第五十一話「岩岩栗」
ガラードの背中に乗り、南の山脈地帯に入り空から見渡してみたら、すぐにオバサン地帯が見つかりました。
さすがにあの図体ならすぐ見つかるかって思ってたんだが、最初に見つけたのはオバルスじゃなく、巨大な銀色の布団だった。
あれが金剛竜の皮布団か……。
肌が荒れるんじゃないか?
降下しながらオバルスと、オバルスの半分程の大きさの白い怪物が見えた。
「これまた大物だねっ」
「知ってるんですか?」
「白い虎だよっ」
「つまり……」
「びゃ、白虎って事ですね、デュークさん!」
「正解だよケミナちゃんっ」
「あら、あれはガルーダちゃん?」
「少し小さいですねぇ」
「ガルーダちゃんところのお子さんかしら?」
「そうなりますかねぇ」
「オバルスさんっ!」
「あらやだ、噂をすればレウスちゃんよ、びゃっちゃん!」
凄いあだ名だな。
「あの子が噂のレウス君ですかぁ。
中々の実力ですねぇ。
隣は勇者の有名人、デューク君ですかねぇ。
いやぁ、会いたくなかったなぁ」
「あらイイ男だと思ったら、あの子がデュークちゃんだったの」
降下からの着地!
「初めまして、レウスです」
「デュークですっ」
「ガラードだ」
「ケケケケケミナですっ!」
毛が多い。
剛毛なのかしら?
そんなケミナ嫌だな。
大丈夫だ、剛毛違うわ。
お肌ツルツルですわ。
ケミナの服?
あー、この前はパジャマだったからな。
今はヘソ出しの短い白いシャツに、薄手の赤いショール?
袖を通すタイプの薄いやつだな。
それに黒いショートパンツ。
んで、黒いブーツですわ。
背中に弓を背負ってるが、矢は背負ってない。
ケミナは気の変形が得意でな、矢は全て気なんだ。
気総量の問題で長く戦えないけど、時と共に増えてるし強くなってる。
きっと晩成型だな。
幸いハーフエルフだし、時間はあるしな。
剣でいけば良いと思うが、拘りがあるそうだ。
俺だって斧にしたいと思わない。
剣に拘りはないが、斧にしないという拘りがある。
そういうもんだ。
「初めましてぇ、白虎ですぅ」
「ケミナちゃんとガラードちゃんは初めましてね、オバルスよ♪」
「よろしくおねがいしますっ!」
「元気があっていいわね♪」
「可愛らしいですねぇ」
「よろしく頼む」
「あら、ガラードちゃんは、喋り方もガルーダちゃんにそっくりじゃない」
「ですねぇ」
ガルーダもこうなのか。
大人になったガラードは想像しにくいな。
まぁ、子供は親の喋り方やイントネーションを真似て覚えるからな。
因みに幼稚園の先生とかが関西弁だと、関東人でも関西弁になってしまう事もあるらしいぞ?
下手すれば親より喋る時間が長いからな。
しかし、白虎もまた変な喋り方だな。
語尾だけ京都弁みたい。
「さ、びゃっちゃん!
レウスちゃんに頼んでみたらっ?」
「頼み?」
「レウス君、私に名前下さいなぁ」
名前貰うのが流行ってるらしいぞ。
あぁ、朱雀以外は魔王ランキングに入ってないんだ。
ガラテア情報だと、強さ順序的に朱雀、白虎、青竜、玄武らしい。
「名前ですか……」
「お願いしますぅ」
白虎……ホワイトタイガー。
ホイガーとかにするとマイガーと一緒になっちまうな。
ホワイトタイガー……びゃっこ……。
しろとら……京都弁……。
白い……京都!
これだわ。
「じゃあ舞虎でいかがです?」
「あら良いじゃない♪」
「舞虎……イイですねぇ。
いただきます。
レウス君、ありがとうございますぅ」
「いえ、とんでもない」
元の名前とあまり変わってないけど、魔物は種族名の中での固有名が欲しいのだろう。
種族といってもほぼ1人なのになぁ……。
あぁ、一応これお礼の招待だよな?
挨拶しとくか。
「本日はご招待ありがとうございます」
「ますっ」
「ございますっ!」
「テンキュ」
…………。
「いいのよ♪
さぁ、適当な岩にでもかけてちょうだい」
尻が痛くなりそうだ。
「レウス君、デュラハンさんに狙われてるってホントですかぁ?」
いきなりだなおい。
「はい、狙われてる理由が見当つかないんですけどね。
デュラハンだけじゃなく魔王に狙われてるみたいです。
このガラードもガルーダに命令されて俺を狙ってきました」
「ガルーダは殺しちゃいましたっ」
おい話をこじらすなよ。
「あらやだ、あの人死んじゃったの?」
「頭の固い方でしたからねぇ。
デューク君相手なら持って数分じゃないですかねぇ」
「正解ですっ。
4分で血まみれでしたっ」
ガラードの前で話すなよ、まじで。
「お腹空いたぞ」
……。
やはりそういう世界なのか。
長い間一緒にいれば情や絆が生まれそうなものだがなぁ?
スンやチャッピーは俺が死んだら悲しんでくれるはずだぞ?
いや死なないけどな?
「ご飯はもうちょっと待ってね。
今マグマで煮込んでるからっ♪」
何を食わせるつもりだ?
俺とケミナは人間だぞ?
「合点承知」
「本当にガルーダさんに似てますねぇ」
親も合点承知使いらしいぞ。
そういえば言ってなかったが、デュークはガルーダの角をとってきたが、ガラードはまだ角が生えてないだろ?
100歳以降からゆっくり生えてくるらしいぞ。
因みにガラードはまだ49歳だ。
「では私は魔界に戻りましたら朱雀さんに聞いてみますわぁ」
「良いんですか?」
「大丈夫よ、朱雀ちゃん達4人は皆仲が良いから♪」
「それは助かります!」
魔王の9位なら色々情報持ってそうだな!
これは期待出来るな!
「ケント君の人脈……魔脈は凄いねぇ」
凄い脈だな。
不整脈になりそうだ。
「ケントってレウスちゃんの事?」
「そうですよっ。
レウス君は転生者らしいですっ」
さらっと言うなよさらっと。
「転生ですかぁ。
それは珍しいですねぇ。
魔界の魔王にも確か1人いた気がしますねぇ」
初じゃないのか。
転生が一気に安っぽくなったな。
「誰だったっけなぁ?
えーっと、ビ……ビ~」
「ビアンカかなっ?
レディービアンカッ」
またビアンカかよ。
需要があるなおい。
ランキングには目通してるから知ってたけどさ。
「そうそうレディービアンカさんですぅ」
「私は会った事ないわねぇ」
「私もです!」
……。
ケミナが話についていけなくて暴走しちゃったよ。
レディービアンカ。
魔王ランキング30位だったっけか?
名前的に人系の魔王っぽいな。
「じゃあ魔界で見かけたら捕まえなきゃねっ」
捕まえる……。
確かにそうだが、魔王に人系が多いって事は魔王と戦った時、いずれ俺は人殺しをしなくちゃならんのだよなぁ……。
魔物だけ殺せて人を殺せないって訳じゃない。
生きてく為には仕方ない。
こんな世界だしな。
しかし経験がないし、経験したいとも思わない。
後味最悪だろうな……。
うーん……嫌だなぁ……。
そういえば魔王のなり方を言ってなかったよな?
北の国からの帰りにデュークに聞いた時、「魔王になりたいの?」とか怖い顔で聞かれたわ。
全否定したけどな。
人系の魔王は悪の心でなってしまうのだと。
心に強い悪があれば、人界のどこかにある魔王ギルドに辿りつくらしいとの事だ。
あくまでこれは噂なんだけどな。
磁石みたいに引き寄せるんだと。
怖いもんだ。
弱い人間も集まるのかと思ったが、「ある程度の強さがないと辿りつけないんじゃないっ?」ってのがデュークの見解だ。
魔界で魔王になるのは簡単らしい。
魔界のエルフの里に魔王ギルドと勇者ギルドがあるんだってさ。
どうやら魔界のエルフの里は中立地帯らしい。
そこ周辺じゃ戦っちゃいけない決まりもあって、魔物もそれを守るんだと。
変なシステムだ。
魔物の魔王は、人系の魔王がスカウトしてるらしいぞ。
つまり魔王ギルド創始者は人系だったって事だな。
魔界のエルフの里の住民だけが魔王か勇者か選べるって事だ。
その住民ならいきなり勇者になる事も可能なんだと。
まぁ既に魔界で暮らしてるし、強さはある程度あるんだろう。
ランキングは最下位からだが、住民の魔王や勇者が現れるのは数十年に1人か2人だから、あまり影響はないらしい。
「さて、そろそろ良い感じに煮えた頃かしら?
ちょっと見てくるわ」
「待っていたぞ」
料理をする魔物も珍しいな。
スンやハティーも作るけどな。
スンは俺が作る料理を見様見真似で作る。
水が主食だから味はわからないが、俺の味を完全に再現する天才だ。
他の人の料理も再現可能だ。
俺の味?
男料理だ。
ガッって作ってガッって盛るんだ。
大味だぞ。
セレナの料理は基本素材しかでてこない。
食えない場所だけ切って出てくる。
料理じゃない?
切ってるだろ?
多分料理に該当するだろう。
ドンファンは匠の技だ。
絶品料理が多数出てくる。
長生きしてるだけあってとんでもない技術で、勇者ハウスの全員がドンファンファンだ。
ファンファンだ。
キャスカは普通の家庭料理だな。
鼻水や涙が入ってないか心配なので、スンが補助に付いてる。
セレナに似てハティーは火だけ使う。
火だけな。
で、マグマを使うオバサンは何を出すのかと思ったら、でっかい丸い岩を出してきやがった。
俺の歯はお前の牙程硬くないんだ。
中央国の王族ならいけるかもしれんがな。
「こ、こここれどうやって食べるんですかっ?」
ケミナも困ってる。
「私達は丸ごと食べるけど、あなた達は割って中身だけ食べるといいわよ♪」
「……これは岩石ロッ栗だねっ」
岩岩栗だそうだ。
中身が栗らしい。
焼き栗って事か。
クリーミーなお味で美味かった。
ケミナは舌を火傷してた。
「ご馳走様でしたっ」
「ご馳走様です!」
「おいしかった~!」
「美味だった」
「美味しかったですわぁ」
「それは何よりよ♪
さぁて、レウスちゃんへのお礼はどうしようかしらねぇ……」
え、お礼ってご飯じゃないの?
もういいんだけど……。
「何かしてあげられる事はないかしら?」
「ご飯だけで十分ですよ」
「命の恩人にご飯だけじゃ釣り合わないわよ」
「じゃあ角か牙か爪をくださいっ」
なんでお前が言うんだよ。
くれるわけがないだろう。
……爪ならくれるかもしれんな。
「ん~角ねぇ……」
ほら困ってる。
「角は無理だけど、牙ならこの前抜け落ちたのが2本そこに落ちてるわよ?」
そこ?
おぉ、ケミナの後ろにデカイの2本が……。
なんか卑猥だった?
ごめん。
オバルスの牙は生え変わるのか。
鮫みたいな奴だな。
「やったねケント君っ。
この大きさなら中央国の勇者全員分の武器が出来るよっ」
お前は手に入れたばかりで新調かよ。
けどそんな事あまり気にしないんだろうな。
神技の魔石超もったいねぇな。
俺だけじゃなく、中央国全員が伝説級の武器の持ち主になるのか……。
とんでもないイベント起こしやがったな……。
皆怒るんじゃないか?
いや、俺のせいじゃない、狂人のせいだ。
「頂いて良いんですか?」
「置いてあっても使わないわよ♪」
「問題はどう持って帰るかだねっ。
小分けするだけなら気込めた剣で斬れるから、何往復かするしかないかなっ」
「あー、私がそろそろ帰りますから、皆と共に持って行ってあげますよぉ」
「ま、舞虎さん、ありがとうございます!」
「可愛い子に名前で呼ばれるのは良いですねぇ」
「そうでしょ?
私も名前が付いた時は嬉しかったわ♪」
舞虎はオスなのか?
まぁ、っぽいよな。
ケミナを食べちゃダメだぞ?
「さぁて行きましょうかぁ。
中央国で良いんですかねぇ?」
「ですけど、人に見つからないでってのは難しいですかね?」
「大丈夫だよっ」
なんでお前が答えるんだよ。
「白虎の速度は普通の人じゃ見えないよっ」
「それに乗るのは結構普通の俺とケミナなんですけど?」
「ケミナちゃんは僕の後ろで気を集中すれば大丈夫さっ。
レウス君は頑張ってっ!」
「私は飛んで帰る」
「じゃあ俺もガラードに――」
「レウス君、これも修行だよっ」
スパルタ野郎め……。
「じゃあレウスちゃん、また手紙だすわ♪」
「ありがとうございます!」
「オバルスさんさようなら。
お元気で!」
「ケミナちゃんもね」
「またご飯宜しく頼む」
「あなたはいつでもいらっしゃい」
「じゃあ、オバルスさんまた会いましょうねぇ」
「じゃあね、舞ちゃん!」
「また牙もらいに来ますっ」
図々しいだろうが。
「イイ男の頼みは断れないわ♪」
「アハハハハッ!」
「行きますよぉ」
気で身体を覆います!!
死なないのを祈ってて!