第五十六話「客魔」
魔王だそうだってあなた。
丁寧に言ったら大魔王でも客だと言いそうだなコイツ。
番犬というか番鳥にはなれんぞ。
すぐに剣を持って窓からジャンプ!
あれ、いない?
「ガラード、魔王とやらはどこだ?」
「家の中へ案内したぞ」
……。
わろりん。
ダッシュ!
「アハハハハハッ、魔王がリビングにいるよっ。
面白すぎぃっ……アハハハハハハハッ」
「勇者デューク、狂人の名に相応しい狂いっぷりですな」
なんでこの自称魔王はソファーに腰掛けてるんだよ。
しかし、コイツの全身の黒い鎧……どこかで見たような?
「あぁ、彼がレウス君だよっ」
「初めましてレウス殿。
魔王ランキング43位の黒騎死王カイネルと申します」
黒い騎士……騎死か。
デビルフォレストの時の奴かしら?
「初めまして………………カイネルさん、あなた数年前デビルフォレストを襲いませんでしたか?」
「はて、デビルフォレスト……」
「ブラッディデビルの集落です」
「あぁ、確か7、8年前に部下達に命じてやらせましたな」
「やっぱりレウス君が言ってた「黒い騎士」っていうのは、黒騎死の連中だったんだねっ」
「黒騎死ってのは?」
「一般的な実力はローレベル位で、人界のどこかの森に住んでるって言う蛮族だよっ」
「じゃあこのカイネルさんは、人界に住んでる魔王って事ですか?」
「そうなりますな」
「して、その魔王が我らの家に何の用でござるかな?」
いや、俺の家だぞ?
「レウス殿の命を頂きに参りました」
「愛されてるねぇ、レウス君っ」
「スン」
「きゅい!」
「キャスカ達の部屋に行って外へ出ない様に見ておいてくれ。
今3人で一緒にいると思う」
「きゅーい!」
「ほほぉ、素晴らしい使い魔ですなぁ」
「使い魔じゃなく友人です。
それより……その兜とれないんですか?」
「一族の決まりでしてな、それはご容赦願いたい」
フルフェイスタイプの黒い兜に黒い鎧。
無駄な装飾はなくシンプルな感じだが、兜の装飾だけなんか伊達正宗っぽいな。
三日月っぽいのが額に……「愛」とか書いてあると面白いんだけどな。
兜は目だけ見える程度……アニメとかで見ると、目だけ赤く光りそうな感じだな。
「へぇ、じゃあとれはするんだねっ」
「我々は魔物ではなく人間ですからな」
「蛮族っていうのは名ばかりで、魔物かと思ってたよっ」
「カイネルさんは、死ぬかもしれないのに何でここに来たんですか?」
「上からの命令でしてな、残念ながら逆らえないのです。
これ以上、下位の魔王に命令はできませんからな」
「……どういう事なんです?」
「あなたは43位でしょう?
私も43位。
上位の魔王は、自分より下位の魔王に命令出来るのです。
そしてその命令が勇者討伐の場合、その勇者の序列より下位の魔王は討伐出来ない決まりとなっているのです。
いたずらに魔王を減らすだけですからな。
つまり、今回は私が最後でございます」
「これ以降43位以下の魔王は俺を襲って来ないと?」
「レウス殿のランキングが落ちない限りは……ですが?」
「へ〜僕も初めて知ったよっ」
「某もでござる」
古参っぽいドンファンでさえ知らないのか。
そんだけ魔王との対話をしなかったって事か?
つまり、俺を狙ってる魔王が下位魔王に命令して、俺を殺そうとしてるのか。
命令された魔王が更に下位の魔王に命令してどんどん下がってきてる場合も考えられるな。
他の魔王は勇者の3位や7位がいるここには来たくないだろうからな。
ガラードは何故下位に命令しなかったんだ?
あの時俺は48位で、ガラードは45位だからな。
いや、あの時のガラードは一族最強とか思ってたから、別に気にしなかったのか。
ガラードは聞かないと答えないからな。
この情報は知ってるだろうが、聞きだすのは困難だろう。
なにせ質問がピンポイントじゃないとほとんど「くぴ?」って顔しやがる。
ガラードの親父……ガルーダの時は上位の魔王がガルーダに命令したんだろうな。
ガルーダ発信だとは思えない。
ガルーダがガラードに理由を答えなかったのは、上位の魔王が理由を言わなかったのか?
もしくは理由を言ったがガラードには言わなかったか……。
まぁ今となってはわからないか。
カイネルは俺を狙う理由を知ってるのかしら?
「カイネルさんは俺を殺す理由を知っているのですか?」
「いえ、ただ「殺せ」とだけです。
因みに、あなたが先程仰ったブラッディデビルの集落の件も同様ですな」
「そんな昔の命令、よく覚えていますね」
「手強い魔物ならまだわかりますが、我々の敵でない魔物の討伐ですからな。
珍しい仕事だったので記憶に残っております。
人界では金が重要ですから角は頂戴しましたが、指示の内容は「その場にいる者全てを殺せ」という簡単な内容でした。
……という事はやはりあの時その集落にあなたがいたのですな?」
「えぇ、まぁ……」
ふむ……「その場にいる者全てを殺せ」か、つまりあの場にいなかったから俺とスンは助かったって訳か。
命令の内容が「そこにいるハーフエルフを殺せ」的なアレだったら探し出されて死んでただろう。
あぁ怖い。
「それにしても随分と簡単に色々喋りますね?」
「別に隠す理由はありませんし、隠したところでこの狂った勇者を欺けるとは思ってないですからな」
「アハハハッ、魔王に褒められちゃったよっ」
その言われ方したら普通怒らない?
「しかし、デュークさんもさすがにそこまでは読めないと思うんですけど……」
「いえいえ、心が読めるという事ではありません。
私が恐れているのは彼の拷問です」
狂人は魔王を拷問にかけるらしい。
「……デュークさん、そんな事してるんですか?」
「ん、しちゃいけないのかいっ?」
そうだね、そんな決まりはなかったね☆
どんな拷問してるんだろ……。
……うん、怖くて聞けない。
「それで、俺達は戦うんですか?」
「……命を頂きに来たと申しましたが、正直戦いたくないのが本音です」
「……それは何故です?」
「まず私とレウス殿が戦えるか? という問題ですな。
そちらのエルフの男性も、おそらく勇者ランキング20位以上の実力でしょう」
「中々良い目でござるな」
「お褒めに預かり光栄ですな。
そして狂人と呼ばれる勇者デューク……あぁ外にも数人来てますなぁ。
……どれも私以上の使い手だ」
すげぇ……何でわかるんだ?
外にカイネル以上の存在……ガラテア達か?
「凄い能力でござるな」
「なぁに、人より聴力が優れているだけです」
気じゃ聴力は向上しない。
って事は天性のものか、訓練したか……。
蛮族ってくらいだから野生的なアレなのかしら?
兜で視界がせまいから訓練してるのかもな。
まぁ俺の鼻も似た様なものか。
言われてみればイリスのエロエロな匂いがする。
しかしここまで聞き分けられるのは凄いな。
俺の鼻だと危険な奴の匂いなんて選別出来ないしな。
「まぁ、これだけの化物に囲まれているわけです。
いくら私がレウス殿との戦いを望んでも、それを止める事の出来る勇者が多数いる。
そして更に、私がレウス殿と戦えて勝ったとしても、その後確実に死にますからなぁ……。
つまり、勝つにしろ負けるにしろ私には死が待っているのです。
いやぁ、家に帰りたいですなー」
その気持ちはよくわかるわ。
上司から無茶言われ、現場に来たら大変な思いをする。
中間管理職みたいな奴だ。
「レウス、何事だ?」
「セレナさん」
「これは美しい女性ですな。
しかも……相当な手練ですね」
「褒めて頂いて光栄だが、どなたかな?」
「魔王ランキング43位のカイネルと申します」
「あぁ、それでガラテア殿やイリス達が外にいるのか。
窓からガラテア殿に見てきて欲しいと言われたのでこちらへ来てみれば……そういう訳か。
魔王ランキング43位のカイネルだな……報告してこよう」
「あぁ、なんかすみません」
「構わない」
人間の魔王だったから目立たず来たのか。
勇者ギルドに報告がいかなかったんだな。
俺の勇者証明も鳴ってないし、そういう事なんだろう。
ガラテアが気づいたのか?
どうやってわかったんだろ?
「セレナ殿……勇者ランキング46位でしたな」
「うん、そうだよっ」
「して……どちらにしろ死が待っている地へ、何故来たのでござるか?」
「まぁ命令は魔王である限り絶対なので、来たくもない場所へ来たのです。
そして、そうなるならばと思い、色々考えました。
結果、本日はレウス殿にご提案があり、客として参ったわけです」
「提案?」
「レウス殿、我々黒騎死の一族をご購入されませんか?」
…………。
ほら、狂人が笑い出した。
「えーっと、どういう意味です?」
「我々の一族は傭兵団の様なものです。
金さえ頂ければ、我々は魔王にも勇者にも属します」
「でも、魔王は悪の心が強い人がなるって」
「レウス君、例外の話もしたでしょっ?」
「例外……あぁ、勧誘か」
「左様でございます。
我々は金で雇われる故、人を殺める事もあります。
逆を言えば、金さえ頂ければ人を殺めませんし、守る事もします」
「魔王ギルドは報酬を出せるんですか?」
「出せませんな。
しかし、魔界の貴重な素材を、命令完遂の報酬として頂く場合があります。
そしてそれを部下が人里に売りに行き、その金で物資を調達しております」
「ん、さっき兜はとれないと言ってませんでした?
その姿で行くと大変なのでは?」
「あぁ、その決まりは一族の男のみです」
その決まりは子供作る時も適用するのか気になるが、聞かないでおこう。
「私が死なない道はこれしかないものでして」
「普通に魔王を辞めるだけじゃダメなんですか?」
「申し訳ございません。
こちらの都合で……とだけ答えさせて頂きます」
「そういう事かっ」
「そういう事でござるか」
「なんなんです?」
「レウス君……本当に頭良いのっ?」
「だからそれは前説明したじゃないですか……」
「あはははっ、そうだったねっ。
彼は王だから、大義名分がないと魔王って大任を辞められないだよっ」
「そしてその一族の重んじる「買われた」という大義名分の下に、レウス殿に協力すると言ってるのでござる」
「それだけじゃ理由にならなくないですか?」
「魔王を辞めると共に、上位の魔王がカイネル殿……いや、カイネル殿の一族を粛清する場合があるのでござる」
「本来であれば起こらない事態なのです。
魔王を脱退しても粛清対象にならない決まりがあるのですが、その家族や一族は別ですからな」
「あぁ~……」
つまりアレか。
俺がカイネル一族を雇えば、カイネル一族は俺を守る為、近くに村を作るだろう。
そうなると必然的にデュークやガラテアの保護下におかれる訳だ。
勿論、デュークやガラテアはカイネルなんて守らないかもしれんが、十分な抑止力になるしなぁ。
なるへそ。
地味に考えられてるな。
俺への得がほとんどないと思うけど。
「つまり今死ぬよりも後で死にたいって事だねっ」
「ハッハッハッハ、まぁ、そういう事ですな。
レウス殿、いかがでしょうか?」
「しかし、一族を買うって……おいくらなんですか?
一般的にはお金がある方だと思いますが、雇う程あるかってなるとそこまでないですよ?」
「いくらでも構いません」
「へ?」
「そうだろうと思ったでござる」
「我々が買われたという事実だけあれば良いのです」
「幸い魔王の期間中に蓄えた財力で、そろそろ自給自足の生活が出来そうな段階まではきたので問題はございません」
「それだけの強さなら狩りとかでも十分暮らせたんじゃ?」
「確かにその通りですが、一族間での意見が割れましてな……出来ていないのが現状です」
騎士のプライド的なアレか。
雇われる事で人間性を出したい一族なのかもしれん。
「一族の人口は?」
「117人でございます」
意外に少ないな。
まぁ村レベルならそんなもんか。
上に命令した奴がいるならこいつらはドン達の仇じゃないしな。
別に主犯や実行犯をどうにかしたいとかないし。
うーん、こういうところは精神的に異常なんだろうな。
異常だろ?
うん、知ってる。
「んー、皆さんはどう思います?」
「良いんじゃないかなっ。
魔王の43位ならかなりの実力だし、そこら辺の警護とかを仕事としてお願いすれば良いと思うよっ」
「同感でござるな」
「デュークさん」
「なんだいっ?」
「それなら、ここら辺の土地だけ買っちゃいますか?」
「良いと思うけど、彼らを住まわせるならダイム王の許可が必要なんじゃないかなっ?」
「わかりました。
ビアンカの件の報告もあるので、ついでに言ってきちゃいます」
「了解っ。
僕が買っておこうか?」
「お願いします。
……カイネルさん」
「はい、なんでしょう?」
「この中央国の離れであるここに、もう1つ土地を購入します。
王の許可が取れたらその「土地」で雇用契約って事でどうです?」
「おぉ、願ってもない事ですな
私が王に就任した時より、人里で暮らしたいと思っていたのです」
根っから蛮族ってわけじゃないのか。
中央国に別の王が住む……なんて不思議。
この点も含めて聞かないとだな。
「では、ダイム王に聞いてくるので、それまでこちらに居て頂きます」
「かしこまりました」
ドンファンとセレナには、カイネルの見張りを頼んだ。
ガラテアは呆れて帰り、イリスとミカエルは苦笑しながらも納得した様な表情で帰ってった。
やはりこの中央国の勇者集中率は異常らしい。
そこに飛び込んでくる人系の魔王なんぞ、皆無だという事だ。
そして城へ行って来た。
ダイムとの話?
何て言われたと思う?
あいつキョトンとしながら「え、初ひ孫? レウスやるぅ~」だそうだ。
一夫多妻に関しても問題ないそうだ。
テレスは凄く、それはそれはもの凄く落ち込んでた様子だったが、トムとジュリーは気づいてなかった。
いや、気づいてやれよ。
両親はこんなに早く孫に会える……という事でとても喜んでた。
生前だったら怒られる年齢なんだがなぁ……これが文化の違いってやつか。
んで、カイネルの件は「魔王でなくなるなら問題ない」との事だ。
もっと警戒しろよ。
帰って来てビックリ。
デュークが約2000万レンジを使い、現在の土地を含めエヴァンスの5分の1程の土地が俺の物になってた。
たしかにここら辺とは言ったが……。
「ケント君、町でも作るのっ?」
おめーが金の無駄遣いしただけだよ!