第五十三話「厄年?」
休みを貰って西の国に一度戻る事にした。
付いて来るのはハティーとデュークとガラードだ。
何故帰るかって?
トゥースから手紙が届いたんだ。
おそらくロンド経由で俺が中央国にいるとわかったんだろう。
ガイの所に手紙がきたからな。
おのれ、職権濫用だぞ。
しかし行くしかない。
手紙の主な内容には、ビアンカが大変だとしか書いて無かったからな。
どう考えても釣りだと思うんだ。
俺なら手紙にその大変な詳細を書く。
しかも世間話の後に書いてあったんだぜ?
本当に大変だったら普通最初に書くわ。
というかトゥースが中央国に走った方が早いわ。
あれから1年だ。
ありえそうな手紙の理由を考えてみる。
1、あの夜実は俺のアレがアレアレして子供が出来てた。
2、ブルームの陰謀
3、戦士ギルドの陰謀
1は中央国に手紙が届く期間を考えればかなり当てはまる。
これは覚悟しておいた方が良いだろう。
2は俺の情報を嗅ぎつけたブルームがトゥースに命じた可能性がある。
3は戦士ギルドの奴らがグルになって俺をからかってる可能性がある。
まぁ一応、本当にビアンカが大変って事も考慮して、帰る事にしたんだ。
という訳でガラードに乗って西の国に着きました。
さて、戦士ギルドに行ってみるか。
あぁ、こういう場合ブルームへの挨拶からのが良いのか。
面倒だが仕方ないな。
「レウス、私は一度西の森に行ってるぞ!」
「後で俺も行くー」
「待ってるのだ!」
「レウス、私も入っていいのか?」
「その木札下げてれば大丈夫だ」
ガラードが街中を歩けてるのは、この1年でゲブラーナの体制が少し変わったかららしい。
魔物との交流により経済が回るって事で、木札の通行証があれば大体の場所を魔物が歩ける。
歩けない場所は「魔物NG」的な絵の看板が立ってる。
木札を着ける魔物には必ずその説明をしているとの事だ。
誰か魔物言語喋れるのかしら?
今のところ侵入不可エリアに入った魔物はいないとの事だ。
従順な魔物が多いな……。
ゴチョウとマイガーに感謝だ。
「珍しい国だねっ。
これもケント君のおかげかなっ?」
「先にお城に行きますけどどうします?」
「ガラードは入れるのかなっ?」
「多分入れないと思いますけど……一応行ってみますか」
入れたわ。
魔物って事で入れないと思ったが入れた。
物理的な大きさも気になったが、謁見の間まではギリギリいけた。
匍匐前進するガラードは中々シュールだった。
城の正門に「レウス」って刻印された銅鑼があったわ。
俺が現れたら兵士がその銅鑼をジャーンって鳴らして、更に奥でジャーンって鳴って、更に奥で……。
どうやらゲブラーナにはレウスシステムが導入されてるらしい。
謁見の間では大汗をかいたブルームが現れた。
髪が濡れてるから風呂でも入ってたんだろう。
王族には風呂文化は普通らしい。
ナディアも一緒に現れたが、髪が濡れてなかったのでそんな情事はないらしい。
「陛下、お久しぶりです」
「レウス殿、お久しぶりですな」
流石に中央国の王族だってのは知られてるか。
ある程度仲良くなったし「レウス君」って呼ばれてたんだがなぁ。
「呼び方は前と一緒で構わないですよ」
「本当かねっ!?」
相変わらずチャッピーやハティーみたいな奴だ。
ナディアの話だと友達がダニエル位しかいないらしい。
人の良い王だから嫌いじゃないが、寂しがり屋は難点だな。
「ナディアさんもお久しぶりです」
「元気そうで何よりだ、レウス」
「デューク殿、久しぶりだな」
「お久しぶりですっ、ブルーム王っ」
さすがにデュークは面識はあるのか。
初めて会った時に有事の際に動きまわるとか言ってたから、国からの依頼も受けてたのかしら?
「して、そちらは……初めて見る魔物だな?」
「元魔王45位のガラードだ。
宜しく頼むぞ人の王」
「元……魔王」
魔物も入っていいか? としか聞いてないんだ。
だってデュークが門番に交渉したんだもん。
「今はレウスの食客兼友人をしている」
飯あげるかわりに移動なんか助けてもらってるし……まぁ食客になるのか。
てか友人ってするものじゃねぇだろ。
「私もレウス君の友人だ」
なんで張り合うんだ?
「僕もですよっ」
狂人は友人だったらしい。
「わ、私も……」
ナディアが友達になった。
「戻って来たという事は、レウス君の用事とやらは終わったのかね?」
「いえ、まだまだです」
なんで泣きそうになるんだよ。
って事は、ブルームの陰謀じゃないのか?
「トゥースからビアンカが大変だと手紙が届いたので戻って参りました」
「あぁ、そういう事か。
おめでとうレウス君」
めでたい事が起こったらしい。
俺も狂人と一緒か……。
「やはり子供が?」
「知らなかったのか?
元気な女の子との話だ」
「お父さんになったんだねっ」
「レウス・ジュニアか、良い種族名だ」
そんなカテゴリねぇよ。
あ、どうもレウスです。
乳に襲われて父になりました。
中央国で問題起きないかしら?
あぁ不安。
「ビアンカは西区に家を買ったらしい。
ナザーに案内させるので行ってあげるといいだろう」
「わかりました」
「……発つ前に必ず来てくれ」
恋人かよ。
「……わかりました。
ではまた後程」
「うむ、待っているからな」
はい、お久しぶりナザー……ん?
「お久しぶりですナザーさん。
……少し太りました?」
「お久しぶりです、レウス殿。
痩せましたよ、大きくはなりましたが……」
どこかで聞いた事のあるセリフだな。
「忙しい中めっちゃ修行してますね」
「マイガーとゴチョウの相手を毎日の様にしているからでしょう」
「あいつら人間言語少しだけ覚えてましたからね。
うまくなりました?」
「ややわかり辛いですが、意思疎通は可能ですな」
「あいつら強くなったでしょう」
「ダイアン殿の話では、おそらく判定レベル130に届くだろうとの事です」
「とんでもないですね」
「おかげで私もかなり鍛えられました」
「ナザーさん、勇者になれますねっ」
「デューク殿にそう言ってもらえるとは嬉しいですな」
「レウス、周りの人間が私を見てるぞ」
「そりゃお前が大きすぎるんだ。
早く人化を覚えろ」
「あれは簡単な様でなかなか難しいのだ。
一つ頼みがあるのだが」
「なんだ?」
「恥ずかしいからあまり見ないで欲しいと周りに言ってくれ」
お前が言えよ。
「ハティー殿に似て愉快なお仲間ですな」
「そうですかねぇ……」
「こちらでございます」
「案内して頂いてありがとうございます」
「とんでもございません。
では、私はこれにて…………」
んー、石造建築の普通の家だな。
トゥースと一緒に住んでるのかしら?
ガチャンガチャンとな。
さて、怒ってるか、喜ぶか……どっちじゃろ?
「はい、どなた?」
「レレレのレウスだ」
「レウスッ!」
飛び出て来たわ。
「ただいまっ」
なんでお前なんだよ。
「大きくなったね、ビアンカ」
は?
「……お兄ちゃん?」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ねぇ待って?
き、聞き違いかもしれない。
「デュークお兄ちゃん?」
言い直さなくていいし……。
「うん、ビアンカっ。
13年ぶりだねっ」
「な、な、なんで、レウスとお兄ちゃんが!?」
なんでビアンカとデュークが!?
髪の色違うだろ!
「可愛い姪の姿を見せてよっ」
「あ、え……」
「レウス、この家には入れないぞ」
「何この大きい魔物……」
「元魔王だよっ」
「おいレウス、聞いてるのか」
「あれレウス君、どうしたんだいっ?」
「……ちょっと頭の中の空中都市がボロボロ崩れ去ってる感じです」
「うーん、深いねっ」
「とりあえず、入って」
「入れないぞ」
俺は頭に入らない。
実はレウスに子供が出来てた、うわーびっくり! だけの回だろ今回は。
余計過ぎるオプションは作品をダメにするぞ!
おい、聞いてるのか!
くそがっ。
これ以上の驚きは最終話を迎えてもないかもしれん……。
13年ぶりって事はデュークが13歳、ビアンカが8歳の時から会ってないって事か。
デュークは成人になってすぐ家でも飛び出したのか?
俺がゲブラーナで生活してる時にビアンカから勇者関係の話で兄の話題が出なかったのは、デュークが勇者になってる事を知らなかった?
勇者ランキングには名前だけしか載らないしな……。
デューク……たしかに同じ名前はいそうだ。
勇者だと思わない可能性は高いし、確かめる手段もない。
これは最初から決まってたのか!?
面白そうとか言って後付けで決まったんじゃないか!?
ええい混乱してきたぞ!
くそっ、デュークは狂人で死神の嫁がいて、勇者でビアンカの兄で俺の兄って事か!
いや、ビアンカと結婚はしてないから兄にはならんのか?
わからんっ。
「レウス、顔色悪いわよ?」
「レウス君、大丈夫かいっ?」
「レウス、顔が見えないぞ」
ドア全開でドアからガラードが首だけ出してる。
道を歩く人に迷惑そうだ。
「えーっと、デュークさんはビアンカのお兄さんって事ですね?」
「さっきからそう言ってるじゃんっ」
「ビアンカはデュークさんが勇者だと知らなかった?」
「えぇ、まさか7位の狂人デュークがお兄ちゃんだと思わなかったわ……」
俺もだわ。
「んで、俺の子供が出来たと……」
「えぇ、こっちへ来て。
今さっき寝たとこなの」
俺も帰って寝たい。
小さな木製のベッドに、昔の俺みたいに禿げ散らかしてる中々可愛いベイビーが寝てる。
髪は焦げ茶って感じだな?
肌色……黄色っぽい赤ん坊の服着てる。
「抱いていいかいっ?
落ちたら死んじゃうかもしれないけどっ」
じゃあ抱くなよ。
「レウス、遠くに行かないでくれ。
姿が見えないとかなり不安だ」
太い声で言うなよ。
くそっ、この世界では14歳がきっと厄年だ。
「気をつけて持ってね!」
「はいはいっ。
相変わらずビアンカは僕に厳しいなぁっ」
「ビアンカ、この子名前はなんていうんだ?」
「いつかレウスと決めようと思ってたから、まだ……付けてない」
「俺が戻って来なかったらどうしたんだよ」
「その時は諦めて名付けるわよ」
んー、なんかビアンカが大人しくなった感じがするな。
語尾の「♪」もないし……狂人の兄がいるからか?
それとも子供を産んで何かが変わったのか?
「うん、そうだな……。
出産に立ち会えずごめん」
「心配かけたくなくて呼ばなかっただけよ。
今回はトゥースが暴走しただけよ」
「そうか」
「アツアツだねっ」
「「…………」」
しかし名前か。
女の子の名前……。
適当に付けたら皆に怒られそうだ。
んー、ビアンカ&レウス……。
名前の後ろだけとってカス……ないな。
同様の理由でスカもない。
頭だけだとビレ……変だ。
レビ……うーん、微妙か?
レビィとかなら普通か。
伸ばすか?
ビレーとかレビーとか……レーアあたりが妥当か?
あ、死神がレイアじゃん。
死神になりそうだから回避した方が良いかもしれんな。
「んー、名前か」
「後ろだけとってカスとかどうっ?」
「却下ですね」
「じゃあスカかいっ?」
くそっ、14、15行前を消したい気分だ……。
「ビアンカは何か候補あるの?」
「レーアっていうのが良いかなって……」
「あぁ、それも考えたんだが、実はデュークさんの奥さんがレイアって名前でな」
「お兄ちゃん、結婚なんてしてたのっ?」
「うんっ、子供いるよっ。」
「……へ?」
「そしてレウス君は中央国の王太孫だよっ」
「へ?」
ここは俺がゆっくり説明する流れだろうが!
クッション言葉じゃないが、そういうのって大事なんだぞっ!
いつかのモヒカンの時とはわけが違うんだ。
「レウス君、中央国のダイム王の孫なんだっ」
「…………」
「……俺も中央国で初めて知ったんだ」
「そ、そう……」
「レウス、そろそろ私が泣きそうだぞ。
こっちへ来てくれ」
「アハハハハッ、じゃあ僕がそっちに行くよっ」
「さすがデュークだ」
「はい、レウス君。
しっかりとこの子を抱いてねっ。
落とすと死んじゃうかもしれないからねっ」
マイナス要素ばっかり話すなよ。
軽い……しかし、なんか重いな……。
子供を抱くなんて親戚の集まり位だったが、自分の子供となると重さが全然違う気がする。
むぅ……これは慣れないな。
「どう?」
「感動と困惑と喜びと不安だ」
「うふふ、おかしな答えね♪」
「おぉ、その言い方はビアンカって感じがするな」
「だってしょうがないじゃない、レウスったらこの1年で……その、一段とカッコ良くなったから……。
勇者ランキングだって43位で、北の国の件もロンドさんに聞いたし、魔王とか呼ばれてるし…………」
最後の二つ名はカッコ良い要素無くね?
なるほど、久しぶりで少し緊張してたのか。
「レウス、この子の名前……どうしようか?」
「んー、あとはレビィと……レンカ位しか出てこない。
まぁ名前を合わせなきゃいけない訳でもないからな」
「じゃあ第2候補にしましょ♪」
「レーア以外にも考えてたのか?」
「名前を混ぜなくて良いならこっちのが好きなの♪」
「へぇ?」
「ラーナ♪」
ラーナ……。
「もしかしてゲブラーナからとったのか?」
「正解っ♪」
「なんでまた?」
「レ、レウスと……その……初めて会った場所だから……」
あ、こいつ可愛いわ。
しかしラーナか、良い名前だ。
「うん、じゃあ今日からこの子はラーナだ!」
「うんっ♪」
「ラーナか、良い名前だねっ。
だけどレウス君、これを知ったらキャスカちゃんやハティーちゃんが悲しむんじゃないっ?」
くそ、暴走しやがってっ……。
最初から決まってました。