第三十三話「序列10位と序列17位」
……転生の事だけは伏せて大体の内容をゲロっちまった。
転生の事も話しても良いと思うんだが、今は混乱を避ける為に言わない方がいいだろう。チャッピーたちと合流して落ち着いたら話そう。
話した内容は、スンと出会った時からだ。
黒い騎士連中。
ゴーレムウルフ。
チャッピーとの出会い。
修行の日々。
キャスカとの出会い。
マカオとの出会い。
修行の日々。
闇王デュラハン。
ゲブラーナでのビアンカやトゥース達との出会い。
ハティーとの出会い。
古代竜への命令の話。
ゲブラーナの変貌。
修行の日々。
マイムマイムとの戦い。
狂人との出会い。
狼の襲来。
窒息死寸前の俺。
「……闇王デュラハンか。たしかにあれが人界に来るならば、レウス君の行動は正しいかもね。しかし、その年でマイムマイムさんの剣を抜かせたって? とんでもない子だな」
「きゅ?」
「あの時、のレウスは凄かった、ぞ! バババババババァアアアァアァアァアって、感じだ!」
ビブラートさんお久しぶり。
「老いたとはいえマイムマイム……様は、最前線で戦う勇者の1人。剣を抜かせるとは素晴らしいですね」
ガイとマイムマイムは知り合い……戦友ってとこか。
「レウス! そのマイムマイムってのは女なのか!?」
キャスカは俺の話を聞いてなかったらしい。
大男だと言ったはずだぞ。
……あれ? 俺はいつのまにかキャスカの身長越えてたのか。
ビアンカとは同じ位だったが、キャスカは身長155センチ位だしな。この1年で色々変わったって事か……。
「お前、レウスの話を、聞いてなかったのか!? 大男だと言ったはず、だぞ!」
「そ、そうか。すまない……」
「わ、わかれば、いいのだ!」
「さて、レウス君。その話だと君は勇者の専門学校に入りに来たわけだね?」
「えぇ、そうなります」
「では、スンちゃんと一緒にその学校に入りたまえ。勿論、僕も入るよっ」
なんでそうなった。
「勇者専門学校の講師は30位以下で構成されてる。まぁ人数も少ないし、今は3人らしいけど、校長はなんたって序列3位だからね。話のわかる人だから、僕とガイさんが話せば全てを認識した上で許可してくれるよっ」
「……」
「レウス君のプライドを傷つけるかもしれないけど……『守ってやる』と言ってるんだよ」
狂人が普通の人に見えてきたが、安心しちゃいかん。
しかし、有難い話だ。
どうせ入学すると決めてたわけだし、在学中はこの国の事も心配だったんだ。
さすが中央国。3位がいるとはな……。
名前は確か……ガラテア。欲しい物は神速の魔石2個だったかな。
しかし、10位の狂人が学校に入学出来るのか?
入学歴はないのか?
「デュークさんは入学出来るんですか? その、10位で既に魔界を経験してるようですし……」
「勇者であれば、いつでも何回でも学べるんだよ、あそこは」
「なるほど……」
「とりあえずその話は僕のランキング戦と、レウス君とスンちゃんのランキング戦が終わってからにしよう。明日はレウス君を殺さない様に頑張らなくっちゃねっ」
「ハハハハ……」
「きゅ」
可愛い。
勇者ギルドを離れ、南区の「ウマウマホテル」という所に泊まる事になった。
飯がメシウマホテルと同じくらい美味かった。系列店かしら?
スンが泊まれたのはオーナーがスンの魅力に落ちたかららしい。
さすがスンだ。夜はスンと一緒に寝る事にした。
最高の枕だぜ。スンもニコニコだ。
気を失ってた分もあるせいか、夜中に起きてしまった。
頭の下にスン、右にはハティー、ベッドの下の床には鼻水が……キャスカがいた。まだ俺のベッドに侵入する勇気はないらしい。
ハティーは犬みたいなもんだしな。
眠れないから、ハティーの尻尾でハティーの鼻をくすぐってみた。
「……ばくじゅっ!」
鼻水塗れになったわ。
つまり粘液を顔にかけられたんだ。夜中だから……いいだろ?
とりあえず静かに自傷行為をして気を枯渇させてから寝た。
はい朝です。
そのうち、「はい3年後です」とかあるかもしれんな。
なんたって寿命2000年だ。
今13歳だぞ?
つまりまだ100倍以上生きられるんだ。
元人間の俺の精神が持つか心配だがな。
今日はデュークとドンファンのランキング戦だ。
いつ始まるかわからんから、とりあえず勇者ギルドに向かおう。戦いの前だし、デュークへの挨拶は控えた方が良いだろう。
俺やっさしー。
まだ寝てるこいつらは置いて行こう。デュークが殺してしまうからな。
さて、飯を食って出かけ――
「おはようっ! 良いランキング戦日和だね!」
……見た感じもうすぐ雨降りそうですけど?
くそっ、皆起きちまった。
はい、勇者ギルドです。
ソファーに誰か座ってる。トサカ頭の黒髪だ。
ややM字だが、一般人程じゃない。
歳は20代…ん、あれ、エルフだな? てことは100歳くらいか?
服はワインレッドのローブみたいなのを着てる。
顔は凛々しいというかキッって感じだ。
驚いたのはあいつの武器だ。……あれは、槍だ。
この世界で初めて見たかも。斧なら見たことあるけど槍は無かった。
基本タイマン文化なおかしい世界だ。槍が普及してないのもわかる気がする。
普及してたが戦争が起きないからって廃れたのかもしれないな。
「やぁ、初めましてっ」
「お初にお目にかかる」
この言い回しは……。
いやー……そういうのってやっぱりきちゃうもんなの?
どこの国の言葉だよとかなるじゃん普通。
「某、ランキング17位のドンファンでござる」
「10位のデュークです」
ござるエルフの登場です。
まずその口調と服が合ってないな。
いや、この世界ではそれがデフォルトなのか?
理由をつけるとすると、エルフが人間言語を習得したら、語尾とかの言い回しが変になった。こんなところだろう。
俺もオカマエルフ言語だしな。きっとドンファンに人間言語を教えた人の問題だ。
あぁ、見学させてもらうからな。
一応挨拶しとこう。
「初めまして、ランキング100位のレウスといいます。本日はデュークさんに見学の許可を頂きました。ドンファンさんにも許可を頂ければ嬉しいんですが、いかがでしょうか?」
「見学……ふむ、100位でござるか……」
「大丈夫だよっ。その子はマイムマイムさんの剣を抜かせる程の実力を持ってる」
「ほぉ……では構わないが、離れた場所にいるのがよいであろう」
「ありがとうございます」
「……さぁ、殺ろうかっ」
今、字違くなかった?
はい、近いって事から北区から北門を出ました! で、北の荒野に着きました!
なんか弾けて混ざる的な荒野だ。
見学者は俺のみ。
他のやつら(主にハティーとキャスカ……とゆーか二人だけ)は駄々をこねたが、デュークの殺気にビビって我慢に追い込まれてた。
スンは相変わらず聞き分けが良かった。
「きゅ?」
あ、天使だぁ♪
脱線したな。すまん。
そう、北の荒野だ。
「では、先にこれを……」
「うん、確かに黄金魔石だねっ」
「……」
「……」
「参るっ!!」
戦闘開始!!
嘘!? もうドンファンがデュークの目の前にいる!!
ドンファンが下段から槍を振り上げた!
けどそこにはもうデュークがいない!
振った先の岩は真っ二つ! ぱねぇっ!
デュークが背後に回って上段から剣を振り下ろす!
ドンファン、頭上でガード!
デューク、ドンファンの背中をキック!
ドンファンは前方に跳んでキックの衝撃を緩和!
ドンファンは着地する前にもうデュークに身体を向けてる!
ブゥン……シュシュイィンッ!
やべぇえ!
デュークの2連飛剣だ!
超でけぇ!
「……竜爪」
スマウ○?
すまん。
字が違うし分かりにくいネタだな!
バチッバチッ!! キィイイン!
うぉお!
瞬速の槍捌きで2連飛剣の軌道を変えた!
2回払ってかわし、最後に突いた!
めっちゃでかい槍撃の衝撃波がデュークに飛んでいく!
あれ、デュークいない!
ごめん、見失った!
あれ、ドンファンもいない!
ホントすんません!
バチィイッ!!
「上だよレウス君っ!!」
あ、ご親切にどうも。
こちら実況のレウスです。
上空でバチバチ光ってるのを視認しました。
詳細? 不明でございます!
あ、降りて来ました!
デュークの表情は変わらず、ドンファンはやや息切れ!
これが地力の差でしょうか!?
「ふっ、ふっ……やはり10位の壁は破れそうにないでござるな」
「降参するかい?」
「ふふふ、せっかくの高い挑戦料でござる。もう少しだけお相手願おう」
「勿論いいよっ」
「爆槍弾……」
おぉ! ドンファンの身体中から気の弾が出てきた!
気の塊が、ドンファンの目の前に大小様々に並んでる!
すげぇ!
気の弾の浮遊保持って出来るもんなのか! 勉強になります!
「参るっ!」
「アハハハハ、参られますっ」
「かぁああああっ!!!」
バチッバチッバチッバチッ……!!
おぉ! 気の弾が槍で打たれデュークにめがけて飛んでいく!
タイミングが不規則だから防御も困難だ!
「おっ……よっ!」
パパパパパパァン!
デュークはそうでもなさそうだ!
剣で弾いてるけど、弾いた気の弾が消えない!
いたる所に残ってる!
「集弾!」
弾いた気の弾が一斉にデュークに襲いかかる!
爆槍弾も続いてるから非常に危険だ!
「はいっ、よっ、とりゃっ!」
パパパパパパパパパパパパパパァン!
……。
デュークはそうでもなさそうだ!!
7位分でこれだけの差が出来るのか!?
「こっちから行くよっ」
その状態から行けるの!?
「防気膜っ」
凄ぇ! バリアーだ!
しかも気の弾を弾くんじゃなくて吸収してる!
体内の気の節約も兼ねてるのか。いいなあの剣技!
おそらく気に関係する攻撃を防ぐんだろう。
生身の剣撃でいかなきゃダメージを狙えない。遠隔攻撃を完全にシャットアウト!
デュークがドンファンに歩み寄る!
「はぁ、はぁ……くっ」
ドンファンは肩で息をしてる!
デュークはニコニコだ!
「……四肢損々」
なんか字が凄い違う!
あの人怖い!
デュークが剣を……え、今振った?
「がぁああっ!?」
うぉっ!? ドンファンの両手両足が血でブッシャーだ!
「重要な腱と神経は斬った。すぐ回復すれば問題ないよ」
両手使えないのにどうやって回復すんだよ!
「僕の勝ちでいいかな?」
「うむ……某の負けでござる」
「俺が回復しますっ!」
「優しいねぇ、レウス君っ」
お前は酷いな。
「かたじけない、レウス殿。……ぬ、それはっ!」
「……凄いねレウス君! 両手の回復が使えるのかいっ?」
え、これは特殊なのか?
「片手ずつだけなら簡単だけど、両手ってのはバランス調整が非常に難しくて、それが出来るのはオーディスさんだけなんだよ」
そいつぁすげぇな。よし、完治。
「なんと……もう……」
「異常な回復速度だね。オーディスさんは内緒にしてるけど、修得したら是非奥義書が欲しいものだね」
回復魔石の効果もあるからな。
何でこんな便利なものを秘匿にするんだ? 便利だからこそか?
しかし回復が出回ってるんだ両手くらい別にいいんじゃないか?
「じゃあ修得したら……あの防気膜の奥義書と交換でいかがですか?」
「アハハッ、あれ便利だしね。お安いご用さっ!」
あの防気膜はイメージするのが難しそうだからな。
「レウス殿、某もお願い出来ないだろうか!?」
大人気だな。
「では気の浮遊維持……いや……」
あれは出来そうだな……。
竜爪の方が難しそうだ。
「竜爪の奥義書と交換でどうでしょう?」
「おぉ、お願いするでござるっ!」
顔が近い! まぁこれで毎晩の自傷行為にも精が出るってもんだ。
いやぁ……かなり勉強になった。10位台はやっぱ凄いね。
地味な戦いに見えたかもしれないけど、一つ一つの気凝縮度が半端じゃなかったわ。
あれ開放してたらここら辺一帯、更地になってるな。
近くで見てたら……やはり死んでたな。
しかし、デュークの速度……あれはチャッピー以上だったな。速度はマカオクラスだ。
マカオ動きは1年前までは目で追えなかった。
けど、この1年で少しは追えるようになったって事か。
デュークはまだ本気じゃなかったみたいだが、マカオの動きを追えるようになったっていう成長は実感出来たな。
目で追えるだけで、身体は絶対付いていきませんけどね!
さぁ、明日は……。
「友達を斬らないとねっ」
斬るかボケ!
「斬りませんよ。簡単な腕試しです」
「友人とは?」
「さっきギルドにいたスライムですよ。あいつが101位のスンです」
「なんとっ、魔物が勇者に……でござるか」
「魔王の中に人間がいるなら、勇者の中に魔物がいたって不思議はないはずですよ?」
「ぬ、いや……確かにそうでござるな」
明日は、スンと勝負だっ!
「ホントに斬らないの?」
斬るかボケ!