第十八話「ソロ」
ゲブラーナに来て4日目、デスウルフリーダーのハティーと別れて二日目だ。
どうしよう……既にやる事がないぞ?
昨日、マッチョドラゴンのコブを二つ持って行った時に、南の滝裏の洞窟ダンジョンが攻略されたらしい。
ビアンカが仲間から聞いたら、どうやらハズレだったようだ。
因みに討伐依頼を受けていない為、マッチョドラゴンの報酬は3分の1の10万だった。
3分の1で10万。
さすが130だな。
予定を組んではいたが、そういや対抗して魔石を狙う奴もいるんだなと再認識。
チャベルンやエヴァンスだと高レベルの戦士は俺、スン、キャスカ、位だったしな。
ってわけで、昨日行ってきました北の山の麓の洞窟ダンジョン。
もちろんソロで。
やっとチャッピーお手製のカンテラが役に立つ時がきた。
全体的な敵としては、80前後の敵がちらほら。
雑魚だったがその戦いは無駄にはならない。
戦い方に癖があるし、勉強になる。
状況分析や、相手の弱点の早期発見能力の向上にも繋がる……これはマカオに教えられた事だ。
ボスだけは少し強かった。
以前スンと二人で軽く倒した「般若オーガ」だった。
やはり、複数人での攻撃が弱点だったらしいが、今回はソロ。
まぁ、望む所ですけどね。
右手で般若オーガの攻撃をいなしながら、竜の剣(爪)で少しずつ斬りつけていった。
左足をちょんぱした時、勝負はついた。
そして手に入れました、スピードマスターの魔石。
こっちがアタリで良かった。
変わった事は、持ち物からハイスピードバングルが無くなり、そこに硬化のバングルと、スピードマスターの魔石を入れた。
そして、上硬化のバングルを作成して身に着けた。
779万レンジが789万レンジになり……あとはレベルが130になった事くらいかしら?
さて、そこで今日になって、既にやる事がなくなってしまったのだ。
やる事って言うとこのゲブラーナでって事だぞ?
自己鍛錬的なアレは普通にやるからいいとしても、戦士としてやる事が……ない。
ってな訳で、とりあえず本屋に来た。
せっかくの「頭脳明晰」を無駄にする事はない。
何か吸収出来る物があるなら、絶対にそうするべきだ。
おし、良い物が買えたぞ。
22万レンジとめっちゃ高かったけど。
手に入れましたぜ結構分厚い本「魔物大図鑑」。
未確認の魔物以外は絶対載ってるだろう。
で、その日はメシウマホテルの部屋にこもって魔物大図鑑を読みまくってやったぜ。
そして夜が明けた。
徹夜をしたのは久しぶりだ。
魔物大図鑑……ひゅごかった。
名前は勿論、低レベルの魔物なら倒し方や特徴が書いてあって、高レベルの魔物でもパーティ戦での連携の仕方とかが事細かく書いてあった。
こりゃ高いはずだ。
そして何よりすごいのはこの頭だ。
一晩でスポンジの様に吸収した。
魔物の名前、特徴、倒し方だけじゃなく、ページ数まで記憶してやがった。
良い大学いけるぜ。
そんなとこないだろうけど。
さて、少し仮眠して夜になったら戦士ギルドに行ってみるか。
……おやすみ。
はい、夜です。
早い?
うっせ。
身支度して戦士ギルドへ。
どうやらこの数日で顔を覚えられてしまったらしい。
西の森での出来事を言いふらしたビアンカとトゥースに原因がある……とは言わないし。
判定員もニコニコして応対してくれる。
「お疲れ様です。どの様なご用件で?」
「仕事の依頼の確認と、ダンジョン情報をお願いします」
「かしこまりました。こちらが現在ある魔物討伐依頼です」
あれ……なんか増えてるぞ?
特にレアな情報が……あぁ、レベルが130になったから難度の高い情報を教えてくれるのか。
さてさて――
南西の洞窟付近に判定レベル134のトレジャースケルトン。
「トレジャースケルトンの討伐部位は?」
「頭部と剣をお持ち下さい」
北西の湖付近に判定レベル141のビッグウイングダイル。
「ビッグウイングダイル討伐部位は?」
「大きな羽を両側お持ち下さい」
んで、ダンジョンが……。
南西の洞窟ダンジョンに特硬化の魔石。
北東の山の洞窟ダンジョンに特抵抗の魔石。
西の森奥の山のダンジョンにパワーマスターの魔石。
パワーマスターのダンジョンが増えたのは、西の森を越えられる実力者じゃないと紹介出来ないと判断したのだろう。
最優先で行く場所は、当然、特硬化の魔石だな。
アタリであって欲しいところだ。
「レウス君、討伐?」
ビアンカが現れた。
「いえ、良い魔石の情報があったので、ダンジョンに潜ります。あ、トレジャースケルトンの討伐をお願いします」
「かしこまりました」
また酒場が凍りついた。
「ちょ、まだマッチョドラゴンを倒して日が浅いのに、もうそんな強敵と戦うの!?」
「すみません、時間がないもので」
「……そう」
「では……」
「待ちなレウス」
「トゥースさん、何か?」
「付いて行きてぇところだが、やはり俺はお前の足手まといになる」
「えぇ、その通りです」
「ハンッ、言ってくれるな」
「大丈夫です。まだ死ねませんから」
「お前、何を目指してるんだ?」
「少なくとも闇王デュラハンを倒せる程度には強くなる予定です」
またまた酒場が凍りついた。
「お、闇王デュラハン……」
ビアンカがガクブルだ。
「お、闇王デュラハン……」
おいコピペか?
トゥースが震える。
「お、闇王デュラハン……」
……。
判定員が唾をゴックンだ。
そんなに有名なのか、あいつ。
判定員に聞いてみよう。
「そんなに有名なんですか?」
「ゆ、有名も何も、魔王ランキング8位の大魔王ですよ……」
「へぇ……」
8位でチャッピー、マカオの二人を相手に出来るのか……。
いや、そういう事はあまり考えずにいこう。
とりあえずこいつらの反応がうざいから出て行こう。
だが待てよ……勇者ランキングの8位はデュラハンと良い勝負が出来るのか?
むーわからんな、とりあえず強く……それでいこう。
あぁ、そうだ。
「ビアンカさん」
「は、はい!?」
デュラハンの名前聞いただけで、かなり汗をかいてるな。
……エロい。
艶っぽいというのか、やばいな。
俺の股間が。
「今度、剣技を教えてください」
「え、えぇ……」
「け、剣技……って、お前、剣技無しでそのレベルまで!?」
うるさいトゥース。
「では、失礼しました」
ガヤガヤうるさい酒場を後にした。
さて、時刻は夕暮れだが、トレジャースケルトン……スケルトンってくらいだから夜行性だろう。
行ってちょんぱだな。
その足でダンジョンも潜ってしまおう。
よし、ダッシュじゃい!
はい、南西の洞窟付近に着きました。
途中、ゴーレムウルフに襲われた。
めっちゃ久しぶりに見たな。
あいつらは判定レベル27だ。
子供時代の俺でも倒せたんだしそんなもんか。
目的地であるここに向かい走りながらちょんぱしていった。
途中で引き離したけど。
さて、トレジャースケルトンの討伐部位は頭と剣か……。
先にダンジョン潜った方が良さそうだな。
ダンジョンならともかく、外で倒すと討伐部位を誰かに奪われたり、魔物が持って行ったりしそうだからな。
え、鞄?
イン髑髏?
勘弁だね。
ユグダンジョンでの事を考えると、このダンジョンも簡単そ――なんだいありゃ……?
ダンジョンは少し潜ると、大きな部屋に出た。
というか四角に整えた部屋と言ってよかった。
問題なのはそこじゃない。
その大部屋には数を数えるのも不可能な魔物……判定レベル100の「リトルサタン」がうようよといた。
リトルサタンは薄黒い身体に羽が生え、腹筋が割れている。
身長は100センチから俺位(今大体150センチ程)だ。
顔は人っぽいが、全員が違う顔してる。
山羊の角みたいなのが、色んな形で生えてる。
一本の奴、二本の奴、三本の奴…………100匹、いや、200匹はいるな。
まぁ見つかりますよね。
カンテラ持ってますし?
とりあえずカンテラ置くよね。
いやぁこれは死ぬ……かもな。
よし、覚悟はOK。
やれるだけやる!
「しゃあああ、来いやぁああああ!!!!」
戦闘開始!!
背中から左手で竜の剣(爪)を抜き、右手でユグドラシルの剣を抜いた。
どうやら全員一気に襲いかかっては来ないみたいだ。
ありがたい!
通路を背にし、背後を取られないように少し下がる。
小さい身体でもこいつらが一度に襲いかかれる人数は4人までみたいだ。
遠距離からの火炎がなければなんとか……。
ちょ、火炎あったわ!
熱い!
「アッツツツツ!」
けど、腕は止めない。
よし、熱いけどレジストマントがなんとか活躍してる。
つーかこれ本物だった!
さんきゅー爺さん!!
爪での攻撃はほとんど当たらない。
かわせる!
当たっても上硬化の魔石のおかげで、ややヒリヒリする程度だ。
おそらく致命傷になりそうなのは、複数からの火炎か、口の中にあってさっきまで見えなかったあの牙だな!
それさえ気を付ければ…………いける!!
「ね、ねぇ。ホントにレウス君来てるの?」
「知らねぇよ。つーかまたお前が行くって言ったんだろうがっ」
「だって心配なんだもん……」
「お、光が見える……」
「ほんとだ」
またかよ。
「…………」
「…………」
「……なにこれ」
「……リトルサタンの死体だな」
「問題はその数よっ」
「ここだけで30匹はいるな」
「な、中はいったいどうなって……」
やっぱり来たわ。
「二人とも声がでかいんだ、よっ!!」
「「……」」
後、5匹!
1、2、3、4……いない!?
「こ、こっちに来るぞっ」
「武器を出して!」
「にゃろう!」
「ギャッ!!」
よし、命中。
ユグ剣の投擲スキルも上がってきたな。
竜の剣(爪)だと敵貫いて、ビアンカも貫いて、トゥースも貫いちゃうからな。
てか……つ……。
「疲れたぁああああああっ!!」
「まじかよ……」
「レ、レウス君、これ一人でやったの!?」
「どうもレ、レウスです」
「もうっ!」
よし、乳揺れた。
元気でた。
下半身が。
あぁそうだ。
「もしかしたら死んでないのがいるかもしれないので、気をつけて下さいね」
「ちょっとやめてよ」
「と、とりあえずここを出ようぜ」
あ、そうだった、ここ当たりだったんだ。
確か……あったあった。
「トゥースさん、あそこにある魔石取ってきてもらえますか?」
「あ、あぁ」
「ビアンカさんは俺の剣をお願いします」
「えぇ、任せて!」
よし、あったあった。
「すげぇな、特硬化の魔石だ」
「前手に入れたダンジョンはもっと簡単だったんですけどね……あぁ、ありがとうございます」
「はい剣」
「どうも」
「しかし、傷がほとんどねぇな」
「上硬化がなければ危なかったかもしれません」
「並の人間が上硬化付けたって、リトルサタンの攻撃力ならバッサリだぞ?」
「怖い事言わないでください」
「レウス君、これは?」
「ユグドラシルの木で作ったカンテラに光の魔石を固定した物です。ダンジョン攻略に便利ですよ」
「一流の戦士以上だわ……」
「二人共、そこら辺のリトルサタンの首持って行けば、レベル100になりますよ?」
「へんっ、そこまで腐ってねーよ」
「そうよっ」
ふん、良い奴等なんだけどな。
言う事聞けばね。
さて、お次は……。
「さぁレウス帰ろうぜ」
「いえ、まだ帰れません」
「「なっ」」
「トレジャースケルトンを倒さなくちゃ」
「「……はぁ」」
その後地上に出たら、目の前にトレジャースケルトンがおったそうな。
頭に青いバンダナをし、青いブーツを履き、黒いロングソードを持った骸骨だったそうな。
バンダナと靴だけとか、恥ずかしい奴だな……。
はっきり言って雑魚だった。
リトルサタン10匹の方が辛いだろう。
頭と、剣を持ってる腕をちょんぱしたら動かなくなった。
どういう繋がりがあるんだ?
帰りはビアンカがおぶってくれた。
断りまくったが泣きそうになったので仕方なく……。
きっとあれは嘘泣きだ。
恐るべし魔性の女!
もちろん前かがみになるほどギンギンになって、それがビアンカの背中に当たってしまったが、ビアンカはそれを「うふふ♪」と言いながら笑ってた。
もうお嫁にいけないっ!
それもトゥースに気付かれた。
「レウスも男だな」
うっせハゲ。
さて、帰ったらゆっくり寝よう。
明日は北東のダンジョンだな。
おやすみ。