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トンとことこ♪ 8話

街に着いた俺達はギルドに向かい、報酬とモンスターの売却に向かった。


ピーマン討伐の成功報酬がまず小銀貨1枚。


そして、緑ピーマン(肉詰め)一体が小銀貨2枚で取り引きされ、7体をギルドに納めたので、小銀貨が計14枚になった。


それと、例の赤いピーマン(肉詰め)は一体で小銀貨30枚と高額の高値がついてしまった。


モモの火魔法のヒートで赤黒くなってしまったが、それでもこの値である。


状態が良ければ小銀貨60枚はいくらしい。それはそれで惜しい事だが、命あってのものだねである。


それと、少し値段が下がった理由は、モモと俺の二食分を帰る道中で食べてしまったからだ。


赤いピーマン(肉詰め)は緑ピーマン(肉詰め)の三倍は旨かった。


醤油があれば尚美味しく頂けたが、それでも最高のご馳走だった。


こうして、小銀貨45枚と言う大金を報酬として懐に納めてギルドを出る。


その足でモモが利用しているという穴場の安宿に向かうことになった。


モモが言うには、自分が生きて行けるのも、その宿のおかげだと言う。そして、到着した俺は目を疑ってしまった。


木造の二階建て。そこそこ大きい……3……4LDK位あるか?


庭先にはガーデニングでとても小綺麗にしてあり、細かな所もお洒落な小物等であしらっており、素敵な個人でやってる……


そう、民宿に見えた。その安さの秘密は……


「ただいま~♪ アミさんごめんね……ひょっとして聞いてる?」


「おかえり~♪ 昨日は母さんの所に行ってたんだって? マキから聞いたよ。なんだい、一言言ってくれれば私も一緒に行ったのに……」


中に入ると小さなフロントがあり、そこでお茶を飲みなから本を読んでいた綺麗な婦人がいた。


腰まで届くストレートの金髪に白のワイシャツに丈の長い青のスカート。


歳は30前後、身長165cm位で細身でちょっといいとこでのお嬢様に見えた。


だが、ここの女将さんはどうやらあの孤児院出身みたいだ。モモはそれで安くしてもらっているのか……


「それが色々とたてこんじゃって……」


「で、どうだったんだい?成果の方は…」


「ふふふふ、じゃじゃ~~ん。」


お金の入った袋をフロントに置く。その音にアミさんはパッと明るくなる。


「やっとツケを払ってくれるのね。もう無理かと思ってたのに良かったわ。」


「ホントすみません! マジでアミさんには頭が上がりません!」


「ふふふ、あんたって子は。まあ、浮き沈みの多い仕事だからみんなで助けあって生きましょ。もし、モモに野垂れ死なれたら母さんが悲しむわ。」


「気を付けてる。お母さん、昨日はずっと離してくれなかったし……」


俺もモモの居ない所でマリアさんから何度もモモの事を頼まれた。冒険者の過酷さを知っているからこそ、心配なんだろう。


本当は孤児院にも残ってほしいんだろうな。それはモモだけじゃいなくて、全ての面倒を見てきた子に対しても。


マリアさんほど凄いことをしてこなかったが、園児が卒園すると、旅立ちが嬉しい反面……立ち直るのも時間が掛かったよな。


俺でさえこんなになるんだ。赤ん坊の頃から愛情を注いで来たマリアさんの想いは、俺の想像を遥かに越えるだろう。


「母さんは変わらないな。明日、顔を見に行ってこよ。さて、小銀貨10枚、持っていくわよ? って!!!! あんた、こんなに稼いだの!?」


「へへへへ、赤ピーマン(肉詰め)をこのイベリコと一緒に協力して小銀貨30枚をゲットしちゃいました。」


「さっきから気になってたんだけど、ユニークモンスター?」


「はじめまして。俺イベリコ♪ 不思議なブタさんです。悪いモンスターじゃないから怖がらないでね。」


「しゃっべった!? え~~~可愛いじゃない。おいで~♪」


「は~~い。」


「賢いでしょ? 南の森から帰る途中でテイムしたの。色々と面白いチート持ってるのよ。」


「ぽよぽよだね。イベリコちゃんか、いや~ん、赤ちゃんを抱いてるみたいでいいわ~♪」


アミさんの胸の谷間に……ブタも悪くない! うん!


「モモのパートナーです。アミさんにもこれからお世話になることが多くなると思うので、出来ることは手伝わせて下さい。」


「あら!? イベリコちゃんは何が出来るのかしら?」


「えっと……ざっくりと言うと、何もない所に家……箱を出したり、鼻からお湯も出せます……墨もいけますよ。あと、月一で真珠を生み出せます。そして、これはお勧めです。俺を水につければ美味しいおダシが取れます。マリアさんや孤児院のみんなには大好評でした。」


「……………おーけー! 他のは実際に後で見せてもらうとして、お湯とおダシは早速手伝ってほしいわ♪」


「おーけー♪これってアミさんの口癖だったんだ。」


「あはははは♪そう、本家はアミさんだよ。」


「早速お風呂場にGO~♪」


中もお洒落で綺麗だ。アミさんはセンスがあるな。でも、あまり流行ってないのか、宿泊客がいない。


お風呂場に到着した俺はびっくりする。そこには洗濯機……そう、どっからどうみても昔あった古い洗濯機にしか見えなかった。


「まさかこれってお風呂ですか?」


「どうしたのイベリコちゃん? 紛うこと無きお風呂じゃない。」


「イベリコの知ってるお風呂って違うの?」


「うん。こう……細長い桶にお湯を貯めて入るんだけど………みんなお風呂と言えばこれなの?」


カルチャーショックってこう言う事か!!


「イベリコちゃんの言うお風呂はお鍋みたいね。で、お風呂って言えばみんなこれよ。この方が肩まで浸かれるし、回転して体も洗えるわ。」


「イベリコも使って見れば分かるよ。このドラムのとこに魔文字が書いてあるでしょ? これでタオルでゴシゴシしなくても入ってるだけで綺麗になれるのよ。」


マジっすか……異世界のジャブはピーマンだけじゃ無かった。


「さっ、イベリコちゃんの熱湯出して。」


「了解です。勢いを弱めて行きます!」


鼻から流線形を描いて洗濯機のドラムの中にお湯を貯めていく俺……端から見ると石像のライオンの口からお湯の出るあれに見えないか?


「おお~~出る出る。不思議ね~……水分は何処から出てるのかしら? ストップねイベリコちゃん。」


「はい。」


「イベリコのお湯は熱すぎるね。これじゃ火傷しちゃう。」


「少しイベリコちゃんに出してもらってお水で薄めればおーけーでしょ。」


そう言うとアミさんは洗濯機の横に置いてある桶から、洗濯機(お風呂)の中に水を足すと、手を少しつけて温度を計る。


そうして、適温になった洗濯機の中に俺を入れるとスイッチを押す。


ブォンと音がなり、時計周りにゆっくりと周り始める俺。


異世界に来て俺は何をやってるんだろ? なんとも言えない気持ちになった。


だが、この洗濯機(お風呂)は俺の疲れを洗ってくれた。


「ふひ~いい湯だ~♪」











アミさんの宿に泊まり、美味しいご飯も頂いた翌朝、俺とモモはギルドに来ていた。


ギルドは昨日より人が多く人の出入りが多い。慌てて出て行く人が多いがはて………


まあ、俺とモモは駆け出しだ。金を稼ぎたいがモモの安全を優先してクエストを決めないとな。


さて、ピーマンみたいなギャグパートは終わったことだし、今度こそ、冒険者らしいクエストをやるぞ。


掲示板には読めない文字の依頼書がペタペタと貼ってある。それが今日はたくさん売れ残っている。


そして、特別に大きな依頼書が掲示板の横の壁に直接貼られていた。


いかにも緊急で書きました! と、字の読めない俺でも分かった。


焦って書いたのかな? それを見たモモのテンションが上がる。


「金魚ですって!? イベリコ、金魚よ! 金魚! みんな急いで出て行くからなんだと思ったらこれのせいだったのね……」


ギャグパートは継続中のようだ。……俺の知ってる金魚じゃないだろうが一応聞くか。


「金魚ってな~に?」


「あっ! そうか。イベリコは知らないよね。金魚って言うのはね。その名の通り全身が金で出来たお魚なの!」


「おうふ……川か海にいるの?」


「ううん、金魚は陸を泳ぐ魚よ。そういうチートを持ってるのよ。普段は地中深くに潜っているんだけど、5年に5日だけ陸に出てきて日光浴をするの。」


「モモは捕まえに行きたいんだね?」


「うん、だって……お母さんが前回は偶然捕まえたんだもん! 娘の私が捕らないでどうしましょう!」


「マリアさん凄いな………でも、マリアさんならモンスターの命も分け隔てがないからリリースとかしちゃいそう………えっ!? モモ? なんで顔を反らすの………マジで!?」


「……ええ、お母さんは追い詰められて弱った金魚を手当てしてあげてリリースしたわ。当時7歳の私が目撃者よ……みんなもお母さんが体を張って金魚を守ろうとするから……手が出せなくてね。マリアの金魚事件と言えば知らない冒険者はいないわ……」


「うう~……マリアさんって偉人だね。」


「うん。よし、金魚を捕まえるぞ~!」


「お~~♪」


俺とモモは北東にある腐者の森と言われる場所に向かうことになった。


この森は北にある漁港の街シーオーフと言う街に行くときに必ず通る場所なのだが、商人がそこで金魚を発見し、依頼を出したので今回の騒ぎになった。


現場の森は冒険者ランクに関係無く、ベテランから新人の人まで溢れかえっていた。


「人が一杯だねイベリコ……これじゃあ、金魚も逃げちゃうね……」


「いや、こう考えようよ。金魚はおまけ、他のモンスターを狩りに来た。素材をはぎとればお金になるし、これだけ冒険者がいるんだ。危険になっても助けてもらえるかもしれないじゃん。そう考えたら悪くないよ。」


前回みたいに赤いピーマン(肉詰め)が来ても加勢を頼める。パーティーメンバーが少ない俺達だからこそ生かせる環境だ。


まあ、見捨てられる可能性もあるだろうが、全員よほどのモンスターでもなければ加勢してくれるだろう。


「そっ……そうよね。イベリコってやっぱ私好みだわ。」


「惚れるなよ。」


「ブタだから大丈夫。」


「そこは嘘でもうんって言うところなのに。ふふふ、目標を変更して狩りにいこ~♪」


「お~~♪」


茂みや木の上に登り探している先輩方に、普通に狩りに来たんでお邪魔しますと挨拶だけして森の中を通ると、競争相手でもなく邪魔にならないなら別にいいかってな感じで、俺らはあまり関心を持たれなかった。


そして、至る所でモンスターが現れたようだが、先輩達にとってこの森は温い狩り場なので、瞬殺で相手にすらなっていなかった。


そこで意外な光景を見る。先輩方は倒したモンスターを回収しないのだ。気になったので尋ねてみると…


「あ~……金魚を探してるのに雑魚モンスターの素材回収なんていちいちやってられないよ。君ら新人だよね。いいよ、俺らこのまま捨てて行くから、持っていきたいのなら持ってっていいよ。」


俺とモモは顔を見合わせてからあることを思いつく。


「「ありがとうございます。」」


「おう、死なないように頑張れよ~……じゃな~……しっかし、いね~な~金魚……」


先輩冒険者が立ち去ったのを確認してから俺とモモは相談する。


「イベリコのアイテム回収使えばさ。」


「うははは、お宝の山だね。」


「集めちゃいますか?」


「おーけー♪」


そこからは先輩方に一言断ってからモンスターを回収していく。むしろ、モンスターの死骸が邪魔だから持ってってくれと感謝された。


中には断られることもあるが、7割近くの先輩冒険者は俺達に狩ったモンスターを譲ってくれた。


こうして、腐ったリンゴが15体、腐ったトマトが20体、腐った()が15体の計50体が俺のブタ倉庫に収納された。


大収穫だけど1つ心配が……


「こんなに集めたけど解体できるの?」


「大丈夫よイベリコ。ちょと手数料が掛かるけど、ギルドに持ち込めば素材の解体と仕分けをしてくれるの。あんなに一杯あったし、腐者の森のモンスターの解体は難しいからお願いした方が安全よ。」


「おーけー♪ ………ねえ、モモ。俺達もお返しに先輩方にお菓子の家からお裾分けしよ。」


「それならスープも作ろうよ。水は私の魔法で出すから任せて。」


鼻からドバーでも出せるが、それが綺麗だとしても飲みたい人はいないからね。


モモの親しい身内の人も含めてだけど、本人に了承を取ってからじゃないと飲料水として俺は使わなかった。


話を戻すが、俺達は森の外に一旦出るとモモが持たせてくれたお鍋をブタ小屋から取り出し、そこに綺麗に洗った俺をつける。


太陽がそろそろ真上に来るので、昼食の準備をするために、冒険者の先輩方が森からわらわらと出て来る。


鍋に浸かった俺とモモを見て、この新人は何遊んでいるんだと言わんばかりの顔をしてた。


充分におダシが出た頃合いを見て、集めた薪に魔法で火を付け沸かす。この頃になるとスープの良い香りに気がつき、何組かこちらを見始める。


そして、俺は……


「かもん!まいはうす、うりゃ!」


一辺が5mの正六面体のお菓子の家が飛び出す。それを見た周りの冒険者は流石に腰を抜かすような驚きだ。


子供の頃に夢見たお菓子の家。みんなも牛乳風呂やプリンの山やケーキのお城とか夢見てた頃があるんじゃないかな?


俺はお菓子の家にモンスターの死骸をくれた人の所に向かう。


「こんにちわ~♪」


「おっ……おう。どうしたユニークモンスターの子ブタちゃんよ。いやいや、あれってなんだ?」


「さっきのモンスターの死骸を譲ってくれたお礼をしたいので皆さん来て下さい。来てもらえれば分かるので。」


「どうしようか? ………」


「いや、どうしようかね? ……」


筋肉戦士の男に優男の魔術師に盗賊っぽい女の三人は困った顔をする。ガーーーン♪ ……警戒されている?


「俺……悪い…モンスターじゃ……グスッ ……エグッ……」


うるうるうる……と信じてオーラーを放ちながらじーーーーーーーっと見つめる。


「うっ………分かったからそんな顔しないでくれ…」


「凄い罪悪感が……」


「行きますか。お~~い、お前らも来いよ!」


取り合えずゾロゾロとついて来た皆さんはお菓子の家に近づき匂いで気がつく。


「甘い匂いだ!!!」


「お菓子ですのでどうぞお召し上がり下さい。」


そこにモモが加えて一言添える。


「甘いのに飽きたらこっちのスープをどうぞ。」


「頂くわね………あっまーーーーーい、はぐっ……」


「マジか!? あむ……うめぇ~~~ハグッ……」


「俺も!!」


「私も!!」


次々とお菓子の家に群がる先輩方を羨ましそうに見てる、譲ってくれなかった先輩方。でも、お礼は譲ってくれた人のためだから仕方がないよね。


「あははは♪ お前らケチッたせいで残念だったな。」


「こっちのスープ!! 超うめぇぇぇ。」


「なんか悪いわね。あんなモンスターの死骸でこんなにご馳走してもらって♪」


「お前さん、相当レアなユニークモンスターをテイムしたんだな………うちにこないか?」


「おいおい、抜け駆けはズルいだろ!」


「ふふふ♪ ありがとうございます。でも、今はイベリコと二人がいいのですみません。」


「モモ!! 俺…………エグッ……」


「こんなことで泣かないの。おーけー?」


「おーけー、グスッ……」


涙脆くなったな俺。ハンカチでそっと俺の涙をモモが拭いてくれている時だった。


家の中からバリッ、サクッ、サクッ、と音が聞こえる。


「中に何かいるぞ!!!」


流石は先輩冒険者達。素早く意識を切り替えると武器を構えて家に穴を開けて中を確認する。


「ぎょ、あ~~~~~ん、ぎょ~~~ん、きょ!?」


「あっ!」


金魚と思われる金ぴかのたい焼きみたいなお魚がお菓子の家の床の部分をモリモリ食べていた。


「金魚だーーーーーーーー!!! 捕まえろ!!!」


「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


一気に冒険者達は雪崩込みもうひっちゃかめっちゃかでクリームまみれの凄いことになっていた。


綺麗なお姉さんとかイケメンの細マッチョはいいとして、いかついムキムキなおっさんのクリームまみれとか、一体誰特なんだと思わずにはいられなかった。


結局、金魚は上手いこと冒険者達の包囲網から抜け出し、森の中へと逃げてしまった。


俺とモモはお片付けをすると暗くなる前へと街に戻る事にした。

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