原案
「どうしました?」
口をついて出た言葉は酷く安直で安かった。
単純な興味にしては軟派過ぎるし、
恋心にしては僕らしくなく積極的だ。
もしかしたら、猫にでも話すぐらいの気軽さだった。
ゆらりと時間が流れていく。
目を閉じた彼女にさっきの僕の言葉は届いていなかったようで、
仄かな安心感と、同等の淋しさを感じる。
寄り添って座ったら、怒られるだろうか。
いや、きっと眠りの邪魔にならなければ咎められる事などないさ。
自分に言い聞かせて、音を立てないよう気を付けながら横に座る。
鞄から取り出したミネラルウォーターと読みかけの本を取り出して、行き交う人を眺めた。
目線を下げた世界の時間は、想像以上になめらかだった。
ちっぽけなアイデンティティを振り回して、傷む身体を騙しながら笑う。
寝酒がヒーローで、厚い化粧と短いスカートに恋をする。
悪を許す大多数に追いやられた暗い目の救世主達。
ラジコンのような型でくり貫かれたサラリーマン。
そんな虚栄心は、この桜と彼女に比べれば惨めで哀しいくらい不必要だ。
「陳腐な杞憂に縛られてるんだね」
虚空に逃げてった言葉は、彼女に届いた気がした。