第四十八話「卑怯者」
「なんだい、レウス君っ」
「皆さんに黙っていた事を話そうと思います」
「黙っていた事…………でござるか?」
「デュラハンに狙われる理由になるのか?」
「わかりません。
これはスンにもキャスカにもチャッピー達にも言ってない事です」
「きゅい?」
「ずっと一緒だったのに秘密なんてあるのかレウス?」
「私にもか!?」
「そうだ」
『わかる言葉で話してくれ』
『あとで話してやる』
『合点承知』
「……転生という言葉を知っていますか?」
「転生……生まれ変わりって事かなっ?」
「近いです。
俺は前世の記憶を持ちこの世界に産まれました」
「この世界……でござるか?」
「前世はこのストレンジワールドではなかったという事か?」
「その通りです」
「ふーん、続けて続けてっ」
「前世で俺はただの薬を販売する会社……わかりやすく言うと店の店員でした。
不運な事故で27歳の時に死にました」
「「「…………」」」
「ここからは信じなくても結構です。
起こった事実を話します」
「わかったでござる」
「レウスの言う事なら信じるぞ!」
「私もなのだ!」
「きゅい!」
「嘘ならわかる」
「レウス君は愛されてるねぇっ♪」
「ありがとうございます。
死んだ後、肉体と魂が離れる感覚になり、見下ろすと前世の俺の死体がありました。
そこに突然「神」を名乗る老人が現れ、俺が手違いで死んだ事を伝えてきました」
「神様かぁ……いるんだね、ホントにっ」
「俺の世界の神なので、この世界の神とは違うかもしれません。
んで、その神が手違いについて謝罪してきて、「生き返らせる事は出来ないが、転生させる事なら出来る」と言ってきました」
「それで転生したのでござるか?」
「ある条件をつけてもらい転生しました」
「条件ってなんなのだ!?」
「条件は5つ。
まず良い家柄……これはまぁ最初は普通の貴族の家かと思いましたが、中央国の王太孫という事になりましたね。
次に長寿……前世は人間だったのでハーフエルフの寿命となればかなり長寿になります。
そして……これは恥ずかしいですが、イケメ……容姿端麗ですね。
容姿に関してはなんとも言えないですが、おそらくこの世界で言う良い部類に入ると思います」
「とっても恥ずかしいねっ」
知ってるよ!
4つって言えばよかったが、全て話しておいた方がいいだろうがよ!
「で、頭が良い事」
「レウス君頭良いっ?」
「悪いではござらんか」
「きゅきゅいー!」
知ってるよ!
否定してくれてありがとスン!
愛してる!
「お、おそらく記憶や学習能力の事だと思います。
状況判断能力とかは俺の性格に左右されたりすると思うので、「頭が良い」に繋がらないのだと…………」
「ふむ、それなら納得できるな」
『まだ続くのか?』
『あとで話してやるから待ってろ』
『合点承知』
「それで、最後は何なのレウス?」
「人より運動能力が優れている事」
「なるほど……13歳で勇者の48位は、それなら納得でござるな」
「これらの条件が揃ったので、5ヶ月で人間言語を覚えたり、赤ん坊の頃の記憶も鮮明にあるんです」
「むぅ、ちょっと難しいぞ!」
「どうでしょう?
魔王達に狙われる理由になるでしょうか?」
「「「…………」」」
「んー、今のところそれだけじゃ狙われないんじゃないかなっ」
「……そうですか」
「ガラテアさんに聞いてみれば何かわかるかもしれないねっ。
今から僕が行って聞いてみるよっ」
「なら俺もっ」
「レウス君はさっきから寂しそうにしてるその子に話してあげないとっ」
あぁ、そうだった。
『教えてくれないのか?』
『今から話してやる』
『待っていたぞ』
あー、長い会話だった。
セレナとドンファンは動じなかったが、キャスカとハティー、そして珍しくスンも少し困惑していた。
やはり仕方ないか。
そこからはガラードを交えて魔物言語でスン、キャスカ、ハティーに改めて説明した。
デュークは5分位で戻って来てガラテアの伝言を俺に伝えた。
まぁ「調べてみる」ってだけの伝言だがな。
どう調べるんだろう?
ガラードはやはり何も聞かされてなかったらしい。
皆、俺が元いた世界に興味を持って、沢山の質問をしてきた。
キャスカには前世の名前と年齢、どんな姿だったとか聞かれ、ガラードには飯の話ばっか聞かれた。
スンは皆の話を聞いてウンウン頷いていた。
ハティーは終始「凄いぞレウス!」って言ってた。
凄いのは俺じゃないぞ?
デュークはその後ガルーダの角をエルフの里の鍛冶屋に持って行った。
エルフの鍛冶屋はやはりレベルが高いらしい。
ガルムより腕が良いのかな?
まぁ長生きしてそうだったから良いんだろう。
明けて学校の日。
転生の話を学校の全員が知っていた。
狂人に話した時に全て覚悟してたがな。
こういうのって黙っとくべきなんじゃないか?
情報共有は大事だけどな。
いや話してしまった俺の失態でもあるし、これは仕方ないか。
イリスとの課題中。
スン、セレナ、ストーム、自己鍛錬中のデュークがいる中、俺の勇者証明が光った。
チーン!
相変わらずふざけた音だ。
■ランキング戦詳細
■43位【ライオス】 VS 48位【レウス】
■挑戦者【ライオス】
■提示品【テクニカルマスターの魔石2個】
■日時【海の月20日(明日)】
■場所【北の国首都テルパトス・勇者ギルド】
■よろしければ「了承」の文字に触れて下さい。
【了承】
「レウス君、ランキング戦?」
超格上ならわかるが、なんでこんな近いランクの奴が挑んでくるんだ?
「イリスさん、43位のライオスさんってどんな人ですか?」
「……早速釣れたわね」
「へ?」
「ライオス君は魔王狩りのライオスって呼ばれてるのよ」
どうやら俺は魔王になったらしい。
魔王ギルドからのお誘いがそのうちあるに違いない。
しかし……ライオス……君?
「お知り合いですか?」
「ここの卒業生よ」
卒業生……だと?
「ってことはイリスさんにもミカエルさんにも傷負わせたんですかっ?」
「きゅー!」
「やるな」
「私に傷を負わせたのは実力だけど、ミカエルに傷を負わせたのは……」
「ミカエルさんに課題開始時に握手を求めて、その時握手する手の平に刃物を仕込んでたんだよ」
「……マジすかストームさん」
「マジだ」
「きゅきゅぅ……」
「前言撤回だな」
「それで卒業が許されるんですか?」
「ガラテアさんが了承したからな」
「アハハハッ、面白い子だねっ」
お前と気が合うかもな。
俺も今度それでいこうとか思ったが、卑怯じゃ乗り越えられない壁があるからな。
俺は地力を上げるしかないか。
「で、いつどこでやるのかしら?」
「明日北の国ですね」
「……場所を変えた方が良いかもしれないわ」
色々準備してる可能性もあるしな。
まぁ負けても問題ないし、卑怯とやらを勉強しとくのも良いだろうから飛び込んでみるか。
しかし俺の姿形を知ってるのか?
「そういう子なら、恐らく下調べは出来ているだろうねっ」
「ですよねー」
「しかしライオスは何故「魔王狩り」と呼ばれているのだ?」
「なんでも戦士時代に偶然遭遇したサードレベルの下位魔王を倒したみたいよ?」
戦士時代に倒したのか。
そいつぁすげーや。
「それ以来、人界に現れる魔王を見つけては倒しているんだ」
どうやら俺は魔王になったらしい。
「レウス君、どうするのっ?」
「北の国まで行きますよ」
「うん、僕も付き合おうっ」
「いいんですか?」
「守ってやるって言ったでしょっ?」
皆さん、「デューク良い人なんじゃ?」とか思っちゃダメだと思うよ?
アレだ、悪い人が良い事すると良い人に見えるあの錯覚だ。
さっきもイリスの足ちょんぱしてたぞ?
おかげで新技1つ出来たけど。
え、デュークは残酷に見えるが悪い事はしてないっぽい?
……確かにそうだ。
あれ、デューク良い人なんじゃ?
うん、ないな。
あぁ、新技ってのはイリスが自力で脚をくっつけた時、俺の気をイリスに飛ばして更に回復させる事が出来た。
気が当たらないと回復出来ないから、遠隔回復というより間接型回復って言うのかしら?
気の遠隔操作技術の向上と共にレベルアップ出来るかもな。
俺やっぱ後衛型じゃね?
はい、明日の北の国です!
首都「テルパトス」まで来ました。
同行者はデュークのみ。
もし俺が死んだら、犯人はデュークだと思ってくれ。
もし俺が死んだら、この世界のその後は妄想で補ってくれ。
死にたくないよぅ……。
うん、切り替えていこう!
北の国だけに少し肌寒いな!
昼間なのに明るくない!
暗くもないけど、なんか常時ちょいと厚めの雲がかかってる様な感じだ!
俺の心を表してるかのようだ!
……死にたくないよぅ。
なるようになるさ!
よし、勇者ギルド到着!
「お久しぶりですレウス様」
「レティナさん?
ゲブラーナはどうしたんです?」
「あそこのギルド員はロンドさんになりました」
うほ。
キャラの使い回し……というか手抜き疑惑が出るんじゃないか!?
ロンドって覚えてるか?
海賊姿の肥満体型のアレだ。
レティナは覚えてるだろ?
耳をほじってフッってやってたアレだ。
「それじゃ異動って事?」
「そうですね。
そちらは……ランキング10位の、狂……人、デューク……様っ?」
おい、めっちゃ怖がってるぞ?
「初めまして、レティナちゃんっ」
「はははははは初めまして!」
はが多い。
「大丈夫だよ、刺したりしないからっ」
刺す可能性があったのか?
この人怖い。
「レウス様、ランキング48位おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「本日はランキング戦でしたね」
「えぇ、ライオスさんは来てますか?」
「いえ、昨日ポイズンタートルの討伐を終えてからは見えてないですね」
……。
武器に毒が塗ってある可能性大だな。
卑怯卑怯……あとは飛び道具か?
銃はないだろうが、スペツナズナイフみたいなアレはあるかもしれんな。
スペツナズナイフ……まぁ発射式のナイフだな。
この世界なら剣が飛んだりしそうだ。
単純に投げナイフ的なアレもあるかもな。
あー怖い。
しかし、イリスに実力で傷を負わせる実力なら俺には余裕だろ?
用心深いのか?
てゆーか魔王ってだけで勇者狙うなし。
「おう来たか」
現れたわ。
でかい人間だ。
2メートルはあるな。
お腹もでかい。
イリスはこれを「ライオス君」と言ったのか。
なんか常時眉間に皺寄ってるわ。
年は30代前半かな?
上半身裸なんですけど?
ガッシュより酷いな。
青いパンツだ。
このコスチューム……どこかで見た様な?
……あぁ、イーアル○ンフーの第1ステージだわ。
弱点はきっと足だ。
武器はでかい曲刀だな。
なんかこいつに負けたくないな。
「先程着いたところです」
「チビのくせに魔王だとか生意気だと思ってな。
ちょいとケチョンケチョンにしてやろうと思っただけだ」
ライオス……欲しい物は神力の魔石。
お前は神速の方が良いんじゃないか?
にしてもむかつく奴だな。
初めて勇者の嫌な奴に会ったな。
デュークは嫌な奴じゃなく、「怖い奴」だ。
「ははぁん、アンタがデュークって奴だな?」
「うんっ」
「何の理由があるか知らねぇが、アンタもガキのお守なんて大変だろ?」
「そうだねっ」
「ハッハッハ、まぁ宜しく頼むわっ。
南の平地で待ってるぜ?」
「……えぇ、わかりました」
一応狂人には逆らわなかったから、常識はわかってるのか。
「レウス君っ」
「なんですか?」
「アレに負けるのは許さないよっ」
負けられない戦いが今………………………………始まっちゃう。
どうやら狂人も合わないみたいだ。
負けたら俺はダルマレウスになるだろう。
もし俺が死んだら、犯人はデュークだ。
テクニカルマスターの魔石を2個頂いた。
この魔石ぬるぬるしてるわ。
まじキモイ。
これが毒か?
とりあえず手を拭いて、ユグ葉食っておこう。
レティナも観に来た。
「お手柔らかに、ぼくぅ?
ハッハッハッハッハッ!」
戦闘開始!
先手必勝!
人間辞退!
「がぁあああああっ!」
ビィイイイインッ
「ほぉ、48位は嘘じゃねぇな!
だっしゃああああっ!」
バチィイイインッ
剣で弾かれた!
しかし俺も後ろに続いてるぜぃっ?
右足を狙い斬りこむ!
しかし少しだけ斬ってかわされた!
「ちぃっ!」
頭上から連撃!
キキキキィイインッ
おっも!
しかしドンファンやマイムマイム程じゃない!
「剛連剣っ!」
ギギギギギィイインッ
これはマイムマイムの普通の連撃並!
くそ重い!
打ち終わるタイミングで後退!
後退ざまに十字飛剣。
ゴゴゴゴッゴゥン
くそっ十字飛剣は当たったが、少し肩斬られたっ!
やはり少し痺れる!
もったいないが、ユグ葉2枚目!
すぐに自己再生!
土煙でライオスが見えない……。
うほ!?
飛剣!?
連飛剣!?
いやこの威力は、剛連飛剣か!
シィンシィンシィンッ
3発!
竜爪発動!
ギギギィンッ
キィイイインッ
「なっ!?」
かすっただけ!
しかしかなり態勢を崩してる!
今だ!!
飛び込みからの十字剛剣!
スパンッ
左腕の肘から下を切断!
「ぐぅうううっ!」
やったとは思わない!
相手は卑怯者!
何するかわからない!
油断して反撃をくらった主人公はこれでもかって程いる!
攻撃範囲の狭いライオスの左側から追いつめる!
キキキキィンッ
打ち合いながらの凝縮気口砲!
「がぁあああああっ!」
「くそっ!」
敵後退!
腕の回復を防ぐ為、ライオスの腕を拾う!
あぁ、人質ならぬ腕質をとろう。
俺は卑怯ですか?
いいや、世の主人公達の超必殺技の方が圧倒的に卑怯だ!
そしてライオスも卑怯者だから良いんだ!
「腕を返して欲しかったら降参して下さい!」
「ぬ……くそっ!
卑怯だぞっ!」
「武器に毒を塗ってるアナタに言われたくないです!」
「その通りだねっ」
「そうだったんですか?」
「だからポイズンタートルの討伐に行ったんだよっ」
「それは卑怯ですね……」
「ちっ、お見通しか!
あぁ、わかったよ!
降参だ降参!」
案外素直だな。
やはりデュークの睨みが有効なのか?
しかし何故高い挑戦料を払って俺に挑んできたんだ?
卑怯者なら普通挑まないのでは?
魔王狩りだからか?
むぅ……わからん。
正攻法で勝つと思ってた皆さんすみません。
俺チキンなんです。