第二十六話「ギルドマスター」
やっぱ勇者になると別次元だな、勝てる気がしない。
いや、戦ってないよ?
見てわかるってのはこういう事を言うんだな。
マイムマイムの23位と1年前のセレナの84位……この差があり過ぎる事に驚愕だわ。
あーでも、あれから1年半程経ってるからもう少し勇者が増えてそうだ。
なんか戦士ギルドの応接間に案内されて、マイムマイムと二人っきりだ。
そっち系か?
無理だ。
近寄ると十字飛剣をお見舞いしてやる!
「レウス君、君の話を聞いてわざわざ魔界から戻って来たのだ」
臭い設定が出て来たぞパートいくつか。
聞くしかないよな?
いってみます。
「魔界とは?」
「上位ランカーの勇者達と魔王達が入り乱れる戦地だ」
なんでそういう怖い話すんの?
あ、聞いたの俺だわ。
「……俺の為とはどういう意味ですか?」
「勇者になれる勇者が、勇者にならないと聞いてな」
ボケ老人みたいな事を言ってきた。
謎かけか?
勇者になれる勇者?
俺の事か?
勇者になれる戦士じゃないのか?
「どういう意味でしょう?」
「……この国に帰って来て驚いたよ。マーダータイガーがニコニコしながらミルキィを買ってるんだぞ?」
その巨体でミルキィ言われてもな……。
「しかもそれを売る店主も、マーダータイガーにニコニコ話しかけているんだ。……私の知るゲブラーナじゃなかったよ」
「はぁ……」
「先程ブルームの奴にも会って来た」
「ブルーム王に?」
「奴のあんな活力溢れる顔は、即位して間も無い頃位だろう。……レウス君、君の事を話してたぞ?」
「俺の事?」
「小さな友人だと言っておった」
「あいつが……」
まぁ、会う度ニコニコニヤニヤしてたからな。
人間版チャッピーみたいな奴だ……確かに友人と呼べるかもしれん。
「ナザーも生き生きしておったな」
「……」
何が言いたいんだ?
「……極めつけはここの若造共だ」
「戦士ギルドの?」
「そうだ。平均レベル110なぞ、中央国の「首都オディアータ」でもありえんぞ? ……全てはレウス君、君が現れてからだ」
「それは言い過ぎです」
「そうかな? 少なくともトゥースも、ビアンカも、ダイアンも、ロンドもあれだけ成長すると私は思わなかった。皆を率いて強く、笑顔に導ける人間はそうそうおらん」
「……それが勇者だと?」
「さて、どうなのかな」
答えは無しかよ。
むー……意図が読めん。
「ブレイブジャッジメントは倒さないのか?」
「敵意のない魔物を倒すのは主義じゃないですからね」
「……闇王デュラハン」
「……っ!」
「奴を倒したいそうだな?」
「……ダイアンに聞いたんですか?」
「これまでの話も全てな」
あのお喋りめ……。
「あいつの相手はかなりハードだぞ?」
「た、戦った事があるんですかっ!?」
「いや、ないな」
「……そうですか」
「戦いを見た事がある……というのが正しいかな」
「……出来れば詳しく聞かせてください」
「20年位前の話だがな、あの時、私のランキングは16位だった。あれが私の全盛期だったな。その時私は、当時ランキング5位のアディスという男と一緒に行動していた。……アディスは強い男だった」
だった……か。
「勇者になったばかりの私に戦いのイロハを叩きこんでくれた。魔界に入って数年、ようやくそこの生活にも慣れた頃だった」
「……」
「その日私は魔王の下位ランカーとの死闘を終え、魔界唯一の町に帰還したんだ。町に着いた時、その戦いは既に始まっていた……。天から光が何度も降り注ぎ、その度空から轟音が聞こえた。丁度その日、勇者の上位ランカーがアディスしかいなかったんだ。奴はそれを知ってか知らずか……。戦ってるのがアディスとわかった時には、轟音どころか風の音すらも聞こえなくなっていた。……奴は剣を天に掲げ、ゆっくりと降りてきた。その剣に刺さるアディスの亡骸と共にな。……その後はあまり覚えてないが、とにかく走って逃げたな。死に物狂いで……」
「勇者が……逃げる……」
「勇気と無茶は違うからな……」
その通り……なんだけどな。
あいつらは俺の為に無茶をしたんだよな、俺の為に……。
「…………」
「奴は今魔王ランキング8位、その当時、奴は10位だった」
「勇者の5位が10位に敵わない……?」
「この情報が確かかどうかはわからないが、奴は魔王ランキングを上がる事をしない」
「……ではその当時の上位9人の内2人は?」
「うむ、この20年の間で勇者の1位と2位が、7位と9位の魔王を倒した。奴の序列はそれにより、繰り上がったのだろう」
「……つまり、最低でも勇者の4位以上の実力が無ければ、奴とは戦えない」
「そうなるな」
でけー壁だな……。
セレナは今序列52位、この1年で上位50人の壁は破れていないという事だ。
……絶望的だな。
「レウス君は何故奴を?」
マイムマイムも話してくれたんだ。
俺も話すのが筋だろう……。
「師匠2人がね、俺を逃がす為に身体を張ってくれたんですよ」
「奴を止められる程の者……?」
「師匠は人間じゃなく……魔物ですから」
「魔物……相当な師匠のようだな」
「空の支配者と騏驎って言えばわかりますか?」
「……」
少し驚いてらっしゃる。
やっぱ有名なんだな、あの二人。
「くっふっふっふっふっふ……ここ数年、魔界で噂を聞かないと思ってたら、人界で弟子を育ててたか。成程、確かにあいつらならデュラハンの足止め位出来るだろう」
「本当ですかっ!?」
この言い方なら生きてる可能性が高い。
そして二人の実力も把握してる!
「安心しろ。奴は飛べるが、長時間は飛べぬ。対してあいつらは長く飛べる。適当に時間を稼いだら、飛んで逃げてるだろう」
そうか……あいつら……生きてるのか……。
「……………………んだょ……ぉ」
「……」
良かった……。
良かった。
良かった。
良かった……。
「……ょが……だ……よかった……ぅうっ。うぅうっ……うっ……」
「……そうか、あいつらがレウス君を」
「うっ……ぅっ……」
「良い師を持ったな」
「……っ…………ぁぃ」
――また……会えるっ。
すまん。
見苦しいとこを見せたな。
あいつらは死んでない……しかしそれは《死んでない可能性が高い》ってだけだ。
やれるだけやる事には変わりない。
あいつらは絶対生きてる――そう信じ、自分を磨くだけだ。
「レウス君、それなら尚更勇者にならなくてはいけないな」
「……?」
「おそらくあいつらは今、魔界にいるだろう」
「何故そう思うんですか?」
「おそらく逃げ延びただろうが、相手があのデュラハンじゃ傷を負った可能性が高い。魔物が傷を癒すなら人界じゃなく、魔界ってのが相場だ」
「え、俺が傷を負わせた時はすぐ治ってた様な?」
「表面上はすぐ治る……かすり傷程度でも完治までに2週間位かかるだろう。複数の傷……それもかすり傷でないとしたら、魔界へ行くしかないだろうな」
なるほど、なんかあり得そうな設定だ。
しかし、傷が治っても人界とやらに戻らない可能性は高い。
それなら俺が行くしかない。
問題は何故デュラハンが俺を狙ってるかだ。
……この1年色々考えた。
いくつかの仮説を立てた。
まずは俺の命に危険が迫った回数だ。
覚えてるか?
俺は鮮明に覚えてる。
最初に赤ん坊の頃、馬車から落ちたよな?
あの時、俺の両親は眠っていた。
俺が落ちる程の大きな揺れで、だ。
その時も思ったが、あの揺れで起きないのは明らかにおかしい。
おまけに馬車の扉が開いていた……。
その次、ドン達が殺された。
あの時俺がデビルフォレストにいたなら、俺は死んでいた。
殺したのは人間っぽいけど、あれは本当に人間だったのか?
人間だとしても、狙ったのは本当にブラッディデビルの角だけなのか?
ブラッディデビルのレベルは83だ。
あの時の俺がドンを追いつめられたのに、これだけ高いレベルってのは理由がある。
一つ、知能が高い。
二つ、それ故道具や文化がある。
三つ、ドンも俺達に仕込んでたが、剣術があるんだ。
勿論、俺にも染み付いてるものがある。
四つ、非常に見つけにくい。
知能が高い為、争い事から身を隠す術を持っているからだ。
人間が簡単に見つけられるとは思えない。
しかしこれが俺のせいだって事になると鬱だなおい。
なんとかしろよ神。
デュラハンの前にもう1回あった。
そう、その直後ゴーレムウルフが襲ってきた。
チャッピーがいたから死ななかった……裏を返せばチャッピーがいなければ死んでいた。
――あれは全て偶然なのか?
その後危険がなかったのは、チャッピーがいてマカオがいたからだ。
あの2人がいれば、大抵の危険は危険じゃなくなる。
だからこそのデュラハンなんじゃないのか?
最後に去年だ。
古代竜がゲブラーナを滅ぼしに来た。
魔王の指示でだ。
俺の実力がレベル150以下なら、俺は……俺達は死んでいた。
俺の実力を把握していないままで襲ってきたのであれば有り得る話だ。
おそらくあの古代竜は「ゲブラーナを滅ぼせ」という指示だけなんだろうな。
いくら魔物がいる世界とはいえ、そこまで死ぬ可能性があるのか?
デュラハンを除いて4回だぞ?
偶然が入ってる可能性も否定出来ないが、狙われた可能性もある。
――何故だ?
赤ん坊の頃が偶然でなかったとしたら、0歳の時から狙われてた。
――何故だ?
理由として挙げられるのは、神の力により転生した事だ。
それを魔王側が知ってたとしたら?
しかし、有効なカードは頭脳明晰と運動神経抜群だけだぞ?
それだけで狙われたのか?
………………。
ってとこでいつも思考が止まる。
……狙いがわからん。
俺が魔王の脅威になりうるのか?
チャッピーに勝てないのに?
気のせいとか自意識過剰ならそれに越した事はないが、デュラハンが俺を狙ったのは事実だ。
それとも俺が一番最初に動いたから、あいつが反応しただけなのか?
……詰まった。
まぁ、ここから先は現段階の情報じゃわからないからな。
しかしこの仮説が正しければ、またゲブラーナに危険が迫る可能性がある。
そろそろここを発たなければならないのは事実だろう。
ビアンカ達……連れて行きたいが、この段階まで来てしまうと、守る云々ではなく俺自身が死ぬ可能性がある。
あいつを守りながら魔王と戦えるか?
――いや無理だ。
即答できる。
一人でも無理だろうけど。
また黙って出て行く他ないか。
くそぅ……何であいつら好きになっちゃったんだろ。
はい、俺自身の甘さと浅はかさが原因だと思います。
以後は気をつけます。
硬派だ、硬派でいこう。
今は人との距離が近くなっちゃダメなんだ。
……気をつけよう。
「どうかね、結論は出たかな?」
「勇者の件ですか?」
「無論だ」
「勇者にならずとも魔界へは行けないんですか?」
「……何故そこまで魔物を斬るのを躊躇う?」
「……家族」
「?」
「家族を失う気持ちは、誰だって味わいたくないですから……」
「やれやれ……これを持って来て正解だったな……」
なんぞこれ?
丸い肌色の物体。
中央には赤い点……どこぞの青いロボットが腹から出すコピー○ボットの頭のような……。
黒い点が二つある……これは……目?
「ブレイブジャッジメントの首だ、使いなさい」
……あちゃー、そうきたか。
「戦士ギルドマスターがこんな事してもいいんですか?」
「ほとんどの戦士がやっていることだろう?」
いや、確かに共闘で倒してどちらかがそのレベルになる事はあるけど……。
実際俺とスンもそんな感じだったし……。
だがな、これはちょっと違う気がする。
「でもこれは……」
「いいから使いなさい」
「あ、はい」
そう、俺はノーと言えない日本人。
特に強い者には言えません。
言えるのは弱い人と母親だけ。
あぁ懐かしい。
チャッピーと出会った時もこんな感じだったな。
今回はいかちぃジジおっさんだけど。
その後マイムマイムがダイアンを呼び、無言の圧力をかけて事務手続きをしてた。
ダイアン可哀想だなおい。
応接間で勇者ギルドのリストを渡され、150のレベル証を返却した。
この町にも勇者ギルドがあるみたい。
誰もいないらしいけど。
そりゃそうか。
いたら去年勇者が古代竜を倒してたはずだ。
……………………あ、ワタクシ勇者になりました。