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超心理的青春  作者: ryouka
23/40

その23 その姿勢

2月24日に大幅修正しました。

お手数ですがその日以前に読まれた方はもう一度読んでいただけるとうれしいです。

すみません。

 一体どういうことだ? 不可解極まりない沖田先生の発言に僕は戸惑った。

 僕と那実は学校の寮で生活をしていて、そのことに対して何の不満もないし、満足しているくらいだ。寮母さんのご飯はおいしいし弁当も作ってくれる、それに寮にはクラスメイトしか住んでいないから気も楽だし、楽しいし。理由によっては沖田先生のお言葉を却下させていただこう。

 崎野さんに至っては、引っ越すことで学校から遠くなるだろう。崎野さんの家は学校から約五分、それよりも近い寮を僕は知らない。

 那実も不安そうな顔をしているだろうと思い、顔色を伺ってみると、さぞ納得したような、決め事を当然のごとく果たすような表情をしていた。また僕だけ除者か? 

 このまま僕だけ知らないのも癪なので、

 「どこに引っ越すんですか?」と当たり前の質問を沖田先生にした。

 「薙くんも一度は聞いたことあるでしょ? ていうか、説明会の日に聞いたかな? 特別寮のこと」とさも常識のように言った。

 はて、『特別寮』? 一体何のことやら。聞いたことあるようなないような、というより説明会はほとんど寝ていて話を聞いてなかったからなぁ。

 でもそれは那実も同じことだろう、あいつも眠っていたのだから。それなのになんで知っているんだ?

 「話の要所を見極めて寝るのが本物や」と那実は大して自慢にならないことを誇らしげに言った。何に対しての本物かどうか少し気になるところだけど、構わないでおこう、こいつのためだ。

 それにしても本当に僕だけ知らないみたいだ。知らないと恥ずかしいような空気がしたので僕は知ったかぶりをすることにした。

 「さわり程度には知ってるけど、詳しく教えてくれたらうれしいです」と言うと、沖田先生は教師らしからぬ「えー、面倒くさいわ」と問題発言をした。この人がこの言葉を口にすると、話してもらえる確立はほとんど皆無だ。諦めるか。

 「理由なんてなくてもやらなきゃダメなものはダメなの。さぁ早く引越ししましょう!」そう言って沖田先生は僕らを教室から追い出し、鍵を閉め一目散に駆け出していった。どこに行くんだ? 口に出さず心で突っ込みを入れた瞬間、心を読んだかのように「裏門で待っててね」とやまびこの様に廊下に響いた。ああいう天然タイプの人間は静かに日常を過ごして欲しいものだ、忙しないとなると他人にまで迷惑がかかってしまう。まぁそこを憎めないのが天然の利点なのかもしれないけれど。

 「お前に似てるな」

 「何が?」

 「沖田先生のああいうところ」那実はうれしそうに、ひひっと、悪戯に小さく笑った。

 僕と沖田先生のどこが似ているんだ? ああいうところっていうとこの話の流れからくると、僕が天然で人に迷惑をかけてるってことか?

 んなアホな。

 「――マイナス十点。突っ込みが遅い」

 そんなことはお前に言われなくてもわかっている。それにさっきのは突っ込みの部類に入れてもらっては困る。ってそんなことよりもっと話すことがあるだろう、この馬鹿。

 「引越しって何やねん? それに特別寮もようわかってないんやけど」

 「やっぱりさっきの『さわり程度』っていうのは嘘やったんやな。説明会のときグッスリ寝息立ててたもんな」

 「わかってるんやったらはよ教えろよ、いちいち回りくどい」

 「お前こそいちいちしょうもないことで見え張って。知らんかったら知らんって言ったらいいのに」

 「うっさ――」

 いや、このままこいつのペースにつられると話が先に進まない。悔しいけど折れるか、元はといえば僕が聞いていなかったのが悪いんだし。

 「わかったわかった。すみませんが教えてください」

 「まぁ全部話すのは面倒やから、大まかなことを言うと――」

 「言うと?」

 「認められたってことや。組織から晴れて仲間として、そんで超能力者としてな」

 「というと、今まで認められてなかったってこと?」

 「簡単に言うと、そやな。何年か前に裏切り者が出て、組織がかなり弱体化したらしい。そっからこの特別寮制度、それに超能力者の情報が秘密とされることになったらしいで」

 なるほど。だから先生や超能力者本人は、会うまで能力を隠していたのか。ババ抜きのときに手持ちのカードをさらけ出すと勝てるものも勝てないしな。

 特別寮については? と那実に訊こうと思ったけれど、その声は携帯の着信音に消された。

 「はい、那実やで。あー、ごめんごめん。すぐ行くからおいて行かんといてなぁ」と手短に通話を終え、「沖田先生がはよ来いってお怒りや、はよせな置いてくぞ、やって」そう言って那実は廊下を駆け抜けていった。

 やれやれ、どうも僕の周りには忙しない奴が多いようだ。

 仕方なく僕も那実の背中を追った。確か裏門って言ってたよな? と言うことは職員専用の駐車場か。僕は考えることをやめて走ることに集中した。と、いっても大して速度は速くならないけれど。

 

 少し息を切らしながら駐車場にたどり着くと、思ってもいない光景を目にした。

 一台の車が門をくぐろうとしていた。僕はまさかそんなわけはないだろうと思って運転席を確認すると……くっそ、あの天真爛漫女め。那実の奴ももうすぐ来るからって引き止めてくれればいいものを――ってやっても無駄だろうな。あの人の場合は。

 傍若無人が良く似合う。人としてはどうかと思うけれど。

 僕はそんなことを考えながら、ゆるいスピードで発進したばかりの軽トラックのドアを開け、飛び乗った。

 溜め息なんてついていたせいで危うく置いていかれそうになった。恐るべし沖田薫。

 「ってお前どこ座ってるねん」

 「考えなくてもわかるやろお前の上や」

 この車は引越しをするためか、軽トラックなので、言わなくてもわかるように座席は二つしかない。

 運転席の沖田先生の上に座るのもそれはそれは魅力的なことではあるだろうが、命にかかわる。ということでお前の上に飛び乗ったわけだ。

 「そんなこと言わんでもわかってるわ! 後ろにスペースがいっぱい余ってるやんけ」

 そう言って那実は親指を立て後ろを示す。

 「アホなのかお前は。警察に捕まるやんか」

 「あら? あたしのことなら別にいいのよ」沖田先生はポケットから学生証のようなものを取り出し「これがあればちょっとした法律違反は何てことないのよ」と言ってそれをしまった。

 そんな行政の権力を握るような、怪しいものを使うのは、少しながら恐怖を覚えるので僕は先生に突っ込むことなく無言で那実を椅子にした。どうやらさっきの先生の言葉を聞いて那実も納得したようだ。

 車内にはラジオなどは設置されていないので、エンジン音と横切る風の音が流れていた。いつもは無駄に口ばかり動かす二人も、何故か話す気配を感じないので、僕は感じていた疑問を口に出すことにした。

 「沖田先生」

 「なぁに、薙くん」先生は運転中にもかかわらずこちらに顔を向けた。すかさず「いや僕のほうを見なくていいですから、前見て」僕が慌てることなく落ち着いて言うと「ごめんね、癖なんだよ」といって頭をかきながら正面に向きなおした。

 沖田先生のことだからなんとなく、話しかけるとこちらを向く気はしていたけれど、癖? 一体何の癖なんだ? っていちいちこの人の言動に頭を働かしていたらシナプスが足りなくなる。僕は沖田先生の言葉を記憶の奥の奥の奥にしまい、気を取り直して、

 「組織の裏切りっていつあったんですか」

 「えっ!?」

 またこっちを向く……。今に事故するぞ。

 ――ガタン。と、鈍い金属音を鳴らし、車は左斜めに停車した。

 「何してるんですか先生」僕は呆れた感情を押し出した。

 「タイヤ落っことしちゃった」

 そんなことは言わなくてもわかってるよ。僕は何でこんな一本道でタイヤを落っことすようなドジをしているのですかと? 聞いてるんだよ。と言っても仕方ないので僕は車から降り、車を持ち上げることにした。――がそこであることに気付いた。

 「左側のタイヤ、全部落ちてるやん」前輪か後輪だけなら持ち上げてアクセルを踏めばどうにかなっただろうけど、さすがに左の前輪後輪が制御不能だとコースインできないだろうな。

 「どうするんですか」

 「大丈夫よ、安心して」そう言うと、沖田先生はかばんから携帯を取り出した。恐らく保険会社か自動車連盟にロードサービスでも頼むのだろう。もし僕がこんなまっすぐの道で脱輪なんてしたら人を呼べる度胸はないな。かといって乗り捨てる度胸もないけど。

 「ごめん、ちょっと助けてくれないかな? えっ!? 場所? 裏門からスパーっとまっすぐ行って五分くらいのところ」

 そんな適当な説明でわかるほど日本のロードサービスは発達しているのか? でもこの人は常連さんっぽいから向こうもリストに載せている可能性もあるか。

 沖田先生は、あと十分もあれば来てくれるって、そう言いながらステップを踏み運転席に戻った。少しも自分のミスと実感していないな、この様子だと。僕は再び那実と肌を合わせることはせず、壁にもたれながら外の風を感じていた。

 こうして春の生暖かい風が肌を抜けるととても幸せな気分がする。夏のように不快な湿気を背負わず、冬のように肌を刺すわけでもない。かといって秋だと少し風は冷たい。冷風じゃない温風の春風が一番体に優しい。

 春の穏やかな午前半ばに感謝しつつロードサービスを待ちながら景色を眺めていると、遠くの方で人影が見えた。そりゃ、ランニングくらいする人もいるだろうと思い気に留めないようにしようと思ったけれど、ついその服装に目がいってしまった。

 「制服?」

 約二〇〇メートル向こう先に見えるのはわが高校の制服……、しかもセーラー服。

 沖田先生はバックミラーでその姿を捉えたのか、車から出て大きく手を振り、こっちだよ、と近所迷惑な声量でセーラー服を呼びかけた。言わなくても世の中でストレートの道に脱輪する人はあんたしかいないよ。

 彼女はどんどんと距離を縮め、すぐ顔を捉えれるほど近付いた。まぁ確認しなくても誰だか大体見当はついてるけどね。

 確か今朝会った――。

 「みよっぺ! ありがとう。よくぞ駆けつけてくれました」

 「いえいえ、こちらこそ少々時間がかかってしまい申し訳ありません」彼女は深々とお辞儀をした。何だか立場が逆なような気がするが、しかしこんなか細い、しかも少女がこの問題を解決できるように思えないけれど。

 「先生、この人でどう脱輪を解決出来るんですか?」 

 「決まってるじゃない、ねぇみよっぺ」

 「えぇ、決まってますね」と微笑を浮かべながら「これは先程ぶりですね、那実さん」

 「からかってます?」

 「その通りですよ」そう言って彼女はさらに微笑を続けた。

 沖田先生は「早速だけど」と三月さんに拝み、彼女も「御安い御用です」と制服の袖をまくった。何が御安い御用なのか、そのことを思い知るまでに五秒もかからなかった。

 三月さんは軽トラックに近づき、まるで鉛筆を拾うように軽い手つきで、片手で持ち上げた。

 何を?

 軽トラック以外ないだろう。

 僕は自分に言い聞かせるが、いざ目の前に超現象を目にすると疑いたくもなる。そりゃ誰も超能力を信じないわけだ。御船さんを疑った学者達の気持ちもよくわかる……猛烈に。 

 気がつくと僕は、自分の引越す理由を三月さんに聞きながら引越し作業をするという不可解なことをしながら、段ボール箱に衣類積めていた。

 車内(正確に言うと荷台)で聞いた話だと、どうやら引っ越す理由は、僕が超能力に目覚め、この組織に入ったから(本人の了承なしに)、身の安全を確保するためらしく、そして。

 「その引っ越しを正当化するために、特別寮っていう制度ができたのよ。一般の生徒には特別寮とは、すごく学力の高い生徒、もしくは先生に特別な才能を認められた生徒に限る、ということになっているの」と常識はずれにも程があることを話すには最も似合わない、『淡々』という喋り方をした。

 「特別寮の場所は知ってるでしょう?」

 「いいえ? 全く」と答えると三月さんはあからさまに常識知らずな人を見る目で見て、「文芸高の敷地内にあるわ」

 ――そりゃ呆れるわけだ。

 ところで那実と沖田先生はというと、僕らと同じく隣の那実の部屋で引っ越しの準備をしている。

 那実も引っ越すと知っているなら、準備していればよかったのに、そしてそれを僕に教えてくれればよかったのに。

 「急遽決まったことらしいわ。私もいきなりな呼び出しだったんだから」と少しふくれてみせた。

 そんな無表情でふくれられてもおどけているようにしかおもえない。

 それから四五分後、僕の梱包作業は終了した。この部屋に来てまだ一ヶ月程しか経っていないので、荷物も思ったより少なく、早い時間で終わった。まだ隣の部屋から物音がするから、那実の部屋は終わってないのだろう。

 隣の部屋も手伝わないといけないんだろうけれど、久々に引っ越し準備をしたので少し疲れた。ちょっと休憩ついでに三月さんと会話することにしよう、準備優先でほとんど話さなかったからな。

 「今日は手伝ってくれてありがとうございます」

 「あら? 私はまだ何もしていないわよ?」いやいや、脱輪を直してくれただけで大仕事ですよ。

 「まだ運ばないといけないですよね? この段ボール達を」僕はそれらを見つめ溜め息を吐いた。

 「そう憂鬱にならないで、私がいれば薙さんたちは軽いものを持っていただければ大丈夫なので」

 「どういうことですか? 沖田先生のトラックまで三月さんが運んでくれるんですか?」

 ここへは沖田先生が軽トラックを運転して来たので、新しい寮まで運ぶ手間はさすがに省かれるけど(というかそんな手間があったなら引っ越しは中止だ)、ここは3階で、しかも寮にはエレベーターが設置されていないから、机やら物置などを持ちながら三月先輩はトラックまでの距離、約一〇〇mほど移動しなければならないことになる。けれど彼女なら容易だろうな。

 「そろそろ休憩を終わりにしましょ、次は隣の部屋の手伝いをしなければいけないわね」

 「そうですね」

 「じゃ、私も箱詰め手伝いますね」

 「お願いします」

 僕は三月さんと那実の部屋の手伝いをするために、隣の部屋に移った。

 ざ−っと、那実の部屋を見渡たすと、どうやらまだ作業は半分も進んでいないようだ。そのくせ二人とも中学の卒業アルバムを見て雑談してるではないか。本当にこいつらはなんてマイペースなんだ。

 「僕の部屋は終わったで、そんなもん見らんではよ作業進めれよ」

 不機嫌な僕とは裏腹に、二人は実にご機嫌のようだ。余計イライラする、そんなに卒業アルバムが面白いか?

 「すっごい泣いちゃって、可愛いところもあるのね薙くん」

 ためらうこともなく、「こら、返せ」と言う前に僕はアルバムを引ったくった。

 そのアルバムの五ページ目には、卒業式で泣きじゃくる僕の顔が携帯電話くらいの大きさで写っている。僕の人生で消しておきたい物の一つだ。

 「返せって、これは俺のんやぞ」

 「だまれ、弟の恥を兄がさらすな!」

 「ふふ、恥ずかしいことじゃないわよ、逆に良いことよ、卒業式で泣けるなんて」

 「うるさい、泣き顔を見られたい奴なんてお涙頂戴なTVに出てるタレントか俳優だけじゃ」

 本当に見かけによらず性悪だ。というか綺麗なものには毒があると言うのだから、見かけによるのかもしれない。天照なんて言わずもがな性悪の固まりだしな、ということは崎野さんも性格が悪いと言うことになるのか? いや、彼女は例外だろう、世の中何事にも例外はある。

 なんて、都合のいい解釈をしながら、僕は那実の引っ越し準備を進めた。

 しかしこいつの部屋は物が多い、何たってこんな物が増えるんだ? 一ヶ月やそこらの量ではない、僕だと半年過ごさないとこれほどまで増えないぞ。ボーリングのスコアやらレシートやら学校で配られたどうでも良い内容の学級だより。こんなもの僕なら即ゴミ箱行きだ。

 「物より思い出なんて言うけれど、あれは嘘や。物あっての思い出。人の記憶なんてしょうもないもんやからな」

 というポリシーを持つ那実なら仕方のないことか。

 それから四五分かけてやっと梱包作業は終了した。

 これからまだ荷物をトラックに乗せて、それから……。もう考えたくもない。

 いくらなんでも三月さんが全て荷物を荷台に載せてくれるとは限らないし。

 疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた。

 「薙くん、うるさい。言ったところで疲れはとれないでしょ!」

 なんてまともなことを言うんだ、沖田先生らしくもない。

 「ここからは楽なはずよ、特別に美代っぺがまた能力発揮してくれるから、ね、美代っぺ」

 「はい、発揮しますよ」と輝いた目を沖田先生に向け、前髪を掻き上げた。

 どうやら超能力を身につけてしまうと人は変な方向に向かうらしい。

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