な絵画のようだ。

服装はピンクの軍服で、目元を運営と同じデザインの仮面で隠している。小さなピンクの羽根付きベレー棒を被り…、胸元には何故か勲章がじゃらじゃら。手には鞭、腰にはでかいナイフ

…これに戦場で出くわしたら、間違いなく敵は逃げ出す。


そして今日は集団では無く、一人だけだった。


けど、こんなの相手に、どう生きろって言うんだ…。俺、ここで死ぬのか。

ああ、そういえばもうすぐ、隼人の誕生日だったな。メール送らないと、あいつ心配する。

速水は絶望した。現実逃避もした。


「遅くなってゴメンね、服が決まらなくって!!」

かすれた声で語尾を上げるように喋る。それだけで速水は全身に鳥肌が立った。


その後の彼の行動を見て、速水は自分の目を疑った。

彼が取り出したのは、コップ。それを床に置いて―。


「飲みなさい」

そう言った。


「―、いい大人が、馬鹿やってんじゃない!」


バシャッ!!と鋭い音がした。

「え?」

さすがのゲテモノも、瞬間、何が起きたか理解出来なかった。

速水は多分、ものすごく頭に来たのだ。

何をしたのかというと、間髪入れずにコップ手に取り、そいつに『中身』をぶっかけたのだ。


しかも、なぜか説教付きで。

一部始終を見ていたレオンは、あ、こいつ死んだ。と思った。


「がっ!」

案の定速水は腹を蹴り飛ばされ、壁に背を打ち付け、悶絶した。


レオンが駆け寄る間もなかった。カチカチカチカチと音がする。

ゲテモノが歯を鳴らしているのだ。速水の服を掴み、引き起こした。

「=====!!====!!====!!?」

ゲテモノはとんでもない大声でひたすら悪態を付いた。意味は分からない。

レオンの脳はスラングの解析を全力拒否した。が、やさしくすればつけあがりやがってこのがき!(意訳)だと肌で感じてしまった。


いけない事に、速水は目つきが悪い。

どでかいナイフがその目を映す―。


白刃が間一髪逸らされ、代わりに強烈な前蹴り、宙に浮く間もなく、一瞬で床に叩き伏せられる。軍靴が速水の頭を容赦無く踏みつけ、蹴飛ばし。首筋にナイフが振り下ろされ。

速水が跳ね起きてギリギリ避けるも、また蹴飛ばされ壁にぶつかり―。一瞬で鮮血が散る。

ゲテモノが字や絵を描くように、笑いながら、速水の体を切り裂く。



──やばい!!

レオンは懲罰室の受話器をもぎ取り、必死に叫んだ。


「誰か!!早く来い!!あいつ殺されるぞ!!!」


■ ■ ■


「おまえ、なんでそんな風なんだよ…」

またしても医務室で、レオンは頭を抱えた。


返事は無い。

結局受けてしまったナイフの傷や打撲は、エリックが手当してくれた。

怪我の治療は世話人の仕事でもあるので、彼は飛んで来た。

…肋骨が折れていなくて、良かったです。跡が残らないと良いですが…。

彼はそう言った。

ナイフの傷は深くは無いが―、悪趣味な腹いせだ。


だが、あれは速水も悪い。


ダンサーは身体が資本だというのに。あきれた話だ。

レオンはそう思った。


このままペナルティばかり受けていたら、体が持たないだろう。

…運営が性的ペナルティを採用しているのは、それが、暴力よりも体を壊さないからだとレオンは考えていた。

まあそれもキツイ事には変わりないが、運営は一応その道のプロを使っているし、ヤリ殺されるとこまではいかない。


速水はなぜかその性的ペナルティを免除されている。これはノアの言う通りラッキーだ。しかし、このままだとその分早く身体が壊れる。


実際、きつそうに見える。

それでもいちいち運営に逆らうのを止めないのは、無謀もしくは馬鹿としか言いようが無い。

特に今日はまずかった。あの説教とか意味不明だし。


「はぁ…」

レオンはまた溜息をついた。


速水が一体どんな奴なのか、レオンには全く理解出来なかった。

直ぐ切れるし、短気だし、我が儘で、馬鹿だ。


こいつがジャックだって?俺、このガキと組むのかよ。

足手まといになられちゃ困る。


レオンは内心ずっとそう思っていた。

まだ三日程度の付き合いと言えばそれまでだが…、レオンはこの先も速水と組める気がしない。背中を預けるには、速水はあまりにも頼りない。


速水が特別に馬鹿なのだろうか。それとも?


「それともジャパニーズってのは、みんなこうなのか?…ハァ」


それでも彼はそこを離れなかった。


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