第八十二話「あらやだ」
落ち着け……冷静に対処だ。
「どちら様でしょうか?」
「ちょっとレウス、娘に何聞いてるのよっ」
「乗り移ったか転生か……さぁどっち!?」
「どっちもよ♪」
「……お名前は?」
「前世は魔物だったのよ。
名前はないわ」
「何て種族で?」
「聞いて驚きなさい、私は『朱雀』よ!」
あちゃー……。
「ラーナの人格はどうなるんで?」
「あら全然驚かないのね?」
「質問に答えてください」
「大丈夫、ちゃんとあるわ」
とりあえず安心。
って事は…………。
「今後2重人格的なアレになるんですかね?」
「……動じないわね?」
「俺も転生者なんで」
「あらそう?
私が喋りたい時以外はこの子の人格にするわよ」
「そりゃありがたい。
ところで、舌とかよく動きますね?」
「あははん、気使ってますからね」
何だその笑いは……。
くそっ、全て気で説明出来ると思うなよ!
「ラーナの身体に影響は無いんですね?」
「あるわ」
「……どんな?」
「私の気がそのままこの子の物になるわ」
「…………はぁ」
「レ、レウス……」
「悪い……きっと俺のせいだ……」
「……どういう事?」
「皆を……「外」に集めてくれ……」
「う、うん、皆に言ってくる!」
…………面倒なイベントばっか起きやがって。
「良い男の背中だわ」
「チャッピーはどう思うか……」
「あらやだ、あの人の事知ってるのっ!?」
「後数週間したらここに来るよ」
「あらやだ!」
「青竜も」
「あらやだ!」
「因みに白虎と玄武はここに住んでる」
「あらやだ~、すっごい奇遇ね~」
「100年後に生き返るんじゃなかったんですか?」
「あら、やっぱり私が死んでから100年経ってないの?」
「ほんの数ヶ月です」
「……変ね?」
「まぁ俺のせいかもしれないです」
「あなた……何者?」
「異なった世界からの転生者です」
「……初めて見たわ」
「自分の身体で生まれなかったのは何故なんです?」
「おそらく100年後に生まれてないからよ」
「100年経ったら身体が再生するって事ですか?」
「そうね、そうすればおそらく私も元の身体に戻れるわ」
「はぁ……100年かぁ……」
「まぁ事故だと思ってあきらめて頂戴♪」
「…………そういえば、俺の事知らないすか?」
「レウスって名前、どこかで聞いた事はあるんだけどね」
「冥王が狙ってた者です」
「あー、思い出したわ!」
「そりゃ何よりです」
「さ、あなたの事詳しく教えて頂戴」
「皆を集めてから説明します」
「じゃあ運んで頂戴」
「……気で歩けないんすね?」
「ただその腕に抱かれたいだけよ」
「…………」
マカオが増えた様だ……。
これにオバルスを加えるとエンドレスで喋ってそうだ……。
チーム井戸端!
なかなか合ってるな?
あ、お待たせ。
ホントなんでもアリだなこの世界。
マジで皆付いてこれてるか?
不安になってきたぜ……。
とりあえず全員に外に出てもらって、朱雀の挨拶から始まり、俺の説明と狙われてる理由等々、色々話させて頂きました。
外にでかい円形の木製のテーブルと椅子があったのにはビックリした。
マカオは終始笑ってた。
こっちはそれどころじゃねーっつーの。
舞虎は目をパチクリさせ、トルソは塩水かっくらってた。
ガラードはギンとずっと張り合ってた。
スンは可愛い。
いつもずっと可愛い。
ハティーは木製の机で爪をガリガリしてた。
リボーンは首をカタカタと傾けてた。
ビアンカとキャスカとカイネルは真面目に聞いてたな。
ドンファンも真面目に聞いてたが途中ハティーに注意してた。
トゥースは顎が割れてた。
そしてラーナを乗っ取ってる朱雀は……。
「チャッピーいつ来るのかしら?」
「数週間以内って言ったでしょう」
「じれったいわね」
「こんな事で娘の声を聞きたくなかったっすよ」
「女は急に成長するものよ」
「ほぼ0歳児の娘がテーブルに肘ついて寝てるんすよ?」
「なかなか居心地いいわねココ?」
今までで一番扱いにくいタイプだな。
こういうのはチャッピーに任せよう。
《俺、早くチャッピーに会いたい。
朱雀面倒くさいぞ。
いつになったら会える?》
誰か、これ届けておいてくれ。
「ビアンカ……大丈夫か?」
「最初はビックリしたけど、ラーナがいなくなったわけじゃないんでしょう?」
「そうだけどなぁ……ラーナがある程度の大きさになったらなんて説明しよう……とかさ……」
「あら、それなら問題ないわよ?」
「……どーいう事すか?」
「ラーナちゃんから許可を頂いたんですもの」
「潜在意識的なアレに話しかけたんすか?」
「……異世界の知識ってのは本当に凄いわね?」
「どんな交渉したんすか」
「私を受け入れれば力が手に入ると言っただけ。
……おそらくあなた……あなた達の事、守りたいんじゃない?」
「「…………」」
「あら〜、既に特殊な赤ん坊だったって事ね〜♪」
「そう言われたら何も言えんわ」
「私もよ……」
「レウス元気だせ!」
「鼻水だした方が良いか?」
「ぬぅうううっ」
「ラーナはラーナなのだ!
皆レウスが大事なのだ!」
「おう、ありがとうなのだ」
「きゅいぃ」
「ありがとうな」
「きゅい!」
可愛いやつらめ……。
「レウス殿、先程の話でござるが……」
「オーディスさんの事ですか?」
「うむ、先日師匠に会いに行った時、こんな話を聞いたでござる」
「…………」
「勇者ギルドでも魔王ギルドでもないギルドから勧誘を受けた……と」
「新ギルド……ですか」
「うむ……そしてその師匠なのでござるが……」
「断って狙われたりしました?」
「面白そうだからと入ってしまったでござる」
「うわー……軽いっすねー」
「元々勇者志望だったのでござるが、極度の面倒くさがりでしてな……」
「……戦士からやらなきゃいけないですからね」
「困った師匠でござる……」
「ギルド名、聞きました?」
「確か神者ギルドと言ってたでござる」
……かなり盛ったなー。
神か……元気にしてっかなあの爺さん。
【呼んだかの?】
【…………】
【あれ、おーい……おほん、テストテスト】
【念話的なの出来るんすか?】
【既にお主はワシと密接じゃからの】
【こっちは色々大変になってるんすよ】
【頑張るのじゃ】
【手は出せないんすね】
【当然じゃ、基本的に特別扱いはせんからのぅ】
【じゃあお疲れっしたー】
【…………】
俺のこの世界での世界観がどんどん壊れていくな……。
「レウス殿?」
「いや、世界は不思議だらけっすね……」
「?」
しかし既に新ギルドが出来てるとなると、勇者ギルドの対応は遅かったって事になるのか?
早ければもう始まってるか?
デュークやマイムじーじ達は大丈夫だろうか?
あ、マイムじーじは討伐には参加しないけど向こうにいるんだ。
神者ギルドの奴らと戦争とか勃発してそうで怖いな……。
「しかしレウス君はこれからどうするんですかぁ?」
「どうするって?」
「狙われてる理由がわかり、チャッピーさんもブルスさんもこちらへ戻って……その後の事ですねぇ」
「とりあえず皆に守ってもらってばかりじゃダメだと思うんで……とにかく強く……ですかね?」
「そら立派ですわ」
「あー…………その……皆さん、これからも宜しくお願いします」
「「「「当然!」」」」
「…………恥ずいっすね」
「ふふふ、さぁレウス殿、某の作品を案内するでござるぞ!」
その作品にビックリ……。
ラーナに会いに行った時、リビングがやけにでかいなとは思ったんだが、外からガラードの身体がすっぽり入る様な工夫がされてた。
流石に舞虎のサイズは無理だったが、拡張部の天井から舞虎も覗ける仕様になってた。
これでガラードも一緒に飯が食える様になったな。
前はほぼ顔だけだったしな。
玄関前には番馬、番鳥、番虎用の小屋が設置されてる。
まぁこれは帰って来た時に気付いてたけどな。
ガラードどころか舞虎も入るから相当デカイ。
どっかの港の倉庫レベルの大きさだ。
客間…………というか部屋が更に4部屋増えてた。
1つリボーンが使うとして……残り3つに変なフラグを感じる……。
あ、ギンはハティーの部屋とスンの部屋を行ったり来たりしてるそうだ。
部屋が欲しくなったら余ってる部屋をあげるんだが、まぁまだ子供だから……な。
「レウス様」
「カイネルさん……俺そんな風に呼ばれてましたっけ?」
「お気に召しませんでしたかな?」
「違和感たっぷりです」
「しかしお仕えする身ですからな」
「今まで通りでいいですよ」
「ではレウス殿」
「はいなんでしょう?」
「最近中央国の民がよくここへ来るのですがどう対処しましょう?」
「不快に感じる人がいなければ別に良いんじゃないですか?
どうせマカオや舞虎さん達を見にきてるだけでしょう?」
「舞虎殿に確認したところ見るのは構わないとの事なのですが、私としては敷地内に入られますと……」
「そっすね……俺、今の俺の家の敷地がどれくらいあるのか知らないんですけど?」
「ダイム様に確認致しますので、簡単な柵を設置して良いでしょうか?」
「まぁラーナもギンもいるし、防衛……というより防犯の意味では良いかもしれませんね。
しかし……大変じゃないですか?」
「我が一族ならすぐに出来ますよ」
「それじゃあ皆で作りましょうか」
「ハッハッハッハ、あなたの治める国を早く見てみたいものですな」
「大げさですね」
「果たしてそうですかな?
…………ではダイム様に確認して参ります」
「お、お願いします……」
そういや俺……最終的にこの国統治しなきゃいけないのかしら?
いや、無理だろう?
私、一社会人ですけど?
まぁ今は……違うけどさぁ……。
あれ、ますます隠居編が遠くなった気がするぞ?
ダイムじーじには俺より長生きしてもらわねばな!
…………どうしよう?
それから数日後だ!
最狂のご帰還だぞ!
死亡フラグに負けず戻って参りました!
「アハハハハハッ、逃げられちゃったよっ」
「でしょうね」
そんなフラグが確かにどっかにあった。
「だけどこれでオーディスさんは勇者ギルドから完全除名だねっ」
「除名になったらなんかあるんですか?」
「対応が魔王と同じ扱いになるねっ」
「普通に勇者を辞めてもって事ではないんですよね?」
「それは引退だからねっ」
「なるへそ」
ギルドから「こいつ勇者クビ」ってなったら魔王と同じ扱いか。
まぁオーディスなら納得だわ。
相当な事をしでかさないと起きない事態なんだろう。
「で、その子がギンちゃんかなっ?」
「そうですね」
『ほれ、ギン……この家の守護者様だぞ』
『あははははっ、それは面白い言い方だねっ。
初めまして、デュークですっ』
『お、お前も話せるのかっ!?』
『仲良くしてねっ』
『よ、よろしくおねがいします!』
『はい良く出来ましたー!』
『なんか嬉しくないぞ!』
『あはははっ、とても可愛いねっ』
『か……かわ……』
『あぁ、そうだ……人間言語を覚えたかったら、俺でもハティーでもデュークさんでも気軽に聞いていいからな?
あ…………マカオは絶対ダメだぞ?』
『うん!』
やはり頭が良いな。
あ、因みにギンは7歳だそうだ。
女の子だったらマカオに教わっても問題ないんじゃ? とか思っちゃった?
卑猥な事も教えてくるからまだギンには早い……というか早すぎる。
「レウス、ガイとガラテアが来たぞ」
あら、どうしたのかしら?
「いらっしゃいませ」
「……ガイ」
「かしこまりました」
「どうしたんです?」
「レウス様へお手紙です」
「またオバルスさんですか?」
「レウス様……正確にはこの家に対してですね」
「……?」
「神者ギルドより宣戦布告されました」
……俺死ぬかも。




