第六十話「あの人は今?」
トムのキラーパスをジュリーが加速させた。
うん、さすが夫婦だ。
そんな阿吽の呼吸はいらないぞ?
ここは正直にいこう。
変にはぐらかすとアレがアレアレする。
「んー、まだ未定ですね」
「そうなの……」
「レウス、そうなのか!?」
「ハティーちゃんはその気みたいだぞ?」
ハティーめ……。
察してくれてもいいのに。
まぁ、ここで否定しちゃまずいよなぁ……。
肯定してもなぁ。
前から言ってた場所的なアレの件を話すか。
皆には話してないけど。
「ここは私の自宅ではありますが、沢山の人がいるので……その、場所の問題があるのです。
なので、今後離れに寝室を作りたいと思っています」
「なるほど、そういう事だったか!」
へん、うまくいったぜ!
翌日。
ごめん嘘ついたわ。
……なんだこれ。
「毎度!
どの位の大きさの小屋を建てましょうか!?」
「えっとー……」
「お代はもう頂いてるのでご安心を!」
「はぁ……」
手が早い両親だこと。
小屋の新築は急ピッチで行われた。
1週間位で出来ちゃったよ。
仕事が早い大工だこと。
その間ずっとハティーがそわそわしてて、キャスカが鼻水オンラインで真っ赤だった。
ビアンカもにこにこしてた。
いやね、まず大事な用事ってものがあると思うんだよね?
とりあえず、チャッピーとマカオが戻って来ないとダメじゃん?
その目的の為に頑張る俺。
ほら、頑張ってる間にそういう事とかしちゃうとさ?
皆からクレームきそうじゃん?
チャッピーとマカオはどうでもいいのか? とか、最低~! とかとか!
俺のせいじゃない、世界が俺に理不尽なだけだ。
その日を境に俺の部屋が客間になり、離れの小屋が俺の部屋になった。
守りが不安なんじゃないって?
デューク曰く「同じ国にいるなら大丈夫でしょっ」だそうだ。
確かに町に1人で買い物とか行くからなぁ。
寝る時も1人の部屋だし……まぁ、今までと変わらないんじゃないか?
ってわけで、小屋で過ごす初めての夜です。
小屋で過ごす初めての夜だからな?
小屋での初夜じゃないぞ?
意味としては似てるが違うからな。
おやす――
コンコン
…………。
客人だ。
こんな夜遅くに困ったもんだな。
客人なんだ。
決して妻じゃない。
……多分。
「「「レウス!」」」
妻じゃなかった。
妻達だった。
「なんだ」
「さぁ、寝るわよ!」
「寝るのだ!」
「レウス、ねねね寝るぞ!」
ラーナまで連れて来ちゃってからに……。
まぁ連れて来ないとダメだろうがな。
どうやら一番最初は全員で一緒に寝ようって事らしい。
段階を追ってって感じだな。
じゃあおやすみ。
はい、おはよう。
描写?
ちょっと前の行見てみな。
書いてないだろう?
そういう事だ。
どう寝たか?
隣同士だとアレだからな。
十字で中央に頭がくる様に、4人で寝たぞ。
大丈夫だ、北枕は俺じゃない。
一応ラーナ用のベッドは別で置いてあるからな。
因みにハティーは青いパジャマ、キャスカは赤いパジャマ、ビアンカはそのまんまだ。
普通に寝っ転がりながら乙女トークを繰り広げてた。
俺は狸寝入りだ。
おそらく……ハティーが俺の頬をツンツンしてきて地味に痛かった。
爪が鋭利過ぎだったからな。
俺の顔を覗き込んできたのはおそらくキャスカだ。
ズルズル聞こえたからな。
ビアンカはちょくちょく起き上がってラーナの様子を見てた。
普段は俺もよくラーナの様子を見に行ってるが、やはり母親ってのは偉大だな。
それ以外はもう卑猥な話がいっぱいでお腹一杯。
ハティーとキャスカの2人がビアンカに色々質問してた。
……んー、それくらいだな。
慣らし期間はしばらく続くらしいぞ。
突然1人で来るとかあるのかしら?
まぁ俺に関しては、前々から心の準備は出来てるし問題はないんだが、相手の準備が出来てないのに……ってのは不安があるからな。
有難いっちゃ有難い。
さて、本日はテレスの初ダンジョン探索です。
なんで許されるんだよ……。
流れはこうだ。
トムとジュリーに、お兄ちゃんが付いて行くならOKと言われたそうだ。
流れは以上だ。
……いいのか?
俺がダンジョン潜るのはOKなのかって?
カイネルとガラードの話によると、俺の名前と容姿、住んでる場所は特定されてる様なので、逃げも隠れもしなければ普通に家まで魔王がおいでになるそうだ。
そう思うと、昔デュラハンが「ジャコール」を襲って、マイムマイムの師匠のアディスを倒した時も、
普通においでになってるみたいだしなぁ……。
ガラテアに聞いてみたらデュラハンはアディスを倒した後、町を去り、皆が戻って来た時にはもぬけの殻だったらしい。
どんな命令だったんだろう?
デュラハン自身の独断なのか?
命令だとしたら……「町を襲え」か「上位ランカーの誰かを倒せ」とか?
たまたま上位ランカーがアディスしかいなかったって話だから、アディスを殺せってのは無理だろう。
そしてアディスが5位だから、その当時10位のデュラハンはアディス討伐は命令じゃ出来ないはずだ。
命令だとしたら「町を襲え」か……これは死ねって言われてる様なもんだな。
見事にこなしてるとしたらデュラハンはヤバ過ぎだ。
そして町の防衛の為に、アディスがデュラハンと戦った……これなら話の筋は通るな。
しかしそんな無茶な真似は中々しないんじゃないか?
……独断の線が強いのかしら?
まぁ、そんなわけで俺がダンジョンに潜っても問題はないそうだが、一応デュークが入口でガラードをいじめながら待ってる事になった。
ガラード曰く遊んでるそうだが、羽をもがれたり足をちょん切られたり……それは違うと思った。
生傷が絶えない遊びだとか言ってたけど、回復があるからってはしゃぎすぎじゃないか?
魔王サイドにも奥義書はやはりあるらしい。
魔物にも使えるってのはスンでわかってたからそこまで驚かなかった。
ちょっと違うのはランキング戦だ。
上位魔王が下位魔王に命令し、下位魔王がそれを断った時、ランキング戦が起こるらしい。
上位魔王は勝てる魔王、もしくは勝てそうな魔王を選ばなくちゃいかんのか。
勿論ランキング戦を自由には行えないってわけじゃなく、自分から5位以内であれば挑戦が可能なのだそうだ。
欲しい物とかの面倒な物はないらしい。
その代わりランキング戦は断れるんだ。
ランキング戦をしたい挑戦者は、3回魔王に挑む権利がある。
45位の魔王の場合、40~44位に挑む権利があり、40位に挑むとする。
40位がこれを断ると、41位~44位の魔王に挑める。
41位に挑んだとして、41位がこれを断るとする。
残りの挑める回数は1回で、この最後の1回のみ、挑まれた魔王は必ず受けなくちゃいけないそうだ。
変な感じだが、得意な相手だけを狙う事や不得手な相手を断るシステムみたいな感じだな。
さて、ダンジョン内に行くのは俺、テレス、そして一番信頼してるスンだ。
「きゅい?」
えへへ、天使発見♪
俺がきもい?
うん、知ってる。
さて戦士レベルの受け持つダンジョンに入るのは久しぶりだ。
テレスは現在戦士レベル61だ。
なったのはついさっきだけどな。
というか戦士になったのが今日だ。
デュークがそこら辺駆け回って、判定レベル61のイエロードラゴンを引っ張って連れてきたんだ。
あれは流石に可哀相だった。
人の行動には口出し出来ないがな。
デュークに対してイエロードラゴンは少し怯えてたが、テレスと対峙すると「あれ、こいつならいけんじゃね?」って顔になって、テレスに襲いかかった。
テレスはスッと懐に潜り込んで一気にイエロードラゴンの首をちょんぱ。
あ、「ちょんぱ」って久しぶりだな。
最近ちょんぱ出来る程簡単な敵がいないから仕方ないだろう。
まぁ、そんな訳でテレスは一気にレベル1から61になった。
ギルド員もそんな王族にビビってたが、周りにいた俺とデュークとスンを見て納得した感じだった。
テレスは普段キャスカやハティーに習ってるし、俺と戦った時点で戦士レベル70~80はあると思ってたし問題ない。
今日久しぶりにテレスの動きを見たけど中々の動きだった。
キャスカが剣術、ハティーが体術を指導してるのかしら?
魔物の動きに慣れてる感じはハティーのおかげなのか。
さて今回は上抵抗の魔石があるかもしれないダンジョンだ。
スンがカンテラを頭に乗せてる。
頭を変形させてカンテラがすっぽりと乗る様になってる。
ほんと凄いなこの子。
最近ダンジョン潜るのは1人ずつ(俺だけデューク憑き)だけだったから、こういうのは久しぶりだ。
「きゅっきゅいー!」
「出発進行ですわね!」
「皆、行ってらっしゃいっ」
「早く帰ってこい。
そしてテレスのお弁当とやらにしよう」
「いってきやーす」
先頭がスン、真ん中がテレス、後方が俺だ。
まぁ妥当な並びだよな。
はい早速魔物です。
判定レベルにひっかかってない魔物「ブロックスネイク」だな。
直径30センチのサイコロみたいな岩が8個連なってる……つまりほぼ長方形の蛇だ。
前に俺も戦った事がある。
おそらく判定レベル80前後の魔物だな。
「お兄様、宜しいですか?」
「大丈夫だろう。
危なかったらスンがフォローする。
弱点は……自分で探してみた方がいいか」
弱点はありきたりだがブロック同士の連結部分だ。
俺はありきたりっていう現代の情報ですぐわかったが、この世界の人間だとそうはいかない。
でもまぁ、この位の魔物ならすぐわかると思うけどね。
「わかりましたわ」
久しぶりの戦闘開始!
テレスのダッシュ!
スカートがフワフワヒラヒラです!
ブロックスネイクも突っ込んできた!
テレスが剣で弾いて軌道が変わった!
ブロックスネイクの突進がスンに向かった!
スパンッ
あ、スンが斬っちゃった。
戦闘終了。
「ごめんスン、言ってなかったな。
基本はテレスが倒す感じで頼む。
フォローは本当に危ない時でいいんだ。
昔キャスカとやった……あんな感じだ」
「きゅい」
「すまんテレス、次からな……あ、もう1匹来たわ」
「のぞむところですわ!」
戦闘開始!
テレスのダッシュ!
ブロックスネイクも突っ込んできた!
テレスが剣で弾いて軌道が変わった!
ブロックスネイクの突進が俺に向かってきた!
流石に俺は斬らないぞ?
壁に突っ込まれて崩落するのが怖いから、腹で受ける!
ガァーンッ
あ、ブロックスネイク気絶しちゃった。
「きゅー……」
「お兄様……」
「いや、これ俺のせいか?
崩落怖いじゃん……」
「きゅー」
《顔をテレスの方へ受け流せば良かったんだよ》
「反省しました」
「きゅい!」
「ふふふ、仲がよろしいですわね」
「あぁ、大親友だ」
「きゅ~♪」
「わかりますわ、喜んでるのね?」
「きゅいー!」
無難より最善か。
まぁ今回はそうだわな。
最近真面目?
このメンバーでボケる奴がいないだろう?
「あらやだ、太くて硬くて大きいのが2本もあるわ♪」
「な、何者ですっ!?」
「きゅ!?」
「へ?」
「あら~、あらあらあら~?
イイ男になったじゃない、レウス♪」
……ボケ担当が来た。