第五話「ダンジョン」
エヴァンスから少し離れた森。
そう、一番最初にエヴァンスに来た時にチャッピーとスンが待っていた森だ。
意外と近所にあるな、ダンジョン。
この調子ならユグドラシルの木の中にもあるんじゃないか?
「その通りだ、ユグドラシルの木の近くにもダンジョンの入り口があるぞ」
チャッピーがさらっと言った。
まじか……でも難度高そうだな。
「入り口にはレベル100以上になったら入って来いという注意書きがあった」
レベルシステムが現れた。
レウスは頭が混乱した。
アレだな、つまりこれは、かなり強くならなくちゃ無理って事だな。
「レウスはレベルシステムを知らないのか?」
「あ、ごめん教えてなかった」
マジであるのか。
臭い設定が出てきたぞパート3。
どうやってステータス画面開くんだよ。
あいにく俺にはスタートボタンを搭載してないんだ。
チャッピー、そういう大事な事は教えろや。
「各町に寄合があるのだ」
「私達の間では戦士ギルドと呼んでいる」
ギルドシステムか。
「町民からの魔物討伐依頼を請け負ってる」
討伐依頼……。
「討伐依頼をこなしていくとレベルが上がるのか?」
「いや、戦士ギルド認定の魔物を倒したら、その魔物に適したレベル証が発行されるのだ」
「魔物のレベル表は今度持ってくるわ」
どうやら指定した魔物の、指定した一部をその戦士ギルドに提出すると、倒したと認められるらしい。
高レベルになると、高レベルダンジョンの情報やら、高額の依頼を紹介してくれたりと色々特典があるらしい。
なんでもレベル80を越えると剣の流派を開けるとか?
レベル80の敵はつおそうだ。
「ちなみに私はレベル20だ」
「我の角を持って行ってもレベルは上がらないからな」
「なんで?」
「レベル判定員じゃ我の力をみれないから」
あぁ、こいつ自慢したかっただけか。
「たしか普通のドラゴンでレベル60のレベル証が発行されるはずだ」
「最大レベルは?」
気になるからな。
聞いておきたいだろ?
「150だったはずだ」
150まではレベル判定員が測れるのか、判定員つえーな。
「戦士ギルドには勇者が数人おるからな」
勇者が複数人いる事にビックリだ。
これなら魔王も複数人いそうだな。
「まぁ、勇者ランキングの話は今度でいいか」
勇者がランキング制度らしい。
ふざけてるなこの世界。
しかし、勇者でもチャッピーに勝てないって事か。
なんか一生勝てない気がしてきた。
さて着いた。
慣れた俺とスンは大丈夫だったが、キャスカは2回振り落とされた。
数十回俺とスンが助けたけどな。
助けられなかった回数が2回って事だ。
相変わらず鼻水がヤバイ。
ティッシュ製造はまだか、世界。
「じゃあチャッピーはここで待っててくれ」
「お土産よろ」
ダンジョンにお土産があるかボケ。
そこらの雑草でもむしって持ってってやるか。
いや、それでも喜びそうだなあいつ。
さて、ダンジョンの入り口だ。
草が生い茂って、見つかりにくそうだ。
ホントに看板がある……どれどれ?
『ハイスピードの魔石あり。
来れるもんなら来てみろやぁ!!』
この世界の魔物はユーモアセンスがあるらしい。
なんか倒したくないな。
キャスカは疾風(笑)から「(笑)」を取りたいらしい。
そんな気にすんなよ。
な?
「おのれ魔物めっ!」
キャスカがノってる。
え、今そんな空気?
「きゅ?」
そうだよなスン。
まぁ、とりあえず侵入だ。
え、なにこれ暗い。
怖いじゃん。
周りは岩岩岩。
スンがストンストンと降りていく。
キャスカは懐から木製の筒を取り出して、先端の蓋? みたいな物をはずした。
まっぶ!
おい、眩しいぞ!
なんぞそれ?
「これか?
これは光の魔石を埋め込んだ物だ
もう一つ持ってきたからレウスも持って」
THE懐中電灯。
把握した。
光の魔石……なんか名前負けしてない?
光の魔石=懐中電灯……。
なんか変だ。
スンは夜目が利く。
懐中電灯がなくてもドンドン進む。
スン怖くないの?
ワタシは怖いわよ?
「きゅきゅ、きゅっきゅ!」
うん、可愛い。
どこでも癒されるなこいつは。
……分かれ道に着いた。
魔物出なくね? と思ったら出た。
「インプだ、爪と角に気を付けろ!」
ちっちゃい悪魔みたいな奴だ。
茶色というか褐色というか、羽が生えて角が生えてて爪はネイルアートみたいだ。
岩にペタペタ張り付いててキモチワルイ。
それが、1、2、3、4、5。
どんどん出て来る。
止まらない、止まらないのぉおお!
……止まった。
最初に5匹出ました。
その後10匹出てきました。
3匹倒したら4匹出てきました。
さて、残りは何匹でしょう?
弱いけど多い。
キャスカでも余裕で倒せてるし、スンは真面目に着々と倒してる。
速度は疾風さんの半分程だ。
ユグ剣でスパスパ斬れる。
やっぱ凄い剣だなこれ。
てかスン強くね?
かわしざまにスンアタックが決まる。
アタックと言ってもゼリー状の形態を変化させて殴りまくってるだけだ。
ただリーチが長いからインプがバタバタ倒れてく。
はい、結果発表でーす。
キャスカは4匹、俺は7匹、スンが8匹。
何この子。
恐ろしい子っ。
「スン……強いな」
「きゅきゅきゅ!」
ホント強い。
俺より強いんじゃね?
俺がどうやって倒したかって?
スンと一緒でかわしざまに斬っただけだよ。
血がびゃってなって、俺の服が台無しだ。
けどキャスカは全然汚れてない。
斬り方に工夫があるのか?
後で勉強しよう。
スンは打撃だしな。
はい、結果発表。
あの後100匹位現れた。
ここをインプのダンジョンと名付けよう。
結果聞く?
さっきの感じをそのまま割り振った感じだよ。
察せ。
やはり斬り方に工夫があるみたい。
キャスカは基本首を落としてる。
危ない子だわ。
で、それ以外の部位を斬った時には、基本的にボクシングのヒットアンドアウェイみたいな要領だ。
キャスカは返り血を気にしていなかったが、一撃で殺せなかった場合は必ず一旦離れるのが基本戦術らしい。
反撃が怖いしな。
いや、勉強になる。
チャッピーの血なんてそうそう見ないからな。
これがダンジョンか、ゲームじゃ血なんて気にしないからな。
たまーに人間のものと思われる骸骨が落ちてる。
やだ怖い。
じゃあダンジョン入るなよって?
自慢じゃないが俺は臆病だ。
寝てる時に現れる魔物とかまじこえーわ。
しかし、有る程度の力がないと、寝込みを襲う魔物の対処が出来ない。
近所にあるこのダンジョンの魔物なら、俺の寝込みを襲う可能性大だ。
なので死なない為にこのダンジョンに潜ってる。
死なない為に強くなってるのだ。
つまりあれだ。
弱肉強食だ。
町でのんびり暮らしてもいいけど、デビルフォレストの時みたいに襲われないとは限らない。
こんな世界だしな。
そんな時、力がないと死んじゃうじゃん?
つまりそーいう事だよ。
理想は世界最強だが、今はチャッピーの両手で精一杯だ。
スンにも負けてるしな……。
「ここで最後だな」
最後の分かれ道だ。
分かれ道毎に向かった道の脇の岩に、剣で印をつけてきた。
高レベルのダンジョンとなると正確なマッピングを要するという話だが、疾風(笑)のキャスカが行く様なダンジョンならこれで十分だろう。
最後とは言ったが、この先にまた分かれ道があるかもしれないが、現段階では最後だ。
で、本当に最後だった。
なんかキモイのがいる。
ハァハァ言ってて、涎べちゃべちゃ。
竜……に見えなくもないけどなんか違う。
額に宝石みたいなのがあって、羽が生えてる。
色はなんか灰色?
「エメラルドガーゴイルだっ!
火炎に気を付けてっ!」
普通のガーゴイルじゃないらしい。
キャスカが懐中電灯を置いて、両手で剣を構えた。
結構マジらしい。
スンは……?
「きゅ?」
いつも通り可愛い。
お、動いた。
速度は疾風(笑)さんと同等くらい。
なんだ雑魚だな。
これがボスか。
あぁ、けど疾風(笑)さんには、やや荷が重そうだ。
スンが加勢する。
エメラルドガーゴイル……エメガー(仮)の右頬にスンアタックが炸裂。
おぉ、ふっとんだ。
エメガー(仮)が岩の壁に叩きつけられ、ヘケケケケとか言ってる。
キモイ。
ドMっぽい表情だ。
口開けた。
火炎吐いた!
ナッ○さんのカパッみたい!
スンの形態変化。
なんか大盾みたいになった。
ガード!
ゼリーだよね?
俺は何してるのかって?
懐中電灯でエメガー(仮)を照らす役回りだ。
今度なんかうまい方法を考えよう。
これじゃ戦えない。
インプは雑魚過ぎて片手でいけたけどな。
キャスカがスンを踏み台にして跳んだ。
おい、踏むなよ。
着地ざまの斬首。
疾風のキャスカじゃなくて、首切りのキャスカでいいんじゃない?
あのエメラルドほじくれば高く売れそうだな。
あぁ、やっぱりほじくるんだ。
生首を持って額をほじくる美少女。
うん、怖い。
さて、魔石は?
あぁ、奥に空洞がある。
あそこに無かったらしゃあないな。
「いこかー」
「うん」
「きゅ!」
空洞を行くと少し開けた場所に着いた。
なんかボォっと光ってる。
金色だ。
なんかおる……何あれ馬?
胴体が黒くて体毛は金髪。
光ってる。
牙やべぇ。
二本角やべぇ。
顔は龍みたい。
坊やが跨ってそうな龍だ。
どっかで似た様なのを……。
あぁ、どっかのビール会社のロゴだ。
どこだっけ……?
思い出した。
キリ○ビールだ。
「……騏驎?」
キャスカなんでも知ってるな。
どうやら麒麟じゃなくて騏驎と書くらしい。
まぁ、あれは人じゃ倒せないと思う。
騏驎と聞くと伝説の霊獣ってのが一般だ。
伝説が目の前にいる。
無理だ、倒せるわけがない。
「帰ろう」
「う、うん……そうだな」
「きゅるるる……」
スンが震えてる。
まぁ、そうだろう。
「君達は何者だ?」
おう、見つかったぜ☆
これは死んだかな?
「見つかったっ、逃げろ!」
「きゅきゅ!」
キャスカが走った。
もちろんスンも俺も。
あっさり回り込まれた。
馬車はないぞ。
すっげぇ速かった。
斬りつけたら「残像だ」とか言われそうだ。
斬りつけないけど。
「何者だと聞いている」
「レウス、こいつ何て言ってるんだ?」
キャスカがわからないのも無理はない。
魔物言語だ。
騏驎って魔物なの?
まぁ、いいや。
紳士に対応しよう。
「初めまして、レウスといいます。
この子はキャスカ、このスライムはスンといいます。」
「うむ、私は騏驎。
魔物と一緒だから喋れると思っていた。
珍しいハーフエルフの子供もいるものだな?」
「そりゃどうも」
この言い方だと人間とは喋れないみたいだな。
しかし、あまり悪い印象を受けない奴だな。
「して、ここには?」
「この子がここの魔石が欲しかったみたいなので、俺はその手伝いとして来ました」
「きゅきゅ!」
「スン、中々愛らしい顔をしているな」
当然だろ。
俺のスンだぞ?
「魔石とはアレの事かな?」
騏驎がこのフロアの奥に目を向けた。
オレンジ色の光がボォっと光ってる。
どうやら70%の方に来れたらしい。
「おそらく」
「持って行きたまえ。
私の目的の物ではなかったからな」
「魔石を探してるんですか?」
「うむ」
魔物が魔石探索……。
なんか変な感じだな。
変な騏驎だ。
「帰ろうとしたんだが、アレの近くが暖かくてな、ついついウトウト寝てしまった。
そこへ君達が来たという事だ」
「……はぁ」
まぁ、もらって良いというのであればもらって行こう。
「キャスカ、騏驎があの魔石くれるってさ」
「本当か!?」
「とってきな」
「う、うん!」
キャスカは走って魔石を取りに行った。
で、取ってきた。
すっげぇ笑顔だ。
目尻垂れ過ぎ。
「さぁ、君達も目的の物を手に入れたわけだ。
帰ろうではないか」
「はい」
「きゅ!」
「出口までは私も同行しよう」
「どうも」
こいついれば明るくて便利だな。
基本的に全て見渡せる。
さて、帰ろう。
道中、騏驎はあれこれ質問をしてきた。
仕方ないから付き合った。
デビルフォレストで育った話をしてやった。
スンと出会った話をしてやった。
黒い鎧の一団の話をしてやった。
どの話も興味津々の様子だった。
で、出口まで着いたわけだ。
「もう夕方か」
「結構な時間潜ってたな」
「では、私はこれで失礼しよう」
騏驎がそう言った時、ダンジョン入口前に巨大なドラゴンが降ってきた。
漆黒の皮膚、額にある凶悪な角、上顎から生える鋭利な牙。
巨大な羽を羽ばたかせ、見る者を凍りつかせる獰猛な黄金の瞳。
両手には死を連想させる鋭い爪。
人は皆このドラゴンに畏怖を込めてこう呼ぶ。
空の――
「チャッピー」
「はい」
「驚かすなよ」
「すんません」
うん、引っ張ってごめん。
キャスカがビックリし過ぎて少し泣いてたからお説教は必要だろ?
あれ?
チャッピーと騏驎が見つめあってる。
恋でもしたか?
いや、チャッピーには大地の支配者がいる……。
禁断のアレか?
「あれ、スカイルーラーじゃね?」
「あれ、騏驎じゃね?」
あ、知り合いでしたか。