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蜥蜴の忠誠、貴方に誓う。  作者: 岩月クロ
第2章 騎士団 入団編
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「……癒しの妖精か」

 ラウラが感心したように呟いたのは、癒しの妖精が、非常に稀有な存在だったからである。

 一般的な妖精が、“祈り”によって自然治癒能力を高める能力が備わっているのに対して、癒しの妖精は傷自体を治す能力を持っている。


 徐々に塞がっていく怪我を見ながら、「しかしこの妖精、まだ幼いな。もしくは弱っているのか」とラウラは小首を傾げた。


 妖精は、幼体こそ手のひらサイズだが、成体となると人間と同じくらいの大きさになる。

 しかしフィリンティリカは蜥蜴版ラウラよりも少し大きい程度だ。幼体にしては治癒術を使いこなしていることからすると、どこぞの蜥蜴と同じく、弱って省エネモードに入っていると見るべきか。


「……あんた、癒しの妖精に関しても詳しいのか?」

 警戒心と期待の混ざった声で、ジェラルドがラウラに訊ねた。訝しみながら、「特別詳しくはない。これ以上は知らないからな。この程度は一般常識レベルだろう」と返すと、あからさまに落胆された。どうやら彼は、この妖精について、抱えるものがあるらしい。


 もしかすると、騎士団に入り、この砦に来たことにも起因するのか。

 そんなことが頭を掠めたものの、ふうん、と心の中で呟くだけに留める。踏み込んで訊ねる気にはならなかった。

 彼とて、蜥蜴に理由を話す気は無いだろう。

 そういったことは、ラウラの主が起きてから、彼に話せばいい。


 フィリンティリカが腹部から離れた。続いて腕に向かおうとした彼女を止める。

「腕は止血だけでいいだろう」

 癒しの妖精は、自分の蓄えた魔力を使って怪我を癒す。幼い、あるいは弱っている彼女にとって、怪我を治すことは、自分自身の身を削ることでもある。


 物言いたげなフィリンティリカを「フィー、もう止めておけ」と主人が止めた。「やり過ぎると倒れるぞ」と続けたことから、やはり無理をさせたのだと思う。それでも、彼女がいて助かった。


「気休め程度にしかならないが……」

 ラウラは、自分の胸あたりの高さに手を持ち上げた。魔力を集める。手のひらの上に、小さな球体が現れた。集まった魔力が、球体に巻き付いていく。

 しばらく空中に留まっていた球体は、やがてラウラの手の上に落ちた。


「持っていれば、少しは楽になるだろう」

 妖精は、自力で魔力を回復させる力が無い。だからこそ、花の蜜など、自然界のものから魔力を補給している。

 魔王級(ラウラ)が自身の魔力によって作り出す魔石は、強大だ。漏れ出た魔力を浴びれば、嫌でも魔力は溜まるだろう。体質に合わなければ、回復量は微かなものだろうが。


 ラウラは自身の手に落ちた魔石を、フィリンティリカに押し付けた。

 フィリンティリカはあたふたと魔石を抱き留めて、はふう、と息を吐いた。少しだけ、頰に赤みが差した気がする。


 どことなく安心したように視線を緩めたジェラルドは、フィリンティリカに戻るように命じた。小さな妖精は、主人の言葉に寂しそうな顔をしてから、こくりと頷く。そうしてラウラに、ぺこんっ、とお辞儀をすると、来た時と同じように、ぽんっと音を立てて消えた。


 それを見届けてから、ジェラルドは一変、ゴーグル越しに鋭い目付きでラウラを見やった。

「あんた……さっき、ルドヴィーコのことを“主”と呼んでたが、……あの蜥蜴か?」

 何拍か置いてから、「いかにも」と答える。この()に及んで隠しても致し方ない、と思った。

 ジェラルドは動揺を押し殺したような声で、「……なるほど」と呟く。予想はしていたが、といったところか。


「“あんた”が“何”なのかは、訊かない方がいいみたいだな」

「ああ。お前だって、訊かれたくないんだろう?」


 暗に、お互いに黙っていよう、と持ちかけると、ジェラルドは無言で返した。漂わせる雰囲気が、その提案に同意している。


「……ま、気が向いたら、ジーノに話すといいさ」

 そう声を掛けたのは、ほんの気紛れだった。


 言葉を交わしたことは無かったものの、一ヶ月は共に生活していたのだ。

 今に限ったことではない。普段から過剰とも呼べるほど世界と自分──そしてフィリンティリカを切り離し、内に篭ろうとする彼の様子が、多少気に掛かったのだ。


 眠っているルドヴィーコを見下ろす。腹部の怪我はどうにかなったはずだが、腕の傷もある。顔は険しいままだ。

「こいつは、お人好しだからな。お前が何かで困っているなら、きっと一緒になって悩むだろうよ」

「……“お人好し”を利用して、面倒を押し付けるぞ」

 それでもいいのか、と脅すような声色で告げたジェラルドに対して、く、とラウラは笑った。

「その時は、私が全力で妨害する。面倒ごとだって、さっさと退ける。今みたいにな。お前が心配することじゃない」

 ジェラルドは、目を揺らした。

「…………あんたも大概、お人好しだ」

 心外だ、と言わんばかりに、ラウラは片眉を吊り上げた。事実、自分がお人好しになったつもりは、一切無かった。

「私が? お人好し? 馬鹿なことを言うもんだ。私は自分がやりたいようにやるだけだぞ」

 お人好しというのは、ルドヴィーコのような他人のために動くことを苦にしない人間を指すのだ。ラウラは魔界人らしく、基本的に自分の欲求通りに動くのみだ。


 人間の発想は、よく分からない。


 まあいい、とラウラは肩を竦めた。そもそもこんな場所で長居をしている暇はあまり無い。ラウラにだって、時間制限(・・・・)がある。

「とにかく、──ここから出ることが先決だ」

 ラウラは気配を巡らせる。今のところ、大きな反応は近くには無い。しかしあのもぐらもどきが自分のレーダーには引っ掛からなかったことを考えると、余裕に構えている場合では無い。救援を期待して待っていては、時間が掛かる。


「もうひとつ提案があるんだが」

 金色の瞳が光を放ち、ジェラルドを捉える。


「お前も、怪我無く砦まで戻りたいだろう? 私もなるべく早く戻って、ルドヴィーコを休ませたい。お前が口を噤むなら、私がお前達を運んでやろう」


「できるのか?」

 ジェラルドは、臆することなく訊き返した。大抵の者は怯む視線(プレッシャー)に晒されても、引く様子は無い。それを小気味いいと感じながら、「できなきことは口にしない」と笑う。それもそうだ、と納得した様子の彼は、「あんたが蜥蜴である件と含めて、誰にも──ルドヴィーコにも、他言しないと誓おう」と真摯な声で言った。




人型になってる内に活躍しなくちゃ←ぇ

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