第二十七話「勇者ギルド」
その後、マイムマイムに連れられてゲブラーナ城の裏手、北地区にある「やしうゆ」という店の地下に着いた。
看板だけあって開店はしてはいなかった。
やしうゆ……反対から読んで「ゆうしや」、相変わらずふざけた世界だこと。
中に入ると事務員みたいなのが1人椅子に座ってた。
女だ。
そして眼鏡キャラだ。
赤が少しくすんだ感じの髪色で、キリッとした印象だ。
白いベレー帽みたいなのを被って、白いポンチョ? を着けている。
インナーは髪色に近い色のシャツでスカートは白い長めのタイトなもの、焦げ茶色のブーツを履いてる。
胸は……皆無だ。
まぁ、ギルド員っぽいな。
立った。
こっち来た。
小柄で結構可愛い。
「お久しぶりです、マイムマイム様。レウス様、初めまして。レティナと申します」
「久しぶりだな、レティナ」
「初めまして、レウスです」
あんな綺麗なお辞儀は初めて見たかもしれん。
三角定規みたいなお辞儀だ。
「何故俺の名前を?」
「この町の有名人ですから」
「はぁ、そうですか……」
「マイムマイム様、新規ですか?」
「そうだ。手続きを頼む」
どこかの事務所だなこりゃ。
「○番さん新規入りまーす」とか言われても……いや、このジジおっさんがいたら、別の事務所的なアレアレに感じるな。
「では勇者ギルドに関して説明をさせて頂きます。どうぞ掛けてください」
「あ、はい」
「まず勇者が受けられる特典の話からさせて頂きます」
いきなり黒い話からだな。
「既に知っているかと思いますが、勇者ギルドは先人達の偉業から各国の国境、関所等、不自由なく行き来する事が可能です。勇者当人が認めた同行者であれば、これも適用扱いになります」
決心がブレる様な事言ってきたわ。
いや、誰も連れて行かないよ?
まぁ、でもこりゃ役に立つ特典だな。
「もう一つ特典があるのですが、これについては別の説明を先にさせて頂いてからとなります」
もう一つ?
「まず、レウス様のランキングは100位でございます」
15人も増えてたか。
「そこで先程の説明に戻ります」
特典……なんだろ、一夫多妻制がOKとかかしら?
んなわけない。
「ランキング50位を越えた勇者は、東の国の更に東、魔界と人界とを隔てる「魔人門」の通行が許可されます」
……いきなり足踏みか。
どうせめちゃくちゃ高い門なんだろ?
登れるとしたら空を飛べる者か、上位ランカーぐらいでしょうとか言うんだろ?
上位ランカーだったら既に通れるから、わざわざ登る必要はないでしょうとか言っちゃうんだろ?
「魔人門はとても高く――」
はい当たり。
「空を飛べる者か――」
確変入りました。
「上位ランカー位でし――」
連ちゃんです!
「わざわざ登る必要は――」
捻りすらなかった!
まぁ普通に考えればそうなるわな。
「魔界へ入ってる最中にランキングが落ち、51位以下になってもその許可が取り消される事はないのでご安心下さい」
ランキングが落ちても実力が落ちるって事はほぼないからな。
そんなもんだろう。
「さてレウス様、ランキング戦の詳細は御存じでしょうか?」
「えぇ、欲しい物を提示し、それが勇者ギルドに認められれば良いんですよね? 下位のランキングの勇者は、その欲しい物を相手に提示すればランキング戦が可能と聞きました」
「その通りでございます。ランキング戦の申請は勇者ギルドで行って下さい。ランキング戦の依頼があった場合は、後程お渡しする勇者証明が光り、詳細文が表示される様になります」
めっちゃハイテクだなおい。
「欲しい物の更新は毎月1度必ず行ってください。生存の証明と共に、複数の勇者からのランキング戦依頼を防ぐ為でもあります。これも勇者証明から手続きが可能です」
最先端だな。
まずキャスカの為にティッシュを作ってやれよ。
キャスカには鼻水専用の手拭いがあるんだぞ?
「キャスカ専用手拭い!」……なんかかっこいいと思った俺が馬鹿だった。
吸引力の変わらないあの鼻があれば問題ないか。
うん、解決したわ。
「最初の設定はこちらでさせて頂きますので、欲しい物を提示して頂けますか? もしそれが無い場合は、自動的にランキングに見合った金銭となります」
んー、空の支配者と騏驎の情報……とかにしても良いんだろうか?
しかし俺より下位の勇者が魔界に入れない以上、それは難しい問題なわけだ。
待てよ……もうすぐここから離れるとなると、ナディアと疎遠になる可能性がある。
ってことは、俺はずっとオカマエルフなわけだ。
エルフの標準言語の指導が欲しい物……いやぁ、これは無理だろう。
期間が長いしな。
エルフの里に行った時に、男色家と思われる程男の話を聞きまくれば何とか修得出来るだろう。
んー、強くなるんだったら、オリジナル剣技の奥義書とか魔石……だよな?
ま、魔石でいいか……今欲しいのは特硬化か、特抵抗だ。
これなら何個かあれば、エヴァンスに帰った時にスンやキャスカに渡す事も出来るしな。
決まりだ。
100位であまり欲張っちゃいけないしな。
この2つの魔石なら戦士の段階でも手に入れられ…………ん?
なんか嫌な予感がするな。
戦士の段階で最上位の魔石が手に入るものなのか?
この以上の魔石の存在って……あり得るよな?
魔界に行ったら揃え直しとかありそうだ。
いや、あるんだろうな……聞いたら教えてくれるかな?
マイムマイムもいるんだ、聞くだけ聞くか。
「戦闘に重要な五種類の魔石の最上位魔石ってなんですか?」
「…………」
「?」
「驚きました。この段階でそれに気付く方がいるとは思いませんでした」
やっぱかー……いやーけど、現代のゲーム世界はそれ基本だからな。
「パワーマスター、スピードマスター、テクニカルマスター、特硬化、特抵抗の中で、それ以上の効果が表れる魔石は3つあります」
「……3つ」
ってことは……。
「神力の魔石、神速の魔石、神技の魔石です」
はいユグ剣達セーフ。
しかし神速か、キャスカが喜びそうだ。
黄金魔石からも出るんだろうか?
知らない色の魔石が出るんだからあり得るんだろうな。
ま、それでも相当レアって事か……。
「各種マスターの魔石を五つ集めエルフの里に持って行くと、その系統の最上位の魔石にしてくれます」
やりこみ要素きたこれ。
つまりパワーマスターの魔石を5個、エルフの里へ持って行くと神力の魔石が1個出来るわけだ。
……先は長いな。
神技の魔石なんかは特にな。
特硬化、特抵抗は最上位みたいだし……今回はそれでいいか。
「……特硬化の魔石でお願いします」
「堅実ですね。それでしたら問題ございません」
はてさて、100位なんかを狙いに来る奴がいるのか?
「去年から今年にかけて優秀な勇者が多数現れております。去年だけで12人増えました」
「どうせすぐに殺されて減るだろう」
なんでそんな怖い話するの?
あのジジおっさん怖いアル。
「最後に勇者必須の奥義書をお渡しします」
空から雷でも呼べるのかしら?
そしたらマカオに落とすんだけど。
「この2枚になります」
2枚あるのか、素晴らしいな!
「ありがとうございます」
チーン!
…………奥義書が1枚燃えた。
「え?」
「む?」
「へ?」
「……それは。レウス様は既に気操作を修得されていらっしゃるんですか?」
俺が付けた名前と一緒だ。
安直な世界だ。
「えぇ、まぁ」
「くふふふ、その若さで「修得」までいってるとは驚いたな」
その笑い方はキャラ付けか?
なかなかないぞそれ?
「で、もう一つは……」
「それは回復の剣技です」
「きたこれ」
「は?」
あぁいや、なんでもないです。
……ん?
逆になったわ。
すまん。
「あぁいや、なんでもないです」
「……そうですか」
ついに回復がきたな、これがあればかなり楽になるぞ。
錬度は怪我の回復をしなきゃ上がらないのかな?
空打ち的な感じで錬度上げられれば助かるんだが……。
「これ、怪我してそれに使わないと錬度は上がらないんですか?」
「その通りです」
空打ちは無理か、毎日自傷行為をしなくてはいかんな。
錬度上げる為なんだからね?
血判状に押す位に指先ちょっと切って、回復させるだけなんだからね?
そこはきちがえるなよ?
何かのゲームで、剣の錬度上げる為に剣を振りまくった記憶があるだろう?
アレだよアレ。
身に覚えがなくてもそんな感じだよ。
回復……すぐ修得出来ればいいのぅ。
しかし気ってのは万能だなおい。
色々試せそうだな、オラわくわくすっぞ!
あぁ、そうだ……さっき気になった事があったんだ。
「もし、下位のランカーが2人同時期にランキング戦を指名してきた場合はどうすればいいんですか?」
「両方とも受けて頂き、その後ランキングに反映されます」
欲しい物が2つ手に入るのか。
情報でも魔石でも剣技でも、2つあって困る事はないだろう。
んー、そんなとこか?
なんかわからない事があればその都度聞けばいいか。
「わかりました」
「では少々お待ち下さい。勇者証明をお渡しします」
……わお。
これはビックリだ。
どこからどう見てもタブレットだ、スワイプまで出来やがるぞ……。
大きさは……少し横に細長いな……ティッシュ箱くらい?
薄型で1センチないくらい。
これのどこがカードなんだ?
どこかおかしいぞ、世界よ。
勇者ランキングもこれで随時更新されるみたいだ。
さてさて――
■1位 オーディス【黄金魔石】
■2位 エミーダ・カトルス【10位以内の魔王の情報】
■23位 マイムマイム【神技の魔石】
■50位 モディアム【特硬化の魔石1個、特抵抗の魔石1個】
■52位 セレナ【神力の魔石】
■100位 レウス【特硬化の魔石】
セレナは相変わらずパワーファイターだな。
マイムマイム程長く勇者をやっていても神技が欲しいのか……やはり集めにくいんだな。
魔王の情報、やっぱり欲しい勇者はいるのね。
エミーダ……女性か?
女性が2位?
ぱねぇな。
ビックリなのは1位のオーディスって人だな。
男……かな?
黄金魔石を世界中から集めるつもりか?
俺が挑戦出来そうな奴は……いないな。
とりあえず勇者にはなれた。
んで、50位の勇者を……倒せるかどうかはわからないが、やるだけやってみる。
別にそれより下位の奴に勝ったって挑戦料が高いだけだ。
順位に興味はないし。
50位の勇者……モディアムか。
特硬化と、特抵抗……これはどっちか1つじゃなく、1つずつ必要だという意味だろう。
今の序列の俺が、神技の魔石を欲しい物に提示しても勇者ギルドが許可を出さないんじゃないか?
52位のセレナが神力を許可されてるって事は、そこら辺の序列から欲しい魔石をシフトしていけばいいだろうな。
チーン!
なんか勇者証明が光った。
凄い……文字が浮かび上がってきた。
なになに?
■ランキング戦詳細
■23位【マイムマイム】 VS 100位【レウス】
■挑戦者【マイムマイム】
■提示品【特硬化の魔石】
■日時【空の月17日(本日)】
■場所【ゲブラーナ近辺】
■よろしければ「了承」の文字に触れて下さい。
【了承】
……………………くぴ?
わーい、特硬化の魔石ゲットだー♪
……まじか。
「これは?」
「ランキング戦の詳細です」
知ってる知ってる、そう書いてあるもの。
俺が言いたい事を察して頂けると、有難いような気がしないでもない。
「上位ランカーから下位ランカーに挑む事も可能って事ですか……」
「はい。 提示品は勿論必要ですが、上位ランカーが下位ランカーの実力を見たい時に主に行われます。勝てばその上位ランカーの序列が手に入ります。負けた上位ランカーはその1つ下の順位となります。下位ランカーが負けた時は提示品が手に入るだけで、何も変わりません」
クソシステムめ……。
あんな声太ジジおっさんに勝てるわけねーだろ。
まぁ現段階で俺がどの程度の実力か解るからいいか。
「この日時なんですが、守れなかった場合はどうなるんですか?」
「その日時の文字に触れてみてください」
うほ、日付のプルダウンが表れた。
ホントなんなのこの世界?
「表示された日付の中から受け手の希望日が選択できます。表示された日付は挑戦者の都合のつく日でもあります」
「希望日を指定して、その日に……例えば病気にかかったとしたらどうすればいいのででしょうか?」
「病気の場合は戦ってください」
わろりん。
「ギルドがそれを認めた場合か、魔王との戦闘中の場合のみ休みが適用となります。その理由としては、魔王との戦闘は数日掛かる場合もあるからです」
「魔王と戦っているという証明はどうすれば?」
「勇者証明が戦闘区域にあれば、勇者証明が自動的に魔王の気を認識し、それを挑戦者とギルドに知らせます」
…………最先端以上だな。
ま、実力がそんなに激変するわけでもないから、今日でいいか……。
了承っと。
チチーン!
俺とマイムマイムの勇者証明が鳴った。
「む、終わったか。ではレウス君、いっちょ戦ろうじゃないか」
…………早退したい。