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超心理的青春  作者: ryouka
28/40

その28 二日目の転校生

 まぁそんな感じの初日だったんだけど、本日二日目は何事もなく終われそうだ。

 少しだけど、ほんの少しだけ気になった事は、彼女は昨日ほど歩く速度が速くない事だ。昨日はそれこそ人ごみの中を矢を射るような競歩並みのスピードだったけど、今日は人の波にきれいに溶け合い、同調するような速度だ。

 なんだろう? このギャップの激しさは。僕のように速く歩く性格ではないと言うことか? 

 僕は人の歩調に合わせて歩くことが苦手だし嫌いだしストレスがたまる。ゆっくりとまではいかないけれど、人と同じような速度で、よく歩けるな。少しでも、一分一秒でも早く駅のホームに着けば、もしかすると座席をものにすることができるかもしれないし、電車に一本早く乗れる可能性だってある。良いこと尽くめじゃないか。

 まぁ早く学校に着いたからといってやることなんて特にないんだけど。

 ――早く学校に着く? 

 そうか、あの子は日直だったのか。だとしたら急いで学校に向かう理由があるってことだ。日直ならいつもより一〇分程早く来て学級日誌やら、黒板消しや教室の空気の入れ替えとかしなきゃいけないもんな。

 ちなみに昨日、尾行を終え教室の席に着いたのが八時一五分くらいだったからこの推理で間違いないだろう。まぁ推理なんて呼べる程のものでもないけど。

 でも日直の仕事をこなすなんて真面目なんだな。実際、日直の担当になって一〇分前に来て仕事をこなすなんて、うちのクラスじゃごく少数しか行っていない。

 そういや、うちの学校って全国でも指折りの進学校だったな。僕の属する学科は勉強があまり得意じゃないけれど、他の学科はそうではなく得意の部類に入るはずだ。イコール真面目ってことか。

 勉強ができる奴が真面目なんて偏見がすぎるかもしれないけれど、日本の人口の総対比で勉強ができない奴とできる奴、どっちが真面目な奴が多いかというと明らかに後者だろう。例外があることは言うまでもないけれど。

 でも尾行する上で、相手が真面目に日直をこなすかどうかなんて関係ないか。こいつが朝少し早く来て日直をこなすなら、僕はいつもより二時間早く起きて意味不明の尾行をしているのだから、こいつよりも僕の方が圧倒的に真面目だろう。いや、大真面目もいいところだ。

 二日目の尾行は団子頭と目が合うことやハンカチを拾うことなく終え、もちろん彼女にも変わった動きは見られなかった。やっぱり朝のニュース番組の占いの結果が良かったからだろうか? ちなみに昨日は11位で今日は3位と中々良好だ。

 僕は学校に着いてから、教室ではなく職員室へと向かった。昨日のように、脳が少し溶けた女教師から昼休みに呼び出さられることを防ぐ為だ。

 他の奴らはわからないが、僕にとって昼休みは一日で最も楽しみにしている時間なのだ。約三十分も休憩時間があれば、十分すぎる程雑談もできるし、運動場でサッカーやドッチボールなんかもできる。少し汗臭くなるだろうが、それは高校生の特権みたいなものと思ってそっとしておいてほしい。

 そんなことよりも、朝一番で先生に会って確認しなければならないことは他にあるんだけどな。

 何の変化もなく、ただつきまとっただけで終わった今日の尾行のことをどう報告しようかと考えながら職員室の扉を開けると……。やっぱりいないか。

 とぼとぼと職員室を出て、いつも不穏な空気が流れる隣の教室の扉を開いた。

 『ぐっどもーにんぐ。薙くん』といつもなら間髪入れず聞こえてくるその声が聞こえてこない。けれど、沖田先生の姿はそこにあった。

 沖田先生は、僕が教室に入ってきたことに気づかず、黒板に白いチョークや赤いチョーク、黄色いチョークで何やら描いてる。一体何してんだ?

 「おはよう、沖田先生!」ちょっとテンション高めで言ってみたのだがまるで反応がない。

 僕はちょっとした悪戯心で、黒板消しを右手に持ち、沖田先生が描くものを一つ消してみた。そーっと、一枚ずつ花びらを千切るように。

 残り一枚となったところでやっと沖田先生と目が合った。ーーが、そんな悪戯する余裕を一気に消し去るような目で僕を睨みつけた。

 「何をしてるのかな? 薙くん」

 僕は沖田先生が描いた、黄色く塗られた円の周りに赤色の角が丸まった長方形の絵をみつめながら、「一枚ずつ花びらを千切って、乙女チックに恋占いでもしてみたんですけど……」と遠慮がちに言った。

 沖田先生の顔つきが更に凄む。そんな状況の説明をしているような場合じゃないようだ。

 「すみません、ちょっとした悪戯やったねん」

 「誰と」とぼそっと沖田先生は口からこぼした。

 どういう意味だ?

 「誰と誰の恋占いをしていたのかしら」凄みながら言う台詞じゃないだろう。

 でも思っていた通り、やっぱりそう言う質問か。さて、どうやってごまかそう……。

 「いや、つい口に出ただけで恋占いをやってたわけとちゃいますよ」

 「じゃあ、なぜあなたはあたしが描いたお花さんの花びらを消していったのかしら? しまいにはおしべさんとめしべさんまで消してしまう勢いでしたよね」

 あの絵のどこにおしべとめしべが描かれていたのかは気になるところだけど、今はそれに対して突っ込める雰囲気じゃない。どうしよう、全部が全部嘘なのに。僕はただ、教室に入ってきても気づかない沖田先生に対して、かわいく小さな悪戯をしただけなのに、まさかこうなってしまうとは。もうこの人には悪戯なんてするべきではないな。

 「何で消したの? さっさと答えなさいよ」怒鳴りはしないが限りなく小さく低い声でつぶやく。こんな声を出すのならいっそ怒鳴られた方がすっきりするよ。

 こりゃ言い訳の仕方によってはえらい目に遭いそうだな。さて、どうしよ……。

 あっそうか、この手があった。この際訊きたかったことを訊いてしまえばいいんだ。ナイス僕、ナイス発想の転換。

 「恋占いとちゃうねん。実は言うと、崎野さんが今日来るか来ないか占っててん、こうやって」

 僕は黒板に描かれた、幼稚園児でも描けるような花の青色をした花びらを一枚消して、「来る」そしてまた一枚消して「来ない」

 黒板を見つめながら、最後の一枚を消して「来ない」

 「沖田先生、崎野さんは今日休みっぽいですね」

 振り返り沖田先生を見つめると、うつむきながら体を小刻みに震わせている。どうやらやってはいけないことをしてしまったらしい。今にも『何で消しちゃったのよ!』と言う言葉が飛んできそうだ。

 僕はその場から逃げ出す為に、ゆっくりと後ろ歩きで出入り口まで近づき扉に手をかけた瞬間、思ってもいない声が聞こえてきた。気色の悪い笑い声と同時に

 「やっぱりアホやであいつ! 何が『来る、来ない』なよ」いくら顔が似てるからと言って僕の口まねをするな。

 「このか、ずっとここにおったのにな」ふふふ、と聞こえてきそうな程、柔らかい声だ。

 その声の方向に目線を向けると、窓際の一番隅の椅子に二人がちょこんと座っていた。にやけながら。

 「あれっ、何でここに? 崎野さん、もう風邪大丈夫なん?」

 「風邪? ――うん、大丈夫。ばっちし」

 その間は何だ? と訊いてみたくなったけど、まだ風邪が完治していないってことだよな。

 「しんどなったら言ってな。保健委員の僕がすぐ案内するから」

 「あり――」

 「薙くん! ちょっとそこに座りなさい!」

 せっかく、崎野さんが感謝の言葉を述べようと口を動かしている途中にむやみやたらと叫ぶなよ。くそ、耳がキーンと鳴り響く。

 「コノカっちと那実くんはちょっと廊下に出て。薙くんとこれから大事なお話しがあるから」

 二人はその声の恐ろしさに、何も言わず、すばやく席を立ち教室をあとにした。

 僕だけに話す大事な話とは何だろうと先生の話に耳を傾けていたけど、どうやら黒板の絵を消したことに大変お怒りのようで、あの花はすみれだったの、あの花は菜の花だったのとか、あの花たちを描くのに何分かかったと思ってるの! など、そのようなことでずっと怒鳴られ続けた。本当に今日の占いは三位なのか?

 そして沖田先生の怒りが冷めないまま予鈴が鳴り、僕はそれと同時に教室から飛び出し「予鈴が鳴ったので失礼します!」と逃げ出した。もしかすると追いかけてくるのかもしれないと思ったけれど、さすがに予鈴が鳴ったのに職員室へ戻らない程の常識外れではないようだ。

 全速力で廊下を突っ走り、右カーブを曲がった瞬間、目の前に人が突っ立っていた。僕は危うくぶつかりそうになったので、無理矢理体を傾け、廊下を転びながらその人間を避けた。

 危ないところだった、もう少しでぶつかって怪我するかもしれないところだったな。やっぱり廊下は走ると危険だ。

 「無様ね」

 廊下に転がり、ゴミを払う僕にそんな言葉を吐く人間はこの世に那実とこいつ以外にいないだろう。

 「天照さんか、もう任務終わったん?」

 「そうよ。あなたはまだ途中なのよね」天照は一度も僕に目を向けることなく冷えきった声で続ける。「いくらヌルい尾行だからといって気を抜くと痛い目に遭うから気をつけなさいよ」

 「なんだ? お前僕を気遣ってくれてるんか?」

 さっきよりさらに冷えた声で、さらに絶対零度の瞳で睨みつけ、一言「そうだったら愉快ね」と吐き捨てた。

 そんなこと言ってるお前の雰囲気が全く愉快そうじゃないんですけど。

 そうだった、こいつに訊いておきたいことがあったんだった。こういうことはこいつにしか訊けない気がする。

 「なぁ、天照さん」

 僕が名前を呼んでも『何?』とも言わないし、顔もこっちへ向けない。こいつは年中不機嫌なのか? 

 かまわず僕は話しを続ける。やりにくいにも程があるけど。

 「最近、というか昨日からこの学校、妙にいつもより静かな気がせえへん?」

 「どういう意味?」

 やっと反応してくれてたか、そうじゃないと話しも進まないしな。

 「いや、そのままの意味だけど」

 「あなた、今二年生がどこにいるか知ってる?」 

 何だ? その質問は。意味深すぎるだろ。どこにいるも何ももちろん教室だろう、学校に来て行く場所などそこ以外にないだろう。

 でも、そんな簡単なことを訊ねる天照じゃないし。

 ――もしかして、二年生全員誘拐されたとか? 一番超能力者が多い二年生を誘拐したのかもしれない。悪の組織もいちいち超能力者を探すのが面倒だから全員を誘拐したなんて……。

 「誘拐されたとか?」と言葉を発した瞬間、ものすごい速さで拳が飛んできて、目の前で止まった。その風圧で僕の前髪は少し揺れたけど、驚いた声や、ガードをするような身構えは一切できなかった。気がつけばそこに拳が、って感じだ。

 「ふざけてるの? それとも真剣?」

 「こ、後者です」いつもならここで、『ふざけてる』と選択してさっきの言葉をなしにするのだけど、今の僕にはごまかす精神的余裕がない。それともう絶対占いを信じる気にはなれない。

 「どうしようもなく痛い奴ね。生んでくれた親も頭を抱えすぎてもだえてるでしょうね、きっと」

 なんで他人のお前が僕の親を敬う必要がある? ほっといてくれ。それに親はもう僕のことなんて諦めてるよ。

 「二年生だけど、修学旅行よ」

 「修学旅行!? もうそんな時期か、どこに行ったん」

 「沖縄よ」

 沖縄? 私立の高校なのに国内だなんて保護者が怒りそうだけどな。

 「帰ってくるのが日曜日の夕方、それまでこの学校は妙にいつもより静かなはずよ」

 いちいち、嫌みな奴だな。人間ミスが付き物だろう?

 僕は少しふてくされながら教室の扉を開けた。

 「遅いぞ、伊佐、それに天照。もうHRは始まってるぞ」

 あれ? いつの間に本鈴が鳴ったんだ? 僕は天照の顔を見て、どうやってごまかそうか考えてると、先生の目をみつめて離さない天照が、僕といたときとは全く違う態度で、仕草で、言葉で、言った。

 「すみません、遅れてしまって。廊下を歩いていると偶然階段から彼が転がり落ちてきたもので」

 天照は僕の膝を指さした。天照の目を見ると『ズボンをまくりなさい』と言った気がしたのでまくると、いつの間にか膝に擦り傷ができている。さっき曲がり角で天照をよけようとして廊下に転がったとき膝を擦りむいてたのか。

 教室からは『さすが薙』なんて言葉が飛び交っているが、いちいち突っ込んでいたらキリがないのでスルーだ。

 「それで保健室に行くか行かないかで少し話しをしていたら遅れてしまいました。申し訳ございません」と言って天照は綺麗な礼をした。こいつは一体どこまで猫をかぶれば気が済むのだろう。

 「そういうことなら仕方がないな。早く席に着きなさい、今日は転校生が来てるから自己紹介をしなければいけいんだ」

 転校生? 僕は疑問に思い、席へ移動しながら教壇を見ると、髪をゆるくカールさせた女子が微笑みながら僕に小さく手を振っていた。

 そうだった、崎野さんが転校生だってことをすっかり忘れていたよ。

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