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超心理的青春  作者: ryouka
37/40

その37 伊佐那実の傷心

 二人の霊能者もどきは、よーいどん! と小学生のかけっこのように駆け出さず、ゆっくりと暗いトンネルの中へ入って行った。奥村は霊能者として仕事をしているからこういう場所には慣れているだろうけど、那実の奴は怖くないのだろうか? 

 トンネル内には意味不明な落書きが描かれていて、気味悪さを助長させる。しかもトンネルには全く明かりが灯っていないのに、霊能者二人には懐中電灯すら渡されていない。沖田薫子いわく、霊視できるなら暗闇なんてどうにかなるでしょう、というとんでもない理由だったのだけれど、粋がったエセ霊能者二人はそれを承諾した。霊視が出来るからと言って何故暗がりを歩けるのか理由は全くわからないと突っ込みたいところだけど、僕の役割はカメラマンだ。

 霊能者以外はトンネル内部にいても意味がないので、トンネルの入り口で彼らが霊体を発見するのを待ち、呼び出されるとその霊能者に近づき撮影開始することにした。

 「今気付いたんやけど沖田先生、ここって有名な心霊スポットやのに何でこんなに人が少ないん? さすがに日曜日でも二組〜三組くらい普通おるやろ」

 …………おい、聞いてるのか? もしかしてこの先生のことだ、役になりきっているからその役名を言わないと返事しないとかじゃないだろうな。

 「沖田薫子さん? 聞いてますか」

 「あら、薙くんどうしたの?」

 予想的中、本当に面倒くさい性格をしているよ。

 「聞いてたやろ、何でなん?」

 「交通の規制をしているからよ、これくらい容易いわ。何たってこのーー。薙くん、みんな! 行くわよ」

 トンネル内には中年男性の声が響く。何も知らない人が聞けば十分心霊現象と間違えるんじゃないかというような不気味な声だ。

 僕らも慌てて沖田薫子について走り出した。

 トンネルの真ん中まで行くと、道路の中央辺りに奥村が立ち何やらお経のようなものを唱えていた。

 「どうやら奥村先生が霊を発見したようです! どうですか先生?」

 薫子は霊と対話中の奥村に対し声のボリュームを落とすことなく遠慮なく訊ねる。

 この世に霊が本当に実在して、本気で除霊をやりにきてこの対応をされると僕なら間違いなく怒るけどな。

 「はい、ここに子供の霊がいますよ。今事情を訊いてみますので」奥村は大げさに『ハ』と『カ』を叫び、数珠を大きく振り回す。

 「この女の子は、親子で近くにある愛宕山へハイキングに来ていたそうですが、途中で迷ってしまったそうです。結局両親とも会えず、山で息絶えてしまいました。今もこの子は両親が来ることをこの霊が集まるトンネルで待っているのです」

 なんというありきたりな設定なんだろう。そんな話しは今まで何度聞いただろうか。どこかの名犬を少しもじって話しているだけじゃないか。

 隣で泣き声が聞こえたので振り向くと、京野花さんが涙を流していた。その本気で泣いているのか? もしそうだとしたら、どこかの芸能プロダクションへ行った方がいい。きっと快く迎えてくれるだろう。

 「おっ、奥村先生! 早くす、す、救ってあげてくだひゃい、かわいそうれしゅよ」おいおい。こんなところで迫真の演技が拝めるとは思ってもいなかったぞ。

 「わかりました。その涙はきっとこの子を救うでしょう」

 戯言は言いからはやく除霊しろ。どうせ適当にその数珠を振り回して適当な言葉を並べて終わりだろ?

 案の定、奥村は僕の想像と全く同じ行動し、彷徨える魂を求めてトンネルの奥深くまで歩いて行った。

 すると今度は那実の声が聞こえた。全く忙しい。どうせ見つけたフリなんだからもう少し間を与えてくれよ。

 「大妙院先生も霊を発見したようです!」いつまで薫子のテンションが続くのか不安だったけど、それも余計だったよ。きっと死ぬまでこの状態を保っていられるんだろうな。

 僕らはさっきと同じように走り、大妙院の元へ向かう。

 すると大妙院の手元が赤く光った。もしかして火の玉? と一瞬でも思った僕がアホだった。

 「おっと、大妙院先生、それは一体なんでしょうか?」

 「これは霊探知機です。俺の霊力を使って作動させてるんだけどね」

 なにが霊力だ、明らかに電力だろ。それにお前が赤く光らせているのは僕がおもちゃ屋で買った携帯ストラップじゃないか。確かに霊探知機能付きとは書いてあったけど、一二〇〇円でそんなもの発見できるならオカルト研究者も苦労しないよ。

 「さっそくですが、すごい大物釣り上げちゃいましたよ」

 「どういうことでしょうか? 大妙院先生」

 大妙院は扇いでいた扇子を閉じ、正面に魔法陣を描くように振り、三〇メートルくらい離れた奥村に聞こえる声で、

 「霊の行列を発見しちゃいました。ざっと三〇体と言うところでしょうね」と言った。

 おいおい、そりゃさすがにやりすぎだろ? 遠くから「何?」と言う声が聞こえてきたじゃないか。そりゃセオリーとしては一体ずつ見つけて除霊するものだからな。やっぱりこいつはアホだ。

 「それでは除霊するのに時間がかかるのではないでしょうか?」

 「いえいえ、僕ほど霊力が高ければこれくらいの怨念と数なら三分もあれば十分です」

 大妙院がそんなことを言うから、奥村も「ここには五〇体もいたぞ! 私もこの数なら三分で十分だ!」と言い出したじゃないか。

 もうやってられん……。

 沖田先生もすっかり飽きたのか崎野さんと一緒に山手線ゲームを始めた。

 「絞殺!」「銃殺!」「溺死!」「刺殺!」

 別に山手線ゲームはいいのだけど、お願いだから心霊スポットで死因をお題にするのはやめてくれないか。気味が悪いどころですまない。

 しばらくトンネル内には死因を言い合う女性の声と霊の数と除霊の時間を叫び合う男性の声が響き合った。

 

 制限時間三〇分が経ち、トンネル外へ出た僕たちは奥村対大妙院の霊能力対決の結果発表を行うことにした。

 まぁ結果は見えてるけどな。

 「それでは、結果発表ー! 千二十一対一億三千三十で大妙院先生の勝ちです」

 そりゃそうだろ、那実の奴、終了時間を見極めて、最後の最後に一億二千人とか言い出すんだもんな。それまで二十体さで負けていたけど、なんという大逆転劇だろう。

 沖田先生も山手線ゲームしながらちゃっかり数を数えていたんだな。聖徳太子かと突っ込みたいところだけど本当にすごいので突っ込めない。

 でもこれじゃドラマも何もありゃしないだろう。最後の方はお互い数を言い合ってただけじゃないか、これが本当の番組ならどうなっていたんだろうかと思うと寒気がする。

 「まさか大妙院先生が勝つ何て思ってなかったです。絶対奥村先生が勝つと思ったんですけど」

 京野花さんは本当に悲しそうに涙を溜めて言う。

 「ですよねー。奥村先生、敗因はどこにあると思います?」

 おいおい、この人一応有名な霊能力者だろう? そんなプライドを傷つけるようなことしていいのかよ。ほら、暗くても顔が真っ赤だとわかるぞ。

 「人を馬鹿にするのもいい加減にしろ! 何が一億人だ! そんなに霊がいるわけないだろうが、このエセ霊能者が!」

 人のこと言えるのか? 確かにあんたの方が霊能者らしいけど、それはあくまでらしいだけであってそうではないだろ。

 那実は閉じた扇子を振り、音を立てて広げて扇ぎ、悟るように奥村の怒号にもとれる質問に対し答えた。

 「なんで一億人がありえへんの? 人は死ねば幽霊になるんやろ? その中の何割が現世に残るか知らんけど、この場所に恨み、やりきれなさを持ったまま死んだ人が霊になって現れるんやったら、人類が生まれてから一億人くらいおっても不思議やないやろ」

 確かにその考えには頷けるけどこのトンネル付近で一億人は多すぎだろ?

 「だまれだまれだまれ! そんなに霊界は単純じゃないんだよ!」

 死んだことのないお前に何がわかるって言うんだ? せめて死んでから言えよこいつ。

 あくびをしながらそんな言い合いを見ていたのだが、那実がとんでもないことを言い出した。

 「そしたら見せたるわ。幽霊を」

 はっ? お前いつからそんなことをできるようになったんだよ。奥村も何言ってんだこいつ、って顔してるじゃないか。いや違うだろ奥村、お前はそんな顔してはいけないだろ、一応霊能者の肩書き持ってるのだから。

 那実は呆れ顔の奥村を気にすることなく、自信満々の顔で大きく目を開き、親指と中指を擦り合わせ乾いた音を響かせた。

 その瞬間トンネルの方から白い女性のような形をしたモヤのようなものが僕の前を通り、立ち止まり肩で息をして煙のように消えていった。

 あまりに唐突な心霊現象で僕は驚きすぎて声も出ず、その光景の一部始終を見送った。

 「奥村さん、これで信じてくれたか?」

 奥村は背骨を抜かれたようにその場に座り込み、顔を霊が消えた場所に向けてただ呆然としている。

 「これで、わかったやろ。あんたのありえへんくらい高い霊感商売をやめて、更にその人達の洗脳を解くんやったら、さっきおった霊をあんたに取り憑かせへんようにするけどどうする? 多分取り憑いたらあんた死ぬやろな、散々こいつらを金儲けに使ったんやから」

 奥村は首だけを大きく立てに振り、声を挙げて泣きながら情けない声で謝罪の言葉を吐いた。

 「まさか本当にいるとは思っていなかったんです。ごめんなさいごめんなさい、もうしないから!」

 これで一件落着か。でもさっきの白いもやはなんだったんだろう? 明らかに霊のように見えたんだけど、どうせ組織が作った何かだろうな。

 僕らは腰を抜かした奥村を置き去りにして、その場を後にした。

 

 「任務大成功ね、みんなお疲れさま。あいつ前から嫌いだったのよね、下っ端のくせに調子のって」沖田先生は今日一番の上機嫌で僕らを褒めてくれた。まだ一日が始まって三時間程だけど。

 「下っ端ってなんですか?」

 「あっそうか、薙くん達は知らないか。あいつうちの組織と関わりの深い教団がよく仲介している霊能者なんだけど、大したホットリーディングも出来ないくせに依頼者からぼったくるから苦情来ていたらしいの。だからちょっとお仕置きをね」

 教団というのは『大和神道教』と考えて間違いないだろう。この任務にそう言う意味があったのか。

 「じゃあ、失礼やけど眞瀬の両親を救うってのはおまけやったんか」

 「違うわよ。この任務名を忘れたの薙くん? 『眞瀬家救出計画』だったでしょ。まぁ今からマセマセの家に行くから着けばわかるでしょ」

 どういうことだ? もしかして眞瀬もこの組織と関係の近い人物だって言うのか? 着けばわかるのなら考えるだけ無駄か。そんなことよりも聞かなければならないことがあるだろう。

 「那実。今僕らに見せた女の人の幽霊みたいなの、あれ何やねん?」

 「あれ? あれはただ、あのトンネルに肝試しに来た大学生の女で、鳥の鳴き声を心霊現象と勘違いして、慌ててトンネルから抜け出したんや」

 いやいや、僕の目の前で消えたんだぞ、それを普通の出来事みたいに言うな。

 「そんなこと聞いてるんちゃうねん、あれをどうやって見せたのか聞いてるねん」

 「俺の超能力や、お前が予知なら俺は?」

  そんなこと訊かれても。僕が予知能力ならお前も同じ顔してるから予知能力か? でもあんな人のモヤなんて出せる能力じゃないだろう? 

 「ホンマにお前は鈍いな」

 呆れて溜め息をついて話しを続けた。言いたくないと言う気持ちがすごく伝わってくる。これは面倒とかそう言う類ではないと何となく気付いた。

 「俺は過去を見れるねん。詳しく言うと人が残した強い気持ちを物を通じて読み取ったり具現化する超能力や。半径三メートルくらいまでやったら読み取ったのを俺以外にも見せることが出来るみたいや。この範囲は回数を重ねるごとに広くなってるな」

 すごい超能力じゃないか。思い出を読み取る能力か……。でも絵画のように描いた人の思いだけじゃなく見た人の思いも強い場合はどうなるんだ。

 「上書き上書きで、強い気持ちが残っていくねん。さっきのトンネルの場合は比較的最近の出来事で気持ちも結構強かったから簡単に読み取れたわ」

 でもすごい汗だぞ、あの涼しい山道で滴るほど汗をかくなんてとてもそれが簡単だとは思えないけど。

 「いや、一番インパクトある思い出を探してたらついこうなってもうてん。でもよかったやろ?」

 確かにすごく驚いたけど、その為にそこまで疲れるなんてお前は本当にアホだな。おい、汗が僕に付くからちゃんと拭けよ。

 「あー? 失敗せえへんようにがんばった俺になんちゅう口訊くねん!」

 アホにアホと言って何が悪い? 久しぶりにやるか口喧嘩でも。

 臨戦態勢の僕たちを察したのか、沖田先生が停戦を求めてきた。

 「もう、せっかく大成功なんだから仲良くしなさいよ。マセマセに報告が済んだら、ご飯でも食べに連れて行ってあげるから」

 「あたしハンバーグがいい! カレーと目玉焼きのん」

 さっきまで眠たそうにうとうとしていたのに、ご飯をおごってもらえるくらいで目を覚ませるなんて精神年齢はいくつなんだ崎野さん。 まぁ天照のように何の反応もなく外を眺めてるのは愛想がなさすぎるけど……、だからやめてくれないか? じっと外を眺めるのはちょっと不気味だからさ。 

 「マセマセの家まで三時間くらいかかるから眠ってていいわよ」

 ここから三時間……、何か嫌な予感がするんだけど。

 「眞瀬の家ってもしかして泉南方面?」僕はあえて遠回しに言ってみたが、その行為は瞬間で意味をなくす。

 「堺だよ。ほら、薙くんの住んでいた近所だった気がするけど」

 的中。

 でもあんな奴聞いたことがないぞ、いや近所ってだけだから隣の中学かもしれないので知らなくても当然か。那実は聞いたことあるか? と訊ねようと思ったが、小さな寝息を立てていたのでやめた。

 汗を流しながら眠る那実を見ていると、超能力を使うと体に負担がかかるんだと言うことが伝わってきた。

 それにしても眠れるかな僕は。なぜかすごい胸騒ぎがするのだけど、きっと気のせいだろうな。

 窓から見下ろす京都の街並はすごく綺麗で、統一されたネオンの色が輝き、ここに教団やら組織や偽霊能者なんて気味の悪い存在がいることを一瞬でも忘れさせてくれた。

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