トンとことこ♪ 6話
ここは街外れにある廃れた教会である。そんな廃れた教会を修繕し、親を亡くした子を集めて面倒をみている私設孤児院があった。
その私設孤児院の院長先生ことシスターマリアはかつて名を馳せた冒険者であり、その癒しの力をもって救いを求める人を探し歩き、無償で人々の為に治療や看病の奉仕をした事から、聖女マリアとまで呼ばれた偉人であった。
だが、この無償で行う治療行為は神官職につく聖神教会と言う組織が運営資金集めの為に禁止しており、その規律を破ったシスターマリアを教会組織はやむ無く追放した。
しかし、世間の評判や教会内から離反する者を生み出さぬ為に教会は、シスターマリアのその後の普及活動や治療奉仕活動も様々な要因が重なり黙認していた。
面子を気にする少数の幹部連中もいるが、それでもシスターマリアの行いこそ、本来あるべき神に支える者の姿なのではないかと、心を悩ませ、痛める者が大勢いたからだ。
だが、現実として教会も活動資金がなければやっていけない。その結果、治療魔術を行える者の数が減れば助けられる者を大局的に見て救えないのだから……まさに背に腹は変えられない思いであった。
さて、その噂のシスターマリアは今、お昼の準備を孤児院の子供達と一緒にしていた。
今日のお昼は野菜スープに街の人から寄付で頂いた干し肉を入れて、少し贅沢をしようと張り切っていた。
そこに孤児院を巣立って旅立った娘の二人が顔を見せにやって来た。
「マリア母さん、ただいま♪」
「マリアお母さん、ただいま♪」
マキさんの服の中で俺はまだ黙っている。タイミングを見計らってから喋ろう。感動を邪魔しちゃダメだからね。
「おかえりなさい♪ 二人ともお昼良かったら食べて行きなさい♪ 今日は干し肉入りで豪華よ♪」
「マキ姉ちゃん! モモ姉ちゃん! おかえり~♪」
「みんな元気にしてたか~♪」
「元気にしてたよ~♪ また剣術教えて~♪」
「みんな、今はお昼の準備しないと。お母さん、私も手伝うわ。これ剥くね♪」
「あたいもやるわ。なつかしいな~♪」
「マキちゃんもたまには顔見せてね♪……ふふふ♪ 貴女は相変わらずこういうのが苦手なのね。」
「母さんみたいになれれば良かったんだけどな♪
」
「「「「「「「「「「あははははは♪」」」」」」」」」」
「ところでマキちゃん♪……貴女まさか、おめでたなの?……♪」
俺が入っていたせいでポッコリ膨らんでお腹を見て、勘違いをしたマリアさんは嬉しそうし、笑顔を作って返事を待っている。
その母の笑顔にマキちゃんの心は温かくなって嬉しくなる。この人の愛は物事ついた頃から今でも……そう、いつまでも変わらぬ愛をこうして注いでくれる。
マキちゃんがこの街の自警団で働いているのも、この母の住む街を守る為であった。
彼女の実力を知る者なら、騎士にならずに自警団に身を置いているマキちやんを不思議に思っただろう。
さて、様子を伺っていたがついに出番がやって来たみたいだ。
マキちゃんが上着をめくると、そこから俺がコロン♪ と床にこぼれ転がる。
ていんていん♪ とゴムのように二度跳ねてから姿勢を直し、みんなの顔を見回してから挨拶をする。
「はじめまして。俺、イベリコ♪ 不思議なブタさんです。悪いモンスターじゃないから怖がらないでね♪」
「きゃ~~~♪ なになになに! マキ姉ちゃんがブタさんを産んだ♪」
きゃあきゃあ♪ と騒ぎ出す子供達は俺に近寄り、ツンツンしたり、撫でてキャッキャッ♪と言って騒いでいる。
「まあまあまあ~♪ この子はどうしたの?」
「私の相棒なの♪ 昨日ね、南の森にクエストで行った帰りに見つけてテイムしたの。」
「こんにちわイベリコさん♪ ここの院長をしているマリアよ。貴方もご飯を食べていきなさい。」
マリアさんは俺を拾い椅子に座ると、膝の上に乗せてくれる。
歳は60歳位だろうか。シスター服を頭からスッポリと被っていて髪型は分からない。
身長は160センチのほっそりとした体型だ。
マリアと言う名に相応しい慈愛に満ちた印象を受ける。
「ありがとうございます。あの良ければ俺からダシを取れるので試して下さい。おすすめしますよ♪」
「何てことを……そんな事はしません! よくお聞きなさいイベリコちゃん!」
「あっ! お母さん! 違うのイベリコは……」
これは俺か食料にして下さいって言ったのと勘違いしているな……それで怒るとは。会ったばかりのモンスターの俺に……モモが優しい子に育つ訳だ♪
「モンスターも人も関係ありません! 神から授かった体は違えど、魂は変わらないのよ。なら、そこに垣根などあってはダメだわ! ここがいくら孤児院とは言っても、イベリコちゃんを……」
「ストップ母さん!! イベリコが言ってるのはチートでそういうことが出来るって話だよ。」
「えっ? ……私ったら……あぁ~神よ……お許し下さい。イベリコちゃん、ごめんなさい……私は……」
見てて飽きない人である。だが、もの凄く好感がもてる。
「いえいえ、気にしてませんし、俺の説明不足でした。反省です。チート能力で水に浸かれば……あら不思議♪ ビックリするほど美味しいスープに化けますよ♪」
「と言うわけでイベリコ。ちょっとじっとしてろよ。お前、床に転がって少し汚れたからな……この桶に少しお湯出せ。」
「ほい♪」
少量のお湯と水が混ざり適温になる。
「動くなよ。」
そのお湯を手に救い俺を撫でるように洗う。
「私もやりたい!」
「僕も!」
「私も!」
ちょ!? 手が手が♪♪♪♪♪♪
「ぶはははははは♪ みんな! ぶはははははは♪」
もにゅもにゅ♪と形が変わり触り心地もいいから子供達は遠慮をしない。
だけど、端から見ると微笑ましかった。
「みんな優しく洗ってあげなさい♪ しかし、不思議なモンスターさんね♪ 私がまだ見たことのないモンスターがまだいるなんて、世界は広いわね。」
「へぇ~♪ 母さんが見たことないって凄いな……」
「(……世界でたった一匹のモンスターだもんね。正確に言えばイベリコは人でありなからモンスターか。私ってば運がいい!)」
「きれいきれいになったねイベちゃん♪…………ペロ♪ ……!!!!。お母さん! お母さん! 舐めて舐めて♪ ほら♪」
「……まあ!!! 美味しいわね~♪ 変わったチート持ちなのね。ビックリだわ♪ イベリコちゃんの仲間ってまだいるのかしら? あの森なら近くだし探しに行こうかしら……」
「あ~~あの森。こりゃ~イベリコの話を聞いた冒険者達が押しかけそうだな……」
「うっ……私の狩り場が荒らされる。あっ! そうだ、お母さんこれ♪ イベリコからの贈り物♪ 孤児院の足しにして♪」
小袋から金貨を2枚を取り出して、マリアさんの手にそっと握らせる。
マリアさんは少額でもありがたいと思って受け取った手を開くと金貨が目に写り固まってしまう。
開いた手の中の金貨が目映い光を反射し、みんなの視線は釘付けになる。
「モモ! あんたどうやって!? ……イベリコからの贈り物って……」
「凄~~~い♪ 私、初めて金貨見た♪ 綺麗ね~♪」
「モモ姉ちゃん凄い!」
「お母さん良かったね♪」
口々にみんなは喜んでくれるが、マリアさんは返そうとするので一言。
「月に一度、真珠は産めるので貰って下さい。モモの家族は俺の家族でもあるんだから♪」
「でも…… こんな大金は受け取ることは……」
「良く言ったわイベリコ! それでこそ私の相棒よ♪」
「ブタにしておくのが惜しいな♪ 気に入ったよ♪」
「じゃあ♪ 私はイベちゃんのお姉さんね♪」
「僕はお兄ちゃんだ♪」
俺はしがない保育士だったけど、貴女はこんな異世界で一人で多くの子供達を清く正しく育て……正に教育者の鏡です。
言葉に出さなくとも目で分かりますよね?それに貴女がいなければ俺はモモに出会えなかった。
感謝します。ずっと一人と一匹は目で互いを見つめ合い気持ちを通わせる。
「……………………神よ、感謝いたします。そして、ありがとうイベリコさん。このお金は子供達の為に大切に使わせてもらうわ♪」
「そうして下さい。それに俺とモモはこれからクエストでガンガン稼ぐので心配はいらないです。ねっ? モモ。」
「もちろんよ! セーウルフの一匹や二匹楽勝で……」
「おいおい♪ せめてドラゴン位言えよ♪」
「「「「「「「「「「あはははははは♪♪」」」」」」」」」」
この後、お昼を食べてから子供達と遊びすっかりと家族の一員となった俺だが、日が暮れる頃になり、おいとまをしようとすると泣き出す子がいたので、今日だけお泊まりさせてもらう事にした。
ちなみにマキさんは仕事があるのでお昼を食べた後に帰ってしまった。
本当はここに今日は残って団欒をしたかったのか、羨ましそうな目をモモに向けながら去っていった。