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舞台上のヒロイン

作者: 美雨


「ねぇ、(しん)。何もかもシナリオ通りなんて退屈だわ。もう、いいでしょう?」


琉奈はお姫様の部屋を想像させるような自室のドレッサーの前に座り、金色の髪を櫛で整えていた。


「そうですね。そろそろ好きにしても構いませんよ。僕はシナリオ通りの方が楽なんですけど……」


真っ黒なスーツ姿の青年、真が答える。

バラの刺繍が施された長椅子に横たわり、山積みにされたマカロンを食べていた。


琉奈が乙女ゲームの世界に転生したと気づいたのは、物心がついた頃だった。前世は産みの親に捨てられ、成人間近のところで里親に命を奪われて終わっている。高校時代、友人に進められて色々な乙女ゲームをプレイした。その中でストーリー、攻略対象者が一番気に入っいた乙女ゲームのヒロインに転生していた。

それからの琉奈は攻略キャラクターたちと出会う高校生になるまで、好き勝手に生きようとワガママ放題の毎日。そこに突然現れたのが、真だった。


「あの方から伝言です。このままなにもしなければ、君の記憶は薄れ、前世と同じように死にますよ」


「どういうこと? どうして私が前世の記憶を持っていると知っているの?」


「それはまだ言えません。僕は君の見張りとしてここに送られました。攻略対象と出会う時期まで好き勝手に過ごし、バカ女に育っても困りますので躾は僕にお任せを。琉奈お嬢様」


その日から真は琉奈の教育係として側に仕え、ゲーム開始時に必要な知識を何でも教えてくれた。中学までは母親の母校である幼稚舎からの女子校に通っていたが、真の計らいにより高校はゲームの舞台である全寮制の果実学園へ入学し、スムーズに物語が進み、琉奈は退屈だった。


「会長。無理して笑わないで下さい。気持ち悪いですよ」


「君には何でも見透かされてしまうな。生徒会に入らないか?」


どんな言葉を投げ掛けても決められたセリフしか返ってこない。何をしても攻略対象には好かれたし、周りの人間は栗之宮家を恐れて遠巻きに見ているか、媚を売るかのどちらかだった。真は新任教師として当然のように果実学園に就職し、相変わらず琉奈を見張っていた。

人気ナンバーワンの生徒会長、桃園光輝は品行方正、常に笑顔で温厚なキャラクターだったが、現実は冷静沈着、腹黒い性格であった。入学当初、琉奈は生徒会長に付きまとっていたがそれを知った瞬間、一気に熱が覚めてしまう。


「お家に縛られなくたって、もっと自由にしたらいいじゃない。高椿くんには素晴らしいお兄様がいらっしゃるんだから」


「黙れ。テメーに何が分かるんだよ! オレが好き勝手に過ごしていたから、母さんは……」


高椿家の次男は期待を裏切らない返答をしたが、 長期戦を覚悟して関わる必要があった。面倒くさい事が嫌いな琉奈は、例え真のサポートがあったとしても選ぶ気はない。

他の攻略対象とはスムーズに関係を築くことができた。ゲームの知識を頼りに動けば難なくイベントが起こり、好感度が上がる。攻略対象者全員の好意が完全に向いた時、逆ハーレムエンドにすれば誰とも付き合わずにすむと考えて行動していたが、1年も経たないうちに耐えられなくなった。聞き飽きた甘いセリフ、見飽きた仕草、そこにはときめきなどない。


「ねぇ、真。真実を教えてよ。もう耐えられないわ。飽きたの」


「そうですねぇ。もうあの方も飽きたみたいですし、いいですよ」


こうして真から聞いた真実は琉奈を戸惑わせたが、同時に解放された気分にもさせた。そして、つまらない恋愛ごっこをやめて、本当の恋がしたくなった琉奈はターゲットを探して動き出す。果実学園という狭い世界に閉じ込められている琉奈が、ターゲットを見つけるのは簡単だった。


好きな相手に優しく微笑む少年と、それを静かに受け入れる少女。二人の間にはゆったりとした時が流れている。誰にも入れない二人だけの穏やかな世界。琉奈はそんな関係を求めていた。決められたセリフではなく、何が返ってくるか分からない緊張感も味わいたかった。

栗之宮琉奈が動き始める。手に入れるのは簡単だ。この世界で最強のアイテムを持っているのだから。


「もう我慢はしないわ。私は新鮮な恋がしたいの」


琉奈はベッドに横たわると、新しい明日が早く来るのを望んで静かに眠りについた。

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