第二十九話「旅立ち」
レティナにも挨拶をして、勇者ギルドを後にした。
ガルムのおっちゃんのとこに、回復魔石と特硬化の魔石のウェポンエンチャントと共に、挨拶に来た。
「ユーはアレ? これをエンチャっちゃう感じ?」
平常運転だ。
腕だけは良いからすぐエンチャントは終わったけどな。
「しばしの別れを言いに来た」
「……そうか、行くか」
戻ったぞおい。
「このエンチャントで最後だ」
「何言ってるんじゃい、今後もエンチャントならうちでやれ」
「時間が出来たらな」
「金はもらうがな」
「あの契約の期限は爺が死ぬまでだよ」
「死んで生き返れば良いんじゃな?」
「……口が減らないな」
「お互い様じゃい」
「またな、ガルムのおっちゃん」
「また会おう、レウスの坊主」
じゃいじゃいじゃい、か。
少し寂しくなるな……中々良い友人だった感じだしな。
この1年も暇を見つけてはからかいに行ってた。
むぅ、いかんいかん……目頭が熱くなるとこだ。
是非ガルムのおっちゃんが生きてるうちにこき使わなくてはっ!
よし!
さて、あと挨拶が必要なのは……ゴチョウ達とダイアン、ロンドか。
ウェッジ……にも言っとくか。
ビアンカとトゥース、ハティーには手紙だな。
ハティーは文字が読めないが、誰かに聞くだろう。
というわけで、手紙を書きました!
そして西の森に来ました。
皆、鼻良すぎだろ?
全力で走って来るぞ?
めっちゃニコニコしてる……ってあぁ、最近魔物の表情が少しだけわかるようになったんだ。
西の森限定かもしんないけど……あ、ゴチョウとマイガーおった。
『おいっす』
『オイッス』
『おいっす』
……シュールだ。
『レウスドーシタンダ?』
『レウスどうした?』
『別れを言いに来た』
『『……』』
「「「クゥゥゥ……」」」
『どうして行く?』
『強くなる為だ』
『レウスジューブンツヨイ』
『もっともっと強くならなくちゃならん。それで……』
『『?』』
『友達に会いに行くんだ』
『ワレラモレウスノトモ』
『友だ』
『あぁ、だから必ず戻って来る。それまでの間、森の事は頼むな。もうお前らが協力すれば、大抵の奴等なんか楽勝だ』
『『……』』
そーいう顔すんなってばよ。
『これをハティーに“明日”渡してくれ』
『言わないか?』
『ハティーが死ぬよりマシだろ』
『ソウカ』
『レウス死なないか?』
『善処する』
『約束しないか?』
『サラリーマンは出来ない約束をしないんだよ。努力します、善処します、頑張りますが最強の武器なんだ』
『『……?』』
『またな』
ビリビリする様な遠吠えで見送られました。
ハティーが起きてない事を祈ろう……。
はい、戦士ギルドです。
ロンドはいなかったのでダイアンに言伝を頼もう。
応接間貸してくれたぜ。
「――ってわけだ」
「そうですか……。トゥースさんとビアンカさんには?」
「この手紙を後日渡しておいてくれ」
「わかりました。必ずお渡しします」
「またな、ロンドに宜しく言ってくれ」
「またです」
いいな、サッパリしてた。
戦士ギルドの判定員だし、別れには慣れてるんだろう。
いつ別れるかわからないしな。
うーむ……ダイアンは大人だ。
ウェッジも似た様な感じだった。
やはり戦士はいつ死ぬかわからんしな、あーいう職業は切り替えが大事だったりするわけだ。
後は……メシウマホテルのゴンさんだけか。
世話になったしな、礼は言わなきゃあかんやろ。
言ってきました。
相変わらず早いだろ?
また飯食いに来ると言ったら喜んでた。
さて、ここはどうしたもんか。
……俺の部屋だよな?
なんか布団がもっこりしてるんだが?
ハティーはいない……って事はこれはビアンカか?
ずっと寝てたのか。
一番世話になった奴なのに礼が手紙とは心苦しいもんだ。
まだ夕方だし、夜中まで寝たいんだがな。
仕方ない床で寝るか……野生児なめんなよ?
寝てたら身体に衝撃が!
襲撃!?
「不覚っ!」って思った時には押し倒されてた。
いや寝てたんだが、押さえつけられた。
なんだなんだ!?
「はぁ、はぁ……レウス」
「何してんだビアンカッ」
「はぁ、はぁ……け、決意してきたわっ」
わろりん。
それ1年前の話じゃね?
有効期限決めておけば良かった。
つか、なんでこんな力強いんだ!?
俺と同じ位力があるぞ!?
マウント取られてるから体重もかかって……動けねぇっ!
……わお。
よく見たらビアンカのヤツ、テクニカル系とスピード系外して全部パワー系の魔石になってる。
準備してやがったか!?
「いいのよ……ね、レウス?」
わろりん。
想定外だ。
くそっ、既に息子がファイヤーサンダーブリザードだ。
「大丈夫、私に……任せて……」
「あ、ちょ……ビアン、カ………………………………………………………………ぁ」
その夜、盛大な花火が2回上がったそうな。
脱、素人童貞☆
お嫁に行けない……。
はい……夜中です。
まさか旅立つ日に襲われるとは思いませんでした。
いや。ザー○ンさんじゃないからいいんだけどね?
むしろ、俺が促した事を忘れるとかそんな言い訳はしませんよ……してるようなもんだけど。
まぁ、とりあえず着替えオーケーだ。
鞄オーケー……うん、忘れ物はないな。
部屋にビアンカが寝ている事以外は問題ない。
ゴンさんには結構多目に料金を払ってるから、この「忘れ物」くらい大目に見てくれるだろう。
シャレじゃないぞ?
深夜の町を1人歩く子供。
多分見かけたらかなりビビるわな。
案の定ビビった東門の門番に挨拶してチャベルンを目指す。
朝から昼にかけてそこでダニエルと少し話して、エヴァンスの町を目指そう。
ダニエルの予定を考えてない所が俺らしいだろ?
都合つかなきゃその時は予定を変えりゃ良い話だ。
……すまんダニエル。
少し遅れるわ。
あれは牛だ、しかし少女漫画の様に目が大きい。
顔の3分の1から2分の1が目だ……めっちゃキラキラしてるな。
色は焦げ茶?
どこが可愛いかはわからんが、あれは絶対に松坂頭だ。
ふふふ、今の俺の敵じゃないぜ!
げぷ。
え、約束しないって言ったじゃん。
かなり肉が残ってるので、ダニエルとキャスカ達にお土産にしよう。
それでも持ちきれない分は残してく。
俺が食った残り物は魔物や動物が食ってくぞ?
これが自然だ。
本来はチャッピーがベロリするんだがな。
そのまま牛の皮2つに肉を包んで、再度チャベル……げぷ。
……ごめっぷ。
ちょっと黙るわ。
はい、5時間ちょいでチャベルンに着きました!
懐かしいな、1年ぶりだわ。
5時間で帰れるなら戻れよとか思った?
ぬるま湯的なアレアレになっちゃいそうじゃん。
目的を達成してからぬるま湯に浸かるんだぃ!
サッて戻って今日中にダダンに向かいたいもんだ。
朝8時半……ちと早いがとりあえずダニエル宅へ。
着いたらダニエルがパジャマ姿で体操してたわ。
うっすらピンク色――俺の脳内と同じ色。
「お久しぶりです」
「おぉ、レウス君か! 久しぶりだねぇ。そろそろ帰って来る頃だと思ってたよ」
「これ、お土産です」
「ハッハッハ、松坂頭か! レウス君の為にこの前手に入れておいたんだ。しかし腐ってしまいそうだったので、保存食にはしといたんだが、新鮮なのがあるならこちらを戴こうか」
相変わらず良い奴だ、約束を覚えておいてくれるのは嬉しいもんだ。
……ん?
この流れでいくと、俺は3食松坂頭の肉って事か?
え、俺幸せじゃね?
……ごめん嘘ついた。
もう肉見たくない。
腹で油が盆踊りしてる。
確かに走りまくって小腹は空いたが、これはキツイ。
「さてレウス君、君に謝らなければならない事がある」
……一瞬で想像ついたわ。
これはアレだ……キャスカとスンの行方不明フラグだ。
西の国にあいつらが来てないって事は、ダニエルがきっと沈黙、もしくは誤魔化したんだろう。
で、いなくなったって事はきっと後者だ。
「なんて言ったんです?」
「……北行ったかもしれないし、中央に行ったかもしれないし、と言ってる最中にいなくなってしまった」
「……」
どうしようもないなあいつら……あいつら?
いや、スンなら……止めるよな?
キャスカが押し切ったか。
それしか考えられない……にゃろめ。
「それはいつごろですか?」
「2週間程前だ」
最近じゃねーか。
「レウス君が1年ピッタリで帰って来なくて、心配だったんじゃないだろうか? キャスカちゃん「今日で1年なのに!」って言ってたから……」
俺のせいだったわ。
キャスカならありえるな。
1年“位”と伝えれば良かった。
「顔中涙や鼻水塗れにしてね……あんなキャスカちゃんは初めて見たよ」
それ毎日見てたわ。
ダニエルの話を聞いてここを出たとしたら……北か中央だな。
下手に探すより中央で留まった方がいいか。
スンがいれば大体は安心だからな。
俺の命が狙われてる可能性があるから、俺と共に行動するのが危ないってだけだしな。
「もし戻って来たらここに留まるように言っておいてください」
「任せてくれたまえ」
トッテムにも謝罪しなくてはな……。
で、着きましたエヴァンスちゃん。
一般人のM禿げが少し進行……侵攻してた。
髪型? 坊主頭だぞ。
おいおいそんなの前に…………言ってないな。
雰囲気で察してくれててありがとうございます。
やっぱ雰囲気って大事だな。
服は平服だから色々変わるんだ。
だから…………許せよ?
「久しぶりだねレウス君」
「一般人も元気そうだね」
「あはは、皆心配してたよ?」
「ありがたい話だね」
「トッテム町長もキャスカちゃんの事はあまり気にしてないみたい」
「気にしろよ……」
「あの人と奥さんは元々戦士だからね」
戦士と戦士を掛け合わせると疾風(笑)が生まれるらしい。
しかし、あの太ったおっちゃんの戦士姿は想像出来ない。
商人の格好をして、腹が減りまくるダンジョンに潜る姿なら想像出来るが……。
案の定トッテム宅に行ったら、キャスカの心配より松坂頭に対しての喜びが大きかったみたいだ。
愛って色々あるのね。
その後ビックスを少しだけからかって町を早々に出た。
途中ユグ木にも寄ったけど、やはり何も変わった所はなかった。
さぁ向かいますよ南東へ!
はい着きましたー!
6時間位で着いた。
今日走りっぱなしだわ。
岩の絶壁と絶壁の間に関所……こういうの何て言うんだっけ?
国境検問所だっけ?
まぁそれがあったよ。
兵士的な門番的なアレは2人……詰所の中にはもう少しいそうだけどね。
えーっと、まずは勇者だと大声で名乗るんだっけ?
「私は勇者ランキング100位のレウスです!」
これで門へ案内されると……お、1人こっち来たわ。
鼻の穴が大きいゴリラみたいな奴だ。
「子供はお家に帰ってママの乳でもしゃぶってなっ!」
……レティナちゃんの嘘つきっ!