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超心理的青春  作者: ryouka
24/40

その24 十三人の異端者

 僕と那実は沖田先生に言われるがまま一階と二階に配置された。

 「誰か来ないかちゃんと見張っといてね。こんなところ見られたらみよっぺ大変だから」

 引越しするだけなのに何故そんなリスクを背負うのだろう? 普通に僕と那実が運べば時間はかかるだろうが何の問題も生じないはずだ。

 「だって超能力、見たいじゃない?」……あんたのわがままかよ。

 こんな個人の欲望のために危険を犯して能力を使う三月さんを哀れに思うよ。

 「僕たちが運びますから三月さん。超能力はやめましょうよ」

 「大丈夫ですよ。那実さんがそう思ってるならきっと大丈夫よ」

 「薙です」

 「わかってるわよ」

 ――こいつ、わかってるならわざと間違えるなよ。だんだん突っ込むのも嫌気がさしてきた、こんな奴もう知らない。

 僕は怖いもの見たさというか、何というか、先ほどの光景を思い出すとちょっと胸が高鳴った。

 何故だろう? 目に見て取れる超能力を見たのは初めてだからだろうか? 

 テレビに映る、マジックともつかない超能力ごっことは違う本物を見たからだろうか? 

 世の中にはそういう不思議なものが存在する、と言葉を認識しても、事には認識できないのが大抵の人間、というより一般大衆だろう。どっちかというとそんなもの信じる方がどうかしている。でもそれは僕の目の前で実際で起こった。

 トラックを持ち上げるくらいの筋力を持つ人間も少ないけれど存在するだろう。けれどそんな人間があんなか細い二の腕を所持しているわけがない。少なくても四倍は必要だろう。

 それに彼女は『少女』なのだ。

 しばらくすると、勢いよく僕の部屋の扉が開いた。そこにいるのは間違いなく三月さんで、その両腕には間違いなく僕の部屋の荷物が持たれていた。

 僕は慌てて自分の部屋を確認した。……まさか。

 「もしかして三月さんあの荷物、全部持てたんですか?」

 「何を不思議がってるの? さっき私はあなたの前で軽トラックを浮かせたじゃないですか? そんなことができるのならこれくらいのことは容易ですよ。不思議なのは薙さんです。あなた仮にも羊なんでしょ?」そう言って彼女は、天井ギリギリまで積まれた荷物を持ちながら、器用に階段を下りていった。

 確かにあなたの言ってることは間違いじゃないけれど……。誰でも驚くだろ。

 それあとも三月さんは手際よく荷物を荷台に載せ、僕らの監視も、何事もなく終わった。

 引越し二人分の荷物をたった三分で……。僕はただ息を飲み、頭にその光景を詰め込んだ。そうしないと飛んでしまいそうだから――。

 

 無事に荷物を積むまでの作業を終えた僕らは、歩いている。行きは車で来たのに歩いている。

 「お前がごちゃごちゃした小物ばっかり持ってるからこうなったんやぞ」僕は不満をこらえきれず那実を睨んだ。

 「なんやねん。確かに俺のせいやけど、ええやん歩いて一〇分くらいなんやし」

 助手席には那実の所持するガラクタ共が乗せられることになった。荷台に乗せると飛んでいくのでそこしか場所がないのだ、かといって荷台には三人も乗るスペースはない。だから徒歩。まぁこの季節の正午辺りというのは散歩にはちょうどいい気温だ、走るとなると汗ばむけれど。まぁ、そんなことよりも、

 「詫びろ。僕はともかく三月さんに詫びろ」

 「あら、いいわよ私なら。ちょうどよかったんだから」三月さんは足を前に踏み出し僕らよりも先に歩き出した。

 「何がちょうどよかったんですか?」僕が三月さん訊くと、少し目を俯かせて、結局「なんでもないわ」と言って歩みを速めた。

 「そうや薙。美代大先生はこの組織をかなり詳しく知ってるで。なんか訊きたいことあったら聞けば?」

 ってなんでお前はそんな偉そうなんだ? お前の知識じゃないだろうが。

 「いいのよ、そこが那実さんのいいところなんだから」

 ――どこがいいのか全く理解できないけれど、当の本人が許可してくれたのだからまぁいいのか。僕はあごに手を当て、胸の引っかかりを探した……。ここ、一ヵ月と半分で疑問に思った組織のこと……。

 ――多すぎてわからん。これが新入社員が口にする聞きたいこともわからないです、ってことか。しかし、それじゃ折角の機会がもったいない、もう少し考えてみよう。

 そのまま何の会話も交わされることなく二〇〇メートルほど歩き、やっと一つの質問が浮かんだ。

 「この組織には確か三年生が三人、二年生が六人、それと僕ら含め一年生が四人いるんですよね」

 「そうよ」三月さんは僕の目をじっと見つめ「それがどうしたの?」

 「あの、もしよければその人たちの能力とか教えてくれません? ちょっと気になるので」

 「うーん……。そうね」と言いながら目を瞑りながら右手で首を添えた。しばらく考えた後、

 「いいわ、あなた達二人が特別寮に移るって事は、身の回りの調査を終えて問題ないってことだから」

 なんか色々突っ込みたいところがあるけれど、変にそうしてしまうと貴重で異常な話を聞けなくなるので、落ち着くため、僕は心の中で三回ほど同じ突込みをした。

 「折角だし、フルネームもつけて教えてあげましょう」

 「そうですか? ありがとうございます」

 確か総勢十三名だよな? 時間的にちょうど学校に着くくらいかな。

 「まず三年生。彼らは超非三猿と呼ばれているの」

 「三猿って、見ざる聞かざるとかいうあの?」

 「そうです。上筒乃雄うわつつのおさんは約百キロ先の遠くの物まで見えるらしいです」

 「はぁ」余りに非現実過ぎて僕は声にならない声でうなずいてしまった。ていうかあの人そんな能力を持っていたのか。

 「中津夏乎なかつなつかさんはどんな声でも出せるの。大きい声も超音波もそして声質も変えれるわ。大底都斗おおそこみやとさんは犬並の聴覚。簡単に言うと人の四倍の聴力があるわ」

 なるほど、だから超非三猿か。確かに彼らは見えるし聞けるし言える――異常なまでに。けれどその例えはちょっとかわいそうな気もするけれど……。と新しい呼び名を考えてるうちに三月さんは話を進める。

 「二年生はあたしを含め六人いるわ。どんな衝撃も吸収する大名鳴弥おおなめいやくん、透視ができる稲生橙芽いのうとうめさん」

 透視!? リアルにそんな人いたのか! 

 「ちなみにいのうさんって方は……」

 「女やで。何を期待してんねんアホわ」

 那実に言われると余計腹が立つ。期待してたさ、何が悪い。っていうかお前も期待していたのだからそういうこと言えるんだろ!

 三月さんは僕らの言い合いを、ため息をつくことで収め、残りの超能力者の名前と能力を告げた。

 「神尾尚かみおなおさんは全く寝ない能力を持ってるわ」

 それは不眠症とかじゃないのだろうか?

 「そして灘梓玖なだあずく、彼女は言葉では表しにくいけれど絶対的な直感を持っているわ」

 「何だか僕のと似てません? その能力」

 「あなたは自分の能力にまだ気付いてないようね。今説明してもいいけれど、自分で実感したほうがいいから説明しないけれど、いいかな?」

 「そのほうがいいなら」

 本当は知りたいって気持ちが強いけれど、それよりも怖さのほうが強い。まだ僕は認めたくないのだ、異端者だってことを。

 「じゃ、続けるわね。竹須佐速雄たけすさはやお、彼は一般的に言うサイコキネシスの使い手」

 そんな言葉ゲーム以外で始めて聞いたよ、なんか便利そうでいいな、その能力。

 「そして私は筋力のリミッターを外せる能力を持ってるわ」

 「筋力のリミッター?」

 「そうです。通常の生活では必要のない力を脳が制御しているのですが、私はその制御を意のままに操ることができるのです」

 「でもそれって骨や筋肉に支障はないんですか? あるから制御してるんでしょ?」

 三月さんは軽く鼻で笑うと「人間と言うものは不思議なもので、繰り返すことで慣れていくのですよ」

 「そんなものなんですか?」

 「そんなものなのですよ」と微笑と話を続けた。

 「一年生のお名前はご存知なんですよね?」

 「えぇ」

 「ちなみに誰の能力はご存知で?」

 うーん、と考えなくてもわかっていたけれど、その場の流れでそういう素振りをしてしまった。

 「崎野さんは感情を読み取る能力。で、天照は蘇生ですよね?」

 僕がそう言うと、いきなり那実が吹きだした。今のところで笑う場面なんてなかっただろう? 笑うならもっと別なところだろう、全く寝ない能力とかの方が面白いだろ。

 「蘇生って…。そんなアホな能力あるかい」今までの能力も十分馬鹿らしいぞ。

 よく見ると三月さんまで口に手を当てて笑っている。

 ――すごく腹が立つ。こっちは真剣に言ってるのに。

 

 やっと笑い終えた三月さんはその理由を説明してくれた。

 「神様じゃないんだから。蘇生までいかないわ。でも治癒能力は持ってるわ」

 「でも僕、車に轢かれた猫を天照が生き返らせているところを見ました」

 「じゃ、その猫さんは死んでなかったってことよ」

 まぁ、そうだろうな。それしか答えは見つからない、それに死んだものを生き返らせれるなんて馬鹿なことだよな。僕がどうかしてた。

 淡い期待ってやつか。

 「にしても、薙さんは面白いです」

 だから、もうからかうのはやめてください。と言おうと思ったけれど、そんなうれしそうに見つめられると文句を言う気も失せてしまう。これだから女ってのは……。

 「どこ行くねん、薙」

 その声に僕は気を取り戻した。あれ、もう学校着いたのか?

 「明後日の方向見てボーっとしてんちゃうで」正門を通り過ぎた僕に那実はため息交じりで言った。

 そうか、まだそんなこと考えていたのか僕は。

 僕は頭をかきながら、申し訳そうなフリをして校舎へ向かう二人を追いかけた。

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