第四話「成長2」
10歳になって、身長も140センチ近くになった。
スンも大きくなった。
頭の上には乗れるが、プルプルして踏ん張ってる。
可愛い。
最近スンは傷だらけになってる機会は少ない。
何やってるんだろ?
何かしら状況が変わったのかしら?
チャッピーの両手は未だに越えられない。
あいつやっぱつえーわ。
「我は空の支配者だったのだぞ?」
「支配出来なかったんだろ」
あ、落ち込んだ。
めっちゃ落ち込んだ。
あの目から涙が……出ない。
「我に勝てないくせに威張るなよ」
「俺に口で勝てないくせに威張るなよ」
あ、落ち込んだ。
言い返せよ。
デカイ図体で何考えてるんだ?
可哀想だから話題を変えよう。
「そういえばさ」
「何ですか?」
敬語になったぞこいつ。
「俺とチャッピーは今魔物言語で喋ってるよな?」
「そうです」
この図体で敬語はキモいな。
「魔物言語の文字とかってあるの?」
「あ、はい」
うぜぇ。
「もしチャッピーが知ってたら教えて欲しいなー」
「う、うむ、そそそそこまで言うなら教えてやらんでもないぞ?」
あぁ、人より威張れるものがあると敬語でなくなるのか。
わかりにくいわ。
なんで俺が察さなくちゃあかんねん。
「スンも教わる?」
「きゅきゅー!」
やる気満々だ。
「では授業を始めます」
「よろしくー」
「きゅ!」
……授業うまいわ。
基本的には暗記作業だからな。
頭脳明晰の俺に死角無し。
嘘だろ?
スンに負けた。
何であんなにスラスラ文字書けるの?
スライムだからスラスラか?
ふざけんな。
あのゼリーのどこに知識が入るんだ?
謎い……。
まぁ、遅れながらも魔物言語の読み書きはバッチリだ。
スンには負けたけど。
スンが鼻を形成して伸ばしてた。
これがチャッピーだったら殴りたくなるんだけど、スンは可愛い。
癒しだ。
「レウス、スンに負け……プッ」
いつか仕返ししよう。
覚えてろよ。
キャスカもたまに来る。
俺に何回も勝負を挑んで、何回も負ける。
毎回泣いて、毎回鼻水まみれだ。
彼女の鼻水は無尽蔵らしい。
ついでに涙も。
はいはい、ここでステータス紹介だよー。
――パーティメンバー紹介――
名前:レウス
年齢:10歳
種族:ハーフエルフ
職業:魔物使い(剣士)
装備:ユグドラシルの剣・丈夫な服(灰)・ブーツ(茶)・スピードバングル
技:斬岩剣
言語:人間言語・魔物言語
名前:スン
年齢:約6歳
種族:スライム(緑)
職業:レウスの親友
装備:スピードリング
技:酸・形態変化
言語:人間言語・魔物言語(どちらも読み書きのみ)
名前:チャッピー(スカイルーラー)
年齢:約3003歳(たぶん人間でいうところの25歳位)
種族:ドラゴン(犬)
職業:落ちぶれた空の支配者(笑)
装備:背中にレウスとスン・スピードバングル
技:咆哮・火炎・尾撃他
言語:人間言語:魔物言語他謎
名前:キャスカ
年齢:15歳
種族:人間
職業:疾風(笑)
装備:ユグドラシルの剣・マント(黒)・ブーツ(茶)・ショートパンツ(緑)・スピードリング
技:斬草剣
言語:人間言語
キャスカがパーティに入ってるって?
知りたかっただろ?
他意はない。
そうそう、キャスカの誕生日にスピードリングを買ってあげた。
顔真っ赤にしてた。
中々可愛いかったけど、やっぱ鼻水でてた。
仕様なのそれ?
「ありがとうなんて、言わないからなぁあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
走って帰ってった。
ユグ剣置いてった。
キャスカはアレだ。
ツンデレになり切れないタイプのアレだ。
……可哀想に。
今日も修行だ。
チャッピーの左手が現れた。
チャッピーの右手が現れた。
顔が出てきたらデスタ○ーアだな。
レウスの攻撃。
ミス。
チャッピーの右手の攻撃。
ミス。
レウスの攻撃。
ミス。
チャッピーの左手の攻撃。
ミス。
チャッピーの右手の攻撃。
ミス。
レウスの攻撃。
チャッピーの右手に1のダメージ。
チャッピーの左手攻撃。
レウスに365のダメージ。
レウスはやさぐれた。
チャッピーは落ち込んだ。
まぁ、毎日こんなもんだ。
戦闘が長引くなんて基本ありえない。
基本は一撃必殺だ。
チャッピーのな。
かわさなきゃ死ぬ。
スペラ○カーだなこりゃ。
あ、チャッピーに質問あったら受け付けるよ。
スンでもいいけどね。
偶然見ちゃった。
スンが魔物と戦ってた。
スンが疾風のキャスカより速く動いてた。
相手は俺が前に手こずった、キラーバッファローだ。
ガタイがよくて、茶色で角が両サイドと中央に1本ずつの計3本だ。
こげ茶色の体毛で覆われていて、身体の大きさは……俺5人くらい?
今の俺は手こずらないだろうが、スンはまだ6歳だ。
「きゅっ、きゅっ!」
ボクシングのワンツーみたいにキラーバッファロー殴ってる。
え、ゼリーだろ?
おぉ!?
ダメージはあるようだ。
回り込んだ!
馬車はないぞ!
おぉ、足払い!
スタンした。
「きゅー!」
渾身の体当たり。
だからゼリーだろ?
ベチャってならないのが不思議だ。
キラーバッファローは気絶した。
攻撃力高いな。
俺が8歳で倒せなかった魔物を6歳のスンが倒した。
俺はまだまだだ、努力しなきゃな。
「レウス、今日も修業だ」
「はい、先生!」
「……今なんて?」
口が滑ったぜ。
あーあー、尻尾振っちゃった。
目キラキラだわ。
他の人から見たら目ギラギラだ。
俺はもう慣れた。
「レウスが我を先生だってぇええええええええええっっっっ!!!!!!!!」
世界が震えて俺の股から滝が流れた。
まだまだ慣れてなかった。
今日はチャッピーに3撃も入れる事が出来た。
こいつ絶対手ぇ抜いたわ。
終始ニコニコしてたからな。
月に一度のエヴァンスデイ。
一般人と飯屋に来た。
鞄の中でスンがスヤスヤだ。
「毎回その鞄には何が入ってるんだい?」
「魔物です」
「またまたぁ、で、何が入ってるの?」
「スライム(緑)です」
「証拠は?」
鞄の中を開けて見せてやった。
ビビッた一般人が剣に手をかけた。
M字禿げかかってるデコを小突いてやった。
チョイナって感じでな。
一般人の行動に飯屋の皆がビビッた。
皆スライムを見に来た。
店主まで……。
可愛い可愛い言ってる。
当然だろ?
俺のスンだぞ?
あ、町の警護兵が来た。
逮捕かしら?
まぁ、それも仕方がない。
逃げるけどな。
「君のスライムかね?」
「ええ、俺の親友なんです」
「ふむ……君は魔物使いなのかね?」
おぉ、馬車買わなくちゃな。
魔物使い……どうなんだろ?
使ってないよな?
チャッピーはたまに顎で使ってるけど……。
友達だしな。
「わかりません、ただ……友達です」
あ、スンが起きた。
「きゅ?」
寝起きスン激かわ。
「……可愛い」
この警護兵もスンの魅力に落ちた様だ。
当然だ。
俺のスンだぞ?
「と、とりあえず町長の許しをもらわなくてはならないから、付いて来なさい」
まぁ、仕方ないか。
で、町長って誰?
ちょっと小太りの優しそうなおっさんだった。
隣には黄緑色のドレスを着た、キャスカに似た女が立ってた。
谷間なんか見せちゃって。
その山脈登らせろよ?
お?
「初めまして、私が町長のトッテム・アドラーだ。
こちらは娘のキャスカだ」
名前まで一緒らしい。
キャスカってのは女の子の名前によく使われるんだろう。
そうに違いない。
キャスカさんの口がヒクヒクしてるけど、顔面麻痺かなんかかしら?
「初めまして、レウスと申します」
「ほぉ礼儀正しい子だな。
で、レウス君……君、魔物使いなんだって?」
だからわからないって言っただろうが。
ちゃんと伝えておけよ警護兵!
二度手間だろうが。
「わかりません、ただ……友達です」
許せ、ここはコピペ使った。
仕方ないだろう?
な?
「そのスライム、酸吐かないの?」
「吐きますが、俺が言わない限り吐きません」
おっさんと吐く吐かないじゃなく、女の子と穿く穿かないの話がしたい。
「きゅ?」
「……可愛い」
よし、このおっさんも落ちた。
「よし、いいだろう……町の者に危害を加えたらその時に処分を決めよう」
そんな事するかボケが。
俺のスンだぞ?
うちの子に限ってそんな事するわけないだろ。
「きゅきゅー、きゅきゅきゅ!」
何か言いたそうだ。
「すみませんが、紙と筆を貸してもらえますか?」
「ん?
そこにあるのを使いたまえ」
さすがスンだ、お礼を書いてる。
『初めまして、スンと申します。
レウスの友達です。
この度は魔物の私に対して、このような計らいをして頂き、本当に感謝に堪えません。
至らぬ点等々あるかとは存じますが、何卒宜しくお願い致します』
スン6歳だよな?
トッテムさんがとっても変な顔してるぞ?
「はぁ、宜しく」
スンが手を形成してトッテムと握手した。
俺より大人なんじゃないか?
「すごい魔物もいたもんだ……」
本当だな、どこぞの疾風(笑)のキャスカよりよほど教養がある。
キャスカさんが俺と目を合わさない。
しかし……似てるな?
「……疾風」
「っ!!」
「今、何か言ったかね?」
「いえ何も」
あぁ、あれキャスカか。
キャスカさんはキャスカだった。
鼻水出てないから気付かなかった。
今出てるけど。
キャスカ泣きそうだわ。
あ、泣いた。
さ、帰ろう。
「では、失礼します」
「あぁ、またいつでも来たまえ」
「ありがとうございます」
「きゅきゅ!」
こうしてスンはエヴァンスの町を自由に歩ける様になった。
そして、すぐに人気者になった。
当たり前だ。
俺のスンだぞ?
「――って事があったんだよ」
「……」
「おいチャッピー、聞いてるのか?」
「……ぷいっ」
今こいつ「ぷいっ」って言ったぞ。
3003歳が「ぷいっ」とかってどうなの?
スンが町に入れる事に不満を覚えてるようです。
何で自分だけ入れないのか? と。
ほんとガキだなこいつ。
仕方ない……魔法の言葉だ。
「さぁ先生、修行始めましょうよ?」
「……っ!」
反応有り。
いや、有り過ぎだな。
もう既に尻尾振ってる。
微風から爆風だな。
「先生、やらないんですか?」
「う、うむ」
スンが飛ばされそうだ。
爆風から爆裂って感じだな。
「いきますよ先生っ!」
「さぁ来いっ!!!!」
スンが飛んで行った。
許せ。
ちょろいなこいつ。
最後は爆裂から真空波って感じだったな。
スンは今頃どうしているだろうか?
……スンは1時間位で戻ってきた。
傷だらけの身体で、チャッピーに酸を浴びせてた。
チャッピーが土下座した日だった。
数日後、キャスカがやってきた。
「キャスカさんじゃないですか、今日はドレスじゃないんですか?」
キャスカが帰って行った。
往復8時間かかるのにようやるわ。
次回はからかうのやめてやろう。
その翌日来た。
何の用だよこいつは?
「ちょっと付き合って欲しい」
「逢引か?」
「ちちちち違うっ!」
乳乳やかましいな。
デートじゃないならなんだ?
「ダンジョン攻略……」
なんか臭い設定出てきたぞパート2。
「チャッピー先生、ダンジョンって何?」
「良い質問です」
今キリッてなったなこいつ。
まぁ、知識だけは豊富だから黙って聞いてやろう。
「我がはめてるこのスピードバングル。
これにはまってる魔石は、ダンジョンでしか採取できません。
ダンジョンには様々な魔物がおり、人間の魔石採取を邪魔します。
何故魔物がいるか?
暗い場所を好む魔物が多いのも事実ですが、その多くは人間によって住む場所を失った事が原因です。
彼らは人間を憎み、見かけたら襲ってくるでしょう。
勿論ハズレのダンジョンもあり、ただ魔物に襲われるだけ、という結果もしばしば起こると聞きます。
一つのダンジョンに複数の魔石は存在せず、ダンジョン一つにつき最大一つの魔石しか採取できません。
これはこの世の理と言えるでしょう。
魔石は熱を発します。
その熱を好んで魔石の近くにいるのはやはりそのダンジョンの親分。
つまりボスです。
レウス君、質問はありますか?」
饒舌過ぎてキモいな。
いや、気持ち悪いな。
いや、気持ちが悪いな。
うん、これだな。
「ありがとうございました。
で、何でダンジョン?」
「ほ、欲しい魔石があるんだ……」
こいつどこで上目遣いを覚えたんだっ?
「なんでそのダンジョンに欲しい魔石があるってわかるの?」
「良い質問です」
なんでお前が答えるんだよ。
「かつて魔王によって決められた法があるのです。
必ずダンジョンの入り口に、そのダンジョンにある魔石の詳細を記せ。
これが魔王が定めた法です。
先程の説明の中にあったハズレダンジョンですが、これは嘘を書いても良い事になっています。
しかし、魔石の詳細の詐称は禁止です。
つまりダンジョンにその魔石があるかないか。
それだけなんです。
ある勇者が統計として出したところ、ハズレが3割、アタリが7割です」
意味わかんねー魔王だな。
勇者は統計学に凝ってたのか?
あとチャッピー気持ちが悪いな。
つまり70%の確率で欲しい魔石が手に入るのか。
悪い話じゃないな。
ボスがいなきゃな。
「チャッピーどう思う?」
「んー、人間で行けるんだから、レウスなら行けるんちゃう?」
口調変わり過ぎなんだよこいつは。
「きゅっきゅ!」
「スンも付いて行くと言ってるYO☆」
最近チャッピーの様子がおかしいんです。
「わかった、付いて行くよ」
「本当かっ!!
が、頑張ろう!」
「チャッピーは……」
「我が入れるわけがなかろう」
口調が戻った。
……だよな。
ダンジョンの入り口からこいつの火炎ぶっ放せば、なんか簡単に攻略出来そうなんだけどな……。
「レウス君、ズルはいけません」
ホントなんなのこいつ?