第八十六話「アレ」
ダダンの南の森に向かうのは舞虎とチャッピー……ゴディアスとエミーダ、そして俺だ。
サイズ的に舞虎でも大きいと思うんだが、チャッピーが行きたいとゴネましてハイ。
で、今向かってる最中なんですが……。
「レウス……何故我の背中に乗らない!」
「いやぁ飛べるし……」
「我の方が速いもんね!」
「じゃあ先に行っててくれ」
「あ、すんませんでした」
……。
「ほんに楽しい竜もいたもんだわ」
「ゴディアス……お主、この前レウスの鼻を削いでくれたそうだのう?」
「だー、ありゃ済んだ事だろうっ!」
あ、チャッピーとゴディアスの実力は拮抗してるから、結構対等な会話をしてるぞ?
「我の友人の鼻を削ぐなぞ……あ、友人って言っちゃったけど別に良いよね!?」
「へんっ、俺とボーズはマブダチの盃をかわした仲なんだぜ!」
かわした事のない盃の名だな?
「わ、我なんてアレだもんね!
……その、アレだもん!」
どれだよ。
アレって言葉はよく使うが、そういう使い方は記憶にないな。
……今度アレしようかしら?
「てめぇ……とんでもねぇな!」
何受信したんだよ……。
やはりこの面子は疲れるな。
「その辺にしておけ、そろそろ着くぞ」
「わーったよ!」
「はい、すんません」
エミーダには敵わないからな…………長いものに巻かれる空の支配者を応援してあげてくれ。
「レウス君、あの森ですかぁ?」
「はい、そうです!」
ほい着陸!
懐かしいな、ダダン南の森。
え、何でハティー兄なら知ってると思ったのかって?
その地域の魔物同士って独自のコミュニティをもってたりするんだよ。
特にあそこら辺の縄張りはハティー兄がボスみたいなもんだからな。
あくまで「もしかしたら」の範囲内だけど、聞かないよりかは可能性があるだろ?
そして舞虎を連れてきたのにも理由がある。
「さて、舞虎大先生!」
「我の大先生ポジションが……」
ごめん、ハティーにも前使っちゃったわ。
「はいはーい、耳ふさいで下さいねぇ」
「了解です!」
「ガァアアアアアアッッ!!!」
「かーっ、うっせぇうっせぇっ!」
「流石白虎……というところか。
周りを覆っていた我々への殺気がやんだな」
「なはははは、声に気を混ぜれば誰でも出来ますよぉ」
ほえー、声と気を混ぜる事によって威嚇が可能なのか……。
あ、エミーダの言った殺気ってのはデスウルフからじゃなく、他の魔物の殺気だと思うけどな?
ちょいと呼び方が強引だけど、この森に危機が迫ったと思うハティー兄がそろそろ……出てきたわ。
『…………遠目で白虎殿と空の支配者殿が見えた時は死を覚悟したぞ、レウス?』
『お久しぶりです。
急に申し訳ありません』
『妹と番になった報告を受けた時以来だな』
『ハティーは元気にしてますよ』
『それが妹の取り柄だが…………今日はいないのか?』
『人界で戦争が起きまして、自分がそれに参加してるので今は西の国へ帰らせてます』
『なんだ、身篭ったわけではないのか』
『えぇ、まぁ……』
『それで、今日は何の用だね?』
『戦争の相手…………つまり敵が最近ここら辺をうろついていないか調査してます』
『何か情報もってませんかねぇ?』
『少しの情報だけでもいいのだ』
『あ……恐縮です……。
レウス、この方達と知り合いなのかっ?』
『『友達で~す♪』』
『…………』
『あ、はい。
妹の婿は大物だったか……』
『お騒がせして申し訳ないです』
『ふむ、どういう者達だ?』
『見た感じ圧倒的にお義兄さんより強いって感じの……あ、ちょっと待ってください』
「ゴディアスさん」
「おぅなんやボーズ?」
「ダタタベコムとゴロウジの特徴とかってご存知でしょうか?」
「ハゲと坊主やな」
「……もう少しないっすか?」
「ダタタベコムは……顔が細長かったような気がすんな?」
「レウス、ゴロウジは色黒だ」
「感謝です!」
『赤髪のハーフエルフの大男、灰色髪のハーフエルフの男、顔が細長い髪の毛のない人間、坊主で色黒の人間…………それと、あそこで座ってる人とソックリな人です』
『あの者は……ここ最近ここへは来ていないのだな?』
『双子の弟がいるんです』
『黒い服じゃないか?』
『『『それだわ』』』
見たそうです。
『どこに向かった、もしくはどこを根城にしてるか知ってますか?』
『ウチの戦士もやられてな。
臭いを辿って住んでる場所までは特定した』
『どこですか?』
『ここより北西の小さい廃村だ。
ダダンと呼ばれる都市の西に位置している』
「ダダンの西の小さい廃村だそうです」
「……おそらくクッグの村だった場所だろう」
「こりゃ早速帰って作戦会議だな!」
「了解っす!」
『ありがとうございます』
『どうやら仇討ちは任せた方が良さそうだな』
『仇を討つつもりはないですよ』
『……そうだったな、お前はそういう男だったな。
ハティーからの話を忘れていたよ……』
『それに、俺には倒せませんから』
『それほどの者だったか……では誰が?』
『最狂に怖い人達です』
『それは恐ろしいな』
『若いの、邪魔したのぅ』
『お邪魔しましたぁ』
『弟を頼みます』
『我なんてアレだぞ』
『私もアレですぅ』
『……はぁ』
『そんじゃお邪魔しました!』
『レウス、戦争が落ち着いたらまた来い』
『是非っ!』
ってわけで帰宅しました!
「くふふふ、魔物の情報網を甘く見ていたわ」
「これは一気に叩く絶好の機会でござるな」
「全員いないかもですが、かなり期待値が高そうですね」
「さて、どういう編成で臨むかだが…………補佐の意見を聞きたいね、レウス君?」
こういうのは大体……居残り組、作戦組とで分けると、居残り組が襲われて全滅するってのが相場だ。
こっちの死ぬ確率を上げるよりかは下げた方がいいから……。
「全員で行きましょう」
「しかし、レウス君や私、ミカエルやマイムマイムさんでは戦力としては邪魔になるだけじゃない?」
「正直自分では力及ばないかと……」
「前線で戦うのはデュークさん、エミーダさん、ガラテアさん、オーベロンさん、ゴディアスさん。
そしてチャッピー、マカオ、舞虎、トルソ、ブルスです。
更に、ミカエルさんには前線メンバーへの間接回復でのサポート、可能であれば攻勢に移ってもらいます。
勿論これは一番弱いと思われるスザンヌ、もしくはダイアナを相手にしている味方のサポートからでお願いします。
弱い敵から順に退場してもらい、徐々に強い敵と戦ってる者へのサポートへ切り替えていってください。
勝った者は更にサポートに回れると思いますので、その時点でミカエルさんは引いてください。
俺は自分で空を飛び、イリスさんとマイムマイムさんはバティラに乗り、敵に見つからないで攻撃の受けない高度で戦闘終了まで待機。
万が一の護衛にリボーンにもバティラに乗ってもらいます。
ミカエルさんが被害を受けない場所まで避難したら俺が回収して、バティラがいる高度まで持っていきます。
これは事前に回収ポイントを決めておくのが良いと思います」
「……ボーズ……リボーンは結構な戦力になるから前線に回ってもらった方が良いんじゃねぇか?」
「リボーンは不死ですが、頭が破壊されると死にます。
まぁこれは全員そうなんですが、護衛に回す一番の理由は、あいつにだけ回復が使えないという事です」
「……なるほどのぉ」
「では、全員が行かなくてはならない理由は何かね?」
「ここに残る者を置くという事は戦力の分散に繋がります。
万が一、作戦決行当日に別働隊がこの家に来た場合、ここがもぬけの殻であっても別に被害はありません。
がしかし、ここに戦力を残しておいて別働隊の戦力がそれを上回っていれば、それは大きな被害に繋がります。
したがって全員で向かった方が確実だという事です。
敵に空を飛べる者がいたのなら話は別ですが、バティラがこちらにいる以上、奴らから俺達が狙われる事はありません」
「……今の話、某は仲間外れでござるか?」
「ドンファンさんは最優先でベイダーさんの勧誘をお願いしたいと思います」
「……それは超が付く難関でござるな」
「ドンファンさんからベイダーさんの性格を沢山聞いて考えて決めました。
勇者志望なのであれば、勇者になれる簡単な方法があると伝えてください」
「……具体的にはどう説得するでござるか?」
「戦士ギルドに行って名前を書くだけだと言って説得するのが良いでしょう。
頼み難い事ですが、ブレイブジャッジメントの首はドンファンさんが用意しておくと尚良いです。
ガイさんの説明を30分寝ながら聞くだけでなれると言えば……おそらく攻略できるでしょう」
「ふむ、戦士ギルドと勇者ギルドには某が担いで行けばいい話でござるな?
師匠が行うのは……「名前を書く」事と「寝る」事のみ…………むぅ、お見事でござる、レウス殿!」
「クッグに全員がいない可能性もありますが、いなければいないで戦力は大幅にカット出来ます。
我々を見張ってる敵がいたとしても、敵が味方へ報告に行くより早くこちらが攻撃に移れれば問題ありません。
ただ少し気になる事が……」
「なんだね?」
「廃村って言ってましたが、他に住んでる人いないんでしょうか?」
「ではそれだけ事前に調べてみるか……」
「可能なんですか?」
「ちょっとちょっとちょっと!?
私には無理ですわ!!!
聞いてますの、レウスさん!?」
「いやぁ、サイズ的にも実力的にもトルソしかいなくて……」
「抗議しますわ!
誰ですか、そのおっそろしい隠密作戦考えたのは!?」
「ガラテアさん」
「あ、隠密なんてちょちょいのちょいですわ」
「塩水用意して待ってますわ」
「さ、近くまで送るわよ〜♪」
「チェンジでお願いしますわ」
「じゃあ自分が送るッス!」
「気をつけてな!」
「誰もいないただの廃村でしたわ」
「おし、明日作戦決行です!」
「「「「応っ!!!」」」」