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蜥蜴の忠誠、貴方に誓う。  作者: 岩月クロ
第2章 騎士団 入団編
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 砦の中でも、複数の班に分かれているようだ。三人は、それぞれ別の班に入ることになった。とはいえ、新人の仕事である、朝の清掃などは共通の仕事だ。


 食堂に五時半集合、という命令に従い、早くに起き出した三人の間に、会話らしい会話は無い。必然的に、ラウラとルドヴィーコの会話も少なくなる。

「……やりづれぇ……」

 ルドヴィーコが思わずというように、小さく零した。同感だ。

 ただし、舌打ちしそうなラウラとは別に、ルドヴィーコは困った顔を浮かべている。どうやってこの状況を打破しようかと考えているようだ。


 真面目だな、と思いながら、ラウラは彼の肩でくたりと寝転んだ。

「どうした蜥蜴っ子、お疲れモードか?」

 ぺたんとなっているラウラを見て、くつ、とルドヴィーコが笑った。頭を撫でる指に顔を寄せ、平気、と伝える。

「……頭、良いんですね」

 朝の支度をしているランベルトが、少し緊張した面持ちで言った。ルドヴィーコは、お、という顔をしたが、なるべく平静と同じ声で、「そうなんだ、こいつ頭良いの。砦の道案内もできるしな」と笑う。それから、「歳、近いだろ? 敬語無しでいいよ。ジーノって呼んでくれ」と続けた。

 友好的な雰囲気に安堵したのか、胸を撫で下ろしたランベルトは、ぎこちなく笑いながら、「じゃあ……よろしく、ジーノ」と手を差し出した。短く握手を交わしていると、「……おい、時間」と入り口からジェラルドの声がした。

「おわ、やべ! 急がねぇと」

 二人は慌てて立ち上がって、慌ただしく部屋を後にした。

 お互いの事情を腹を割って話し合える程では無いが、ひとまず第一歩だろう。

 ずっと先を歩くもう一人の新人仲間とは、まだ親しくなれそうもなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 汚い。

 非常に汚い。


「これさ……絶対に時間内に終わらないよね」

「同感」


 ランベルトの引き攣った声に、一言で返す。ジェラルドは黙々と掃除を開始している。二人も掃除を開始した。今日の時点では、人が主に使う場所だけ徹底的に行って、端の方は時間外にやろう、と。仕事は増えるが、仕方ない。

「それで良いか?」

「僕は良いよ」

「……俺も、構わん」

 予想外にジェラルドからも協力を得られた。時間になり、三人はさっさと掃除道具を片付けた。


 掃除が終わると、他のメンバーよりも先にご飯を食べる。食べ終わったら鍛錬場の準備がある。

 食堂から出る時に、先輩騎士とすれ違う。

「お先に失礼します」

「おう。……おう? なんか綺麗だな」

「ほんとだ、いつになく綺麗」

 驚いたような声を聞いてからしばらくして、ランベルトが呟いた。

「これまでの掃除係は、どうしてたんだろう」

「さあ……」

(大方、適当に拭いてたんだろうな。そして先代達も同じだったから、その状態に疑問を抱かなかったんだろうよ)

 ラウラがざっくり斬り捨てた。


 気を取り直した三人は、鍛錬場に辿り着いた。道案内は、ラウラの役目だ。その内、三人とも自力で辿り着けるようになるだろうが、それまではラウラの仕事になりそうだった。

 流石に何十人が一度に集まる関係で、広々とした空間となっている。これだけ広くても、時間を区切って使わなければ全員は使えない。

 この鍛錬の場では、新人三人は朝一の組に入れられている。練習用の剣や盾を準備しながら、他の騎士が来るのを待つ。

「ランベルトも鍛錬を……?」

「僕は魔法専門だから、基礎体力だけ上げるみたいだ」

 それについていけるかすら、心配なんだけど。と、その表情は語っていた。


 案の定、終わった頃には死んでいた。


 息を切らしながらも耐え切ったルドヴィーコとジェラルドとは違い、ランベルトは途中で倒れそうになったところを、ドクターストップならぬ、隊長ストップが入った。

「文官でありながら、ついてこようとした根性は認めよう」

「魔法使いは文官ではありませんよ」

 隊長の背筋がビッと伸び切った。

「そ、ソフィア副団長!」

「後方支援型の魔法使いは、戦闘員並みの体力は必要ありませんが、イザという時のため、この程度(・・・・)の準備運動にはついてこられるように、精進なさい」

 しなやかな動きでランベルトに近付いた彼女は、彼を見下ろすと、そう声を掛けた。

「は、はい……!」

 慌てて起き上がり、がくがく震える足でなんとか立っているランベルトに、「隊長の言う通り、心意気は認めるわ」と告げた。ゴーグルごしの目は、柔らかく細められたように見えた。


 ところで。


「今、準備運動(・・・・)って言ったか……?」

 愕然として思わず零したルドヴィーコの言葉を肯定するように、「おいテメェら、いつまでもくたばってんな! 次行くぞ!」と隊長の怒号が響いた。

 前衛戦闘員の鍛錬は、ここからが本番らしい。

「……倒れたくはねぇな」

 ルドヴィーコが死んだ目をしながらも意思のこもった声を出した。

 結果的に、ゴールを知らされないまま鍛錬に挑んだ新人二人の屍が、後に残ることとなった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 砦各所の清掃(これは割と評判が良い。逆にこれまではどうなっていたのか気になるが)、鍛錬準備、その他諸々の雑務、それから基礎訓練に慣れること。これらが、新人の主な仕事だ。

 そもそも国境警備と言っても、常にピリピリとしている訳では無い。国が横続きになっていない地域であるから、というのもその理由のひとつだろう。隣国としても、この土地に踏み入れる際には、まず無所属の土地を歩いてくることになる。その道というのがまた、人が足を踏み入れないためか、魔物の巣窟となっているのだ。

 だから、対人戦闘よりも、対魔戦闘の訓練が重要になる。当然、どちらを怠っていい訳でもないが。


 閑話休題。


 話題を戻すと、そう、新人の仕事について、だ。

 まず最初の三ヶ月は、ひたすら訓練に慣れる、というのが重要になる。並大抵の者では耐えられないそれらは、王都の訓練とは比べものにならない程、辛い。訓練内容は国によってある程度統一されているはずだが、ここでは『バレなきゃいい』という風習がある上、国としても『強い人材が育つならば』と“個人の指導力”に関しては黙認している節がある。

 よって、この砦での訓練というのは、主に団長の趣味により、最強の軍団でも作れるのではないかという程、厳しい。

 これに耐え切れずに辞めていく者が多い中、今年の新人三名は、各々なかなかに粘る。入団一ヶ月で、内二名が基礎訓練に耐えられるようになってきたのは、快挙とも呼べる。残りの一名は元々前線での戦闘要員ではないこともあって、体力面で不安が残るが、瞳からはここに根を張るのだという意思が感じられた。


「だからといって、新人に魔物討伐の任務に参加させるのは、いささかどうかと思いますが」

 副団長であるソフィアの言葉に、「そうかー?」とドナートは豪快に笑う。

「鉄は熱いうちに打てと言うだろ? 経験する価値があると踏んだんだ。若いも何も無いだろう」

「潰れなければいいですが……」

 心配そうな声色に、ドナートは、真剣な目で彼女を見た。それを受け、ソフィアは自分が感じた懸念を口にする。

「彼らは、あまりに出来過ぎます。ここでの生活が長い者は、別段気にしていませんが、二年目、三年目の“準新人”は、面白くないと感じているようですね。問題を起こさなければいいですが……」

「なるほどなあ」

 ふむ、と頷きながら、その大柄な体躯に見合った大きな椅子の背凭れに、体重を乗せる。

 厳しい訓練に耐えた二年目、三年目は自分に自信がついてくる頃でもある。何かと“多感”な時期だ。良い意味での起爆剤となればいいが、今回は裏目に出ているらしい。ソフィアが言うからには、そうなのだろう。




同期いいですよね、同期。

仲悪い場合もあるかもですが、

やぱ肩並べて歩ける仲間だといいですよね!

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