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超心理的青春  作者: ryouka
27/40

その27 初任務初日

第5章のはじまりです、お待たせいたしました。

 「どう? もう見つけましたか?」

 「ええ、今もちゃんと追ってますよ」

 「見つからないようにしーっかりお願いね」

 はい、わかりました。と僕が返事をする最中に沖田先生は電話を切った。

 なんだか空振りみたいで少し恥ずかしい。まぁ誰も僕の通話なんて聞いてないと思うけど。

 僕は見失わないように一人の少女を目で追う。沖田先生に言われた場所にきっちりと寸分の狂いもなく時間ちょうどに現れるその少女を。そりゃいつもの登校時間なんてそんな変わらないよな。

 追っていることに気付かれないように五メートルほど離れ、さりげなく視線に入るかは入らないかギリギリの位置に少女を置き、なるべく人の影に隠れるように進む。

 少女がエスカレーターに乗ればもちろん乗るし、動く歩道に乗ればもちろん乗る。付け加えれば電車も一緒の車両に乗る。

 僕は彼女を尾行している。

 それは昨日のこと。

 引越しが終わり、竹須佐先輩と僕はコンビニで昼食を買いにコンビニへ行くと、たまたま沖田先生に遭遇して、組織に加わってからの第一任務を与えられた。

 それは三日間、市営地下鉄難波駅の四番ホームに毎朝七時一九分発の梅田方面の電車に乗る、小柄で団子のように髪を結んだ少女を学校まで見届けろ。とのことだった。

 絶対してはいけないことは二点あって、一つは少女に話しかけること。もう一つは、当たり前だけど少女を見失わないこと。

 それさえ守れば何をしてもいいってことは尾行で間違いないよな。

 あの先生も何が安田三郎だ、誰のことかと思ったら漫画の登場人物じゃないか。しかも脇役だし。もっとマシな例えがなかったのかと訊ねてみたくもなるけれど、あの先生には何を言っても無駄だろうな。

 なんて、こんな無駄なことを考えれるのは尾行二日目だからであって、初日はそれはそれは大変の一言だった。いや一言じゃすまない、それこそ四百時詰めの原稿用紙を二十枚書けといわれれば少し苦労しながらやり遂げるくらい、僕は緊張していた。

 

 いつもの登校日より僕の携帯電話のスムースは二時間近く早く鳴り、睡眠時間は強制終了させられる。僕はその鬱陶うっとうしく鳴り響くアラームを停止させ、もう一度毛布に体を包めた。なぜこんなに寝起きの毛布やら布団は気持ちいいのだろう、一生このままでもいいと思ってしまうほどに心地良い、それに途方もない中毒性がある。まるで誰かに催眠術をかけられているようだ、もう一度眠りなさいと……。

 再び携帯電話が鳴る。

 今度はスムースではない、着信音だ。僕は適当に手を伸ばし、ゆっくりと携帯電話を耳に当てた。

 「ぐっどもーにんぐ!そろそろ起きないと遅れちゃうわよ」

 誰かと思えば沖田先生じゃないか、それにしても思いっきり日本語丸出しな英語だな、いくら社会の教師だからといってもその発音はナシだろう。それに朝からそのテンションの高さは社会人としてはどうかと思うけど。

 「こんな朝早くから何のよう?」僕はすぐにでも睡眠という安息に身を包まれたいので、それほどイライラはしていないけれど、言葉に棘を含ませた。

 「何の用じゃないでしょ、お仕事は?」

 あー、と叫び、携帯電話をベッドに放り投げ、適当に髪を水で濡らしすばやくドライヤーで生乾きにさせて制服のズボンはチャックだけ閉めベルトは外したままでシャツをズボンの中に入れず金曜日の時間割の教科書が入ったままのかばんを肩にかけ部屋の鍵もかけず部屋を抜け出した。

 今から七時一九分までに難波か、ちょっと厳しいかもしれない。と思っていたけどいざ難波に着くと予定時刻よりも10分程度早く着いた。

 心臓の音がしっかりとくっきりと感じられる。それは時間に間に合わないから走ってきたので心拍数が上がっている、なんて単純なものじゃない。でもそれは少し考えるより単純なことなのかもしれない。

 僕は緊張しているのだ。

 これから起こるかもしれない出来事に。

 先の見えない未来に

 初めての出来事に

 ただ怖気づいているだけ。

 そりゃそうだろ? あんな念力でダンボール飛ばしたり、トラックを片手で上げるような奴らがいる組織に監視しなければいけない存在。それがどれだけ大きなものなのか僕には想像ができない。

 もしかしたら大阪を仕切るヤクザの娘かもしれないし、中国マフィアに縁のある者かもしれない。そんなことよりももっと危惧するべきことは、その少女がもしかすると

 超能力者かもしれない。

 ただそれだけが僕には気がかりだった。

 尾行していることを気付かれてしまったら銃口を向けられるかも知れないし、そのまま誘拐され海外に売り飛ばされたりするかもしれない。でもそんなことよりもっと僕の心を締め付けるのは、もしかすると

 超能力を使われるかもしれない。

 こんなこと言うと笑われるかもしれないけれど、あのふざけた『ダンボールアタック』なんて技が結構トラウマだったりしてる。そりゃ向こうは遊びの気持ちだったんだろうけど、こっちはそんな感情ではいられなかった。猫がネズミと遊んでるなんて言うと最もな例えだろう。どこかの仲良しなおてんば猫さんと利口なネズミさんじゃない、もちろんナチュラルな方だ。

 軽くじゃれていて噛み付かれたらこの様だ。自分の運命を呪うよ。自分が超能力者であることを呪うしかないそんな心境。

 笑っている膝を見て苦笑いながら、ふと携帯電話に表示されている時計を見ると七時一五分。このまま逃げ出すのもアリかな? と思って振り返ると、目の前に団子が見えた。

 何でこんなところに? 

 ――本当の団子じゃない、髪を結ってるのか。ってことはこの少女が、それにしても小さい。

 頭の上に握りこぶし程に団子を結っても一五〇センチくらいだろう、 そのヘアスタイルでも僕の目線にギリギリ入るくらいだ。言っておくが僕の身長も一六〇半ばなので、あまり他人に小さいなどと口にできない。けれどその僕が小さいと言うのだから本当に小さいのだ。それにその服装は……僕がよく知る制服。京都文芸高の物、それに襟元の白いライン――ということは同じ学年ということか。

 しかし何度見ても小さい、これだと小学生に間違われたって文句は言えないだろう。

 と心で唱えた瞬間、少女の少し釣りあがった目が僕の目を捉えた。慌てて僕は視線を逸らす。まだ尾行を始めてもいないこんなところで、禁止事項に触れかけては笑い事で済まされない。会話をしないなんて簡単なことだと思っていたけど案外難しいのかもしれない。まぁ、僕が余計なことを考えていたからこうなったんだけど。

 これ以上ないほどの人口密度の車内。肌と肌が触れ合うほど近くに尾行相手がいる。なんて度胸のある尾行者なのだろう。いや、僕には度胸なんてこれぽっちもない。

 電車が揺れるたびに触れ合う体。その度に心臓が止まるような感覚に陥り、ゾッとする。恐らく難波駅から新大阪駅という約十五分間で僕の寿命は五年は減っただろう。

 終電の新大阪駅に着き、ドアが開くと同時に人が炭酸飲料の泡のようにあふれ出る。その中からひとり、その流れを無視するように早歩きし、人の泡に埋もれていく。僕はそれを見失わないように、そして不自然ではない速度で歩き、横目で少女を追う。少女は短い足を細かく素早く動かしながら速度を上げていく。僕はできるだけ足を伸ばし、かかとから地に着きつま先を蹴り速度を上げる。

 それにしても何でこんなに急いでるのだろう? ちらほら見かける同じ制服の生徒は急ぐことなく人の波に溶けて歩いているのに、ただのせっかちなのだろうか? それとも付かれている事に気付いて僕をこうとしているのか? でもただ速いだけで僕を惑わすようには歩いてるように見えない、やはりただトロトロ歩くのが嫌いなだけだろう、僕もそうだから気持ちはわかる。などと変な親近感を抱いて気を抜くとまた先ほどのように寿命を縮めながら登校しなくてはならないので、僕は最低限のことだけはする。先ほどのように少女の横に立つことのないように。

 乗り換えの新大阪駅ではさっきみたいな超至近距離から逃れるため、少女が並ぶ列の最後尾に並んぶことに成功し、車内でも手が届く範囲でいることはいたが、僕と少女の間には人の壁と言うものが何重にも重なっているので見つかることはないだろう。

 僕は尾行中のひとときの安らぎを、京都に向かうにつれて広がる畑ののどかな風景を見つめながら過ごした。

 そののどかな風景がコンクリートに包まれ始め、学校が建てれるんじゃないかと思う程広い線路を通りかかると京都駅に到着した。

 少女は京都に着いても忙しなく足を動かし、エスカレーターに乗り右端をすり抜けていく。僕も見失わないように追う。エスカレーターに乗って気づいたけど大阪じゃみんな右寄りに乗っていたのに、京都だと左寄りなんだな。

 駅を出て、通学路になればもう今までの緊張状態を続ける必要もないだろう。周りには同じ制服の生徒もたくさんいるし、もちろん僕も少女と同じ高校の制服をまとっているのだから彼女に着いて歩いたってどこも不自然はないはずだ。ここで通学路からそれた方が変な奴になってしまう。

 緊張の糸が切れると、春から夏に変わり始める風の匂いが感じられすごく清々しかった。気温も湿度もいい具合だし、こうやって無事、銃撃戦や超能力に遭遇することなく登校できた事をうれしく思うよ。今日は雲少ししかない晴空だし。

 そんな感じなので昼食は教室じゃなく中庭に出て食べようかな? と季節の変わり目で上機嫌になっていると、僕の目の前にハンカチが一枚落ちていた。誰か落としたのかもしれないと思い、何の疑念もなくそのハンカチを手に納めると、目の前に頭上団子極小少女が僕を見つめていた。

 目が合うと少女は僕の方へ歩みを寄せ「あら? どうも」と言って、呆然とハンカチを持つ僕の手から華麗にハンカチを奪っていった。

 もしかしてばれたのかもしれない、僕が尾行者であることに。なんて間抜けな事をしてしまったんだ、普通尾行する相手のハンカチを拾うか? 拾わないだろう? 華麗にスルーに決まっている。

 でも気づかれてないよな、顔は見れなかったけどハンカチを返したとき『尾行してるの?』なんて台詞を吐かれなかったもんな。よし大丈夫、気を取り直してあと数百メートル先のゴールを目指すとしよう。

 気持ちを入れ直し前方を見ると少女は一〇〇メートル程先の曲がり角を右折していた。相変わらず歩くのが速い女だ、そう言う女が嫌いだってのに。僕は駆け足で少女を追った。

 

 午前中の授業を終えた昼休み。

 禁止事項をギリギリ守り任務初日を終えた僕は、歩みを中庭へ向けず、あの忌々しい職員室へと向けていた。それも不機嫌に。

 せっかく穏やかな風に包まれながら優雅な昼食を取ろうと思っていたのに。

 3時限目の社会、もちろん担当は沖田薫、の授業が終えると、教壇から沖田先生が「昼休みが終わったら職員室で待ってるからね。楽しみにしてるわ」と色っぽく言うものだから、クラスの奴からは変な目で見られるし、禁断の恋やら何やら盛り上がられる始末。その色っぽい声も許せないけれど、もっと許せないのは『楽しみにしてるわ』だ。は明らかに余計だろ! あの先生の頭には一般常識というものが大きく欠けている。

 その怒りを込め職員室の扉を開くと……。いない? 隅々まで見渡したけれど、やはりいつも花を身にまとっているような女性教師はここにはいない。となると……あそこか。

 僕は早歩きでその場を立ち去り、素早く隣の部屋の扉を開いた。

 「ぐっどいぶにんぐ! 薙くん」 

 「アフタヌーンですよ沖田先生」と僕は溜め息まじりで突っ込む。

 「あっ!じゃあ、あの雑誌ってこんにちわってことなのね」

 もういいから本題に入っていいですか? あなたの天然にはついていけないので。

 「ごめんね。じゃあ気を取り直して、薙くん!」

 っと、またいきなり目の色が変わりやがる。どうやったらこんなスイッチの切り替えができるんだ?

 「どうだったかしら? あの子普通に登校してたかな? 何事もなかった?」

 「はい、なぜ尾行しなあかんのか疑問がわくくらいの普通っぷりでしたよ」

 あの子の変なところと言えば妙に身長が小さいところと歩くのが速いってだけだし、変わったことも特になかったよな? ハンカチを落としたくらいだし。

 「あの女子は何者なんですか? うちの学校と一緒やし。なんかとてつもない裏事情抱えてるんですか?」

 「べーつに。そこまで怪しい子じゃないわよ。薙くんの方が怪しいくらい」

 ってそんな笑顔で言われても、それにそれはどういう意味なんだ?

 「薙くんに危険が及ぶ事はないから安心して。ただ何かあれば報告してほしいだけだから」

 その『何か』を聞きたいんだけど……。ってどうせ訊いても答えてくれないだろうな。

 「あとコノカっちと天照さんのことだけど」

 「へっ!?」

 「あれ? もしかして忘れてたの、この薄情者」とからかいながら僕の肩を持って揺さぶるのは別に良いんですけど、ちょっと揺らし過ぎです、これ以上は脳が揺れますから。

 「正直忘れてました。崎野さんも天照がいるのかどうかも」

 「初任務で緊張してたんだろうね、仕方ないっか。コノカっちはただの風邪さんで天照さんは任務中だからお休みよ」

 崎野さんが風邪を引いてる? こんなところでグダグダやってる場合じゃない、早く寮に行ってお見舞いをしなければ。 

 「じゃ、沖田先生、明日もモーニングコールお願いします!」それだけ言って、背を向けると、「ダメよ」と言う声が背中に響いた。一瞬その声の違いに沖田先生が発したのか疑問を持ったけれど、この教室には二人しかいない。さすがに教師にモーニングコールを頼むのは調子に乗りすぎたかな?

 「コノカっちのところに行っちゃダメよ。風邪が伝染うつって任務に支障が出ると困るからそっとしてあげて。明日には治せるようにがんばるから、もちろん組織がね」と先ほどの声を忘れさせるようなウインクをして微笑んだ。

 まぁ、一日で治るような風邪なら大丈夫か「わかりました、大人しく昼飯でも食べときます」

 「了解!」

 扉を閉め教室に戻る廊下で、ふと校内がいつもとは違い静かなことに少し不安になりながら、初日の任務は無事遂行された。 

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