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超心理的青春  作者: ryouka
12/40

その12 IQとトラウマ

 天照はその長い足を器用に使い、訓練されたみたいにキレイなフォームで、競歩並みのスピードで歩いていく。そんなに早く歩いて疲れないのか? 僕も歩くスピードについては定評があるので(自分で言うのもなんだけど)天照に追いつくためにフルスピードで足を動かすことにした。

 僕は男のクセにデカイ尻をしているなぁと言われる、たまにその尻を見て「良い野球選手になれるよ」とまで言う奴がいるけど、良い野球選手は野球の練習で鍛えられて良い尻になったのであって、勝手に大きくなった尻を持つ僕が良い野球選手になれるわけがない。実証するように僕は90kmのバッティングマシーンを全部空振りした実績もある。長くなったけど、この尻は、野球のためでなく、早く歩くためにあるのだと自負している。この尻には早く歩く筋肉が詰まっているのだと。

 けれど甘かった、女だからすぐに追いつけるだろうと思ったけど、この俺の競歩とここまで良い勝負する女子がいたとは。男子を一気に3人も片付けたことがうなずけるよ。歩いて1分程過ぎたけれど、全くその差は縮まらない。僕と天照はほとんど同じスピードなのだろう。

 しかし、このままじゃ一向に追いつく気配がない、仕方がない・・・、最終手段だ、少しプライドが傷つくけれど。


 走るか。


 僕は天照の真横に並んで歩くような形をとり、これから何をするのかたずねてみた。

 天照は僕の方へ顔を向けることもなく正面を見て、表情を変えず、「あなたが超能力者であるという確信が持てたから、薫に伝えるのよ」

 「何で沖田先生に言わなあかんねん、てか僕は超能力者ちゃうわ!」

 何故、超能力のことと沖田先生が関連するんだ? 彼女はやはり何か隠してたのか? あの実験も何かのため?

 「あなたは超能力者よ。昨日でやっと確信が持てたんだから」

 えらく自信があるように見える横顔とその声は、少し投げやりな感じにも聞こえる

 「私の言うことが信じれなくても薫がちゃんと立証してくれる、安心しなさい」

 「そんなこと言われても安心できるか!」

 僕の会心のツッコミにも天照は眉ひとつ動かさず、僕の方を一度も見ることなく、その会話を終了させた。

 もういいや、こいつと話していても全く信じるとかそういう気になれないし、本当のことに近づけない気がする。沖田先生に聞けば早いことも事実だ。あの実験のことも気になるし。

 僕と天照は、歩くということを超越した速さで、学校に着き、そのまま職員室に向かった。

と思ったのだけれど、天照は職員室を素通りする。いやいや、沖田先生はここやろ?

 「着いてきて、薫は今そこにはいないから」

 何か他の仕事でもしているのだろう、職員室にいるだけが教師の仕事じゃないし。

 天照が職員室の隣の教室のドアを開き手招きをする。

 案外近かったんだ。僕は校舎中をくまなく探す覚悟をしていた。何ていったって沖田先生だ、どういう行動をしているか思考をしているのか、全く予測不可能な人だからな。

 教室へ入ろうとドアに手をつけた瞬間、体中を電気が流れるような感覚にあい、一瞬目眩がした。さっきの公園で出たような鳥肌も、僕自身が鳥になったんじゃないかと錯覚するほど出た。

 公園とは明かに体の示し方が違う、体全体が教室に入るなと危険信号を出しているみたいだ。これが虫の知らせとういうものなのか? けれどそれを認めてしまうこと=自分が超能力者だと認めてしまう気が何故かしてしまい、僕は教室に足を踏み入れた。

 自分がそんな能力を持っていないと思うために、誰かに否定してもらうために。

 教室を見渡すと沖田先生がいた。彼女は机の上に座って腕を組み、こちらを見ている。

 それ以外に人がいる気がしたのでもう1度見渡してみるけれど、僕と天照と沖田先生しかいない。

 「来てくれたのね薙くん、ありがとう。あなたの性格じゃ来てくれないって思っていたけど。うれしい」

 机を椅子のようにして座り、キレイで長い足を地面に伸ばす沖田先生は、満面の笑みで、それはそれは、心がうれしいで埋め尽くされたような声色で僕に言った。

 それにしてもこの美女2人は何を隠しているんだ。嫌な気がしてならない。教室の空気も最高に悪い。

 中学校の受験前の寒々と緊張が混ざった教室の空気の方がまだマシだ。沖田先生がどれだけ自分の周りに花を浮かせても変わることなどない。

 天照は沖田先生に背を向け、黒板の方向を見てドライアイスのように冷たい声で、「薫、早く彼に説明して、彼はものすごく頭が固い人だから、あたしがどれだけ理解させてあげようとしても全くダメ」

 なんだ? 沖田先生を下の名前でしかも呼び捨てにしてるから、仲が良いと思ったけど全然そうは見えない。逆に嫌ってるように見える。

 「そうね、それじゃ早速本題に入りましょうか」

 沖田先生の顔が強ばり、眉の位置がセンターに少し寄って、眼の色が変わったような雰囲気がする。

 「あなたは超能力者なの、わかる?」

 「そんなことはさっき聞きました。ていうかわかるもクソもないですよ」この人は何を突拍子もないことを言い出すんだ?

 「そりゃそうよね、いきなり言われてもわかるわけないか」

 口を手で押さえて、笑いをこらえるように喋る。

 一体何がおかしいんだ?あんたの方がよっぽど面白いよ。

 「これは前に薙くんにやってもらった実験の結果よ」

 そう言って僕に解答用紙を渡す。

 「何もなかったんやろ。先生落胆してたやん」

 「あの時は気付かなかったのよ、でもこの実験結果を本居先生が見ておかしいことに気付いたの」

 おかしいこと? それより何故あの忌々しい本居の名前が出てくるんだ?

 「本居先生が関係してるんですか?」

 「それもあとでちゃんと説明するから」と子供をなだめるような言い方と声色を沖田先生にされる。

 「実は言うとあの解答用紙の答えだけど、5日中3日は全問正解だったのよ」

 とここで天照が口を挟む、もちろん黒板を見たまま。

 「ある意味よ、ある意味全問正解ってこと」

 「ある意味ってどういうことなん?俺も解答用紙見たけどあってたの1問か2問やったで」

 「今から説明するわ」

 沖田先生は自分が発見したような者の言い方で僕に説明をする。

 「まず1日目の回答結果を見て13問目だけあってるでしょ」

 その通り、全25問中13問目だけが正解したんだ、確かそれは最終日も同じだった気がする。

最終日も同じ? 偶然にしては凄い確立じゃないか?

 「薙くんは1問目の解答欄に25問目の正解を書いたの、そこから順に2問目は24問目の答え、3問目は23問目の答え、・・・」

 と永遠に「何問目は何問目の答え」と続く気がしたので、僕は「10問目は16問目の答え」を言うところで先生の言葉を止めた。

 「もうわかったよ先生、ようするに正解と問題を逆の順番で書いてたってことやろ?」

 「わかってくれた? それじゃ、わかったでしょ、あなたは超能力者なの」

 「わかれへんよ。そもそも偶然やろこんなこと?」

 言っている自分でも矛盾していることはわかっていた。こんな凄い偶然が何万分の一なんだろう、でもそれにかけてみたい。

 「一回そんなことあっただけで超能力あるなんて決めつけるんやったら占い師は超能力者やないか」

 何故この結果を見て信じないの? と呆然として目が点になる沖田先生。

 彼女が黙ると教室は静かになり、時計の秒針の音だけが響く。この空気どうにかしてくれ。

 すると天照が平坦沈着な声と表情で僕を見た。

 「まだ信じないの? 往生際が悪い」

 そう言うと沖田先生が持つもう一つの解答欄を持って続きを話した。

 「2日目はハズレ、3日目は無理やりつなぎ合わせた感じだけど言葉で説明するのがめんどくさいから黒板に書く」

 そう言って黒板に白いチョークで数字を書きなぐる、速い割に上手な字を書く。沖田先生の字よりも明らかに上手い。

 天照は黒板にはこう書いた。ピンクのチョークで書いた部分は正解しているところらしい。


1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13・14・15・16・17・18・19・20・21・22・23・24・25 


12・24・23・22・21・20・19・18・17・16・15・14・13・ 1・ 2・ 3・ 4・5・ 6・ 7・ 8・ 9・10・11・25 


 「ちょっと不規則になってるのはあなたの心理状態のせいかもしれないわ、けれど法則性はある。4日目はハズレで5日目は・・・あなたが考えてみて、わかるでしょ」

 問題用紙を見て少し考えなくてもわかった。1日目の結果と一緒だった。もうなんと言っていいのかわからない。

 こんなことが実際にあるんだろうか?僕は目ではなく自分の脳と記憶を疑った。

 「その表情を見ると、答えはわかってるようね、沖田先生、彼は納得したみたいよ」

 「違う! この結果は認めるけど、僕が超能力者になった経緯とかが全くわからん。せやから認めへん」

 いきなり目覚めるなんてそんな理不尽なことありえるのか?どこかにきっかけがあったのか最近の記憶を探るけれど見当たる気配すらない。いたって普通の日常を過ごしてきたぞ、僕は。

 変なことといえばこの学校の推薦届けが来たくらいだ。

 「薫、止めを刺して」そう言った天照の顔は、あきれた顔の代表として、記憶に留めたいほどだ。

 「はーい。じゃ薙くん、いきなりだけど、あなた面接の日、健康診断でインフルエンザの予防注射されたわよね」

 確かにされた。それがどうしたんだ?

 「あの注射には超能力に目覚める素みたいなのが入ってるの」

 「なんやねんそれ?」

 天照が掃いて捨てるように言う、「詳しく言ってもあなた理解できないでしょ、脳内のシナプスを活性化させるのよ」

 「活性化させたら目覚めるんか?」

 「人の脳は80%は眠った状態、それで一生を終えるわ。でもその眠った脳内に超能力があるという実験結果が出たの。それはもう半世紀も前のことよ。それから研究を重ねて、その眠った部分を起こしやすくする薬が開発されたってわけ」

 「その薬を僕は注射されたのか」

 「薙くんだけじゃないわよ、天照さんも含めて特別能力開発科の生徒みんな」

 「なんでや? 僕らのIQが高いからか?」

 「あなたまだそんなこと信用してたの」

 「えっ?」

 僕はもう何が何だかわからない。もしかしてだまされたのか?この学校に。

 「IQはあなた達のような一般の生徒を入学させるための口実よ、だから嘘」

 「ごめんね薙くん、嘘ついちゃって」

 「ごめんで済むか」

 僕は沖田先生が、何故この話しをへらへらして話しているのかわからない。イライラが積もる。

 「人は死に直面したときに風景がスローになる。走馬灯が見えたとか言うでしょ? あれも一種の超能力なのよ、でも死に直面するときにしか能力が発揮されないんじゃ命が何個あっても足りないでしょう?」

 「僕は死にそうじゃないのに能力が使えたで?」

 「それはそうしているからよ薙くん。集められた生徒はIQが高いんじゃなくて、心に傷を負っているの、深い深い。普通の日常じゃ考えられないほどの深いトラウマを持ってるのよ」

 「もしかして」

 僕はやっとつかめてきた、この能力が使える時が。

 「死とトラウマは似ているのよ。その心の衝動を脳が勘違いして超能力を引き起こさせる。まぁ死に値するトラウマを持った人間なんてそんなにいないのよね、それにそれを頻繁に思い出せるメンタルもないわ、けど薙くんはそれができるのよ」

 「じゃあ、天照も」

 「私は、別よ」

 そう言うと逃げるように教室を出て行った。

 過去のことは聞かれたくないのか。

 「天照さんは少し違うのよ、まぁ私の口からは言えないわ」

 ちょっと引っかかるところがある。何故僕はこの問題をしているときはトラウマも思い出してないのに、能力を発揮できたんだ?

 「私もその薬を注射したのよ、するとそういう超現象を引き寄せやすくする能力が身についたの」

 「その、身につく能力って人それぞれなんですか?」

 「そうよ、あなたの心の傷の一番深い記憶のときに強く望んだものがあなたの超能力になるのよ」

 ってことは、この人は超現象を引き寄せる能力が欲しかったのか。やっぱり変な人だ。

 けれど少しずつこの能力のことがわかってきた。

 あれ? 知らないうちに僕は信じてしまったのか、このありえないことを。でも先生が言ってることは間違ってるように見えないし、それに俺の能力も恐らくは・・・。

 自分の能力が何か考えていると、教室のドアが開いた。

 ふと、目をドアの方へやる。

 那実ともうひとりは…通学路にある花屋の女の子だ。

 どういう組み合わせ? てかこの教室にこのタイミングで来たってコトは……。

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