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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
異能編(最終章)
118/151

第14羽 MD ②小鳥 ① -3/6-


ノアは歯を食いしばって…、俯いたままだ。

テーブルには少し温度の下がった紅茶がある。


「座りましょう」

ベスでは無い、『主任』はソファーに腰を下ろした。


速水は項垂れたノアを立たせて座らせて、自分もソファーに腰を下ろした。


…この空気の中で紅茶を飲む気分にはなれない。

速水は手を伸ばして、カップに少し触れ、少し動かしたただけで手を引っ込めた。


主任は頬を押さえて溜息を付いた。

「…ハヤミ、エリックは貴方を守る為にプロジェクトに虚偽の報告をしたけど、もちろんそれはばれると分かっての行動。時間稼ぎでもあったでしょうが……、遠回しは良くないわね」


彼女はまた溜息をついた。

「まずは聞かせて。エリックは貴方に何て言って立ち去ったの?」

その問いは唐突だった。


エリック?


「…エリックは…」

『心配しないで下さい、必ず戻って来ます。あなたは必ず、私達がお助けします』

エリックは…涙ながらにそう言った。


「――って、何度も、心配するなって、…それだけしか言わなかった」

速水は答えた。

それがどうかしたのか、何で今?レオンにも聞かれたな、と思いながら。

速水の左隣で、ノアは俯いたままでいる。


「…そう」

彼女は溜息を付いた。

そして、紅茶に砂糖を一つ入れた。…ベスもそうだった。


「サラが『私達』の仲間だって事、エリックから聞いた?」

「―サラ?」

速水は意外な名前に瞠目した。


「いや、聞いていない。サラと君が仲間?…私達?」

速水は眉を潜めた。私達、とはプロジェクトの事だろう。

もしスクールの運営だったサラが、シンプルにベスの仲間だったら、やっぱり全員グルだったという事になる。…速水の胸中に、もう二度と誰も信じない、という言葉が浮かんだ。


「まさかサラも、お前らとグルだったのか?…」

速水は舌打ちするように言った。

その展開だけは本当に勘弁してくれ。


主任は困った様な顔をした。

「いいえ。サラは私とは立場が違うわ。私とサラは昔から根本的に考え方が合わないの。相性が悪いのよ」


…確かに速水から見ても、サラとベスは合いそうに無い。

…一周回れば理解し合える気もするが。


主任が紅茶をかき混ぜる。

スプーンを置き、優雅にティーカップを傾けてから、主任は続けた。

「私達のこの力は、クイーンから賜った力なの。サラも、私とは別の能力を貰った子よ」


「クイーンに、貰った…?私達?」

速水は呟いた。

私達というのはつまり、超能力者達の事だろう。

…サラも何か不思議な力を持っている?


速水の思考が伝わった訳で無いだろうが、タイミング良く主任が頷いた。

「ええ…。『貰った』というのは、その通り、クイーンの血を引いていると言う事なの。……けどそれはハヤミ、ノア。あなたたちもそうなのよ。もっと言えば、レオンだってそうよ。…実は私達には、血縁関係があるの」


「―!?」

主任の言葉に速水は絶句した。

隣でノアが顔を上げた。


「…どういうこと?」

ノアが言葉を発する。主任と目が合ったノアは、舌打ちして目線を外した。


「つまり『私達』は元をたどれば、能力を持ったある女性に行き着く。…その子孫の中でもノアとハヤミはかなり近い、だから、速水はノアの声が聞こえた…」


「「近い?」」

――近い?

二人は顔を見合わせて、お互いの類似点を探した。


ノアはふわっとした金髪の巻き毛に緑の目。

肌は白く。目は大きく線は細い。

身長は速水と同じくらい。出自は不明だが、もちろん白人系。


一方、速水はストレートの黒髪、黒目。

今は髪が肩くらいまで伸びている。目つきも悪い。

黄色人種で、地肌は白くとも、さすがに白人には間違われない。間違い無く日本人。


…いや、どう見ても、人種から違う。


「それって、ひょっとして…二百年くらい前の事か?」

速水は言った。

ネットワークの始まりが…約二百年前?

それくらいなら、近いとは言えないが、人種が違うのも納得できる。

…速水は、瞳の色が少し明るいと言われたこともある。どこかで違う血統が入り込んでいるのかもしれない。


「いえ…。せいぜい五十年。…確かにノアと速水は似ていないけれど、二人も、レオンと私も、間違い無く『クイーン』の血を引いているわ」


「…クイーン…?って?」

速水は首を傾げた。初めて聞いた。

隣を見ると、ノアは知っていそうだ。


「クイーンってのは…」

ノアが気怠げに説明をはじめた。


…クイーンと言うのは。

サロンの『エンペラー』を選んでいる存在で、女性。

クイーンはネットワークに対してエンペラー、サロンや各国首脳とは比べものにならない

影響力を持っている。だがその正体は不明。どこにいるのかも不明。

――ノアにしてはひどくぶっきらぼうな言い方だった。


「で良いよな?」

やけっぱち、という様子でノアが雑に確認した。

「ええ、あってるわ」

主任は微笑んだ。

微笑みを見たノアは微妙な顔をした。


「付け足すなら。『彼女達』はネットワークと言うよりも、その時代のジョーカーに対して、強い影響力を持っている」

主任が言った。…これはノアの言い忘れだったらしい。ノアは一々苛立っている。


「…彼女たち?」

速水は言った。複数形だ。


「ええ、つまり。この世界には、クイーンが四人いるの。…トランプにも、ダイヤ、ハート、スペード、クラブがあるでしょう?」

ベスはこともなげにそう言った。


「……そんなにいるのか?」

速水が言った。

主任が頷く。

「ええ。最も、存命なのはクイーンの内の二人だけだった。クイーンは皆、初代、クイーンオブクイーンの子供…つまり四姉妹なの。彼女達の血縁は世界中に散らばっている。枝分かれした中でも、私とレオンは血統が近い。…ハヤミと私は、それほど近く無いし、レオンとも遠い」


速水はノアを見て聞いた。

「…ノアが俺に近いって、どのくらいだ?どう見ても別人種だろ?」

「ごめんなさい。これ以上は話せない。だけど、サラは貴方の…遠い親戚に当たる女性よ」


言われた速水は驚いた。

まさかどう見ても日本人では無いサラが、速水の親戚?


…確かに黒髪だし、サラの素顔を見てから、何となく親近感、というより違和感は持っていた。

サラの旦那であるエリックが、どことなく速水に気安かったのも、そう言う理由だったのかも知れない――。遠縁なら、可能性もあるか?


「…サラは俺とどう言う関係なんだ?」

速水は言った。

「…ごめんなさい」

ベスが申し訳無さそうにした。


「ハヤミのスポンサーはもちろんサラ達よ。だけど、彼らの事を調べるのは絶対に止めた方が良いわ――調べれば、ハヤミ自身が不幸になる」

速水は調べれば分かるかも、と思っていたが、ベスが少し強い口調でそう止めた。

「何でだ?」「言えないの」

ベスはハッキリそう言った。


速水はため息を付いた。

「またそれか…。エリックと言い…そこだけは絶対に言わない」

…エリックもサラも…速水のスポンサーの正体については言わない…。

エリックにはアンダーで幾度か尋ねたが、口を割ることは無かった。


何かよほど、不味いことでもあるのだろうか?


「ハヤミ?分かった?あえて話してあげたの。だから、これ以上調べないで」

……ベスがさらに聞いてくる。いや、念押しか。


だが、調べないで――と、わざわざ言われたら、まるで『調べて欲しい』と言っているような物だ。そう言っているのか?

…じゃあ、どうする?


――調べてみようか?


「…分かった。やめる。調べたりしない」

速水は溜息をついて言った。両手も上げた。


「本当に?」

ベスが心配そうに言った。その表情はやっぱり。

速水は目線で肯定し、苦笑した。やっぱりベスに似てるな。

「普通は、こういう話ってすごい気にするよな。草の根分けてでも探し出し、って日本じゃ言うけど…」


速水は腕を組んで、少し遠くを見た。

――窓の外、曇り無い空と水平線が速水の目に映る。


…普通なら、こう言った謎があれば、しつこく気にして草の根分けてでも探し出し、その奥のやぶ蛇を見つけるのだろう。

しかし速水はもともと、こういったことがあまり気にならない性格だった。


理由は分からないが、速水のスポンサーを、敵も味方も、なぜか皆必死で隠そうとしている。


…速水は自分の病気に関して過去何度も、『何の病気?』と聞かれて、答えられなかった。


善意だと分かってもいたが、だからと言って、話してどうなる?

自分が感じている重荷を、聞いた側にも押しつける事になる。


……誰かを不幸にするのは嫌だ。


ベスのこの忠告も…そう言う事なのかも知れない。

――彼はそう思った。

…この後に及んで、無駄に気遣ってくれる皆と、そうだな、隼人にでも感謝するか。


ありがとう隼人。皆。


そう言えば、隼人どうしてるかな。速水の家族は元気だろうか。

さすがに心配しているかも知れない。


「…別に、面倒だし。皆、ここまで言わないんだ。この話はもう忘れるから、心配しないでくれ」

速水は笑ってそう言った。


そう言えば…。

…隼人は昔、死にたいと言った速水に、『絶対に大丈夫だから。だから…いつか誰かに、君の事を話すんだよ』と言った。


……あの時の事は一生忘れない。


隼人の優しさに、速水は救われた。


いつか、だれかに。

だが…いつ?誰に?

友人に?付き合った女性に?――きっとすぐ、と言われたが、結局話せるような人間には出会わなかった。

レオン達に知られたのは偶然の致し方ない状況で、隼人が言ったのとは違う気がする…。


…そんな時が来るのだろうか…?

隼人のおかげで、速水はすっかり先程の話題を忘れた。


「ノアも忘れろよ。よく分からないけど」

「ち―どうでもいいけど!お前、名前は?結局、敵なの?味方なの?」

イライラしていたノアが口をはさんだ。


「……」

速水はノアを見た。

…ノアは複雑だろう。

この目の前の女性は…話してみて分かったが、どこをどうとっても、中身はベスだ。

似ているからそう思えるだけかもしれないが、速水もすぐにベス、と呼びそうになる。

ノアもそんな感じだ。


「…ノア。あなたに関しても一つ言う事があるの。あなたの母親はハヤミの予想通り、スイスの出身よ」

ベスは静かに言った。


「え?」

いきなり言われて、ノアはまばたきをした。


「でも残念だけど、彼女は既に亡くなっているの。彼女には私も会ったことが無いわ」

「え?…そうなの???」


自分の母がスイス出身、それがどうかしたのだろうか?とノアは思った。

死んでいたという事は残念だが…。元から母親はいないと思っていたので、実感が沸かない。

ノアが隣の速水を見ると――はっとした表情をしていた。


「つまり、ハヤミ。…覚えてるでしょう?あの時、アンダーでの会話」

ベスが速水に言う。

「あなたは『もしかしたら、ノアの親がそこ出身なのかもしれない』と言ったわね」


速水は驚いた。


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