トンとことこ♪ 7話
昨夜は楽しかった。特にお菓子の家を出してあげたら、子供達の喜びようは凄かった。
いや、マリアさんにモモに……更に仕事が終わりタイミングよく孤児院に駆けつけに来たマキさんもテンションが凄かった。
どうもこの世界には甘い食べ物は貴重らしく、庶民が口に入れるのは果物位しかないようだ。
だから、生クリームとスポンジを口に入れたマリアさんなんて、あの駄神に祈りを捧げてたもんな。
そんな訳でお夕飯はお菓子の家と言う形になってしまったが、たまにならいいよね♪
「聞いてる? イベリコ? ……おーい!」
「はっ!? あ~ごめん。昨日の事を思い出してつい、えへへ♪」
「楽しかったもんね♪ でも、今はちゃんと聞いて!」
「ごめん。もう一度言ってくれ。」
二人でギルドの掲示板前に来ていた。そこで依頼書を見たのだが、俺にはちんぷんかんぷんだった。
暗号文にしか見えないのだ。あの駄神は肝心なところは本当にいい加減である。
文字の勉強をしないと今後困りそうだ。
「いくつか受けれそうなクエストが合ったけど……1つ目は西の隣街に行くまでの間に出没するピーマン討伐ね。」
…………ブタさんイヤーは正常? 壊れたかな……
「………ねえ、モモ。」
「なぁに? イベリコ。」
「ピーマンって、緑色でホンの少し細長い野菜だったりする?」
「そのピーマンね。今の時期だとピーマンの中の肉が食べ頃だから依頼が多いのよ。こう……縦に半分に斬って食べるの。あれ? イベリコどうしたの?」
美味しいよね~♪ ピーマンの肉詰め……流石は異世界。軽いジャブでこれかよ。
異世界人の心に容赦がない精神攻撃だよ……
「それにしよう。と言うか討伐しないと、ずっとモヤモヤしそうで嫌だ。」
「そ……そう? まあ、イベリコがやる気出してくれるなら、これに決定ね♪」
掲示板から依頼書を剥がして、受付でクエスト登録をすると、俺とモモは街の外へと向かう。
途中、回復アイテムも買っていくのを忘れない。
モモは魔術師。火、水、風、光と四種類の魔法が使える。
そんなモモの戦術は基本、待ち伏せや死角からの一撃離脱の攻撃しかしないそうだ。
それはモモが近接戦闘を苦手とし、12歳と言う少女では体格もまだ出来てないし、体力も長時間続かない。なので魔法による強襲か撤退の二択なのだ。
だからこそ、俺がそんなモモをサポートして助けるんだ。
その手始めにブタ小屋に重たい荷物を収納してあげた。
「楽だわ~♪ イベリコがいるおかげで荷物を持たなくていいなんて最高♪」
「でも、俺を持っているから疲れない?」
「イベリコって軽いから平気よ♪頭に乗せてもいい位よ。」
「おーけー。疲れたら歩くから、その時は言ってくれ。」
「了解♪ ……ねえ、イベリコ。貴方って前の世界では先生か何かしてたの? みんなに上手にお話を聞かせてあげたてたでしょ? それに一番下のヨウちゃん(一歳)のあやし方も上手だったし、その……私やマキさんやお母さんも凄く驚いたよ。」
ヨウちゃんは天使だった♪ 俺の保育士魂が燃え上がったよ♪
それは夜中にぐずったヨウちゃんを俺が世話したのを見て、三人が鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたからだ。
「それは俺が保育園で働く保育士だったからだよ。」
「保育園? 保育士?」
「分かりやすく言うと、子供の安全と健康を勉強した者が、ご両親の仕事や何かしらの事情で見られない人の代わりにその間、教育したり、健やかに育つようにお世話をする者を保育士って言うんだよ。そう言った試験が国で行っていて、俺はその資格……この世界風に言うなら称号を持っていたんだ。」
「へぇ~♪ なんかイベリコのいた世界って凄いわね。子供を育てる騎士みたいな者か。」
「まあ、そんなとこかな? この世界には子供を預けられるような私設や機関はないの?」
「聞いた事がないわ。あっても孤児院や貴族様なんかが集まる学校しか、私は知らないよ。」
……やはりないのか……もしあればと少し期待をしていたんだが……
「そうか……俺の天職だったんだ……子供達の笑顔を……グスッ♪……ごめん。」
「ううん。ごめんねイベリコ。」
「もう大丈夫。俺の方こそごめん。ちょっと園児の顔を思い出しちゃった。」
「イベリコは不思議なチートを一杯持っているじゃない。そのさ、その保育園? って言うのを作ってみたらどう?」
凄い事をモモは言うな。……だけどね……
「モンスターの俺が? 預ける人がいるかな? それに俺はブタの体だし……」
「そこは……そうよ! イベリコがこの世界に保育士を作ればいいのよ! その為に貴方の真珠は使うべきよ! それに他のチートもそうすべきだわ♪」
俺の知識と力は子供達の為に……この異世界だからこそ必要なのか? 俺がブタとして送られたのは本当は運命……モモのこの言葉を聞くために俺は見えない何かに導かれた気がした。
「…………考えもしなかった。出来るかな? 俺に?」
「違うわよイベリコ。出来るかじゃない。やるか、やらないかの違いよ。貴方はそこから間違っている。」
こんな体だけど、頭の天辺から爪先に向かって雷が落ちたような衝撃が走った…………ありがとう、モモ♪
「なら、やる!」
「じゃあ、まずは資金を集める為にクエストをこなしましょう。あ~~……金貨半分取っておけば良かったね。ごめん。」
「それはいいって。みんなは家族だもん。それに孤児院だって大切な所だよ。それを個人でやってるマリアさんは凄いよ。」
「うん。お母さんは本当に凄い人で元冒険者だったんだよ。冒険者にはランクがあってね。新人は10級から始まって一番上が1級なんだけど、お母さんはその1級冒険者なんだよ。」
「で、モモは?」
「…………………いずれは1級になる予定の10級冒険者よ。」
「いじけないで、ごめん。マリアさんは凄かったんだな。」
「ちょっと違う。今も凄い事をしているわ。」
「どう言うこと?」
「お母さんは聖神教会のシスターだったんだけど、タダで治療魔術を苦しむ人々の為にやったせいで教会から追放されてしまったの。」
「…………モモには悪いけど、どっちの事情も分かるな。タダで善意を与えれば、最終的には共倒れしちゃうもんね。」
「うん。だけどお母さんはお金を理由に救える人を見殺しには出来ないって……」
話が見えないな……マリアさんの凄い事って、その無償の奉仕の事? 今も教会にばれないように隠れてやっているとか?
「マリアさんはそういう人だもんね。ところでそれがマリアさんの凄い事とどう関係してるの?」
「追放された人って異端者扱いされて、普通は神官の姿や活動もそうだけど、捕まるの、国に手配を受けて……」
「えっ!? でも孤児院を……」
「見えないんだって……王様も貴族も騎士団も教会もどの街や村の人も……この世の全ての人がそんな人はいないって……だから、いない者は罰せない。それを指摘した者は頭のおかしい異端者扱いで逆に捕まってしまうから。」
…………言葉が見つからない。助けてもらった庶民ならまだ分かる。だけど、それが王や貴族ともなると話は別だ。
彼女は生きた神扱いされていると言っても過言ではない。
多くの人を助けたと聞いたが、俺の想像を越えた奉仕活動をしたんだろう。
そうでなければ、権力の力をも越えて、人の心を、しかもこの世界の人全ての心を動かすとは……想像を絶する……
「……………………」
「お母さんは本当に多くの人を救ったの。その姿に心を打たれて入信した信者やあらゆる人がお母さんを追放した事が正しいのか、その功績の分、恩返しをすることが出来なくて悩む人が多いんだって。だから、お母さんはこの世界で唯一異端者扱いされながらも、あの教会で神への祈りを捧げ、無料の治療行為も祈りに来た人に施しても許されてる人なの。だからね、みんながお母さんを守る為に見えない振りをしてくれるの……寄付もお供え物みたいに孤児院に置いていくのよ。」
「………………凄過ぎてなんて言ったらいいか分からないや。」
「そうよね。本当はあんな街外れの古びた教会で孤児院をしてる人じゃないのにお母さんは幸せだって言うの。」
尊い精神、自己犠牲を惜しみ無く振り撒き、愛を次世代の子に……しかも、血の繋がらぬ者へと与える無償の愛。……スケールが大きすぎる。
「やっぱさ。あの金貨は二枚とも渡して正解だったよ♪ 俺なんか嬉しくなってきた♪」
「私の気持ちも分かるでしょ?」
「だね♪」
モモと言うパートナーに出会えた事。そして、マリアさんと言う人に出会った事。神も少しは真っ当な出会いを用意してくれたのか? そう考えてしまう俺だった。
突然ですが、貴方ならどうしますか?野生のピーマン(肉詰め)が20体現れた!
戦う
チート
ブタ小屋
⇒食べる
逃げる
俺達は逃げるを選択した。いや、逃げ込むだな。
「ピー! ピー! ガンガン♪」
「ピー! ピー! ガンガン♪」
「ピー! ピー! ガンガン♪」
ピー! ピー! 言ってるが禁止用語ではない。ピーマンがオリハルコンの箱(家)に逃げ込んだ俺達を炙り出そうとガンガン叩いているが、この箱(家)はビクともしない。
だが、こちらも出られないし、動けない。
「どうしようイベリコ……数が多すぎるよ。」
「落ち着くんだ。まず、この中に居れば安全だ。何てったってオリハルコンの家だから、ピーマンごときには破れん。」
「おっオリハルコン!? あの伝説の金属なのこれ!?」
「うん……俺の前世の貯金をはたいて掴んだチートだよ……しくしくしく♪ モモには金貨約5.2枚分って言えば分かるか?」
「イベリコ……あんたって不憫すぎるわ。でも、安心した。それならドラゴンでも多分壊せないわ。しかし、どうしよう?」
「どうしようか? ……小さな穴でもあれば熱湯掛けれるんだけどな。」
「ピー! ピー!」
そう言った途端に壁に小さな穴が少し開き、ピーマンの声が急に箱(家)の中に響く。
「やれば出来るじゃない! やっぱりイベリコはやれるか? って思うその癖からなんとかしないとね♪」
「おうふ……反省するぜ。よし、反撃だ!」
「なるべく傷つけないようにウォーター!」
「ぴがぁー!」
「茹でピーマンになれ!」
「ぴくー!」
あんなに威勢の良かったピーマン達が逃げていく。箱(家)から外に出て追撃をし、7体のピーマン(肉詰め)をゲット出来た。
改めて見るとピーマン(肉詰め)はデカイ。高さ2m位で太さはドラム缶位ある。
これ1つで何人分になるんだろ? ホクホク顔で全てブタ小屋に収納した時だった。
奴が来た。赤いピーマン(肉詰め)がやって来た!
「いけない! イベリコ家を出して! 早く!」
「おっおう!!」
二人で駆け込むようにガン○ニュウム合金の箱(家)に入ると外では赤いピーマン(肉詰め)が暴れてた。
「シャアー!! シャアー!! シャアー!! ガンガン♪ ダムダム♪」
「今度の家は白いのね?」
「とっさだったからごめん。でも、ワンランク下の家だけど強度は二番目に強い物だから安心してくれ。それよりもあれは何?」
「赤ピーマンよ! ピーマンが稀に進化すると赤くなるの! 味もよりぐっとなって美味しいだけど、あれは5級冒険者がパーティーを組まないと厳しいわ! 緑ピーマンの三倍は強いわ!」
「シャアー!」
「とりあえず、小さな穴を空けるからそこから反撃開始だ!」
「ええ! 手加減なしよ! ファイヤー!」
「熱湯を喰らえ!」
俺もモモも出来る限り手数を増やして攻撃しているが、赤ピーマンは余裕で躱す。
「ふっ♪ ……シャアー! ガンガン♪ ダムダム♪」
「アイツ!? 今嘲笑ったよね? ピーマンの分際で……! 当たらなければ問題ないって顔しやがって! ムキーーーーーー!」
「落ち着いて! ……手持ちのカードを確認しよう。」
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ステータス
【名前】ブタ
【種族】ブタ
【性別】ブタ
【職業】元保育士のブタ
【称号】喋るブタ
【Cポイント】100⇒1000
【チート】
☆ブタ箱LV3⇒20
☆鼻からドバー♪LV1
☆万能の鼻
☆豚に真珠
☆豚もおだてりゃ木に登る
☆豚汁
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Cポイントが増えてる!? セーウルフとピーマンの経験値か! 鼻からドバー♪ を上げれば使えるカードが出てくるか?
*鼻からドバー♪ のレベルを上げるのにポイントを使用しますがよろしいですか? Y/N
もちろんイエスだ!
*LV2:墨噴出を取得しました。(200/200P)
*LV3:トリモチ噴出を取得しました。(400/400P)
*LV4:麻痺毒液噴出を取得しました。(800/800P)
ビームとか期待してたけど、やっぱり出ないよね。とりあえず、これらを使ってなんとか出来ないかやってみよう!
「イベリコ! アイツ殴りたい!」
「モモ聞いて! 今、Cポイントを振って鼻からドバーのレベルを上げたから、これでアイツを捕らえてみる! 火力は俺にはあまりないから止めはモモに任せた! 頼んだよ!」
「わっ分かったわ! フルパワーでいくからこれ飲んで待ってるわよ相棒♪」
「おーけー! イベリコ! 行っきまーす! ウリャ!」
まずは奴を狙っているように見せ掛け、トリモチをばら蒔き逃げ道を無くさせる!
赤いピーマン(肉詰め)は軽やかに躱していく。5級冒険者はこんな奴をパーティーを組めば倒せるだと!?
異世界の人は人間を辞めているだろと、辞めた俺が心の中で呟く。
「大丈夫よ! イベリコは凄いよ! 頑張れ! んぐんぐ♪」
ありがとう相棒♪ こうやって応援してくれるモモがいるから俺は頑張れる!
オラオラオラオラオラ! どんどん塞いで行くぞ! 気づくなよ! オラオラオラオラオラ!
「んぐんぐ♪ 失敗してもいいんだからねイベリコ。いざとなればピーマンを二人で食べてアイツがいなくなるのを待ったっていいんだから。イベリコがいれば何日だってすごせるわ♪」
返事は返せないのにモモは話しかけてくれる。オラオラオラオラオラ! やった!! 奴は気がついていない!
飛び越えて行かないようにもっとトリモチを噴出だ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
「イベリコ凄い凄い凄い! あれじゃ逃げ道ないね! あの白いのが何か知らないけど頑張れ! んぐんぐ♪ 私はそろそろ準備するわ! 集中するから撃っていいタイミングで扉を全開にしてね。…………………」
トリモチ地獄で逃げ道はないこっちに来い来い来い!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!! 喰らえ墨噴出!
「シャアー!? シャアー!? シャアー!?」
墨を喰らってクルクル回ってやがる。流石にトリモチに気がついてツッコマないか。だが! 止めの麻痺毒液噴出だ!
「シャアー!? しゃああああああああああああ!?」
赤いピーマン(肉詰め)よ! 彗星の如く真っ赤に燃えろ!
「今だ!!!!!」
一気にオリハルコンの壁が左右に開き奴が棒立ちしてる姿が見える。
「ヒートォォォォォォォォ!!!!」
バチン♪ と火鉢の中で弾けるような音と赤い閃光が奴を襲う!
「あああああああああああああぁぁぁ……………………………」
赤黒くなった赤いピーマン(肉詰め)はそのまま動かなくなった。凄い香ばしい匂いが立ち込める。
「はぁ~はぁ~はぁ~…………よっしゃ~♪」
「モモ、凄い凄い凄い♪ 流石は俺の見込んだ相棒だ♪」
「見直してくれた? えへへ♪ コイツも回収して帰ろ♪ 大収穫よ♪ イベリコのおかげよ。私一人じゃこんなの無理だもん……」
「それを言うなら俺だって♪ やっぱ俺達はパートナーなんだよ! おーけー?」
「おーけー♪」
「「ふははははは♪」」
モモに出会えて本当に良かったとしみじみ思う俺であった。