第六十二話「忠犬と狂人」
「えーっと……本日は臨時講師の方においで頂きました」
「は~い、皆~よろしくね~♪」
マカオのターンはいつまで続くんだ?
まぁ5000年も生きてる重要な奴だから臨時講師までやってんだろうけど……。
……皆総立ちだ。
「あれは騏驎……」
「騏驎……?」
「騏驎だ……」
誰が言ってるかわかんねーよ。
俺が簡単にまとめるとだな……ざわざわしてる。
勇者ハウスの連中以外はまだ知らなかったからな。
しかし有名なんだなマカオ……。
「レウスの家で馬乗りされてま〜す♪」
「「…………」」
視線が痛い。
登場二言目で卑猥発言するからだ……。
「うふふ、皆可愛いわ〜♪」
引いた反応で可愛いと思うお前も異常だな。
「えっとー、前にレウス君が言ってた師匠の1人って事〜?」
「そうでござるノエル殿!」
「……う、うん」
遅れたが新入生の紹介だ。
勇者学校臨時講師兼、勇者学校ランク8のドンファンちゃんです。
俺が冗談で「毎日そんなにノエルに会いたいなら、入学すれば良いんじゃないですか?」って言ってしまったんだ。
すまんノエル。
ノエルがこの事実を知ったら怒るかもしれない。
あぁ怖い怖い。
ドンファンの目的は9割9分ノエルだが、残りの1分はガラテアとタダで戦えるって事を目的としてるらしい。
信憑性皆無だ。
まぁ、触れれば合格だが、合格しても再挑戦はOKだからな。
確かにお得っちゃお得だ。
「そうね、じゃあ質問形式でマカオ先生に色々聞いてみましょうか」
「うふふふ、先生なんてくすぐったいわ~」
「じゃあ誰か魔界について……でなくてもいいわ。
どんどん質問を投げかけてみて頂戴。
ガラテアさんよりかなり詳しいはずよ」
「はーい」
「そこの可愛いハーフエルフの子、どうぞ~♪」
「えっとー、上位魔王について、知ってる事を教えてくださーい」
「そうね、イリスちゃん、魔王ランキングってわかる~?」
「えぇ、こちらですね」
「へぇ、今こうなってるのねぇ~。
1位の大魔王……これは私もわからないわ。
3000年位前からそうだったかしら?」
3000年……調べたら人系の最長寿命はハーフエルフだった。
3000年生きてるって事は魔物の可能性が高いな。
いや、人系でもう生きてないのかもしれない。
隠してる場合も考えられる。
で、2位のヘル・デスが実質ラスボス…………うん、ありえるな。
「2位の冥王ヘル・デス。
詳しい事はわからないわ。
アタシも一目見たことがあるだけだから。
レウスがなぜアイツに狙われてるのかも不明よ」
「うわー、レウス君ヘル・デスに狙われてるんだー」
「ああ、困ったもんだ」
「見かけた時フードを被ってたから、魔物なのか人なのかも不明よ。
で、3位の妖魔王オーベロン。
あの子はただの戦闘狂ね。
同じ魔王でさえ、強いとわかると斬りかかってくるわ」
狂人より怖い魔王だな。
「へー、噂はホントなんだねっ。
怖い怖いっ」
怖がるなよ。
似てると思うぞ?
「4位の勇魔王ロキは……あなた達の方が詳しいでしょう?」
「まぁそうですね」
「5位の獣魔王バハムート。
アタシのダチよ♪」
大物のダチだな。
「甘い物が好きで可愛い物が好きで光り物に弱いわ」
どこの女子だよ。
「その気持ちわかりますっ!」
ケミナが乗っかった。
「うふふふ、アタシもよ~♪
気が合いそうね、お嬢さん♪」
「はいっ!」
「えーっと6位の人魔王ゴロウジ……。
この子は知らないわねぇ~」
わからないじゃなく知らないか。
会った事がないんだろう。
「7位の小魔王ゴライアス。
これも勇者の方が持ってる情報は多いと思うわ。
ただ、魔王の中でかなり残虐性の高いって話ね」
「あははははっ、ゴディアスさんそっくりって事だねっ」
残虐……まぁ、狂人とは少し違うのか。
最近わかってきたが、デュークは狂ってる様でいてかなり効率的に壊す。
それが普通の人に狂ってる様に見えるってだけだ。
うん、つまり狂人って事だな。
「闇王デュラハン。
喋らないし、無視するし、レウス襲うし嫌いよ♪」
マカオがちょっと怖い。
「9位の不死王イモータル・セイント。
あの人喋れないけど相槌打ってくれるし、笑ったりするから面白いわよ♪
剣の腕は超一流だから気をつけてね♪」
表情筋がないのにどうやって笑うんだ?
カタカタ言うのかしら?
「10位の魔竜スピリットドラゴン。
この子は魔竜なんて呼ばれてるけど、ただのいたずら好きの子供よ?
歳もまだ100歳位だったかしら?」
なんでそうなったんだろう?
あれか、イメージが大事とかでそういう感じに呼んでるんだろう。
なんか上位眷属の魔物が悪に感じないな。
まぁ魔物は基本スカウトだしなぁ……。
「あら……?
あらあらあら~?
……イリスちゃん、これいつ更新されたの~?」
「えーっと……丁度今日ですね」
「レウス、面白いのが見れるわよ♪」
「何かしら?
レウス君、生徒手帳から見れるはずよ」
「あ、はい。
…………マカオ、どれだ?」
「魔王ランキングの一番下よ♪」
■76位 青竜
■77位 チャッピー
……………………何やってんのアイツ?
ほら、狂人が笑い出した。
皆も笑ってる。
俺も顔がひくついてる。
情報収集の為だろうが、よく入ったな。
狙ってるのは魔王の2位だが、チャッピーのランキング入りを止められるって訳じゃないって事か。
魔王ギルドの構造は知らんが、狙ってる事を知らない魔王ギルド員が勧誘したのか?
知ってても加入意思があれば加入出来るのか?
どれにしろ、これで冥王はチャッピーに手を出しづらくなったって事か。
俺への討伐が出来ない序列だが、任意でこっちに来れるのかしら?
まぁ、こっちに来たら俺との繋がりが公になっちゃうから簡単には来ないか。
しかも青竜まで付いてきてお得パックだな。
下位魔王とのランキング戦が可哀想だ。
こっから駆け上がるのかな?
少し様子見なのかしら?
しかし、これで2人生きてるってわかって……すんげぇ嬉しいな。
今日は少し飯を豪華にしよう。
勿論、馬刺し込みだ。
今はうざくないが、帰るまでに絶対それが起きるからな。
「レウス~、これアタシも魔王になったら面白いわよね?」
「なるのか?」
「勧誘は一応きてるのよ」
「悪い事しないなら良いんじゃないか?
ただ間違っても死ぬなよ」
「うふふふ、アタシ愛されてるわ~♪
勿論ならないわよ♪
ここから離れなくちゃいけないじゃない。
これだけの状態なら離れてる方が不安だわ♪」
くそ、その確認かよっ。
しかしマカオはやはり良い奴だ。
「きゅい?」
うん、天使。
「レウス、マカオも妻になるのか!?」
「ないわ」
「そうなのか!」
「んもう、いけずぅ~♪」
馬刺しだな。
さて、マカオの首にある黄金魔石からこの2年で出た魔石の発表だ。
レアはこちら。
■パワーマスターの魔石1個
■スピードマスターの魔石3個
■テクニカルマスターの魔石1個
■特硬化の魔石1個
■回復魔石1個
とんでもないのがあるな。
元々俺のだから全部くれるそうだが、マカオ用に用意してやりたいな。
回復魔石をデュークに持って行って交渉しよう。
キャスカやスンやマカオに回復魔石をあげても良いが、一番強い奴が負けたら全てがそこで終わるからな。
そもそも、上位魔王が来たらマカオはともかく、俺やスンやキャスカは瞬殺だ。
ならデュークだろう。
生き残る確率ってなら狂人だな。
あ、ガラテアはもう持ってるんだ。
オバルス武器に入れたそうだ。
まぁ、あんだけ長生きしてりゃそうなるわな。
あ、因みにガラテアが招き入れたから、マカオは中央国に入れたんだ。
中央国では超有名人だからね、アノ人。
という訳でデュークに交渉しました。
即答OKでした。
まぁ当然か。
いきなり「ランキング戦かいっ?」って聞かれた時は焦ったぜ。
退魔石と同じで神速の魔石を2個、神力の魔石を1個、神技の魔石1個ゲットしました。
退魔石よりレア度が低いんじゃないかなって思ったけど、同じ位の確率らしい。
そんな訳で帰りにマカオ用のグロウネックレスを作り、神速の魔石と特抵抗の魔石のリングを作りました。
やはり神速の魔石はお気に召したらしく「すご~い♪」を連呼してた。
勿論気持ち悪い言い方だったぞ。
あぁ、マカオと再会したダンジョンにあった上抵抗の魔石はテレスにあげたぞ。
今現在の俺の鞄の中だ。
■特製カンテラ
■黄金魔石2個
■青の魔石
■特硬化の魔石2個
■パワーマスターの魔石3個
■スピードマスターの魔石7個
■テクニカルマスターの魔石3個
■神速の魔石1個
■神力魔石1個
■神技の魔石
■硬化の魔石4個
■上硬化の魔石3個
■抵抗の魔石1個
■ユグドラシルの枝2本
■ユグドラシルの葉17枚
■世界地図
■革袋(財布):312万レンジ
硬化が2個、上硬化が1個増えてるのはマカオの黄金魔石産だ。
マカオの尻尾は魔石の効果が出なかったから、マカオはあれで完成だろうな。
俺も神速の魔石と神技の魔石をウェポンエンチャントをしたら、青い魔石が何かわかるまでは完成って感じだな。
オバルスの剣が成長するなんてかなり先の事になるだろうしな。
完成したらある程度残して、身内の強化用で魔石を探そう。
自分だけ終わっても仕方がないだろう。
皆大事だしな。
そうそう、青い魔石の件をデュークに相談したら、明日回復魔石をウェポンエンチャントするついでに魔界に行ってくれるらしい。
そういう所は狂人を信頼してるぞ?
パシらせたのにデュークが「なんか嬉しいねっ」って言ってたのは少し意外だった。
1日かかるとの事なので、明後日の結果待ちだ。
翌日、明後日の魔石鑑定の結果よりも驚く事態が発生した。
チーン!
誰も死んでくれるなよ?
《勇者ランキング1位に変動がありました。
ランキング1位 デューク》
……何やってんのあの人?
勇者の1位が師匠です。
勇者の1位は異常です。
そんな感じだな。
おそらく手に入れたい物を全て手に入れたから挑んだんだろう。
黄金魔石はそれでもまだ2個あるしな。
決め手はウェポンエンチャントした回復魔石だな。
おそらく1位のオーディスは斬っても斬っても回復する狂人を恐れただろう。
狂人なら自己再生があれば、傷が出来てもスキがほとんど出来ないだろうからな。
しかし1年前ガラテアと接戦した結果がこれか。
魔石限度数が2個増えてもウェポンエンチャントで入れたのは、退魔石と回復魔石。
退魔石は魔物に対してのみ。
回復魔石は回復か……。
オバルス武器で攻撃力が少し上がった以外あまり変動はない。
まぁデューク自身がこの1年でどれだけ成長したかは不明だが……。
自己再生って剣技が重要になったのは言うまでもないか。
回復剤を積んでなくて勝てなくても、積めば勝つ。
RPGの基本だな。
上位のランキング戦で右手、左手、両手の回復がそんなに役に立つとは思えない。
なら回復出来る奴の勝ちか。
……あれ、俺すげーんじゃね?
まぁRPGじゃないし、首吹っ飛ばされたら終わりだから、基礎体術を向上させるのは重要だわな。
にしてもとんでもない奴と知り合いになったな。
やはり狂人は最強だったか。
今回は俺のせいかもしれん。
もうないとは思うが、アイツがラスボスだったら諦めよう。
あ、オーディスの絶対的な1位の力を期待した皆様、申し訳ありません。
結構ガラテアと僅差の実力だったみたいっすね。
待てよ……。
その理屈で言うと気総量の少ない俺以下のランキングの奴はともかく、自己再生を教えたガラテアやイリス、ミカエルやドンファンはかなりの位置にいるって事か。
ガラテアも1位になれそうだ。
ドンファンとミカエルとの戦闘の時の様に、武器を身体から離されたら終わりだけどな。
魔石&自己再生搭載マカオもとんでもない実力になったって事だな。
もしこういった結果が起きるとわかってたら…………確かに俺が冥王なら俺を殺すかもしれん。
しかしこれは結果だしなぁ…………理由としては成り立たないだろう。
「レウス殿、一大事でござるな」
「やっぱり自己再生と回復魔石ですかね?」
「でしょうな。
アレは勇者界の……言い過ぎかもしれんでござるが、世界のバランスを崩す様な剣技でござる」
「…………まずいんですか?」
「全く問題ないでござる」
「あ、はい」
言い方が大袈裟だから世界が滅ぶのかと思ったわ。
「明日は某が皆に馳走するでござる」
「あははは、お願いします」
明日はとりあえずデュークを祝ってやろう。
用事があり、5月9日、10日はお休み致します。