第五十七話「4人の問題」
カイネルに内容を説明するとホッとした様子で帰ってった。
どうやら罠の可能性は低そうだ。
1ヶ月程で引っ越してくるとの事だ。
117人の自己紹介なんてしないから安心してくれ。
段々無茶な内容になってきたが、俺のせいじゃない。
この世界のせいだ。
元魔王が二人俺の助けになってくれるんだ。
悪い事じゃない。
最近戦闘がない?
え、ありがたい事じゃないの?
まぁ、俺のタメにはならんかもだが、避けられる戦闘なら避けるべきだろう。
さぁて、ビックリな来客を迎えてたが、俺は今それより大変なんだよ。
キャスカ達の話がどうなったかだ。
キャスカ達への伝言をスンに頼み、部屋でじっと待ってる俺。
伝言ってのはダイムから許可をもらったって話だ。
今は俺が入っちゃまずいと思ったからな。
その後に控えてるデュークとの修行も不安なんですけどね。
「「「レウス」」」
来たわ。
「どうぞ」
「あー……椅子がないわね」
「いいよ3人はベッド座ってくれ。
俺は床座るから」
「だーめ、位置的に見下す様になっちゃうでしょ」
「そうなのだ!
私が持ってくるのだ!」
「あ、はい」
一応全員お姉さんです。
偏り?
俺より下は逆に問題だろう。
「どうぞなのだ!」
「あ、ありがとうございます」
「レウス、いつも通りでいいんだぞ」
「すまん、少し緊張してる」
「あら、意外ね?」
「レウスでも緊張するのか!?
私もレウスの前だといつも緊張するのだ!」
恥じらいなくそういう事言うなハティーは。
キャスカだったらすぐに「恥ずかしい事を言った」と気づいて真っ赤になる。
「じゃあ3人はベッドで俺は椅子だな」
「さぁ、どうぞなのだ!」
「あぁ、どうもなのだ」
「うふふ、そうそう。
レウスはその感じが一番良いのよ♪」
「そうだぞレウスッ」
なんか俺に気を使ってる訳じゃなく、3人が自然と話せてるな。
話して仲良くなったのかしら?
それとも気を遣ってるのかしら?
「さて、何から話すか……どう話すか……」
「初めに聞いておきたい事があるの」
「うん、なんだい?」
「レウスは私達の中から1人選ぶって事は出来ないのよね?」
そうだな。
好意の問題はあまり話してなかったな。
まず言うのが恥ずかしいからな。
許せよ?
まずキャスカ。
付き合いが一番長い。
なんと言っても俺の支えだ。
好きとかいう以前に大事な存在だ。
友人とかじゃないよな。
多分かなり前から「家族」って感じがする。
長く居すぎて家族になったら恋愛は終わりだとか聞いた事あるけど、そういうのじゃない。
確かに好意は存在する。
こんな言い方じゃ「それって本当に好きなの?」ってなるかもだが、他の奴はどうかは知らんが、40年童貞だった俺にはこういう言い方しかできん。
次にビアンカ。
初めての人だからって訳じゃない。
一番なのは「こんな俺を!?」的なアレだ。
だからゲブラーナを旅立つあの日はチクチクするものがあった。
キャスカを置いてった時と似た様な感覚だ。
子供が出来たとわかって、責任以上に大切な存在だって再認識した。
守らなくちゃならないし、守ってやりたい。
好意については言うまでもないだろう。
最後にハティーだ。
こいつに関しては皆「友達としてはわかるけど恋愛感情はないんじゃね?」って思ってるだろ?
正直微妙です。
微妙って言っても、好意があるか微妙って意味じゃないぞ?
分析すると、友達以上恋人未満って感じだ。
友達止まりだと思ってたのはゲブラーナ出発するまでだな。
エルフの森の前で、追いかけて来た時は正直嬉しかった。
だって死を覚悟して俺に付いて来てくれたんだぜ?
俺が前言った「繁殖云々」は、俺自身は冗談で言った言葉になってしまうが、あいつはそれを信じて俺に付いて来た。
そりゃクラッってなるよね。
言い方が軽い?
悪いな。
男はこういうところに関しては単純なんだ。
これを見てみると俺は尽くしてくれるタイプに弱いのかしら?
いや、タイプとか言うと相手に失礼だな。
全員の気持ちが嬉しく、全員大事なんだ。
まぁこんな考えをわかってくれとは思わないけど、こんな人もいるんだなーって思ってくれると嬉しい。
人間ってホント難しいな……。
………………。
「うん、出来ないな」
「「「…………」」」
「では、私が……あぁいや、私達全員が身を引いたらどうするのだ!?」
「それは寂しいが、それならそれで仕方がないと思ってる。
けど、巻き込んでしまった以上……守らせて欲しい。
ビアンカは狙われる可能性が出来てしまった。
けど、キャスカやハティーが狙われないっていう保証はどこにもないからな」
「「「…………」」」
「3人が身を引かなかったら、レウスはどうしたいんだ?」
「全員を大事にする」
「即答ね」
「予め決めてた事だからな」
「私も、他の2人も予め決めてたみたいよ」
「身は引かないのだ!」
「諦めないって言ったもん」
「へ、じゃあ何で俺に聞いたんだ?」
「レウスったら私達に決めさせようとしてるじゃない」
「3人の問題じゃなく4人の問題なのだ!」
「だったらレウスの考えを聞いてから完全に決めたかったんだ」
「あ、はい…………ごめんなさい」
「レウスが謝ったのだ!?」
「明日は雨ね」
「私もごめんなさい!」
「いや、キャスカは謝らなくていいだろう」
「そ、そうだな!」
「んー、この世界で言う結婚ってどうやってするんだ?」
役所なんかないだろうに。
「成人以上であれば、互いの意思が確認出来た時点で結婚はしてるわよ?」
「へ?」
「おぉ!
つまりもう私とレウスは番なのだな!?」
「は、恥ずかしいっ」
え、祝言は?
親への挨拶は?
宴会的なアレは?
バァンッ!
「結婚おめでとうっ」
「めでたいでござるな」
「皆おめでとう」
「きゅーい!!」
…………。
聞き耳立てる奴ってホントにいるんだな……。
「レウス、ドンファンがご飯を作ってくれた。
早く食べたいぞ」
「そうだねっ、皆でご飯にしようっ」
「きゅいー!」
「ドンファンさんの料理は美味しいって、さっきハティーが言ってたから楽しみだわ」
「お腹が空いたのだ!」
「飯だぞレウス」
「レウス行こう!」
「あ、はい」
なんか誰が何て言ってるかわかりそうだな。
これにトゥースか……。
ラーナはしばらく「あー、うー」だろう。
まぁ大丈夫そうだ。
けど心配だな。
あ、私結婚しました。
妻は3人おります。
改めて宮崎剣人もといレウス・コンクルードを宜しくお願いします。
今、ペコリってお辞儀してます!
妄想機能使って!
ゆっくり頭上げました!
はい、ニコッ。
ところでクォーターであるラーナの寿命はどれくらいなんだろう?
って事で、ドンファンに聞いてみたらどうやら400年程だそうだ。
俺が一番長生きするのかよ……。
因みにデスウルフリーダーは200年程らしい。
スンは未だに不明だ。
つまり子供が俺より早く老けるんだ。
…………想像出来ないな。
ドンファンの飯は最高だった!
今まで手を抜いて作ってたのかって程絶品だった!
ちょっと今から汚い事言うからな。
覚悟しろよ。
デュークとの修行で全部オエッってなったわ。
台無しだよバーカ!
ビアンカが遠目で修行風景見て悲鳴あげてたぞ。
なんたって回復の存在知らないし、俺の両脚がゴロンしたしな。
匍匐前進で脚を取りに行く俺をデュークが「あははははっ」って笑う。
くそ痛いが前にも言った通り、痛みにはかなり慣れた。
しかし痛みに慣れる修行じゃねぇんだよ!
わかってんのかな、こいつっ!!
「ほら立ってっ、脚ないけどっ」
「ほら構えてっ、片腕ないけどっ」
回復用の腕を1本残してくれるだけ優しいのか?
しかしすぐ繋げるとはいえ、これは……血が無くなるぞ!?
って思ってたら途中から普通に教えてくれた。
ねぇ、最初のは気晴らしなの?
怒るよ?
怒れないけど?
これが毎日続くのか……。
スンがめっちゃ心配そうな目で俺を見る。
おかげで頑張れます!
翌日以降の学校では、俺が結婚した話、子供がいた話でもちきりだった。
ケミナは世界が終わったかの様な表情だった。
すまんな……。
ナデシコも口を尖らせてた。
リンダも課題で少し失敗したとか……。
頼むから魔物討伐で失敗しないでくれ……。
ゴリアンカ?
今はホストマンのタイトスに夢中だ。
三ヶ月前はガッシュを追いかけてた。
デュークが無駄遣いしたのでユグ枝を3本換金した。
魔物討伐にも力を入れる。
学校に行ってる間、家はビアンカとガラードとラーナだけになってしまうので少し不安だったが、デュークが長期休暇をとり家に待機してくれるそうだ。
ていうかデュークもう卒業していいんじゃね?
ビアンカには俺が使える回復系の奥義書を全て渡した。
回復っていう存在に驚いてたが、素直に喜んでた。
キャスカとハティーは座学の授業中にチラチラ俺を見る事が多くなった。
イリスが羨ましそうに見てた。
あの人あんな美人なのに相手いないのかしら?
何か変わったかって言うと、ビアンカとラーナが増えた事以外、あまり変わってないっちゃ変わってない。
夜の情事?
まぁまだ、キャスカとハティーはマウストゥーマウスすら行ってない。
そんな機会も場所もない。
だって家に皆いるんだぜ?
離れでも作ろうか検討中。
ただ、前よりもスキンシップが増えた事は確かだ。
ハティーは頭を撫でてやるとニコニコしてて可愛い。
意識するとここまで変わるか! って感じだ。
キャスカは俺を常に目で追ってる。
歩いてる時とか首の骨が折れるんじゃないかって位見られてる。
すごくニコニコだ。
あの首の可動域は凄い。
この世界の文化ではしないらしいが、後日一応トッテム・アドラーに挨拶しに行こうと思う。
ホントおかしな文化だ。
これでジュリーだけが誕生日があるんだぜ?
他の全員は空の月で誕生月だ。
ダイムの生誕祭はないらしい。
王女限定というか子供限定なのかしら?
おかしな文化だ。
ビアンカとはマウストゥーマウス位しか……。
まぁビアンカからの不意打ちだけどな。
え、これ話さなきゃいけないの?
凄く恥ずかしいんですけど?
まぁそんな感じだ。
察せ。
妄想しろ!
2週間程経った。
「こんにちはー!」
ん、誰か来たな。
「きゅい?」
「うぉ、スライムッ!?
……って事はお前がスンか!?」
「きゅい!」
「勇者ランキング101位のトゥースってもんだ。
レウスはいるかい?」
「きゅきゅーい!」
「ハッハッハッハ、中々可愛い奴じゃねぇか!」
当然だ、俺のスンだぞ?
あ、そういや他の皆にトゥースが住む話をしてなかったわ。
「よう、来たな尻髭」
「なんだその呼び方は!」
「まぁあがれよ」
「おう、邪魔するぜぃ!」
「……皆ぁー、集合ぉー!」
「なんだいケント君っ。
あ、尻髭のトゥースさんだっ!」
「レウス……てめぇの仕込みか?」
くそっ、狂人と思考が似てるのはまずいぞ!
「偶然だよ偶然」
「あぁトゥースか……久しいな」
「おぉ、セレナじゃねぇか!
ビアンカと仲良くやってるかい?」
「あぁ問題ないぞ」
「む、トゥース!
何しに来たのだ!?」
「ハティーか、今日から宜しくなっ!」
「何の事なのだ!?」
「あぁお前の事、まだ皆に言ってないんだ」
「お前、酷さが増してないか?
だがしかし、ハティーはあの場にいただろう?」
「あの時は放心してたから頭に入ってなかったんだろう」
「あぁ~、そういえばそうだな」
「む、どなたでござるか?」
「おぉ、エルフのにぃちゃん!
今日からこの家で世話になるトゥースってもんだ。
宜しく頼むぜぃ!」
「ほぉ、レウス殿から話を伺っているでござる。
素晴らしい顎をお持ちだとか?」
「…………レウス、後でちょっと面貸せや」
「ちゃんと返してくれよ」
「にゃろう……」
「ふふふ、面白い御仁でござるな。
宜しくお願いするでござる」
「おうよ!」
「あら来たの、尻髭さん」
「レウス…………後でその面に陰湿な落書きしてやんよ」
「いや、ビアンカは勝手に言ってるだけだろ」
「そうよ、一体何年つるんでると思ってるのよ?」
「えーっと…………8年?」
「7年よ7年」
「そ、そうだったか?」
「まったく、いつも通りねあんたは」
「まったく、どうしようもないな」
「おめぇに言われたくねぇよ」
「あぁ、そうだな」
「お、おう……」
「レウス、よよよ呼んだっ?」
皆って言ったろう。
何で身だしなみ整えてるんだよ。
「おっ、金髪の美人……って事はアンタがキャスカかい!?」
「初めまして、キャスカ・アドラーと申します」
キャスカさん登場か。
どうやら偉い人以外だと、知らない人に会うとスイッチが切り替わるらしい。
「レウス、何か聞いてたのと違う感じだぞ」
「あれは別人だ」
「でもキャスカって言ってるぞ?」
「別人なんだ」
「お、おう……」
「トゥースだったか?
久しぶりだな」
「おぉー、おめぇは確か……ガ、ガ、ガ……ガガンダ!」
「レウス、どうやら私の名前が変わったらしい」
凄い上書き機能だな、お前の脳内。
「お前はガラードだ」
「また変更され、私はガラードだ」
「ハッハッハッハ、すまねぇな!
宜しくなガラード!」
「うむ、宜しく頼むぞトゥース」
「きゅい!」
《スンです。
これから宜しくお願いします》
「おぉおおお、すげぇなスン!
宜しく頼むぜ!」
さて、ラーナはしゃべれないし、これで全員かな?
「奥の右側の部屋を使ってくれ。
足りない物は自分で買うなりしてくれ。
金が足りなきゃ、地下の金を勝手に使っていいぞ。
逆に余ってたら地下に募金してくれ」
「ハッハッハ、了解だ!」
その数日後。
「レウス、お客様だ」
「また魔王か?」
「いや、勇者だそうだ」
「勇者?」
「ランキング2位らしいぞ」
…………大物だな。