1話
201X年12月28日
もうクリスマスも過ぎ去り、そろそろ田舎に人々が帰省しだす頃。
大学生の『東郷 直樹』は友人とお台場ビックサイトにいた。
「なあ、隼人なんで俺までここに来なきゃいけないんだ?明日からのコミマに戦力として呼ぶのは、……まあ分かる。だが、今日は28日だ。まだ始まっても居ないぞ?」
俺はそう隣の友人『江藤 隼人』に尋ねる。
「バカだな、今日の前日準備は参加すると良い事があんだよ。だから、『今日も』戦力として呼んだんだよ」
「そうか……じゃあ、今日参加するから、明日以降の本番は参加しなくていいな」
「何言ってんだよ。『今日も』って言ったろ?勿論明日以降も参戦してもらうに決まってるじゃん」
もの凄い良い笑顔で悪びれも無く言ってきたので1発殴っておいた。
実は今回で5度目のコミマだが、俺は自発的に参加したことは1度も無い。
3年前の冬、高校3年生だった俺は、高校の推薦で大学への入学を決めており、暇だった。
『俺と一緒にコミマへ行ってくれ』そこにこの1本の悪魔電話が掛って来た。 当時暇だった俺は気軽に『いいよ』と言ってしまった。言ってしまったのだ!!
そして、延々と毎年2回なし崩し的に参加している。今では初心者を卒業し、経験者の成りかけのような物にまでなっている。
そして、遂に事前準備にまで参加させられている今日この頃である。
何故だ!!
それが今大勢に混ざって説明を待っている俺の心境である。
「お、そろそろ説明始まるな。」
そう隼人が言うので前を見ると少し小太りの普通のおじさんがマイクを取って何か言うところだった。
『え~皆さん。今回も集まって頂いて有難う御座います』
そう言うと周りからも拍手やヤジが飛ぶ。
そして、なんやかんやと冗談を含んだ説明やら注意やらが済んだ時、事が起こった。
突然、直樹の横に居た男性が倒れた来たのだ。
「うお!!」
驚いて、受け止めると完全に弛緩した男性の体重がとても重く感じられた。
「大丈夫か直樹!!」
いち早く気づいた隣の隼人が急いで男性を共に支えてくれる。
その頃には周りも何か起こったようだとざわつき始め、周りの人たちも手伝ってくれて男性を床に置くことが出来た。
「どうしたんですか!?」
そして、何かあったと気づいたスタッフの一人が駆け寄ってくる。
「この方が急に倒れたんです!!医療関係者の方はいらっしゃいませんか!!」
そう俺が叫ぶとスタッフは顔を真っ白にさせて周囲を伺うと、一人の男性が駆け寄ってくる。
「俺は救急救命士だ!!見せてくれ!!」
男がそう言うので、俺は急いで場所を空ける。
すると、男は横にしゃがみ、慣れた手つきで男性の体を触り始めた。
「意識なし。呼吸ヨシ。心拍正常。……。高熱を確認。多分重い風邪だな。無理しやがって」
そう男は言うと携帯を取り出しどこかへ電話を掛ける。
「推定30代男性。意識不明。心拍正常。高熱を確認。場所は国際展示場」
男は簡潔に症状と場所を伝えると、今度はスタッフに「見たところ命に別状は無さそうだが、救急車を呼んだ。救急車が来るまで患者を寝かせられる所と患者を運ぶ担架のような物は無いか?」と早口で伝える。
言われた方のスタッフは、最初何をいわれたのか分からなかったのか一瞬フリーズした後「医務室が東館にあります」と言って、走っていった。
そして、男は俺達に向かって言った。
「彼の直前の様子を教えてくれないか?」
「様子も何も俺達は前を向いていたので、彼を見てなかったんです」
「そうか、それはしょうがないな」
そういいながらも、救急救命士の男は男性に今出来る限りの処置をしていく。
そうすること約3分、スタッフの男性が戻ってきた。
「ハァ、ハァ、ハァ……担架……持って……来ました」
息を切らせながら走ってきた男性は持ってきた担架を床に置いた。
「よし、そこの二人、この患者を担架に乗せるのを手伝ってくれ。俺が患者の体を持つ。そっちはお尻と足を持ってくれ。1,2,3で移動させる!!1!2!3!」
男性の合図で男性を担架に乗せる。
そして、担架を救急救命士と俺達とスタッフの4人で持ち上げ、東館の医務室まで連れて行くのだった。
男性を運びながら、俺は救急救命士の男性に話しかけた。
「救急救命士の方がいて助かりました。」
「ん?ああ、私もまさか休暇中に急病人が私の前に出るとは思いませんでしたよ。私、吉田といいます。」
「これはご丁寧に、おれは大学生の東郷と申します。所で、この男性は大丈夫なんでしょうか?」
「ん~私の見たところ、呼吸と心拍ははっきりしてますし、多分大丈夫かと。脳梗塞、脳卒中も疑ったんですが、高熱がでてますから、卒中、梗塞ではそんな症状でませんし、多分風邪でしょう。あ!帰ったら、うがいと手洗いしてくださいね」
「あははは、わかりました。帰ったらちゃんとしますよ」
そんな冗談を言いながら運んでいると、東館の医務室についた。
「よし、このベットに移すぞ。1!2!3!よし。これでいい。後は救急車を待つだけだ。ここまで手伝ってくれて感謝するよ。スタッフさんと俺が待っているから、君達はもう準備に戻ってくれていいぞ。協力感謝する」
そう吉田が言った。
「そうですか。お役に立てたなら良かったです。では僕達は失礼します。」
そう言って、俺達は医務室を出た。
「いや~びびったな。急に人が倒れるんだもんな」
「本当だよな。あ、さっきは咄嗟に手伝ってくれてありがとな。もしあのまま、隼人が助けてくれなかったら潰されてたかも」
「いいってことよ。お、もう説明終わったようだな」
前を見ると、説明が終わり東館、西館の持ち場に分かれてこちらに来る人たちが見えた。
「なあ、俺達は東館に今いるけど、東館で準備するのか?」
「ん?ああ、俺達は西館でやる予定だな」
「なんで?」
「最後の反省会があっちの方が近いんだよ。それに、あっちの方が早く終わるしな」
「成程~」
そんな事を言いながら、俺たちは西館へ向かうのだった。
この時、この隼人のこの言葉で俺達は難を逃れる事が出来た。
本当に俺たちは運が良かったと思う。何故なら、この後東館は地獄にかわったのだから。