その14 滅亡と唐突
衝撃的な出来事の帰り道。僕はまだ錯乱状態ということを知ってか、那実は話しかけてくる。頭痛もする、頼むから少し黙っててくれないかな。
「お前は薫ちゃんが本当に超能力あると思うか」僕の顔を見ず、どこか遠い目をして那美は言った。
「あるっていってたじゃないか。超現象を自分の身に起こりやすくする能力やろ」沖田先生はそう言った。嘘をついてるようにも見えなかったし、間違いはないはずだ。それにそれが嘘とわかる根拠なんてどこにもないはずだ。嘘発見器的能力が、もしあるなら人間不信になって、今頃、僕は火に焼かれて小さい箱の中だよ。
「嘘なんや、薫ちゃんの言ってることは」だから、「根拠なんてどこにもないやろ」
「お前はわからんのか?」本当に深刻そうな顔をして那実は言った。
「薫ちゃんには超能力者特有のオーラが感じられへん」またわけのわからないことを。そういう霊的な話しばかりしてると頭が可笑しくなってくるぞ。ってもうおかしいか。
「お前はまだ能力に目覚めたばかりで気付かんだけやけど、いつかは気付けるはずや『こいつはなんか違う』っていう雰囲気に」
それは、動物にある危機察知能力に似ているものなのかもしれないと那実は言った。
「なんで沖田先生はそんな嘘をついたん?」そうだよ、すぐにばれる嘘を。そんなことを言って超能力者になれるわけではないし、信頼を得れるわけでもないし、逆に不信に思ってしまうだろう。本当によくわからない人だ。
「俺にもあの人の真意はわからへんよ。でもお前も超能力が身についてよかったよ本当に」屈託のない笑顔で僕を見る那実。わからないことがあるとすぐ話を帰るのはこいつのクセだ。
それにしてもどうしたんだこいつ? 放課後の時は「なんでここにおるんや」って迫ってきたくらいなのに、今じゃその笑顔かよ、お前もやっぱり変な奴だよ。
「夕方はあんなけ拒否しといて今じゃ大喜びか。ホンマにコロコロ変わる奴やな」
「それは組織の集合場所におったから言っただけや。超能力が身につくのは大賛成やで」そういって那実は落ちていた空き缶を蹴った。空き缶はクルクル回って車道に出て行く。
「超能力が身につくのが何でそんなにいいこと何?」僕がそう言った瞬間、那実が蹴った空き缶が車の車輪に見事衝突して、ぺしゃんこにならずにこちらに跳ね返ってきた。
僕は何も出来ず、ただその缶を眺め「あの缶、アルミじゃなくてスチールだな」くらいしか考えられなかった。あまりにも唐突過ぎて。しかし那実は驚くほどの反射神経と冷静さで、時速80キロはある空き缶を華麗にカバンで弾いた。曲芸すぎる。僕はただ呆然とするしかなかった、あわや顔面流血になりかねないその出来事を、花を摘むように簡単に防いでしまったことに。ただ、ただ、驚愕のひとことだった。
これがお前の能力なのか那実。
「と、まぁ訓練すればこういうこともできるようになるねん、あともうひとつは・・・」呆然としている僕をそっちのけで話しを続ける。「地球がもうすぐ死ぬんやってさ」
何と大それたことを日常会話みたいに言うんだ? またいつもの冗談だろ。
「冗談ちゃうよ、ホンマのことや。あと約10年後かな? これは裏社会では常識らしいで」
「ってことは、僕らの寿命もそこまでってことか」
あまり信用しない方がいい、こいつは恐らく夢で見た出来事と現実の出来事を区別できない人間なんだから。軽く聞き流す程度に・・・しておきたいけど、『裏社会』てのが気になる。
「誰からそんなわけのわからんこと聞いたねん」
「薫ちゃんや」
また沖田先生かよ。一体あの人は何者なんだ。
「組織の幹部で俺たちの指揮官的存在やで」
「だからあの人は僕が超能力者になったことを喜んだのか、コマは1つでも多い方がいいもんな」その一言がいけなかったのか、那実は僕をにらみ付けた。何を怒ってるんだこの野郎。
「薫ちゃんはそんな人やない、お前の人の見る目のなさには驚きやわ」
それはご苦労なことだ。勝手に驚いてくれ、世の中にはもっと驚くことがあるだろ? スイカが野菜っていう方がまだ驚けるよ。
「まぁ薫ちゃんのいい人具合はこれからわかるやろうな、いくら人間不信のバカヤロウでも」僕のこと言ってのかこいつ?
「そんなことより、お前が超能力者であることに喜んだ最大の理由それは・・・」那実は不敵な笑みで僕の顔を見る、そんなに僕の驚く表情を拝みたいのかこいつは。仕方ないか、今日は色々面倒かけたから、誠心誠意を込めて演技してやるよ。感謝の意を込めて。
「超能力を持つ人だけが、宇宙に脱出できるんや」
僕は驚くフリが出来なかった。あまりにも意味がわからなく唐突すぎて。もうなんだか唐突なことばっかりだな今日は。恐らく僕が無表情だったからだろう、もう1度那実が言う。
「だから、超能力を持つ人だけが爆発する地球から逃れられるんや」
いい加減慣れたいものだ、こういうとんでも発言には。けど何度聴いても慣れる兆しが見えやしない、ここから富士山を見ようとするくらいに慣れることは無謀かもしれない。そんな気がする。
僕は息を整え、やっと一言口にする。「なんで超能力を持つ人だけなん?」
「全国民を乗せれるようなロケットなんか作れるわけないやろ。だから特別な能力がある俺たちに行く資格があるらしいで」
なんだか納得いかないけど、そういうことなんだろうきっと。というか納得なんてしたくないけどな、こんなことに。
「まぁ詳しいことは明日、薫ちゃんに聞きや」
「明日会いに行くんか?」
「そうや、朝から行くで、だから今日は深夜番組なんか見てたらあかんで、遅刻したら怒られるからな」
それはそうだな、人を待たすのは最低なことだし、けど沖田先生が遅れてくる可能性はかなり高いよな。まぁいいか。ていうか、朝からなのか。先生の都合もあるんだろうけど、休日くらい午前中は布団の中にいたいよ。
「何をだれたこと言うてんねん、高校生がそんなこと言うたらあかんやろ」
誰がそんなこと決めたんだよ、そんなことを言う高校生の方が圧倒的多数だと思うけど、まぁこれ以上反論しないでおこう、頭も痛いし、それに何だかんだ言ってこいつはこいつなりに僕のこと気にかけてくれてるんだな。
満月が照らす帰り道、その不気味な輝きを忘れて僕の心はただ高鳴っていた、これから出くわすであろう、非日常な日々に、漫画やドラマや小説の出来事のような世界が本当にあるんだということに、ただ、心が満たされていた。崎野さんのことを忘れるほどに。
これにて第二章が終わりです。
読んでくれて本当にありがとうです。