第七十三話「ブラッディデビル」
『離せ離せ離せー!』
女の子だな……。
ブラッディデビルの中じゃ可愛い部類だろう。
……赤黒いけどな?
ピンだったら惚れてるだろうな。
背は……ハティーよりかなり小さい。
6歳か7歳ってとこか。
「レウス、どうするのだ!?」
「魔界出発前にちょっとした事件ね〜♪」
「あぁ……」
『……初めまして』
『!?』
『お前、ブラッディデビルだろ?』
『お前……話せるのか!?』
ペタペタした喋り方だな。
まぁこの年齢なら仕方ないか。
『レウスだ……お前は?』
『…………ギン』
そう、ブラッディデビルは名前の文化があるんだ。
まぁこれは皆もわかってる事だが、理由は簡単だったりする。
人界に住んでるんだから人界に倣って……それだけだ。
頭の良い種族だったからな。
人間の亜種と言われても納得するかもしれん。
しかしギンか……。
男の子みたいな名前だな?
いや、本当に男の子かもしれん。
聞いてみるか。
『ギン……女の子だよな?』
『女性に対して失礼な奴だな、お前』
『悪かったよ……それと、お前じゃなくてレウスだ』
『……ふん!』
「レ、レウスさんは魔物と喋れるのですかっ!?」
「アークの父ちゃんも喋れるぞ」
「父上がっ!?」
そこは教えてないのかよ。
『それで……何で盗んだんだよ?』
『…………』
だんまりでござる。
「アーク、何盗んでたんだ?」
「……リンゴですねっ」
定番じゃねーか!
こうなると見えてくるな。
腹が減ってた……理由は親が死んだから食う物に困った…………まぁこんなトコか。
……おや、あれはリンゴの店の店主か?
「あぁ、捕まえて頂いてありがとうございます!
こいつめ、警備隊に突き出してやる!」
「あぁ、すみません。
こいつは俺達が連れていきますよ」
「おぉ、それは助かります!」
意外にあっさりだな?
「頼んだよ、アーク君!」
「はいっ!」
アークのおかげか。
有名なんだなこいつ。
さて、あんまり聞きたくないが親の事聞くか。
『ギン』
『……助けてくれたのか?』
『ん、あぁ……わかったか?』
『少しだけ人間の言葉……わかる』
『大したもんだ』
『父上が教えてくれたんだ…………ぁ』
自分で地雷踏んじゃったなおい。
……目ぇウルウルじゃねーか。
やはり悲しむ魔物もいるんだな。
人間に近いからなのかしら?
「アーク離してやってくれ」
「は、はいっ!」
「マカオ……悪い」
「うふふふ、そこがレウスの良い所じゃな〜い♪」
「ハハハハハッ、そうなのだ!」
「ど、どういう事ですっ!?」
「行き先変更だ。
お持ち帰り出来る美味い飯屋を紹介してくれ」
「…………あっ!
りょっ、了解ですっ!」
『ほれ、行くぞ』
『…………』
アークオススメのホットドッグ屋に案内された。
レイアの邪悪料理を食ったばっかりだったが……確かに肉の良い匂いが……。
『いくつだ?』
『女性に対して失礼な奴だな、レウス』
『ちげーよ、何個食いたいんだよ?』
『……い、良いのか!?』
『いらないのか?』
『ご、5個!』
『めっちゃ食うな』
「他に食う奴いっか?」
「欲しいのだ!」
「アタシも〜♪」
「……わ、私もっ」
「遠慮すんなって」
「はいっ、では8個程っ!」
……大食いだな。
『ほれ』
『い、いただきます!』
うーむ、食前の挨拶が出来るとはしっかりとしてるな。
親の指導力が伺えるな。
その子供が盗みに走るということは……相当腹が減ってたに違いない。
喉に詰まるフラグがあるし水分も買っとくか。
『うぅ、……く、苦しいっ』
早速かよ。
『ほれ飲め』
『……ん……ん……ぷぅ。
生き返った……』
『そりゃ良かった』
『ギン、ハティーなのだ!』
『マカオよ〜♪』
『…………ギンだ』
「おぉっ、自己紹介ですねっ!?
アークですっ!」
「……アーク?」
「つつつ伝わりましたよレウスさんっ!」
「そりゃ何よりだ」
『さて、落ち着いたところでギンの話を聞こうか』
『……話す事は……ない』
『そうはいかん。
盗んだ事を悪い事だと理解していなかったら、また繰り返す可能性があるからな』
『…………悪いとは……思ってる』
『なら良い。
次は……どうして盗んでしまったかだ』
『……お腹が……空いたから』
「マカオさんっ、レウスさんは何を話してるのですかっ?」
「うふふ、アタシが通訳してあげる♪」
勝手に別の内容に変換するなよ?
『食うのに困ったって事だな?』
『……うん』
『考えて考えて……これしか思いつかなかった?』
『……うん』
まぁそれしか考えられないよなー。
頭は良さそうだから人間の町に盗みに来るってのは相当苦しかったんだろう。
しかもこの東の国で……。
親がいない状況でアグニスまで来れたのは奇跡に近いな。
いや、親がいたとしてもキツイだろう。
人間の荷車か何かに忍び込んだか?
子供なら可能だろうな……。
ホントあんまり聞きたくないんだがなー……。
しかも子供だろ……。
傷口にワサビとカラシと塩水を混ぜて塗り込むみたいな感じだもんな。
むー……どうしたもんか?
「レウス、魔物は適応力が高いものよ〜♪」
「しかしな〜……」
外堀から埋めるか?
いや、外堀だけ聞くか。
『ギン、今どこに住んでるんだ?』
『町の……人目につかないところ……』
『……一人で?』
『わ、悪いかっ!?』
まぁ、ここまでで良いか。
一人でアグニスに住んでる魔物…………そういうこった。
『悪くないが、それ被ってるとはいえ、バレたら殺されちまうぞ?』
『外より……マシ』
『そりゃごもっともで……』
しかし困った……。
今こいつに生きてく術がない……って事は、また盗むか……最悪死ぬな。
……ウチくるかしら?
「レウス、私が連れてくのだ!」
「いや、まずギンの意思を聞かなきゃだろ」
「では早く聞くのだ!」
「へ~い」
『住む場所に困ってるならウチ来るか?』
『……なぜ……そんなに優しくするんだ?』
『俺の親もブラッディデビルだったからな』
『人間のお前が?』
……ん?
ハーフエルフとかの人種は知らないのか?
まぁ知らなくてもおかしくないか。
『あぁ、ブラッディデビルのドンってのが俺の父親みたいなもんだ。
デビルフォレストの集落の長をやってたんだが、知ってるか?』
『デビルフォレスト!』
おぉっ!?
ドンじゃなくデビルフォレストに反応したか。
『父上が昔そこに住んでたと言ってた!』
おぉ、このノリなら聞けるか?
『へぇ、父ちゃんの名前何ていうんだ?』
『デンだ!』
デデン!
ドンからのデンだから接点があるとか思ったろ?
実はあったりする。
デンっていったらドンの兄貴だな。
真面目な奴だったらしいが、長を決める時にもめて集落を出て行ったらしい。
俺が来る前の話だがな?
パンばあちゃんがブツブツ言ってるのを聞いた事がある。
確か奥さんの名前は…………。
『母ちゃんはリンか?』
『母上を知ってるのか!?』
『……名前だけな。
どうやらお前は俺の従姉妹らしい』
まぁ実際のドンやアンの子供……ではないが、これが一番適当だろう。
地球で言うところの戸籍上は従姉妹……みたいなもんだ。
『あら、凄い偶然ねぇ~♪』
『ブラッディデビルの生き残りがいた事にビックリだわ。
まぁ俺が住んでた場所以外にも生息はしてると思うけど、身内だとはね……』
『レウスが私の従兄弟……』
『んで、どうする?
ウチは見ての通り魔物と人間が暮らす変な場所だけど、ギンさえ良けりゃ住んでいいんだぞ?』
『来るなら送るのだ!』
『…………うぅ……うっ、うぅうっぅぅうっ!』
泣く……か。
やはりこれくらいの年齢なら精神的に人間と一緒なんだろうな。
過酷な生活環境が魔物の精神を歪めてしまうのかもしれんな。
『よし、決まりだ。
ハティー、やはりお前の魔界行きは無し!
スンと一緒に色々教えてあげてくれ。
家に着くまで戦闘は避けて、最速で向かえ!』
『わかったのだ!』
『それと……風呂と新しい服だな』
『久しぶりの人化解除なのだ!』
『気をつけてな』
『おうちで待ってるのだ!』
『……ん、もう行くのか?
もう日が暮れるぞ?』
「早く安心させるのだ!」
「あ、はい」
器用に喋り分けおってからに……。
ハティーも成長してるのぅ。
「だそうよ♪」
「おぉっ、正に父上に聞いていた通りの方ですっ!」
「どういう風に聞いたんだよ……」
「頭には必ず「面白い子」と言ってましたがっ、勉強になるとも言っておりましたっ」
そいつぁ意外だな。
「では、またなのだ!」
「おーう」
「――って事がありまして、家に帰ると1人増えてると思います」
「なるほどねっ、了解しましたっ」
「素晴らしい考えで私感動しましたっ」
「ふふふっ、魔物と勇者が共存する家かっ……面白いわねっ。
私も今度行ってみようかしらっ?」
「是非いらしてください」
「ふふっ、是非伺うわっ」
「マカオさんの鞍も買えたんだねっ」
「店が閉まる直前でしたけど、ギリギリでなんとか間に合いました」
「うふふふ、似合うかしら~?」
「全くの同タイプだろうに……」
「あら、こういうのは些細な変化でも楽しむものよ~?」
「まぁ客観的にあった方がカッコイイんじゃないか?」
「ありがと~♪」
「勉強になりますっ!」
……何が?
はい、おはようございます!
と言ってももう昼手前ですけどね!
魔界に向かうのはやはり俺、デューク、マカオの3人!
アクセル、バース、キャット、アーク、レイアに見送られて約2時間。
着きましたよ魔人門!
めっちゃでかい!
青黒いメタリックカラーなでかい門が、崖と崖の間にある!
これは……チャッピーでも通れるな!
幅は25メートル位かしら?
高さも30~40メートルってとこか?
チーン!
おぉ、勇者証明が光った!
まさか開くのかっ!?
「ケント君こっちだよっ」
「へ?」
門の中央に……同色の普通のドアがある……。
おぅ、そこだけガチャっと開いたぜ……。
出てきたのは……女の子?
あぁドワーフだわ。
褐色肌で薄紫色の髪の毛をツインで縛ってるな。
黄色とオレンジ色のにゅにゅにゅって模様の入ったポンチョで身体を覆ってるな。
白いダボっとしたパンツを内側に着てるのがわかる。
勿論素足だ。
囚人服じゃないドワーフは珍しいな。
見た感じ身長130前後で、年齢は30前後か?
「うおっ、本当に騏驎がいます!」
「キィさんお久しぶりですっ」
「お久しぶりですデュークさん!」
「初めましてレウスです」
「マカオで~す♪」
キィ……神技の魔石が欲しい勇者ランキングの25位。
「キィと申します!」
やたらハキハキしてるな。
「いやー、アクセルさんから「騏驎も行くから」ってメッセージをもらった時は、あまり理解出来ませんでしたが……これは納得ですね!」
「あははっ、あんまり信じれないですよねっ」
「通って大丈夫なんですか?」
「本来であればダメですが、勇者に協力するオーバートップレベルの魔物……という事なら問題ないです!」
「ところでビーナスさんはっ?」
「デュークさんが来るとわかって、反対側で臨戦態勢です!」
「アハハハハハッ!
ここ最近いつもそうだよねっ」
「正確にはデュークさんに負けてからですね!」
「そうかもしれないねっ」
いや、絶対お前のせいだろ。
そうか、もう1人の門番はビーナスなのか。
勇者を拘束してしまうって事で定期的にアクセルが指名するらしいが、今はキィとビーナスって事か。
にしてもキィは最狂に対してズバズバ言うな。
物怖じしないタイプなのか、どっかが狂っちゃってるのか……。
「じゃっ、行こうかっ」
「ういっす」
「は〜い♪」
ドアの奥を数メートル歩いたら魔界側!
はいレウス魔界入り達成!
そして目の前にいる剣を構えた超絶美人エルフ……。
キィと同じポンチョだな?
門番用の服なのかしら?
つまりキィは仕方なくポンチョを着てるという事か?
まぁそれはいいか。
おそらくこの美人がビーナスだろう。
エルフで黒髪、見た感じ20〜200歳だな。
髪型はストレートのロング。
綺麗なお姉さんは大好きですか? って感じ。
服はキィと同じポンチョで、下は黒い……革パンツかしら?
靴は焦げ茶の革靴で、構えてる剣は……デカいな?
クレイモアタイプだ。
顔はキリっとして……るんだろうが、少し引きつってるな。
これは最狂のせいだろう。
「何しに来た!!」
喧嘩腰です!
ちょっと怖い!
「エルフの里に用があるんですよっ」
「本当かっ!?」
「嘘をついてもしょうがないでしょっ」
「な、ならよい!」
あ、普通に戻った。
「初めましてレウスです」
「…………え?」
「へ?」
「…………」
すっごい見られてる!
すっごいマジマジ見られてる!
舐める様に見られてる!
何これ!?
「レウス」
「はい?」
「結婚してくれ」
…………はい?