第七十八話「イモちゃんと神と髪と謎」
「そうなのよ~、それで今レウスの家ってわけ~♪」
「カタカタカタカタカタカタッ」
「あらあなたも~?」
「カタカタッ」
「レウス~、イモちゃんが名前欲しいって~♪」
絶対読んだ奴「あれ、一話飛ばしちゃった?」とか思ってるよ。
今ね、エルフの里に着いたんだけど……まぁ前に話した通り、ここは魔王と勇者の中立地帯で、魔王も利用するわけですよ。
勿論、人の魔王が使うだけで魔物なんか基本来ないんだが……イ、イモちゃんは別だ。
なんたって剣士だからな。
不死王イモータル・セイント……魔王の9位だ。
容姿は前に言った通りただの骸骨。
マカオの話じゃ聖剣にウェポンエンチャントしてないって事だったんだが、なんか今日初めてウェポンエンチャントをしようと来たそうだ。
喋れないんだけど筆談は可能らしい。
どうやら大きい黒い竜が「魔石めっちゃええでっ、使ってみっ!」って教えてくれたそうだ。
ここでアピールしてきたかアイツ……。
んー、マカオは高いレベルで意思疎通が出来るみたい。
魔界のエルフの里は……基本的に人界のエルフの里と変わらないな?
入り口の柵みたいなのは通ったら風化するし、整地されてない地面に手作り感満載の木造建築の家がずらっと……。
がしかし、こんなところでイモちゃんに会うとは思わなかったな。
「デュークさん、聖剣が目の前にありますよ?」
「あはははっ、こんな面白い人だったとはねっ。
名前はどうするんだいっ?」
俺は魔物も人と言うが、デュークもこの段階まで来ちゃってるみたいだな。
いや、俺としては良い事だと思う。
勿論、中には「人」と扱われる事を嫌う魔物もいるかもしれんが、名前を欲しがる奴でそういう奴は見たことがない。
そもそも言葉としての「人格」って人って字が入ってるからな……「魔格」とは言わないだろうし、人格あるからこそ俺は魔物も「人」って言ってるわけだ。
あ、人格ない奴には付けてないぞ?
ない奴には「匹」とか「頭」で数えたりしてる。
まぁこれは過去のアレを見てくれればわかるこった。
この世界の謎なんだが、皆固定概念が強いと言うのか、「悪」と言ったら「悪」みたいな感性なんだよ。
やり直しとか更生とかそんな感じの話をほとんど耳にしない。
事実デュークは俺と出会わなかったら、魔物と遭遇したら斬ってる様な人間のままで、魔王と会っても戦って殺すみたいな生活を続けていた可能性が高い。
俺が何かしらのトリガーになってるのか?
特に魔物と俺との関係だ。
俺以外に魔物と仲が良い奴を見た事がない。
もちろん俺に関わった勇者ハウスの人間とかは別だぞ?
他で仲良くやってるとしたら……仲良くやってるかはわからんが、「魔王」だ。
なんかおかしいんだよ……ピンにしたって最初スンと出会った時、石投げて倒そうと思ってただろ?
倒すとか、俺の世代の人間には「耳に慣れた言葉」だが、倒すってつまり「殺す」って事だぞ?
ピンはあの時まだ小さかった。
昆虫とかならまだ……ま〜だわかるんだが、小さいピンが自分と同じ位の大きさの……しかも怯えてる生物を殺そうとかあまり思わないよなぁ……。
なんか世界自体が未熟で未完成の様な……そんな印象だ。
むぅ……色々考えすぎてこんがらがりそうだぜ。
俺に関わるやつの変化こそが魔王に狙われる理由なのかもしれんな……。
しかしそうなると魔王はどうやってそれを知り得たんだ?
やはり転生者だってのがバレてるって事なのかしら?
転生者だからなのか?
んー、俺がこの世界の人間と違うとこはなんだ?
一度死んだ、前世の記憶がある、魔物と仲良くなれる、回復系が得意……。
違うな、もっと根本的なとこか?
んー、根本的に言ってしまえば「この世界の人間じゃない」って事だな。
知り得た経緯はともかく、これを魔王が知ったとしたらどうなる?
んー、なんか本当に頭痛くなってきた……。
気のせいか身体も熱い?
風邪かしら?
あ、イモちゃんの名前どないしよ?
「レウス~?」
「レウス君っ?」
「え、あぁ……すみません」
「カタカタカタッ」
「あぁ、大丈夫です」
「レウス……イモちゃんが何て言ってるかわかったの?」
「何言ってんだ、表情である程度は…………」
そういや骸骨に表情はねぇな?
なんでわかったんだ?
「勘……だと思います」
「あそこまで言いかけて「勘」はないでしょっ」
「んー、分析しづらいんです」
「ふ~ん」
「おそらくマカオとイモータルさんの対話を見ていて……イモータルさんの、性格みたいなのが……身体でわかったのかも、しれない、です……」
「レウス……大丈夫?
かなり顔色悪いわよ?」
「ホントだね、すぐに宿に向かおうっ」
「あ、すんません……。
イモータルさん……名前は「リボーン」で……」
「カタカタカタッ」
「ははは、どう、いたしまして……」
「「…………」」
「あぁ、そういや鞄に……ユグ葉が……」
「レウス君っ!?」
「レウス!」
すまん、こっから記憶ないんだ。
「で、今も目が覚めてないんだけど意識がある。
なにこのフワフワ感?
アタシこんなの初めて~! ってな」
「えーっと、そろそろいいかのぅ?」
「目の前に神がいる……前と…………あれ?」
「今回は思った事も全部声になる様になっとる」
「わかりました、リテイクいきます。
目の前に神がいる……前と一緒で自分の髭を踏んでる変な爺だ」
「あ、また踏んでるのか?
いや、申し訳ない……というか、それやらなきゃいけないんかのぅ?」
「仕様なんです」
「そこをなんとか」
「なんとかしましょう」
「うむ、助かる」
「で、また俺死んだんですか?」
「いや、ワシが熱を起こさせて倒れてるだけじゃ」
「とんでもない爺だ……これでよく神を名乗ってられるな?
やっちまうか?
お?」
「…………」
「…………」
「…………」
「癖なんです」
「存じておる」
「じゃあその理由を聞きましょう」
「せっかく長寿という特典を付けたのに、狙われるとは災難じゃのう」
「この機会ですから、是非その狙われる理由とやらを聞きたいです」
「うむ、それを伝えにきたのじゃ」
「最終回が近くなりそうなイベントだなこれ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「癖なんです」
「存じておる」
「…………」
「安心しろ、最終回はまだ先じゃ」
「何言ってんだこの爺?」
「…………」
「…………」
「…………」
「癖な――」
「存じておる」
「…………」
「ワシが教えられるのは冥王と呼ばれる者の正体と、お主が狙われる理由……まぁ理由といっても触りの部分じゃ」
「それ以外は俺が転生した事と関係ないから教えられないと?」
「話が早くて助かるのぅ」
「俺……皆が一番聞きたいのは、「何故今になって教えるか?」ですけど?」
「色んな世界の神やってると順番待ちは仕方ないんじゃ」
「それで14年半かかったと?」
「うむ、その通りじゃ」
「そりゃしょうがないですね……。
で、冥王の正体ってのは?」
「神の1人じゃ」
「はい詰んだー」
「…………」
「今のは発言として認識してましたよ?」
「そう言うのもわかる。
しかし元神じゃ、実際にはあまり強くもない」
「具体的には?」
「あのデュークという青年よりちょっと強い位じゃ」
「今皆が「それじゃダメじゃん」って突っ込みをしてると思います」
「ワシもそう思う」
「ちょっと強い位なら、数で対抗すればイケる気がするので……まぁそれはいいです。
それでその……冥王は元神だから俺が転生者だと気づいたと?」
「うむ、それも異なった世界のな……」
「ついさっき俺も考えたんですけど……それの何が?」
「宮崎剣人……ワシが言えるのは1つだけだ。
お主は「このストレンジワールドの世界の理から外れている人間」だと……」
「そう言って神は消えて行った……。
しかしここにきて急に神の登場かよ……。
皆付いていけないんじゃないか?
この髪の登場で「これはちょっと……」とか思われたりしそうだぞ?
あいつはそれを知ってて登場したのか?」
「……まだおるわ」
「今退場の流れだったでしょうに……」
「お主の熱を引かせたら退場するんじゃ」
「つまりユグ葉じゃ効かないって事ですか……」
「その通りじゃ。
……ところで、「神」と「髪」の掛け詞で遊ばない様に」
「気にしてるんですか?」
「気にしてる者に普通聞かないじゃろうに……」
「おかげで神でも不可能な事があると知りましたよ」
「お主を死なせてしまった時点で不可能な事があると気づくべきじゃ」
「そりゃ確かに……」
「うむ……」
「じゃあ、ちゃちゃっとお願いします」
「むぅん……暑いの熱いの飛んで行けー!」
「自分だって掛け詞で遊んでるじゃねーか。
ホントふざけた爺だなおい」
「…………」
「…………」
「…………」
「癖な――」
「さらばじゃ!」
長い会話だった……。
しかし「このストレンジワールドの世界の理から外れている人間」か…………これだけしか教えられないって事か。
つまり元神とやらの冥王も、この情報までしか知ってないって事かしら?
この情報からどうすれば俺を狙う理由に辿りつくかだな?
世界の理か……マカオちゃんに聞いてみるか。
「ん……ん……うぅ」
「レウス!」
「ケント君っ!」
「カタカタッ」
「……なんで俺がイモちゃん……リボーンさんと寝てるんですか?」
「ユグドラシルの葉でもレウスの熱が引かなかったから、レウスの身体を冷やす為に体温のないリボーンが率先して協力してくれたのよ〜?」
起きたら骸骨が隣に寝てるんだぞ?
恐怖しか感じないわ!
いや、ありがたいけどな?
骸骨と添い寝をした主人公はある意味斬新かもしれん。
「リボーンさんありがとうございます」
「カタカタカタカタカタッ」
「いいですよ、俺なんかでよければ?」
「カタカタカタカタッ」
「「…………」」
「マカオみたい友達になってって言われたんですよ。
マカオもこれくらいは話せるんじゃないの?」
「アタシのは感覚的に話せるだけよ」
「ほえー」
「なんか、ケント君スッキリした感じだねっ」
「覚醒イベントはなかったんですが、核心に迫るイベントが起きまして……」
「面白そうだねっ、是非聞かせてよっ」
「前に言ったアレ……神が現れました。
ユグ葉で熱が引かなかったのは神がそれを引き起こしたからだと」
「カタカタカタカタッ」
「もう友達だからリボーンさん……リボーンにも話して良いんです」
「カタカタッ」
「それで神様は何て言ってたの〜?」
「冥王ヘル・デスの正体と、俺が狙われる理由の2つを教えに来たと」
「随分待たせたねっ」
「他の世界の神もしてるから忙しいそうです」
「理屈で説明出来る神様も珍しいわね〜」
「カタカタカッカッカッ」
そんなバリエーションもあるのか……。
なかなか可愛いな?
いや骸骨だけど……うん、何となく察してくれ。
「冥王の正体は元神だと」
「あら〜、落神ね?」
「なんだその落武者みたいなのは」
「昔もいたわよ〜、どっかの勇者に倒されたらしいけど」
「ほ〜、マカオの中ではその答えに行きつかなかったのか?」
「落神がいたのは私の生まれる前だし、今の今までそんな存在も忘れてたわ〜♪
多分私より朱雀ちゃんに聞いた方がわかるんだけど……ね♪」
「そりゃ、しゃーねーな」
「ケント君の狙われる理由っていうのはっ?」
「それが少ししか教えてくれなくて、「世界の理から外れる者」だと言ってました」
「「「…………」」」
「う〜ん、世界の理……単純に言うとこの世界の常識から外れてるって事よね〜?」
「この世界の常識かっ、どれが常識なんて人によって違うからねっ」
「カタカタカタカタッ、カタカタカカカカ」
「へ……?
リボーン、今何て?」
「カタカタカカカカッ」
「んや、その前その前」
「カタカタカタカタッ」
「…………それかもしれん」
「「「……?」」」
「ちょいと外出ましょうか。
まだ確信が持てないので……」
さて、どうなるかな……。