その4 青天の霹靂の那実
眠い……。
すっかり寝息をたててしまった保護者説明会のせいで、頭がボーっとする。そんな眠気眼の脳みそにも、この状況は理解できた。というより肌で感じたと言った方が良いだろう。その空気の違いに。
いつも温厚な薙が凄い形相で睨みつけている。
その辺にいる不良のメンチが微笑みに思えるほどだった。誰を相手にそんな目つきで見ているんだ?
どうやら相手は今日、面接官をした先生だ。名前はなんだっけ?
そんなことはどうでもいい、おかんがおる前でそれはあかんやろ。てか何でそんな怒ってるんだ。こいつ尋常じゃない顔してるぞ。
「やめろ」と声をかけようとすると、かすかに薙の声がした。
「誰に聞いた」
何を?
「何でそんなことをお前が知ってる」
だから何を。
意味不明な問いを受けている先生を見ると、不敵な笑顔。
その瞬間、一気に目が覚めた、というより脳みそが目覚めた。
もしかして、あのことを言われたのか? 先生の顔はそのことを物語っているかのようだった。
薙が先生の腕を握ろうとした瞬間思わず声が出た。
「おい!薙、どうした」
その声に我を取り戻したように、薙は自分の手を制服のポケットに入れた。
よく見ると体が震えている。
「先生、俺ら兄弟に何の用や」
このおっさんが何を言ったか多少の予測は出来るけど、何故このタイミングで言ったのだろう、そして何故この事実を知ってるんだ。
考えすぎた脳みそに、普段映らないような美人が映った。あぁ沖田先生か。
「すみません伊佐君。本居先生! なんで言ったんですか! 取り返しのつかないことを……」
すごい勢いで走ってきて、すごい勢いでキレる沖田先生に圧倒された。当事者のおっさんはまだへらへらしてやがる。
待てよ、このことを何故、沖田先生が知ってるんだ?
「沖田先生は何故このことを知ってるんですか?」
と質問をしたと同時におかんがこっちに歩いてきた、いつまでたっても進もうとしない双子に注意と、先生にあいさつを、って所か。
「はよせなバス行ってまうやないの。先生、これからお世話になります。ほら行くで」先生に軽くお辞儀をしながらおかんは、俺ら二人の手を引いた。
この歳になって手を引っ張られると思ってもなかった。
耳元で薙に問いかけた。
「偽者って言われたんか」
「よう似たことや…。腹違いやて」
もう二度と言いたくないという言い方と、これ以上ない無表情に、その先の話はしなかった。
後ろを振り返ると沖田先生が100人中90人がわかるようなジェスチャーで「ごめんね」と「電話します」をしていた。にしてもその姿が可愛い。
俺が手を振ると、優しく手を振ってにっこり笑ってくれた。惚れても良いですか?
何とか、おかんにこのことは悟られることなく、事なきを得た。それだけでも十分だろう。
それだけは俺達も避けたかったことである、本当に。
この学校の推薦を取り消されることよりも避けたかった。
それにしても、学校に行ってからやけに体がだるい、色々ストレスもあったんだろう、薙もあれから全くしゃべってない。聞いた言葉は「いただきます」くらいだ。「ごちそうさま」も言えっての。もういいや、大分早いけど寝よう。
その日の夜、留守電に沖田先生からメッセージが入っていた。
「明日の5時、駅前の喫茶店でまってます」と。
「青天の霹靂の那実」を読んでいただきありがとうございます。
那実くんはいかがでしたか?変な奴、設定なんですけど・・・伝わってるかな?
でも意外と常識人だったりします。
もしよろしければ、あたしへの褒美として小説の評価をしていただくとうれしいです。