第七話「来客」
魔石の説明させて?
言っとかないとわかんないと思って。
優しいだろ俺?
魔石は装飾屋に頼めばアクセサリーにしてもらえる。
アクセサリーは指輪、腕輪、首飾りで全てだ。
リングは二つ、バングルは二つ、ネックレスは一つまで装着できる。
試したらチャッピーは角で効果が表れる。
スンは尻尾、頭、手の1箇所ずつで効果が表れる。
マカオは首、角2本で効果が表れた。
サイズ的に装着出来ればもう少し増えるのかも?
当然、全部の指にリングを着けようとする奴も現れるが、最初の指にはめた魔石の効果しかのらない様になっている。
理由?
知らねぇよ。
チャッピーやキャスカが言うには、それが世界の理とか、都合の良い事言ってきた。
んで最後に……大きな都ではウェポンエンチャントという技術が存在するらしい。
武器に魔石をはめ込む技術だ。
はめ込む……んー、埋め込む技術かな?
武器によって埋め込める数が違うらしい。
キャスカのブロードソードは一個入るそうだ。
ユグ剣はその鍛冶屋に見せないとわからないとか。
まぁ、三個以上魔石が埋め込められる武器はレア武器だそうだ。
ユグ剣なら入りそうだな。
ウェポンエンチャントは非常に高額だそうだ。
武器によって値段が変わる。
埋め込んだ魔石は二度と取り出せない。
レア武器に安価な魔石を入れられないって事だな。
入れてもいいけど、勿体無い。
いいよね?
これ、前振り終わったよね?
別にウェポンエンチャントしに来た訳じゃないんだからねっ!
まぁ、振りは鍛冶屋のとこだけだ。
後はおまけみたいなものだと思ってくれ。
そんなわけで私、西の国チャベルンの町まで来ております。
でかい。
エヴァンスがすっぽり7個くらい入る感じだ。
なんと、今日はソロです。
一人旅です!
因みにチャベルンの北東にユグドラシルの木があって、その南東にエヴァンスがある。
実は近かったチャベルンちゃん。
ユグドラシルの木から走って30分。
因みに8歳の時にエヴァンスまで30分かかってたけど、10歳になった今は20分程で着くぞ。
これ自慢な。
んで、この町に忠犬の爪を剣に加工してもらう為に来たのだ。
クエストっぽいなこれ。
スンも来たがったんだけど、来れない理由があった。
鞄に爪が入ってる。
その中にスンを入れようとすると、きっとちょんぱだ。
チャベルンに着いた時、鞄の中には爪とスンの死体が入ってそうだからやめた。
鞄が斬れるだろうって?
俺が慎重に持ったから大丈夫だ。
そういった突っ込みは回避するぜ?
スンについては剣が出来たら連れて来てあげよう。
チャベルンの街並みは木造建築の多いエヴァンスとは違い、石造建築の家が多かった。
この町の一般人を探そうと思ったけど、親切な事に町の東西南北の入口、そして中央に戦士ギルド用の案内板があった。
鍛冶屋は……南だな。
まぁ、支配者の爪だからな。
きっと加工に値が張るか、「うちじゃできない」とか言われるんだろう。
クエストってのは大体そんなもんだ。
値が張った時はユグドラシル錬金をしよう。
出来ないと言われたら、出来る場所を聞こう。
それがクエストだろ。
一応金は持ってきた。
この半年で結構溜まった、全財産251万レンジ。
これで足りなきゃしゃあないな。
錬金だ。
南地区は治安が悪そうだ。
ひでぶって言いそうな奴らが結構いる。
お金は鞄に入ってるし、その鞄は慎重に持ってるから大丈夫だろう。
他の家より少し大きい石造建築の家に着いた。
入口には金槌だかハンマーの様な金属の看板があった。
ここが鍛冶屋っぽい。
ここが鍛冶屋じゃなかったら、どこが鍛冶屋なんだってくらいカンカン響いてる。
「お邪魔します」
「あぁ?」
店の主人……モヒカンだ。
ガタイが良くて左足がない。
モヒカン以外は禿だけど髭は剛毛。
「素材から剣への加工依頼をお願いしにきました」
「ほぉ、坊主の剣か?」
「はい」
「ん、お前、ちょっとその剣見せてくれねぇか!?」
ユグ剣か。
お目が高い。
こちらは、さるお方の力作でございます。
刀身は両刃、柄は持ちやすく、斬れ味は保証させて頂きます。
製造時間はおよそ半日。
左手のみで造られた一振りです。
「どうぞ」
「こりゃあ……ユグドラシルの剣か!」
「はい」
そんなまじまじ見るとこをチャッピーが見たら、きっと頬が酸化した血の色に変わるだろう。
「すげぇ一品だな、初めて見たぜ」
このユグドラシルの剣を「初めて見た」という事は、チャッピーの爪の加工は難しそうだな。
「で、加工するのは?」
「これです」
カウンターに犬の爪を置いた。
一瞬、店主のモヒカンが光った気がした。
そしてその店主が固まった。
まぁ、そうだろうな。
おい店主、そろそろ動けよ。
「あの、可能でしょうか?」
「おめぇ、これを一体どこで……?」
質問に答えろよ。
それじゃテンプレじゃねーか。
「俺が斬り落としました」
「冗談……じゃなさそうだな。
あの剣の使い込み様はかなりのモンだったしな」
お前やるな、褒めてやる。
で、どうなんだ?
「ん~……」
結論から言えよ。
そのモヒカン斬り落とすぞ?
お?
「結論から言うと、出来る」
お前すげーな。
俺の心読んだのもすげーけど、この爪を加工出来るって事がすげーよ。
「何が必要ですか?」
ここは時間をはぶかせてもらうぜ?
まぁ、このテンプレ親父の事だからな。
金と時間と材料ってとこだろ。
「金と時間……それと材料だな」
おい。
すこしは捻れよ。
いや、しかたねーけど。
「お金はいくらほど?」
順序よく聞いていこう。
回り道はしたくないからな。
「100万だ」
「はい」
とりあえず、鞄から革袋を出して100万レンジをカウンターに置いてやった。
「おめぇ何者だ?」
「で、時間は?」
時間かけたくねーんだ。
さっさとしろぃ。
「材料が手に入って数ヶ月ってとこだな」
よし、ここまできたぞ。
これが難問じゃなきゃいいんだろうが……。
さて……。
「で、その材料は?」
「これより小さくて構わない。
これと同じ材質の物があれば…」
なるほど。
……さて、チャッピーの爪斬りに行くか。
先っちょだけ。
そう先っちょだけ斬ってくればいいんだから。
先っちょだけ。
「わかりました、今日もしくは明日にその材料をお届けします」
「で、できんのかい!?」
「楽勝です。
その爪とお金は預かっておいてください」
「お、おう!」
さて、加工は可能だとわかったんだ。
とりあえず帰ってチャッピーをちょんぱだ。
で、囲まれた。
チンピラAが現れた。
チンピラBが現れた。
チンピラCが現れた。
チンピラDが現れた。
チンピラEが現れた。
「へっへっへ、さっき鍛冶屋の窓の外から覗かせてもらったぜぇ?
すんげぇ金持ちだな、俺達にもお小遣いくれよ?」
「なぁ、少しだけ恵んでくれよ?」
「よこさねーと、どうなるかわかってるよなぁ?」
「グフグフ、グフフフフッ」
「殺っちゃう?
もう殺っちゃう?」
この町はテンプレを吐く奴等が多いな。
このテンプレーズは俺の金が欲しい様だ。
残り151万レンジ……さてどうしたものか……?
……5人か。
「じゃあこれを」
「「「「「え?」」」」」
一人10万ずつ渡してやった。
感謝しろ一般人の給料十ヶ月分だぞ。
「そのお金でちゃんとした服買って、真っ当な仕事に就いてください」
「あ……え?」
「次見かけた時更生してなければ、その服ちょんぱしますから」
「あ、はい」
ふふん。
あの五人の若者がどうなるかおじさん楽しみ♪
で、帰ってきた。
漏らした。
もりもりもりっ感じだ。
ホント酸化した血の色って感じ。
あ、肌の話ね。
羽はあるけど少し小さい。
アンの瞳以上に深く紅い瞳。
チャッピー並の大きな身体。
あれはなんだ……戦車の様な身体だな。
後足が異様にデカい。
手は小さいけどマジで怖い爪が生えてる。
額には角が二本。
牙が強烈な印象だ。
なんだろ羽生えたTレックス巨大化版みたいな?
ピ○ルがビックリしそうな感じだ。
あ、オカマが来た。
「お帰りレウス~、お客様が来てるわよ♪」
あれを客と言うのか。
あれは現世では怪獣と言うんだ。
怪獣に知り合いはいない。
「あぁ、レウスにじゃなくてチャッピーのお客様よ?」
だろうな、あれはどう見てもチャッピーサイズだ。
「で、あれはなんだ?」
「あれは大地の支配者よ♪」
大地の支配者きたこれ。
あ、チャッピーがデレデレしてる。
キモイキモイ。
その少し離れた場所で、スンとキャスカが闘ってる。
キャスカが剣を振る。
スンが身体で受ける。
カキーンって言ったわ。
硬化の魔石すげぇ……。
で、キャスカがいつも通り泣く。
スンがいつも通り慰める。
そして慰め失敗。
あ、俺に気付いた。
更に泣いた。
帰れよ。
あぁ、そうだった忘れてた。
チャッピーの爪斬り落とさなきゃ。
けど邪魔しちゃ悪いかな?
いや、今日中にもっかいチャベルンに行くんだ。
「チャッピー」
「おぉ、レウスか、この子が前に言ってたアース・ルーラーだ」
子って図体じゃねーだろ。
あ、目が合った。
殺される。
「あらやだ可愛い子じゃない」
おばさんみたいなドラゴンだな。
「なによチャッピー、こんな可愛い子なら手紙に書いてくれればいいじゃない!
わかってたらお土産持ってきたのに」
今、手紙って言ったな。
こいつら手紙システムを導入してるのか?
サイズと配達手段が気になるな。
既にチャッピーの改名を知ってたのか……やはり手紙に?
それとも俺が出掛けてる間にもう話してたのか?
とりあえず殺されたくないから最初は紳士だ。
「初めまして、レウスです。
チャッピーにいつも修行つけてもらってます」
「私はアースルーラー、よろしくねレウスちゃんっ」
チャッピーが尻尾を振り始めた。
早めに用事だけ済ますか。
「チャッピー頼みがあるんだ」
「ん、なんぞ?」
「あの爪さ、加工出来るらしいんだけど、加工するには爪の先っちょがもう一つ必要なんだ」
「うむ、そういう事なら仕方ないな……ほれ」
チャッピーが指を差し出した。
なんかシュールだな。
「よっ!」
チャッピーの爪の先っぽを20センチ程に斬る事に成功。
「レウスちゃん」
なんだおばさん。
「私にも名前付けてちょーだい」
名前付けると、ここで生活するジンクスが出来つつあるから怖いな……。
「お・ね・が・い・♪」
寒気がした。
チャッピーが嫉妬してる。
安心しろ。
この怪獣はお前のだ。
しかし名前か。
オバサン恐竜。
オバサンサウルス……。
オバルス。
これだな。
「じゃあオバルスで」
「あらやだ素敵」
どこがだ?
「あぁ、とても素敵だよオバルス……」
「やだチャッピーったら……」
なんだ結構いい雰囲気だな?
俺が勝手に片思いだと思ってただけか。
お似合いだしいいか。
決して俺の前で交尾はするなよ。
是非数キロ離れた場所でやってくれ。
「スン、チャベルン行くけど来るか?」
「きゅきゅ!!」
今回の爪の大きさなら鞄に入れる必要はないだろうからな。
キャスカが仲間になりたそうにこちらを見ている。
でも、キャスカ遅いしな……。
あぁ、そうか。
「マカオ、キャスカ乗せて付いて来てくれよ!」
「は~い♪」
キャスカはマカオにライドオンしてチャベルンにゴーした。
マカオから見ると俺は遅いだろうけど、こいつは不満言わないからな。
ドMっぽいし。
さて、チャベルンから少し離れた湖に着いたが……。
んー……どうしたもんか。
マカオが行く気まんまんだ……。
スンも今回は歩きたいみたい。
つまり町に魔物が二匹現れるわけだ。
スンは戦士ギルドに所属してるからなんとかなりそうだが……。
マカオはなぁ……。
馬って事に出来る……わけない。
よし、とりあえず行ってみよう。
はい入口まで来ました。
ただいまチャベルンの警護兵に取り囲まれてます。
キャスカがテンパって、スンが――
「きゅ?」
可愛い。
マカオなんて――
「レウスより良い男がいないわね」
死ねばいいのに。
まぁ、言い訳から始めよう。
「私は魔物使いのレウスです!
この町に魔物を入れる許可を頂きたい!
この子はエヴァンスの町長、トッテム・アドラーの娘、キャスカ!
そしてこの子は、魔物でありながら戦士ギルドに所属しているスンです!」
「あらレウス、あなた魔物使いなの?」
オカマは黙ってろ。
キャスカの名前を少し利用させてもらったが、ようやくキャスカも混乱が回復してきたみたいで、状況がわかってきたっぽい。
なんか偉いっぽい警護兵が出てきた。
「申し訳ないがそういう判断は私達では出来ない。
今からチャベルンの長、ダニエル・ホッパー様がこちらに来る。
それまでの間、町には入らず、ここで待機をお願い出来るだろうか?」
「わかりました」
「は~い♪」
お前やっぱ帰れよ……。
「きゅ?」
スンはいいんだ、可愛いから。
待つ事20分。
気の良さそうなおっちゃんが来た。
なんかスーツっぽいの来てピっとしてる。
気の良さそうな顔だけど、はてさて実際は?
「君が魔物使いかね?」
「はい、レウスといいます」
「ダニエルだ、よろしくレウス君。
おぉ、キャスカちゃん、久しぶり」
「お、お久しぶりですダニエル様!」
ちゃん?
はなみずが?
「そして、戦士ギルドのスン君かな?」
「きゅ!」
「おぉ、可愛いなぁ」
おぉ、このおっちゃんなんか良いぞ!
大人だ!
「して、君は?」
「あらなかなか良い男じゃない♪」
言葉選べよ糞が。
「彼はマカオ、伝説の霊獣、騏驎です」
「おぉ、あなたが……」
ところで霊獣って魔物なの? って思っただろ?
マカオに直接聞いたら、魔物に属するらしい。
あ、この世界だけの話だからな?
フィクションですと言っておくべきか?
まぁ、そういう事だ。
「よろしく~」
威厳がねぇな。
「ダニエル様、この町にこの二人が入る許可を頂きたく思います。
もしそれが難しいというのであれば、この二人にはここで待機する様に言いつけます」
「ふむ、私は構わないのだが、住民が不安がる事が懸念なのだ」
「でしょうね……」
だよなー……あ、こういうのはどうだ?
「では、ダニエル様がこのマカオに跨ってはいかがですか?」
「おぉ、それは良い考えだが……いいのかね?」
「えぇ、いいわよ♪」
「スライムなら歩いてもそこまで気にならないかと思います。
なんなら2、3人護衛を付ければ……あ、まぁ、少し図々しいですかね」
「いや、私は珍しい物や事には目がなくてな、構わぬよ」
あぁ、RPGにこんな人いるいる。
コレクター的なヤツな。
「ところで、レウス君はこの町に何の用が?」
「南地区の鍛冶屋に依頼があるんです」
「鍛冶屋……モヒカンの所か」
おい、それ名前なのかよ。
「長居はしません。
依頼を終えたらすぐ帰りますので」
「気にしなくて大丈夫だ、では行こうか」
「はい」
このおっちゃん良い人だ。
こうして俺達は、魔物を連れて町に入る事に成功した。