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超心理的青春  作者: ryouka
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その2 日常と非日常を分ける土曜日

 そして土曜日になった。

 僕の心理状態というと、初めは不安だったけどやはり根は楽天的なのだろう。すぐに良い方向へ心を転換させていた。おめでたい深層心理だこと。


 太陽が空の天辺で止まったような午後についに訪れた。「ピンポーン」というふざけたチャイム音と共に。

 お母さんは丁寧にドアを開け、深くお辞儀をしリビングへ案内した。京都文芸高の先生と思われる、その女性は長身でスラッとしたモデル体系で、黒いストライプのスーツがよく似合う、教師にしておくにはもったいないほど綺麗な人だ。後ろに束ねた髪型がまた似合っている。

 僕たち兄弟は話を聞こうと思い、一緒にリビングへ向かったが、その綺麗な先生に、「先にお母さんと話をするので、君たちは部屋に戻ってくれるとうれしいな」

 とまるで幼児を扱うかのような口調で、(今思うと腹立つけど)そのときはこれ以上に丁寧な言葉で、それでいて優しい発音はあるのだろうか、と感じてしまい考えることもなく、僕らは部屋へ戻って行った。


 それから20分が過ぎ、ようやくお母さんがリビングの扉を開ける音がかすかに聞こえた。

 「お母さん買い物行ってくるから、その間に先生の話を聞いときなさい」

 そう言うと、まるで鼻歌が聞こえてきそうな歩調で買い物へ出かけていった。どれほどの好条件だったのだろう? 余計に不安がよぎる。

 そして、待ってましたと言わんばかりに那実が口を開いた。

 「いきなりやけど、何で俺らをそんな進学校が、推薦までして欲しがるのか理由を知りたいな」やっぱり気になってたんだ。

 「推薦する理由?」

 初めて聞いた優しい声質とは違った。

 何が変わったといわれても良いにくいけど、声に深みが増したといえばいいのだろうか。

 「もちろん、嘘はナシや。まぁ時と場合によるけど、今は真実を語るときや」威勢良く、胸を張ってそう言った。まるで演劇会のバカな王様役のように。

 「では、話すとしますか」

 深く息を吸い、吐いた後、ドラマのワンシーンのようなマシンガントークが続いた。

 「この間、学校でIQ測定をしたわよね。学校からの通知では那実さんは110で薙さんは103で したよね。しかし本当のところ、2人共IQが170を超える天才なワケ」

 どういうこと? 僕らは凡人じゃなくて、天才だったってこと?

 「あなた達に受験してもらおうと思う『特別能力開発学科』では、そういう、『超』の付く天才を集めているの。実際はIQ170以上の人間なんてほんの一握りだからね。あたし達の学校は、国からの指示を受けて『特別能力開発学科』を作成したの。基本的にどんなことをするかというと」

 ここまで来てやっと説明に入るのか、よく喋る女だ。

 「簡単にいうと『アイデアマン』を作る学校ね」

 やっと、合いの手を入れる間を与えてくれた。

 「アイデアマン?」

 15歳にもなって「いないいないばぁ」されたような顔をして那実はそう言った。

 「いつだってそう、歴史は一人の天才によって動かされてきたわ。簡単にいえば天才的なアイデアや発明が必要だったの。そういうのは結局みんなの力ではなくて一人の力でしょ? それを鍛える学科なの」

 確かにそう言われると、その通りだ。もしエジソンがいなければ、ここまで便利な生活は出来ただろうか? 坂本龍馬がいなければ、今の日本はなかったかもしれない。

 「現在の日本では、偉人と呼べる人間はほぼ皆無で、本当にバカな人間が増えてきてしまったわ。そこで国が危機感を覚えて、我が校にその学科を作ることにしたの」

 那実が戸惑いを含んだ表情で、「なんでIQが高いことを隠したんですか? 別に本当のことを教えてくれればよかったじゃないですか」

 確かにその通りだ、なぜ嘘の結果発表をしたのだろう。

 「IQ150なんて、実際にいれば凄い問題になるの、週刊誌に載ったりTVに映ったりするかもね。そういう危険性を考えて、あえて嘘を表記したのよ」そんなに高い知能指数を僕達は持っているのかな?

 でもそれほど希少価値な人間が1クラス作れるほどいるのだろうか?

 「今のところ、この封筒を送ったのは17人よ。ちなみに毎年約20人ほど入学者はいるわね。今年は少し不足みたい。」

 そっか中学校みたいに何人以上いないとだめとかじゃないのか、義務教育じゃないもんね。

と頭の足りないことを考えていると、那実が入学を決めたような顔で質問した。

 「寮とかあるの? 学費とかも免除なんかな? ほら推薦やろ」えらく現実的な質問だな…。

 けれど、確かに一番重要なところだ。僕らの住む町から京都文芸高は電車で約2時間程かかるし、通学には不便だ。

 すると、待ってましたといわんばかりのセールストークにも似た口調で話し始めた。

 「もちろん学費も免除よ、ちなみにこの学科は全寮制だからね。お金の心配は無用! 国民の血税から頂いてるから、君達がお金の心配をするのはお小遣いだけよ」

 そりゃお母さんも浮かれるわけだ。2人同時の入学は経済的にかなり負担だし、うるさい息子2人が出て行くし、最高じゃないか。おまけに超一流進学校。おまけとしてはでかすぎるけどね。

 まぁ、ただひとつ気になるのが税金にお世話になるってコトくらいか。

 一通り話を終えると母が帰ってきた。

 「じゃあ、私はこれで失礼します。あなた達が我が校の門をくぐるのを望んでいるわ。それじゃあまたね」

 「またね」の言い方がまた幼児のように扱われている感じがしたが、なぜか心が和らいだ。

 玄関で母とすれ違い様、少し会話をして「おじゃましました」と深くお辞儀をして京都文芸高の先生と思われる女性は帰っていった。

 そういえば、名前とか聞いてなかったなぁ。

 と思うと机の上に上品な名刺が置いてあった。どうやら和紙で作られているようだ。

 「京都文化芸能大学付属高校 特別能力開発科教師 沖田馨おきたかおる

 その沖田先生が帰るとき、すれ違いに何を話したのか気になって、お母さんに聞くと、「せっかくだから、晩御飯を食べて帰りなさいっていったのよ。まだ仕事があるので、って断られちゃった」

 そりゃ断るだろ。初対面でしかも仕事先で、飯をご馳走になれるわけがない。そうお母さんに文句を言いながらも、僕の脳内は京都文芸高でいっぱいだった。

「日常と非日常を分ける土曜日」を読んでいただきうれしいです。


見切りをつけないでその3も読んでいただけるコトを願います。


沖田先生はいかがでしたか?


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