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蜥蜴の忠誠、貴方に誓う。  作者: 岩月クロ
第1章 学園編
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 用意された席に座り、しばらくすると、最後の一人が着席したらしく、拍手が徐々に弱くなる。アナウンスが入り、学園長の話が始まった。


『貴方がたの代は、特に優秀な人物が多い代だった。二人の殿下が共に過ごすに相応しい、立派な代だった。一人ひとりが、立派に過ごしたと誇れるだろう』


 学園長は、式の時にしかその姿を見せない、不思議な人物だ。今もフードを被り、容姿などは一切分からない。

 声からも、性別以外のものが分からない。壮年の男のようにも聞こえるし、若い男のようにも聞こえる。


『貴方がたはこの先、それぞれの夢に向かって、一歩を踏み出していくだろう。そこには、ここにいる貴方がたの友人はいないが、貴方がたはそれでも歩いていかねばならない。為すべきことがそこにあるなら、行かなければならない。一人でも、進まなくてはならない』


 ドキリ、と心が揺れた気がした。足の上に置いた手を、強く握る。

 為すべきこと。そう言われても、ピンとくるものはない。自分はこの先、何を為すべきなのか。いや、何が成せるのか。く、と眉を寄せたルドヴィーコに、言葉の続きが届けられる。


『しかし忘れてはならない。自分は何も持っていないなんて、思ってはいけない。貴方は、一人ではない。こんなにも大勢の仲間がいるのだから』


 シンと静まり返った体育館に、不思議な声が響く。

 ルドヴィーコは、不意に視線を動かした。ジュリアを、ジャンカルロを、コレットを、バルトロを、そしてそれ以外の友人の姿を探した。見つからない者もいたが、(みな)、真剣な顔をしていた。


『──道は険しいだろう。悲しいこともあるだろう。しかし、歩いていきなさい。笑って過ごしなさい。ここにいる友人を、大事にしなさい。そしてこの先の出会いを、しっかり掴み取りなさい』


 フードの奥で、学園長が微笑んだ気がした。見えないから、気のせいかもしれなかったが。


『貴方がたの門出たるこの場に、立ち会えたことを光栄に思う。貴方がたの道中に、そしてその道の果てに、多くの光があることを願う』


 そう締めくくり、学園長は壇上を降りた。

 グル、と蜥蜴が鳴いた。

 大丈夫だよ、ともう一度返した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 学園長の話があったからなのか、教室はしんみりとした空気になっていた。

 朝登校した時には既に黒板に書いてあった、『卒業おめでとー!』の落書き。各々(おのおの)が思い思いに書いたメッセージや、意味の無い絵に埋め尽くされた黒板は、とんでもなく騒がしいのに、何故か見ると寂しさが募った。

 それを誤魔化すように、友人とわざと明るい顔で言葉を交わす。


 その後、簡単に担任教師から話が済むと、呆気なく解散となった。しかし、なかなか誰も出て行こうとはしない。

 配られた卒業アルバムに落書きやメッセージを書いたり、これまでの分まで含めるようにいつも以上に話をしたりしている。

 蜥蜴はこの喧騒が気になるのか、いつもよりもそわそわしていた。


「ジーノ!」

 名を呼ばれた。バルトロだ。彼は卒業証書を左右に振りながら、笑っていた。

「よお」

「素っ気ねぇなー」

「そうか?」

 首を捻る。自覚は無かった。

 窓枠に組んだ腕を乗せた彼は、黒板を見ると「こっちもすげーな。うちのクラスもすごかったけど」と言った。各クラスに落書きはあるようだ。


 しばらく、お互いに何も話さなかった。


「お前とは、高等部からだっけ?」

「ああ。そういえば中等部ではなんで話さなかったんだっけ?」

「接点が無かったからだろ」

 どうでもいい話をする。バルトロと話すようになったのは、蜥蜴を召喚した次の日だったな、と思う。本当にただの蜥蜴なのか、と興味を持った彼が話し掛けてきたのだ。出会いのできことなんて、今まですっかり忘れていたけど。


「──向こうでも頑張れよ。ていうか、死ぬなよ」

「お前もな。やることによっては、国境警備より危ないからな、こっち」

「俺はそういう危ないことしねぇよ」

「それは良かった」


 トントンと進む会話は、途切れることはない。

「蜥蜴っ子は、寒くて冬眠するかもな」

「え、それは困る」

「……ジーノは本当に蜥蜴っ子大好きだな」

 それは当然だ。自分の使い魔だ。自分のことを選んでくれた者を、大事にしない訳がないじゃないか。それにそうでなくても、この蜥蜴は優しい良いやつだから、大事にしてやらないと、と思う。気付くと犬猫に食べられかけているから、傍にいないと怖い(それが理由で、ずっと召喚し続けていたりもする)。


「……さて、そろそろ行くか」

「もう帰るのか?」

「まあな」

 適当に誤魔化して、ひらひらと手を振った。「うん、じゃあ、またな」「ああ、またな」と言葉を交わし、お互いの拳を軽くぶつけた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 待ち合わせた場所には、既にコレットが来ていた。そのまま傍に寄ろうとして、不意に気付く。流石に“そういう”場に、いくら使い魔で、蜥蜴とはいえ、他者がいたら嫌なものだろうか、と。

 一歩後退りをすると、肩に乗る蜥蜴に、訊ねた。

「なあ、どう思う、蜥蜴っ子」

 そうして、自分が思ったことを伝えると、“彼”は心得たと言わんばかりに、いつぞやと同じように、肩から飛んでいった。急に手元を離れていった使い魔に焦ったが、おそらく終わったら出てきてくれるだろう、と自身を落ち着かせた。


 改めて、コレットの方を見ると、彼女は蜥蜴が飛んでいった方向を見ていた。

「飛んでいるところ、見れました」

 彼女は、にこ、と笑った。その表情は心なしか強張っている。

「……卒業、おめでとう」

「ありがとうございます。ルドヴィーコ様も、おめでとうございます」

「ああ」

 定例のようなやり取りをした後に、コレットは、ひゅ、と息を吸った。緊張の面持ちで、ルドヴィーコの前に立つ。

「あ、の……」

 その続きが、なかなか出て来ない。

 ルドヴィーコは、急かすこともせず、ただ辛抱強く待った。何度か、「あの」を繰り返してから、ぎゅ、と目を瞑った彼女は、ようやく続きを声にした。

「わ、たし……ルドヴィーコ様のこと、す、好きです……っ」




ルドヴィーコさんが、ラウラさんをひたすら召喚し続けるのは、そういう理由。

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