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蜥蜴の忠誠、貴方に誓う。  作者: 岩月クロ
第1章 学園編
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(私がこの男と共にいることは、周りのやつには言わないでくれよ?)

(え、何故ですか?)

 わふう、とケイルが不思議そうに鳴いた。急に素っ頓狂な声を出した使い魔に、主人である寮長も、ルドヴィーコも揃って首を傾げる。

(……“お忍び”で来てるんだ。バレたら連れ戻されるからな。お前だって、無理やり魔界に連れて行かれるのは、嫌だろう?)

 ずっとこちらに居続けているのだ、何かしら理由のことがあってに違いない。そう思い、“納得”をさせるために使った手段は、存外しっかりと効いたようだった。

(そうですねえ……主人の傍を離れることになりますし、嫌ですねえ)

 うんうんと納得したように頷くと、ケイルはルドヴィーコを眩しそうに見上げた。


(ラウラ様の大切な方は、ルドヴィーコ様なのですね)


(──はっ!?)

 ラウラは跳び上がった。急にビクリと震えた蜥蜴に、ルドヴィーコが「どうした、蜥蜴っ子」と声を掛けながら、先程妙な鳴き声を上げたケイルと見比べている。何か怪しいな、と思っているのかもしれない。

(ちっ、がう! そういう話はしてないだろう!?)

(え! そういう話だったじゃないですか!)

 噛み合わない会話に、ぐう、とラウラは唸った。あまりにも不思議そうに言い返されて、自分が過剰に反応してしまった気がしたのだ。


 別に、間違っちゃいない。ケイルの言う通りだ。ルドヴィーコのことは大切な友人(・・)だと思っている。そうだ、間違っちゃいない。……そうだろう?

(……もういい。とにかく、他言無用だぞ)

(はーい、分かりましたー)

 いまいち信用に欠ける間延びした返事に、大丈夫だろうか、と不安感に駆られた。本当に言わないだろうな、とじろじろ見る蜥蜴の視線には、犬は気付いた様子は無い。蜥蜴の視線など分からないだろうから、無理からぬことだが。


「それじゃあ、寮長もお元気で」

「ああ、お前もな」

 ぐん、と目線が高くなる。ルドヴィーコが立ち上がったためだ。今度こそ、人間同士の会話も終わったようだ。

 寮長の部屋から一歩出ると、「予想外に長居しちゃったな。列車の時間は余裕があったから良いけど」とラウラに話し掛ける。


「ジーノ、やっぱり寮長のとこだったか」

 バルトロが、よっ、と手を上げる。顔を洗ったからか、それとも単純に時間が経ったからか、目は完全に覚めたようだった。

「俺も後で挨拶しなくちゃなー」

 まあ同じ敷地内だから会えるけどな、と言いながら、ルドヴィーコの横に並ぶ。

「蜥蜴さん、食われなくて良かったな」

「縁起でも無いこと言うな」

 ぎ、と睨むルドヴィーコに、「お前って、本当に蜥蜴さんへの愛が深いな」とバルトロが笑った。

「使い魔だからな」

 さも当然だと言わんばかりの声色に、(当然なのか)とラウラは思った。では自分がルドヴィーコを大事に思うのも、“当然”なのだろうか。……少し、複雑な気分だった。


 ハイディーン学園から、最寄り駅までの距離はそうそう無い。駅の位置が学園に合わせて作られたのか、はたまた逆か、とにかく、国が誇る教育機関は、当然のように交通の便が良い。

 駅のホームまでは見送る、と入場券を買ったバルトロと共に改札を抜けた。列車の時間まで、残り少ない。

「一度、実家に戻るんだっけ?」

「ああ、万が一もあるからな。顔くらい見せないと」

 そうか、という声は、反対側のホームを通り過ぎていく列車の音で掻き消される。


「国境でも、ジーノを頼んだぞ、蜥蜴さん」

 任せろ、とペロと舌を出した。いざとなったら、人型になってもいい。いや、なるべくなら避けたいが。優先順位は間違えないつもりだ。


 列車がホームに入ってくる。カタン、カタン……カタン……。ゆっくりと速度を落としていくソレに、人間界は面白いな、と思いながら、列車をじっくり見た。魔力を元に動く代物だ。魔界には無い。あっちはもっぱら、魔法陣による転移か、あるいは自力で飛んで行ったり走って行ったりする者が多く、こういった公共交通機関は発展していない。仮に作ったとしても、電車や線路ができた端から壊れる(否、誰かしらが壊す)のも発展しない大きな要因だろうが。


「元気でな」

「ああ、お前も」

 短い言葉を交わし、ルドヴィーコは列車に乗り込んだ。呆気ないようだが、お互いに無事を祈る気持ちは同じだし、何より、また会える、と信じていた。

 席に座ると、カタン、と列車が動き始めた。

 ルドヴィーコの実家まで、おおよそ四時間は掛かる。寝れるな、と彼は呟き、早々に目を閉じた。

 その傍らで、ラウラもまた目を閉じ──


「………………ん?」


 思わず、()を上げた。

 何か違和感を覚えた。あれは……なんだったか。すぐに掻き消えた“気配”の痕跡は、自分の中の記憶と照合させるには、あまりにも小さ過ぎた。

 顔を持ち上げたラウラだったが、やがて諦め、再び目を閉じた。




使い魔だから、じゃなくて、

蜥蜴(ラウラ)だから大事に思って欲しい。

複雑な乙女心なのです。


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