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超心理的青春  作者: ryouka
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その6 伊佐兄弟の過去

 喫茶店の帰り道、まだ雨は続いていた。

 空は日中よりさらに暗くなり、気温も下がり、雨が肌に当たり、いつもより寒く感じる。風に肌を引っ掛けられながら、歯を「ガタガタ」幼児のように震わせながら、家路へ向かう。

 沖田先生に過去の話しをしたせいで、脳内を巡るのはあの日の事ばかり……。嫌な日には、嫌な思い出が泡のように溢れ出す僕の性格を恨んでみる。

 恨んだって何も変わらない、僕の性格も、今日のことも、そして過去のことも。


 僕の唯一の肉親である父が亡くなったのは今から六年前。

 父は家に帰ることがめったになく、1年に1度帰ってくれば良いほうだった。幼い頃からずっとなので、僕達は顔も覚えていない状態だった。そんな父が、家にいることの方が不思議で、特別番組のような頻度の一家団欒も、家族が揃ったというのに居心地はよくなかった。

 彼はもう父とは呼べない存在だったのかもしれない。家族とも。

 帰ってこない理由を幼いながらの僕は、お母さんに問いかけたときもあった。さすがに年に一度しか帰ってこない父親は不自然だから。

 理由は仕事が忙しいから、それだけしか言わなかった。

 お母さんはその話しをすると、どこか寂しげにうつむき微笑む。僕は本当に仕事なのか疑っていた。でもそれ以上は聞けない。お母さんを悲しませることは、牢獄に入れられるよりも重罪に感じていた、まぁ言えば死刑だ。

 父が帰ってこない理由が「単身赴任」に切り替わったある日の事、今から六年前。いきなりお母さんに起こされ、向かったのは葬祭会館だった。

 どうやら父が仕事の最中に事故で亡くなったらしい、僕達家族は特に悲しい表情をせず、それこそ無表情で、周りから見ると悲しさのあまり表情を失っているととれるくらいだった。僕ら兄弟が悲しむ理由などなかった。

 初めからいるかいないかわからない存在だし、話したことも記憶にない人が亡くなった事にたいして、涙など流せるわけがなかった。飼っている金魚が死んだ方がよっぽど悲しいよ。


 それから四年後お母さんは再婚した。

 父が亡くなってから三年間は何の音沙汰もなかったけど、その後は何か吹っ切れたようにお母さんは恋に没頭した。その相手が僕の現在の父であり、心から家族といえる初めての父親だ。

 どうやらお母さんは狙った獲物は逃さないようで、仕事も出来て容姿端麗で家族思いの男性を手に入れた。そのときのお母さんの喜びようは異常で、十年越しに咲いたひまわりのような表情をしていた。余程うれしかったのだろう。まぁ前に愛した人がどうしようもない人で、先立たれたなら、気持ちもわからないでもない。

 それにお母さんは僕達の妹を身ごもっていたしね。

 僕の苗字が「伊佐」となってから、半年が過ぎた日の事。本当の悲しみを知る日が訪れた。

 「伊佐」となってからの家族は本当に幸せな一般家庭で、毎晩一家団欒の夕食をとり、週末には遊園地やら水族館で、家族サービスも欠かさなかった。僕達にとって初めての喜びでもあり、この頃に兄弟の絆は深まったのだろう。

 でも、長くは続かなかった。

 妹は生まれてこなかった。

 お母さんは流産をし、これからの人生、子供を産めない体になってしまった。女性にとっての存在意義を剥奪されたお母さんは、目が死んでいた。

 よく先生が「お前達の目は死んでいる」とか言うけど、あんなのまだ輝いてるよ。そんなこと言う教師は本当に目が死んでいる人を見た事ないだなって嘆きたくなる。

 まぁあんな顔、見ないほうが人生楽しく暮らせるだろうね。

 でもどれだけの悲しみが降り積もるのだろう、僕は想像が出来ない。本当に愛した男性との間に生命を宿せなかったことを。お母さん、ごめんね。

 父さんも悲しそうだったけど、その悲しさを見せないよう、気持ちを隠すために、その悲しみの十倍の暖かさで母に接した。

 お母さんが退院する目途が立った日の事、僕達兄弟はお母さんに呼び出された。

 この日初めて、兄弟は腹違いで、僕は母さんと血が繋がっていないことを知らされた。僕はその日まで気付かなかった、この人が僕と血の繋がりがないってことに。お母さんはまるで、人を七人殺した罪を償うくらいの涙を流しながらこう言った。

 「わたしはずっと薙を恨んできた、前の父さんとの浮気相手の子供やし、それを黙って育ててる自分自身にも。でもあの子、あなた達の妹、私達の娘が亡くなって教えられたわ。……ごめんなさい。これからはちゃんと那実と同じように、それ以上に愛するから許して」

 そう言うと僕を抱きしめ、声を出して泣いた。

 泣き声は波音のように僕の心に響き、ふって出た僕の悲しみを包み込み流してくれた。

心の中で、僕は言わなければわからなかったのに、と考えていた。それほどお母さんは僕に対しても完璧なる愛情を注いでいたのだろう。もしかすると僕があまりに嫌な思い出だったから忘れ去ったのかもしれないけど。

 僕達家族はそれからも幸せな家族を築いた、でも何か失った感は否めない。

木の枝が折れたほどの違和感だけど、それはもしかすると家族には大事なことなのかも知れない。そんな日の事を僕は思い出しながら玄関のドアを開ける。

 あと何度、この言葉をお母さんに言えるだろう。

 「ただいま」

「伊佐兄弟の過去」を読んでくれて本当にありがとうございます。


ここの話しは、この物語の重要な部分ですけれど、うまく表現できたか不安です。


なかなかヘビーな環境でしょう?伊佐兄弟。


もしよければ、小説の評価をお願いします。

少々面倒だと思いますが、その面倒が、あたしの原動力となるのは間違いないです。

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