第二十三話「ユグユグ」
まずあの耳だ、あの犬耳をなんとかしなければならん。
とりあえずゲブラーナの市に来たがこの問題は簡単だ、あーゆーのを隠すのは帽子と相場が決まっている。
さて、どんな帽子が……。
おぉ、頭頂部に青くて丸い綿みたいなのが付いてるニット帽を発見!
そしてゲット……次は尻尾か。
パンツで隠すのは不可能だな。
ケツがごわってなるわ。
現実問題スカートでもごわってなるよな?
逆もっこりだ。
家の獣人達のスカートの構造は一体どうなってるんだ?
誰か教えて!
そうだな……こんな世界だ、尻尾は呪いという事にするか。
バレても逃げりゃもーまんたい。
この際だロンドを参考にして、海賊の下っ端にしよう。
白い五分袖のシャツに青いベスト、青いパンツに茶色い靴……。
これに赤い腹巻で……。
『おぉ!』
『下っ端だ』
『私はデスウルフリーダーだ!』
『デスウルフリーダーの下っ端だ』
『どういう意味だ!?』
『まぁいい、町へ行くんだろう?』
『うん!』
下っ端だ。
しかし目輝かせすぎだなぁ。
んー、どこ行くかな……そうだ、まだ市はやっているだろうか?
『ハティー』
『なんだレウス!?』
キラキラだなおい。
『人が沢山いる場所行くから、迷子になるなよ』
『わ、私は「子」じゃないのだ!』
『今はどう見ても子供だ』
『レウスだって子供ではないか!』
『……はぁ、そうですが何か?』
『む、むぅううううっ』
で、着きました。
南地区の中央通りの市場でございます。
『す、すごいな……』
『ほれ、手』
『へ?』
『繋がなきゃはぐれるだろうが』
『わ、私とレウスが繋がるのか!?』
その答えは予想外だ。
『いいから、ほれ』
『う……うん』
威厳皆無。
誰だ、デスウルフリーダーにレベル127を付けたのは? 俺が抗議してやる。
『レウス……わぶっ……ちょ、ちょっと……アイタ!』
……ゲブラーナに来た時の俺より酷いな。
まだ二足歩行に慣れてないのかな?
見てるのが面白いから速度は変えません。
酷い?
大丈夫だ。
わがまま言ってここまで来たんだから、人間の……文字通り荒波に揉まれればいいんだ。
このサイズだと揉める部分は少ないがな。
さて、魔石魔石っと……おぉ、あの爺さんがまた店出してる。
「お久しぶりです」
「ん……おぉグロウストーンとレジストマントを買ってくれた少年だね。今日はデートかな?」
『な、なんて言ってるのだっ?』
『ちょっと黙ってろ』
『なっ!?』
『おや、魔物言語を話せるとは、その若さですごいねぇ』
うぉ、何だこの爺さんっ!?
いきなり魔物言語で喋り始めたぞっ?
『爺さん、喋れるのか!?』
『お嬢ちゃんは……ふむ……その尻尾からするにデスウルフリーダーかな?』
『爺さんすごいぞ! いかにも私はデスウルフリーダーなのだ!』
『お爺さん……あなたは一体?』
『なに、魔物に知り合いが多いだけじゃよ』
『では……俺と一緒ですね』
悪い爺さんじゃないと思うが……不思議な人だな。
ボロボロ茶色の帽子、マントで瓶底眼鏡。
実はワシは賢者なんじゃ……とか言われても、転生してきた俺なら納得するかもしれん。
『実はワシは賢者なんじゃよ』
ごめん嘘ついた。
やっぱ信じられない。
俺の前振りはあったが、爺さんからの前振り無しでこれはあかん。
とりあえず聞いてみるか。
『賢者?』
『知らんのか? 賢い者と書くんじゃよ』
『それは知ってます』
『じゃあ問題なかろう?』
『……』
『……』
『……』
話が終わったぞ?
つまり賢い爺さんってだけか……謎の爺登場だな。
後半で正体がわかったりしちゃうかもしれない存在な可能性はなくはない。
長かった?
ごめん。
『本日は何を買っていくかのぅ?』
『オススメはありますか?』
レジストマントの件もある、この爺さん売買に関しては信用していいだろう。
『またグロウストーンが入荷したけど……坊やはもうあるしのぅ』
『それならハティーに……いや……』
『な、なんでなのだ!?』
ネックレスを作ったところで、こいつが大きくなるときっとブチンだな。
人型のままなら問題はないが、それだと大変だろう……。
『ホッホッホ、では賢者が答えよう』
『?』
『買ってくれたらこの首飾りをつけよう』
黒い首飾り……というかチョーカーというか首輪というか……材質はなんかシリコンとかゴムっぽい感じだ。
中央に魔石をはめ込める部分がある。
『それは?』
『その者の身体の大きさに合わせて、ピッタリと装着できる首飾りじゃ』
ほう、随分とこの状況に都合が良いな?
誰か見てるんじゃないか?
ビアンカに買おうと思ったが、その首輪があるなら丁度いいか。
『ではグロウストーンをください』
『はいよ、20万じゃ』
『……』
『……』
『なんだ、どうしたのだっ?』
『……やるな、爺さん』
『ホッホッホ、時価ですから』
ちゃっかり首輪代乗せてきやがった。
グロウストーン10万、首輪10万じゃなく、グロウストーン20万、首輪0か。
確かについてきてるからな、嘘は言ってないよ。
たぬき爺め。
お前が魔物だったらイエヤスって名前を付けてやる。
『ではこれを』
『ホッホッホ、毎度ありじゃい』
じゃいじゃい。
『他にはありますか?』
『いや、今日はこれで店じまいじゃい』
じゃいじゃいじゃい。
『そうですか、また見かけたら寄らせて頂きます』
『ホッホッホ、ではまたのぅ』
どうやら魔石がそのまま中央部分に入れられるらしい。
装飾屋に行かなくてもいいのは有難いが、あれから時間が経ってるし、何か新商品が並んでる可能性もある。
とりあえず装飾屋へ。
「これはこれはレウス様、いらっしゃいませ」
『おぉ、雅な細工が沢山なのだ』
プロだな、一回で名前を覚えたか。
テクニカルマスターを買った時、加工時間がかかるって事で預かり表にサインしたんだ。
それを覚えたか……まぁ400万だしな。
「本日はどの様な物をお探しですか?」
「最上位系の魔石が何かあれば、欲しいと思いまして」
『こ、これはなんなのだレウス!』
おぉ、ニコって笑ったぞ。
あるっぽい。
ハティーうるさい。
「それでしたらあちらのショーケースにございます」
「ありがとうございます」
『ビードロが沢山じゃのぅ!』
良かった、護衛の人の職が無くなっていない。
しかし、これを買ったら……また?
きっと彼等は契約社員だ、そう思う事にしよう。
てかビードロは……ポルトガル語のガラスだろ?
なんであいつが知ってるんだよ。
この世界ではビードロっていうのか?
そしてハティーうるさい。
さてさて、何の魔石かな?
……橙に光ってるって事はスピードマスターの魔石だな。
値段は150万レンジ……相当テクニカルマスターの魔石がレアだって事だな。
買いますけど。
「すみません」
「はい、なあにボク?」
「あの魔石を腕輪にしてください」
「……はい?」
「すぴーどますたーのませきをうでわにしてください」
「……えーっと」
『レウス、この女となななな何を話してるのだっ!?』
あぁ、こいつ前回と同じ奴だ。
お前クビだろ、店長見習えよ?
ハティー黙れ。
「店長」
「はい、レウス様」
「このスピードマスターの魔石を腕輪にしてください」
「かしこまりました。工賃は勉強させて頂きます」
「ありがとうございます」
『……レウスはやはり男色家なのか?』
やはりと言える場面はどこにあった?
とりあえずハティーがうるさい。
という訳で、ハティーがうるさかったから西の森に置いてきました。
『うぅ……もっと見たいのだ!』
とか言ってたけど、別れ際にグロウネックレスを正面から手を回して着けてやったら、風船が萎んだ様にその場にへたりこみ大人しくなった。
免疫無さ過ぎるだろ?
尻尾のバングルを『ひぁ……やめっ……ぁ』とか言われながら回収し、作ったスピードマスターのバングルを『ちょ……やめっ……ぁ』とか言われながらはめこんだ。
少しだけ可愛かった。
少しだけな。
そうそう、自分の気の総量を調べる為に、西の森の前で空に向かってカマイタチをぶっ放しまくってみた。
西門の門番が目を半分飛び出させながら俺を見ていた。
器用な目だな?
15分くらいかな?
それくらいで疲労感を感じ、20分程で枯渇した。
その場にいた門番に「気はどれくらいで回復するのか」と聞いたところ、「一晩寝ればバッチリですよ!」だそうだ。
回復してるのか明日もチェックしてみないとだな。
さぁて、疲れたので帰って寝よう。
はい翌日です。
早い?
俺もそう思った。
まだ昼前だし、とりあえず気チェックだ。
16分くらいかな?
それくらいで疲労感を感じ、21分程で枯渇した。
……ナイス髪。
あ、間違えた。
ぐっじょぶだ神よ。
これは、今後の修行に導入しよう。
レウス修行バージョン1.0だ。
剣も振りまくるから、体力やら下半身のバランス力もつきそうだ。
ダンジョン潜るだとか、討伐の日とかはそれ後にやった方がいいだろうな。
何故回復剤がない、世界よ。
さてさて、次はガルムのおっちゃんのとこだ。
モヒカンじゃないんだし、流石に今回イベントは起きないだろう。
「爺、いるか?」
「む、レウスか。出来とるぞ」
「流石、腕だけは良いな」
「腕以外に何が必要なんじゃっ」
「愛嬌と狡猾さだよ」
「捻くれたガキだ。魔石限度数は4、刃こぼれしたら持ってこい」
へぇ、鞘も付けてくれたみたいだ。
「んじゃハードダガーにこれ、バスタードソードにこれをエンチャントしてくれ」
「ん、ハードダガーにスピードでなくて良いのか? ダガーにパワー系なんぞ、こんなエンチャントの仕方は滅多にないぞ?」
「長所を伸ばすんじゃなく短所を補うとこから始めるんだよ」
「ふん、変わったやつじゃい」
じゃいじゃいじゃいじゃい。
「金は?」
「50万ずつ」
「絶対ぼってるだろ?」
「あぁ」
清々しい奴だな。
んなわけあるかボケ。
「ホントはいくらなんだよ」
「10万じゃ」
80万ぼられてたわ。
前回の分合わせて160万……。
「狡猾さだけはあるな」
「愛嬌もあるだろう?」
「皆無だ」
「ふん」
「良い話がある」
「何じゃい?」
じゃいじゃ……すまん。
「今後ここの代金を全て無料にするなら教えてやる」
「ふん、それだけの価値があるのか?」
「戦士の数だけそれはあるな。いや、一般家庭でも使える品だ」
「ほぉ?」
「どうだ、悪い話じゃないぞ?」
「一体なんなんじゃ」
「このユグドラシルの剣の製作者が作った物だ」
「聞こう」
反応良いよ、チャッピー先生。
「これだ」
「こ、こりゃぁ……確かにその剣の製作者だ」
「流石だな、わかるのか?」
「いや、ここにちゃんとサインが入っておる」
………………。
カンテラの裏に人間言語で小さく「チャッピー」と書いてある。
まさか剣にもっ!?
「それだけ使い込んで気付かなかったのか? 鍔の部分に小さく書いてあるぞ」
いなくなっても目立ちにくるな、あいつは……。
どんだけ構ってちゃんなんだ。
「で、それはどうだ?」
「こりゃ素晴らしいのぅ……特許をとれば相当儲かるんじゃないか?」
特許システムがあるのかこの世界は……。
「だから良い話だと言っただろう?」
「ふん、良いじゃろう。今後の料金はタダにしてやるわい。もっと儲かりそうだからな」
「金の亡者だな」
「老い先短いからな、若い女房に残せるとしたら金位じゃい」
良い話だと思った?
残念、こいつ糞だから。
「毎晩飲んで歩いて女を買ってるそうだな?」
「……何故知ってる」
「企業秘密だ」
ちなみに貯金もほとんどないらしいぞ。
……企業秘密だ。
「とりあえず今後は無料って事で良いんだな?」
「うむ、問題なかろう」
「じゃあこれのエンチャント頼む…………なんだその手は?」
「20万じゃ」
「お、お前今っ」
「それは今後の話じゃ。エンチャントの依頼はこの話の前だろう?」
「…………」
たぬき爺が多い国だな。
お前が魔物ならイエヤスセカンドだ。
「糞爺め」
「うるさいわ、糞餓鬼」
よし、エンチャント完了だ。
しかし高すぎないか?
20万って言ったら一般人の給料4ヶ月分だ。
それをものの数分で終わらせて手に入れる……。
数分で一般人4ヶ月分……。
まだぼってる可能性があるな。
テクニカルマスターの魔石を全箇所分集めたら、鍛冶師の勉強をしよう。
そしてあの爺の店の前に出店してやる。
……いつかな。
はい、戦士ギルドに着きました。
「ビアンカ、トゥース」
「おぅ!」
「なぁに、レウス?」
「これをやる……大事に使え」
「……まじか」
「うっそ……」
「ビアンカのハードダガーにはパワーマスターが1つ。トゥースのバスタードソードにはスピードマスターが1つ入ってる。剣が軽くなった分、素早く動けるだろう。ビアンカはスピードがある。だからパワーを着けて弱点を補え。トゥースは遅い。疾風(笑)だ」
「なっ!?」
「なのでスピードを着けて弱点を補え。俺は暫くここにとどまり身体を鍛える。扱いてやるから覚悟しとけ」
「「は、はい……」」
まずは強く……だ。