第五十話「嫁と鼻水」
嫁とはビックリだ。
デュークファンが減るんじゃないか?
まぁいいけどさ。
「奥さんほったらかしで良いんですか?」
「東の国に住んでるから数時間で会える距離だよっ。
ガルーダを殺った時も一回帰ったからねっ」
あぁ、狂人の本気走りならすぐなのか。
東の国なら中央国でも魔界でもすぐに帰れるって事か。
「へぇ、デュークさんの……。
なんてお名前なんです?」
「レイアさっ。
周りからは死神レイアって言われてるよっ。
変わった名前だよね、アハハハハッ!」
俺より怖い二つ名が出てきたぞ。
レイア……勇者ランキング15位だわ。
欲しい物は黄金魔石。
あ、黄金魔石は20位以下から選べるらしいぞ。
……というか本当に100人出すつもりなのか?
魔王もいるんだ、やめとこうぜ?
「じゃぁレイアさんは東の国で勇者を?」
「うん、息子と一緒に暮らしてるよっ」
だそうです。
「へぇ……息子さんっておいくつなんですか?」
「14の時の子供だから~……」
「……11歳ですか」
「うん、そうだねっ。
東の国で戦士をしてるんだっ」
13歳の成人になったばっかりで子供作ったのか……。
かなり前から色々とキマってたみたいだな。
「へぇ……レベルは?」
「この前ブレイブジャッジメントを倒したらしいよっ」
……2年後、勇者ギルドは荒れるかもな。
「レイアさんはおいくつなんです?」
「200歳位のエルフだよっ」
THE、年の差婚。
妻の年位把握しとけよ。
しかし、何故死神と呼ばれてるんだ?
「何で死神なんですかね?」
「昔は悪鬼レイアだったんだけどねぇ……なんでだろっ?」
勇者に「悪」が入っちゃまずいだろう。
あぁ、俺も「魔」が入ってたわ。
「数年前に、レイアのランキング戦で2人続けて死者が出た時、マイムマイムさんが注意しに来てからかなぁ?」
それだわ。
「おかしいよねっ、事故なのにっ」
おかしいよねっ、その思考がっ。
やはり死者が出るのか。
あー怖い。
はい、とりあえず帰宅しました!
「レウス」
『あぁガラードか、ただいま』
「おかえり」
『……え?』
「もうある程度話せるぞ」
「まじか」
「イエス」
……その言葉はどう覚えたんだ?
しかしかなり頭良いな。
2週間で人間の言葉を覚えるとか、どんな頭脳だよ。
教えたハティーも頑張ったんだな。
いや、スンもか。
絶対そうだ。
後で褒めてやろう。
「見て見てガラード、君のお父さんの剣だよっ」
……。
「うむ、流石親父の剣だ。
さぞや素晴らしい斬れ味だろう」
…………。
何でそうなるんだ?
まぁいい、あいつ等は無視だ無視。
「ただいまー!」
「きゅいー!」
「おぉスン、元気にしてたかー?」
「きゅきゅいー!」
ん、うるさいのが降りてきた。
「レウス、何故私も連れて行かなかったのだ!?」
「短期間でガラードによくあそこまで教えたな。
偉いぞハティー」
「そうかっ!?」
「スンもありがとな」
「きゅぅ」
「何でスンが協力した事を知ってるのだ!?」
え、じゃなかったら無理じゃん。
「勘だよカン」
「レウスは凄いなっ!」
「あたぼうよ」
「それはどういう意味なのだ!?」
「あれ、キャスカは?」
「あいつはレウスの声が聞こえたら、急に部屋にこもってブラッシングを始めたぞっ!
私はそんな手抜きはしないからな!
見ろこの尻尾の毛並みを!
レ、レレレウスさえよければ、さ、触っても良いんだぞ!?」
何で尻尾なの?
尻尾はデスウルフリーダーにとって恥ずかしい部位なのか?
いやしかし尻尾丸見えだしな……。
触られる事が恥ずかしい事なのか?
むぅ、わからない。
前に触ったら鼻水ぶっかけられたしな……。
「スン、触っていいらしいぞ?」
「きゅー!」
「こ、こらスン!
何故お前が触るのだっ!?
これ、そこはダメだっ、おいぃいいいいっ!!」
ハティーとスンは仲が良い。
いや、スンは誰とでも仲が良い。
デュークとでも一緒に修行するしな。
なんて凄い奴だ。
素直に尊敬するな。
「レウス、帰ったか」
「あぁセレナさん、ただいま戻りました」
「無事な様で安心した」
「お土産です。
セレナさんが使うかどうかはわかりませんが……」
「これは……剣か?」
「隕鉄の剣です。
魔石限度数は5、ウェポンエンチャントは特硬化と特抵抗のみで、痛んでた所は修繕しておきました。
北の国のブレイブアンデッドから手に入れ、セレナさんが使っている剣と似ていたのでどうかなと……」
「ほぉ……うん、良い剣だ。
頂いていいのか?」
「俺のはもうありますからね」
「そうか……感謝する」
おぉ、少し笑った。
「……どうした?」
「笑うともっと綺麗ですね」
「……そうか」
おぉ、少し赤くなった。
ちょっと前進です!
いや、別にセレナ狙いとかじゃないぞ?
ただ距離が縮まると嬉しいだろ?
それだそれ。
「そういえばドンファンさんは?」
「ドンファン殿はしばらく留守にすると言って出て行った」
「へ?」
「ミカエルに不覚をとって悔しかったのではないか?
師の下で鍛錬してくると言っていた」
「へぇ……ドンファンさんが……」
格上とはいえデュークに負け、ミカエルに負け2連敗。
確かに武士的なアレなら修行しまくるな。
しかし、師匠か。
めちゃめちゃ強いって言ってたアレか。
俺の師匠はチャッピー、マカオ……スンにキャスカにビアンカにトゥースに狂人か?
ごめんドンとピン忘れてたわ。
剣術はドンとピンだな。
チャッピーとマカオに体術ってとこか。
狂人は対魔物戦闘やら気の使い方。
スン、キャスカ、ビアンカ、トゥースは良いとこどりって感じで吸収してるな。
師匠か……正式な師匠が欲しいっちゃ欲しいな。
まぁだから学校に通ってるんだが……。
デューク以外でマンツーマンが理想だ。
ん、鼻水が降りてきたな。
「レウスッ、おかえりなさい!」
「ただいまキャスカ。
どうだ調子は?」
「ついに左手の回復を修得したぞっ」
「おぉ、やったなぁ!
これでランク5だな」
「うん!
セカンドレベルの魔物ならなんとかいけそうだ!」
「あまり無理をしなくていいから、ゆっくり確実にいこうな」
「う……うん」
「よーし良い子だ!
良い子にはこれをあげよう」
「……これ?」
「神速のリングだよ」
おぉ、目がうるうるだ。
あ、ビローンって例のヤツが出てきた。床まで落ち…………ない。
膝あたりで止まった。
1メートル位の長さを保持してるわ。
涙出ました。
あ、鼻水落ちた。
セレナが既に手拭いを用意してる。
ナイスコンビネーションだ。
「良かったなキャスカ。
レウスには礼を言っておけ」
「うぅ……うぅっ……ありがどぅ……」
「どういたしまして。
これでそのスピードリング外せるだろ?」
「な、なんでぞれじっで、るのぅ……うぅう、っうう」
あ、やべ。
まぁいいか。
「スンに聞いたんだ」
「うぅうううっ……スンのばぁ、っかぁぁああっ……うぅっ、ううぅ……」
せめて切り替えてから言わないと怒ってる様に感じないな。
あとで学校にも顔だすか。
結構休んじゃったしな。
「きゅーきゅー」
「どうしたスン?」
《ガイさんが、レウスが戻ったら勇者ギルドに来て欲しいって言ってたよ》
「おし、んじゃぁ行ってくるわ」
「気をつけてな」
「いっ、でらっじゃぃ……うぅっ……スンのばぁああかあぁあああっ!」
「きゅきゅぃっ!?」
行ってきます。
そして頑張れスン。
「レウス、出かけるのか!?」
「ガイさんのとこ行ってくる。
買出しは任せた」
「ハハハハハッ、ハティー大王にお任せあれだ!」
2週間で大王まで上り詰めたか。
やるな大王。
「レウス」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「今日は美味いもんを食おう」
「食べるのは任せろ。
作るのは任せた」
「…………」
「ケント君、帰って早々にお出かけかいっ?」
「ガイさんに呼ばれました」
「ふーん、行ってらっしゃいっ」
「行ってきまーす」
はい、オディアータ北区の「やしうゆ」に到着!
そろそろこの名前忘れそうだったろ?
俺やっさしー。
「お帰りなさいませ、レウス様」
「ただいま戻りました」
「テルパトスでは大活躍だったと聞きました。
レティナが無理を言い、申し訳ありません」
「とんでもありません。
色々勉強も出来たし、良くしてもらいましたよ」
「それは何よりでございます」
「で、今日はどんな用事なんです?」
「大地の支配者から手紙が届いております」
「オバルスから……」
あぁ、そういえばそんな話もあったっけか。
「こちらでございます」
「……普通の手紙だ」
A4位の大きさだが、《レウスちゃんへ》って書いてあるわ」
開封!
《∠ゥスちゃω、⊇@前レよぁ丶)カゞー⊂♪
ぉネLカゞιナニレヽカゝら南@国@ずっー⊂南@山脈ぁナニ丶)τ″彳寺っτゑゎ!
ぉ友ぇ幸ー⊂一糸者レニ来τもレヽレヽカゝらねっ》
…………。
読めないぞおい。
まぁ待て、解読してみるわ。
お待たせ。
多分こうだ。
《レウスちゃん、この前はありがと♪
お礼がしたいから南の国のずっと南の山脈あたりで待ってるわ!
お友達と一緒に来てもいいからねっ》
まさかこの世界にもギャル文字があるとは……。
おばさん年考えろよ。
オバルスはチャッピーに聞いたが3500歳位って話だ。
ババルスって名前にすれば良かったかな?
しかし、南の山脈とか場所がアバウトなんだよな。
幸い明後日までお休みだし、今夜中に行ってまうか。
「ありがとうございました」
「いいえ、とんでもございません」
とりあえず学校に顔出しにきました。
そして校長室です。
「北ではご苦労だったね」
「いいえ、おかげで沢山勉強出来ました」
「うむ、無事で何よりだ」
「学校は明々後日から復帰します」
「わかった。
皆レウス君の帰りを待っていたぞ」
「ははは……あぁ、そういえばガルーダの居場所がよくわかりましたね。
20位以内の魔王の情報を集めてる勇者もいるのに……」
「ガルーダ・ジュニア……確かガラード君だったかな?
彼が飛んできた方向を聞いてね。
その方向から魔界でガルーダの住みそうな場所を、いくつかデュークにあたってもらっただけだよ」
「さすがですね」
「ガラード君は悲しんでたかね?」
「いや、何かご飯の方が優先って感じでしたね」
「だろうな。
魔界の魔物間では、親子兄弟で殺し合う事も多々ある。
誰が誰を殺したからといって悲しんだりする者は少ないだろう」
「……過酷ですね」
「魔界にいる勇者もそういう所は似た様なものだよ。
勿論悲しむ者もいるだろうが、それを引きずると己に死が降りかかる。
切り替える事が大事だ」
「…………」
「これからレウス君が行く場所はそういう所だと思ってくれたまえ」
「……はいっ」
むぅ、やはり魔界はシビアな世界って事だな。
行かなきゃチャッピーに会えないのかなぁ……。
ガラテアとデュークがいればこっち来ても大丈夫だと思うけど……。
いや、いかんいかん。
常に最悪を想定せねば。
有り得ないとは思うが、魔王のトップランカーが複数人で攻めて来る事も考えなくちゃだな。
どっちにしろいずれ会う事になりそうだから怖い。
あぁ怖い。
早退したい。
さて講師室にイリスもミカエルもいなかったから帰るか。
「あれ、レウス君!?」
「おぉ、ケミナじゃん」
「ラ、ランキング43位、おめでとうっ!」
「あはは、ありがとう」
「北の国から戻って来たんだね」
「ちょっと前にね」
え、タメ口になってる?
ケミナが嫌がったんだよ。
今ではセレナとゴリアンカ以外の女の子にはタメ口だぞ。
相手がいいならそうする。
俺も楽だしな。
「明日から復帰?」
「いや、明々後日からだね。
明日は出かける予定が出来ちゃったんだ」
「へ、どこに?」
「前に大地の支配者来たろ?
あの人のとこ」
「皆が話してたオバルスさんだねっ」
「そうそう。
あの人に呼ばれてるから今夜から明日はいないんだ」
「それ、わ、私も行っちゃダメかなっ?」
頑張って言いましたって感じだな。
顔が真っ赤だ。
友達も連れて来いとか書いてあったから問題ないか。
今回はデューク、ケミナ、俺って感じだな。
デュークは国外に出る時は付録の様に付いてくる。
まぁ、守ってくれるって事だな。
ここにはホント感謝だな。
ここだけな。
スンやキャスカやハティーは今度誘ってやろう。
今回は先着順だ。
なんで先着順かって?
はい、夜でございます!
ガラード君の背中に大きいカゴ背負って頂きました!
ガラード君は鳥ですが、夜目が利く事はわかっております!
「レウス、これは飛びにくいぞ」
「大丈夫だ、問題ない」
「私が大丈夫じゃないぞ」
「俺は大丈夫だ」
「魔物使いが荒いぞ」
「飯分は働かなきゃな。
出来なきゃ飯がないと思え」
「身命を賭して運ぼう」
…………。
お前自分で狩り出来ないのかよ。
カゴの設計とガラードの大きさを考えて、3人が定員なんだ。
「いくぞ」
「お願いしまーすっ」
「おおおお願いしますっ」
「南はあっちだ」
「合点承知」
行ってきます。