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第3話 自決 (前編) -2/3-

「いいか貴様!!銃口は絶対にこちらに向けるなよ!!!」


このトレーナーは、軍服を着て、強盗よろしく、目出し帽を被っている。

「…イエス、サー」

速水は返事をした。殴られた頰が痛い。

自動拳銃の仕組みと、装弾と構えをスパルタで教わり、言われた通りにヘッドセッドをして安全装置をいじったら、変な方向に弾が飛び出し。いきなり殴られた。


「いいか、打つときは、胸を狙え!外れても致命傷が狙える!」

「…イエス、サー」


ダンサーに拳銃が必要なのだろうか。誰に致命傷を与えるのだろう。


そんな疑問を抱きつつ、速水はひたすら標的の紙人形を撃った。

ポイントは胴体が10、頭が5。その他が2。外れるとゼロ。大雑把な初心者用だった。


「時間だ。止め、…708か。ギリギリだが、良いだろう!」

ばきっと意味なく腹を殴られた。


速水は部屋を出た。

「ハア」

カードをしまい、速水は溜息を付く。15は市街戦でもやらされるのかも知れない。

だがアメリカは銃社会だし、これは覚えて損は無いだろう。

次は問題のダンスだった。


そしてその後、ランニング十キロだ。


■ ■ ■


レオンは走っていた。今日のワークはこれで終わりだ。


平常時ならこの程度だが、大会が近づけば、ステージ用のAワークに切り替わる。

「よし、終わりっと」

十キロを走り終え、フィニッシュカウンターの端末にカードをかざす。

画面にクリアと表示され、チョコレートが下から出て来る。

レオンはチョコを取り出した。

「そういえば、ハヤミは?」「あら?」

少し遅れて走り終えたノアが言った。ベスも気が付く。


「…、やばっ」

すっかり忘れていたレオンは青ざめた。

速水の朝のペースを見ていたが、そろそろ始めないと間に合わない。

それに、どこかで落第を貰っていたら…、即ペナルティだ。

ダンスが出来ても、拳銃とか、日本人は使ったことがないだろう。


「あ、来た!」

ノアが言った。

「ごめん!レオン!!」

入って来るなり、速水は謝った。慌ててカードをかざして走り始める。

レオンは帰るどころでは無い。


「どうだったの?」

ベスが聞いた。

「全然駄目だった。なんだよアレ。…点取れない。ジャッジおかしいだろ」

暗い顔で走りつつ速水は言った。

「お前…!!っ」

レオンが、速水が乗ったランニングマシンの手すりを掴む。


「あーあー、グッドラック。じゃ俺達は行こうか」

「頑張ってってね。ハヤミ」

ノアとベスは去って行った。



「はぁっ…、はぁっ…!…はぁっ…」

速水は何とか時間内に走り終え、マシンの上に膝をついた。

汗だくになっている。


根性はあるようだ。

…レオンは、もう今回は仕方が無いと思った。

「カード。そこのカウンターに」

溜息をついて言った。

「あ、っそうだ…ハァ」

速水は何とか立ち上がり、カードを機械にかざす。


「で、ペナルティか」

ペナルティ、と画面に表示された。

「…覚悟は出来た。…悪い。どこでやるんだ?」

速水の表情は硬い。

「四階のペナルティルーム。九時過ぎたら紙袋が呼びに来る」

レオンは言った。


「お前、何点とった?」

「539。コツが掴めなくて…っていうか、何だよ、あの重り…」


指定された部屋は、床はブレイクダンス仕様、壁はコンクリート打ちっ放しの部屋だった。

トレーナーは居ない。

機械のそばには、年季の入ったグローブと帽子が用意されていた。必要だったら使って良いらしい。

速水はとりあえずカードを通し、機械の音声指示に従って、重りと測定器を身に付けた。

両手両足に五キロずつ。

「こんなんで踊れるのかよ…」

若干、ぶつくさ言いながら。


ワーク『B-10』はパワームーブ。

ブレイクダンスの指定された技を、ひたすら繰り返すと言う物だった。


ヘッドスピン系から始まり。

『次、グライド 次、エッグ、レイダー、コークスクリュー』

淡々と機械が告げる。

速水はその通りに踊る。

『次、ハンドグライダー、タートル、UFO、クリケット、ジャックハンマー』

機械に従い、速水は踊った。

『次、ウインドミル、ノーハンド、カフス。NOもう一度。加点発生。カフス減点』

『次、トリプルへイロー、エルボーエアー…』


いくつかの技を続けて踊ると、機械にOK、NOと言われ、もう一度初めからと言われ、よく分からないまま加点、減点、減点、それを繰り返し。

繰り返し―と言っても、それが半端でない。

一時間、二時間、十分休憩、三時間、四時間。十分休憩、五時間、六時間―。


時間が過ぎ、そして。

539――合格基準に達しません。ペナルティが発生します―そう言われたのだった。

そして時刻は八時。ギリギリだった。

呆然としたが、とにかくその部屋を出た。


「あれは、コツがあるんだよ…、言っとけば良かった」

「半分過ぎたあたりで気づいた。しまった…」

いつもの速さで踊ったが、もっと、技自体をしっかり見せるべきだったのだ。


速水は座り込んでドリンクを飲んみながら、後悔していた。

…超スパルタなジャックの指導であれくらい踊り続ける事はあったし、体力は何とか問題無いはずだった。だがジャッジの癖を読むのに手間取った結果、点数が足りなかった…。

次回はミスらないようにしなければ。次があればだが。


一方レオンは舌打ちした。

「運営の奴ら、何考えてるんだ。トレーナーが居なかった?普通、説明があるはずだし、そもそもいきなり10からとか…。こうなったら、あの手だな」

「あの手?」

レオンは内線を取った。


「おい、エリックを出せこの豚野郎!!」

…こういう時に使うのか。


「エリック、今すぐナイフもって来い!二本だ。ハヤミがペナルティ喰らった」

レオンがそう言って、速水は驚いてそちらを見た。

「―ナイフ?」

「ペナルティの奴らを全員倒せば、とりあえず生き残れる」

「…」

何だ、それ。速水は呆れた。


「…コレ、俺たち四人しか使えない手だから。だから皆、この地位を狙ってる」

「はぁ…。お前、ナイフできるのか?俺は無理」

「…まあ、振り回せば何とか。ワークに銃はあるけど、ナイフは無い。それにしても、連中遅いな。チッ…準備に時間かけてやがる」

レオンは忌々しげだ。

速水は、何の準備か聞きたくなかった。…短い人生だった。


「お持ちいたしました」

エリックが天使に見える。明日からはスーツを褒めよう。

「ありがとう…。助かる」

速水はシースに入ったそれを受け取った。

ダンサーになるには、ナイフも練習しなければいけない。…彼はそう思った。


「来た」

足音が聞こえる。

…、軍服紙袋が二人、…と、意外にも、スーツ姿の女性が一人。

彼女は黒髪を後ろで団子にきっちりと纏め、赤い仮面で目を覆っている。白い肌に赤い口紅が目立つ。


「来い」

軍服紙袋に促され速水は立ち上がった。

「ん?」

同じくなレオンは首を傾げていた。



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