第13羽 異能 ①カラス -4/4-
レオンがようやく速水を探し当てたとき、速水は大変治安のよろしくない所で寝ていた。
「悪い…、俺も色々あってな…抱えて逃げて、ポリスは匿名で呼んだ。死人は出てないらしい。一応、なんとか医者には診せたから…、勘弁、してくれよ」
いかにもヤクザっぽいレオンに、青年はビビっていた。
「…ああ。いや。迷惑かけたな。これを」
レオンは速水を保護していた青年に、札束を三つ渡した。
「!!ちょ、おい。礼なんか良い。俺は一応コイツに命を助けられたんだ。まあ治療費分は貰いたいけど…これは多いって!」
渡された青年は焦った。
この狭い部屋には不潔気味なベッド、木の箱、スケードボード、ペットボトル、ゴミ、ボロボロの地図本がある。
「…いや、だったらもう受け取ってくれ。迷惑料兼、口止め料と、感謝料だと思ってくれ。ありがとうな、…ホントに遠慮は要らないから。ったくコイツは…おい、起きろ!バカ」
レオンが溜息をついて、他人のベッドを占領した速水を足で小突く。
「う…」
速水は唸って目を開けた。
ぼんやりとした視界。
「っ」
頭に痛みが走る。起き上がるのはまだきつい。
「カラスは…?」
視界が晴れてきて、速水は周囲を見た後そう言った。
「悪い、埋めた」
スケーターが言った。
「…そうか。ありがとう」
「羽でも抜くかって思ったが、やめた。あのカラスがお前を庇ってくれたんだって、医者が言ってたぜ」
「…」
速水は目を閉じた。
「君、ここに座っても良いか?」「ああ」
レオンはスケーターに断って、ベッドの隣のぼろい木箱に座った。
「…で、ハヤミ。…お前、今まともか?」
「ああ。今のところ…」
速水はそこでようやくレオンを見て、ちょっとびびった。
レオンは青筋を立てて完全にキレている。
「なら説教だ。――っお前、どう見てもイかれた人間だったって、町中で言われてたぞ!?幸い街の連中はイカレタ子供が『ジャック』だって気が付かなかったが――『ジャック』の名前に泥を塗るトコだったんだ!もっと自覚しろ!!ジャックが異常者だって言われていいのか!駄目だろ!!馬鹿野郎!!このクソガキ!!!!」
速水は大声に耳を塞いだ。
「…悪い。??」
速水はとりあえず謝り、何かしたっけ?と思った。
レオンが速水の額を小突くように叩いた。
「…覚えて無いのか。くそ、全く。ゴツゴウの良い頭だな。…帰るぞ!」
レオンは憤然と立ち上がった。さっさと出口へ行く。
「ああ…。色々ありがとう。アダム」
速水は何とか起き上がり、アダムというスケーターに礼を言った。
「いや。儲かったし気にするな」
アダムはニッと笑った。
カラスの墓はどこだ?と速水に聞かれたアダムはスラムの中の、土のある場所に埋めた。と言って案内までしてくれた。手を振って去って行った。
速水はレオンのさらに長い愚痴を聞きながら、カラスの墓に手を合わせた。
…カラスが死んでしまった。涙がすこし流れ始める。
「っとに。たまたま、あのスケーターが良い奴だったから助かったんだぞ!むかつく…」
「強盗殺人で、指名手配中だって」
速水は手を合わせたまま苦笑した。
「―なっ」
「ただし冤罪。NYから流れて来たって」
速水は苦笑した。
「…ハァ…。弁護士でも紹介するか…」
レオンは早速電話を取りだした。
「ああ。お前を襲った奴らな、あいつ、お前がぶん殴ったオッサンの手下だった――。…まあ。……ホントに。…気を付けろよ…」
そして電話を掛ける前にそう言った。
「…悪い」
速水は殊勝に謝った。
だが、自分があのオッサンに何をしたのか…それもサッパリ思い出せない。
エリック曰く、心神喪失状態だったらしいし、どう考えても、ギリギリ法的にセーフだろ。
なので速水はまあいいや、と思ってキャップをかぶって立ち上がる。
「お前、もうしばらくこの国にいろ」
「…ああ」
レオンの言葉に速水は頷いた。ぼたぼたと涙が流れている。鼻水まで垂らす。
…カラスが死んでしまった…。
こんな事で、泣き過ぎだ。
また、ここには来るかもな――。
振り返りつつ、速水はそこを立ち去った。
〈おわり〉




