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第二話「成長」

 8歳になった。

 修行を始めて約1年だ。

 スンが少し大きくなった。

 けど、まだ頭には乗る。

 スンはあまり重くない。

 頭に乗っても気にならない位だ。

 俺も大きくなった。

 130センチ近く?

 うん、そんくらい。


 剣術もだいぶ成長したぞ。

 左手に傷を負わせる事に成功した時は驚いた。

 チャッピーもビックリしてた。


「ゆ、油断した……」


 1本は1本だぜ?

 けど本当に油断してたのか、それ以来1本も取れてない。

 スンは相変わらず傷だらけで帰ってくる。

 一度スンをの後をつけようとしたところ、チャッピーに止められた。


「やめておけ、スンもレウス同様成長しようとしているだけだ」


 因みにチャッピーとスンは会話は出来ないが意思疎通は出来るらしい。

 妬いちゃうわ。

 チャッピーはスンをスライムだからと格下を見るような目では見ない。

 大人だ。

 こういうところは見習いたい。

 まぁ、ドンもアンもスンの事を家族として扱ってくれたけどな。


 たまに成長を実感出来る。

 ユグドラシルの剣が刃こぼれする事がある。

 チャッピーの器用な指先でも回避が間に合わず爪の刃で受けてしまう為だ。

 チャッピーはそうした夜はブツブツ言いながら剣をカリカリする。

 チャッピーの可愛いところである。

 チャッピーの昔話は面白い。

 竜族の戦争の話。

 人間世界の世界戦争の話。

 魔王と勇者の伝説。

 俺と会う前は空の魔物の統括をしていたらしい。

 で、挫折したらしい。

 ちょっと可愛い。


「ハーピーの眷属とガルーダがな、言う事聞いてくれないのだ」


 やだこの子。

 可愛い。

 地上の統括は誰がやってるの? やっぱりアースルーラーとかいるの? とか聞いたら。


 顔を赤らめてアースルーラーの話をしやがった。

 漆黒の頬が血の様にドス黒くなる。

 怖いからやめてくれ。

 2000年間惚れ続けてるらしい。


 俺が生涯惚れ続ける時間だ。

 バカかこいつ?

 いや馬鹿にしちゃいけないのはわかっているんだが進展させないのはどうかと思うぞ?

 んで、チャッピーの寿命を聞いたら。


「んー……ちょっとわかんない」


 だそうだ。

 なんだその口調は。

 砕け過ぎだろ。

 会った時に「我が名は〜」とか言ってたの忘れたのか?

 え?

 おい。

 3000歳の威厳を見せろよ。



 スンは俺とチャッピーの話をウンウンと頷きながら興味津々な様子だ。

 可愛い。

 癒される。



 それから半年経った。

 事件?

 まぁ、事件にしよう。

 事件が起きた。

 俺の風呂が造れそうな灰色の布が限界を迎えた。

 最早、俺の小銃が動く度に見え隠れするレベルだ。

 チャッピーが言うには――


「ユグドラシルの葉で隠せばいいんじゃない?」


 こいつ俺とタメ年とかだろ?

 3000歳に感じないわ。

 確かに俺の小銃は葉程度でも隠れる。

 いや、これから大きくなるから大丈夫だ。

 そうだ、これからビッグマグナムになるんだ!

 服が欲しいぞ!

 で、チャッピーが言うには――


「え〜、めんどくさい」


 お前がめんどくさいわ。

 小指で鼻ほじってるし、なにこいつ?

 支配者になれない訳がわかったわ。


「仕方がない、人里で服を調達するとしよう。

 が、しかし金はどうするのだ?」


 この世界では何が売れるんだろう。

 ドラゴンの血?

 ドラゴンの爪?

 ドラゴンの鱗?


「おい、待てよ。

 確かに売れるだろうが、嫌だぞ」


 ちっ。

 ……そうだ、毛皮だ。

 今まで仕留めた獣の毛皮を持って行けばいい金になるんじゃないのか?


「多分売れるな。

 だが、それを売らずに加工して服にすればいいんじゃないのか?」


 そんな加工技術はない。

 素材のままじゃ臭いからな。


「では背中に乗れ」

「スンおいで」

「きゅっきゅっ」


 久々に乗るチャッピーの背中。

 相変わらず温かい。

 俺とスンはその後2回振り落とされた。

 チャッピーの背中にユグドラシルの剣を突き刺して、手すり代わりにしようと提案したら丁重に断られた。


 俺達は俺が走れば15分で町に着くという距離の森に着いた。

 なぜ?

 流石にチャッピーとスンを連れて行けないからだ。

 チャッピーは理解してたが、スンが少し寂しそうだった。

 ……可愛い。

 俺は布を上半身に巻き、素材の毛皮を一枚使い、腰巻きにした。


「そういえば人間の言葉は喋れるのか?」

「5ヶ月で覚えた」

「ほぉ、いつのまに?」

「赤ん坊の時だよ」

「とんでもない0歳児だな」


 そう言って俺は毛皮を持ち、走り始めた。


 15分て言われてたが。

 走ったら10分ちょいで着いた。

 大きな町だ。

 入り口に大きく文字が書いてある。

 …………読めない。

 ……大変だ。

 俺は読み書きが出来ない!

 頭脳明晰のこの俺が!!

 本屋で教科書的なアレを買おう。

 俺のプライドが許さん。


 とりあえず毛皮を売らなくてはな。

 門番的なアレはいないのか?

 町の名前を延々言い続けそうなアレは。

 あぁいた。

 人の良さそうな八○衛みたいなやつがいたわ。

 団子食うか?

 お?


「すみません」

「なんだい坊や?」

「この毛皮を換金したいんですが、何処へ行けばいいですか?」

「お、お使いかい坊や?

 偉いねぇ」

「はい。

 父のお使いです」

「今から休憩なんだ、僕もそっちの方へ行くから連れてってあげよう」


 おぉ、ホントいい人だわ。

 道中少し話をした。

 ここは「エヴァンス」という町らしい。

 彼は「ハチヘイル」という名前らしい。

 いや、俺が名前をつけたんじゃない。

 本当だ。


 町並みは木造建築の建物が多い。

 石造建築もあるが、ほとんど見かけない。

 すると木造建築の扉がない剥き出しの商店に着いた。

 ここが、換金所らしい。


「ご主人」

「あぁ、ハチヘイルじゃねぇか。

 どうしたんだ?」

「このレウス君がお使いらしい、色をつけてやってくれ」

「ほぉ、偉いな坊や、毛皮かい?

 この時期は需要があるからね、勉強させてもらうよ」


 どうやらお使いは偉いらしい。

 俺ならこの世界でのお使いは、絶対させたくないな。

 治安が悪過ぎる。

 ん、換金所の主人が色々と驚いてる。


「こりゃあ……キラーバッファローの毛皮じゃねぇか。

 他にもサウロスタウロスの毛皮まであるな……」


 あぁ、その二匹は強くて中々倒せなかったやつだ。

 キラーバッファローは、寝返りをうったチャッピーに「クチャ」って殺られた。

 サウロスタウロスはチャッピーがくしゃみした時に火炎(ブレス)が出て、首だけ燃えたんだ。

 まぁ、時間かければ俺でも倒せただろう。


「どれも良い物ばかりだ……いや、ありがとう。

 全部で10万レンジだそう」

「10万レンジ!?

 僕の二ヶ月分の給料じゃないか!」

「それだけの価値がある……坊や、いいかな?」


 レンジという単位がこの世界の金の単位らしい。

 一般人(ハチヘイル)の二ヶ月分……。

 一月5万レンジが一般人(ハチヘイル)の給料という事だな。

 まぁ、詐欺られてもわからないし、いいだろう。

 相場なんて調べようもないからな。


「いいですよ。

 ……えーっと、ここでは何が売れるかとかのリストってないですか?」

「あぁ、あるよ。

 500レンジするけど……うん、これはサービスしよう」

「ありがとうございます」

「よかったなレウス君」

「はい!」


 今の子供っぽかったろ?

 俺上手に出来ました。

 財布がなかったが、金を皮袋に入れてくれた。

 サービスいいな主人。

 贔屓にさせてもらうよ。



 さて、あとは……服と本屋か。

 一般人(ハチヘイル)がいなくてもなんとかなりそうな物ではあるな。

 けどこいつ付いてきそうだな。

 まぁ、いて不便じゃないし、いい人だしいいか。


「さぁレウス君。

 お使いは終わりかな?」

「いえ、僕が読み書きを覚える為に本屋と……あと服を揃えたくて……」

「おー!

 その年で読み書きを覚えようとするなんて凄いな。

 んー、ここからなら服を売ってる店の方が近いから、まずはそこへ行こうか」


 やっぱいい人だ。

 帰り際に残った金をあげよう。

 うん、そうしよう。

 ここら辺の商店はみんな剥き出しの店構えだな。

 閉店作業が大変そうだ。


「いらっしゃい……ハチヘイルか、服の新調かい?」

「この子に合う服を探してる。

 ……靴もかな?」

「ほぉ、予算は?」

「レウス君いくら位だい?」

「んー、5000レンジ位で」

「5000!?

 そんな金持ちなのかい?

 この坊ちゃんは?」

「さっき10万レンジ換金してたからお金はあるよ」

「すげぇな、とてもそんな風には見えないがな」


 おう、俺も同感だ。

 こんなパ○スみたいな格好の奴に金があるとは思えないね。


「どんな服を希望だい?」

「丈夫な素材で、同じタイプの物を何着か……」

「じゃあこの上下セット700レンジの物が良いだろう。

 これを5セットで3000レンジにしよう。

 で、1000レンジの丈夫なブーツを二つで5000レンジ……どうだい?」


 灰色の半袖のシャツと、パンツ……これを5セット。

 茶色いブーツを2足……いいね。


「あ、別料金で構わないので大きい鞄が欲しいです」

「じゃあこの革製の鞄がいいんじゃないかな?

 1000レンジだ」

「はい、それでお願いします」

「礼儀正しい子だね」


 全部その鞄の中に入れてくれた。

 少し重いが……まぁ、これも修行ってやつだな。

 ……そうだ、あいつらにお土産でも買っていってやるか。


「装飾品は売っていますか?」

「残念だがおいてないな。

 向かいのお店がそうさ」

「ありがとうございます」

「おう、またおいで!」


 一般人(ハチヘイル)は何も言わず付いてくる。

 こいつ出世出来ないタイプだな。


「装飾品?」

「父と母に買っていくのです」

「でもそれはお父さんのお金じゃないの?」

「これは僕が仕留めた獲物の毛皮のお金ですから大丈夫です」

「君が!?」


 あ、まずった?

 この世界の8歳児はそういう事しないの?

 たしかにピンは雑魚だったけど……。


「わ、罠を作るのが得意なんですよ」

「へー、やはり賢いんだねぇ」


 人が良すぎるぞ一般人(ハチヘイル)

 やはり余った金をあげよう。


「いらっしゃいませ……ハチヘイル?

 お前こんなとこで買う金なんてないだろ?」

「この子がお客様だよ」


 この町の人間は全員この一般人(ハチヘイル)を知ってるのか?

 有名人だな一般人(ハチヘイル)


「この子が?」

「腕輪と指輪を探しています。

 サイズは気にしなくて大丈夫です」

「お金はあるのかい?」


 当然の疑問だな。

 こんな服ですし?


「残り9万程です」

「……金持ちだな坊や」

「良い獲物が手に入ったので」

「ほぉ、猟師の卵か……普通のアクセサリーにする?

 それとも魔石入りのかな?」

「魔石?」


 なかなか臭い設定が出てきたぞ。

 いや、ドラゴンとかスライムが出てる時点でそんなものか。


「まだ魔石を知らなかったか」


 髭が似合うにーちゃんが色々教えてくれた。

 どうやら魔石を組み込んだアクセサリーは特殊な能力があるらしい。

 力が上がる魔石、素早さが上がる魔石とまぁ色々だな。

 速度は重要だ。

 なので、速度上昇の腕輪「スピードバングル」を2つ。

 速度上昇の指輪「スピードリング」を1つ購入した。

 魔石はお高い。

 腕輪が2万、指輪が1万。

 計5万レンジでござる。

 残金10万-6000-5万=4万4000レンジだ。


「ありがとうございました」

「また来ます」

「ご両親に良いお土産が買えたね」

「はいチャッピー()スン()も、喜んでくれると思います」

「さて最後は本屋か……この道を真っ直ぐ行けば近いかな」


 結局最後まで一般人(ハチヘイル)に付き合ってもらう事になったな。

 感謝感謝だな。

 ……おぉ、あれは本屋だな。

 わかるぞ。

 紙の匂いがする。


「いらっしゃい……ハチヘイルか。

 お前が本?

 嘘つけ」


 嘘つき呼ばわりされてるぞ、一般人(ハチヘイル)

 てか、やはりどの店の店主も一般人(ハチヘイル)の事知ってるんだな。

 何者だこいつ?


「アハハ、この子が字の読み書きを覚えたいみたいで、教養書が欲しいんだ」

「へー、この子が。

 わかった、ちょっと待ってな」


 ところで、最初の読みはどうすべきなんだ?

 どれが「あ」で、どれが「ん」かわからんぞ……。

 んー……チャッピーなら知ってるかな?


「お待たせ、この表とこの商人育成の本がオススメだ」


 俺は商人になるのか?

 青髪じゃないし、太ってないぞ?


「表は文字が沢山載っている。

 商人育成の本には難しい言葉が沢山載ってて、その意味も書いてあるから勉強にはもってこいだよ」


 なるほど、つまり辞典みたいなものか。

 こんな世界だもんな。

 普通の人間は難しい言葉を知らなくても生きていける。

 そういうわけだ。


「では、それをください」

「表が1000レンジ、育成本は3000レンジだ」


 想像通り割高だな。

 製紙技術の問題と、活字印刷の問題があるだろうしな……まぁ、仕方ないか。


「ではこれで」

「あいよ、毎度」


 よし、目的達成だ。

 しかし鞄が重いな……。


「では僕はこれでお役御免だね」

「ありがとうございました。

 ……これはお礼です」

「えぇ!?

 いいよいいよ、レウス君のお金なんだから」


 予想通り受け取らないか。

 というわけで、俺はお金の入った革袋を剣の柄に引っ掛けて、逃走した。


「あ、ちょっ、レウスくーん!

 ……行っちゃった」


 よし、成功だ。

 次回会ったらうまい飯屋でも教わろう。

 またな、一般人(ハチヘイル)

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