第十七話「銀色」
どうやらビアンカは、トゥースと同じレベル91らしい。
だからマーダータイガーの首持って来なかったのか。
あれから10分程歩いた。
するとマーダータイガーの色と全く同じ色……つまり灰色の狼が現れた。
デスウルフだ……判定レベル85。
数はにーしーろーやー……12匹。
サイズはまばらだが、流石に3倍の大きさのリーダーは見当たらない。
とりあえず剣を抜く。
あれ?
こいつら俺達の事気にせず真っ直ぐ走って行くぞ?
……くぴ?
「な、何で私達を襲わないのかしら?」
「わかんねえ……」
「とりあえず追いましょう。あいつらの向かってる先にデスウルフリーダーがいるかもしれません」
「おう!」
「えぇ!」
デスウルフ結構速いな……。
ビアンカとトゥースが離されていってる。
俺は余裕ですけどね!
なんか遠くに橙色のでっかいのがいる。
あそこに向かってるのか?
その正面には……いた!
デスウルフリーダーだ。
銀色の体毛の狼、巨狼というのが正しいか?
大きさは……モ○位だ。
腕とか食いちぎりそうな感じだな。
そんでさっき言った橙色のでっかいのは、足は小さく……といっても俺の身長位の長さの足だ。
胴体がヤヴァイ。
腹筋割れまくりで側筋ボコボコ、胸板ブルンブルン。
顔は竜だ。
頬の筋肉やべぇ。
そして目が真っ赤。
満月で大きくなった大○くらい目が赤い。
そして両肩のコブ……コブ。
……え?
なんでマッチョドラゴンここおんねん!?
つまりこれはあれだな。
判定レベル127のデスウルフリーダーの縄張りに、判定レベル130のマッチョドラゴンが侵攻してきたと……こういう訳だ。
しかしマッチョドラゴンでかすぎるな。
おそらく10メートルはあるな。
周りにはデスウルフの死骸死骸死骸死骸死骸死骸死骸。
相当死んでるな。
マッチョドラゴン足元に多数の傷はあるが、ダメージにはなっていないみたいだ。
モ○は速さでマッチョドラゴンを翻弄してるけど、周りの死骸のせいでやや戦意喪失気味だ。
仲間死にまくってるからな、しゃあない。
マーダータイガーみたく連携はうまくないようだ。
弱い物いじめはよくない……よな。
『……下がれ、犬っころ!』
「ガァッ!?」
『これ以上仲間を殺したくなかったら下がれ!!』
一応魔物言語で話す。
「ガァルルルルル……ガァッ!!」
よし、後退した。
頭は良いみたいだ。
いや悪いか、こんな犠牲出してるしな。
「うわぁ!? デ、デスウルフリーダー!?」
お、追いついてきたか。
「ビアンカ、トゥース、後方で待機!! 死んだら殺す!!」
「「は、はいっ!」」
緊急時だからな、指示は短く敬語は無しだ。
戦闘開始!
巨大生物の弱点は、やはり足……だよな?
とりあえず左足ちょんぱ……だっ!
よし!
けど、剣の長さが足りない……切れたのは4分の3位。
「ギャアアアアアッッッ!!!」
まぁ痛いわ、な!
反対に回り、残った部分を竜の剣(爪)でちょんぱ。
「しかしこいつどうやってデスウルフ共を……?」
手は届かないし、火炎だったら焼死体なはずだろ?
そんな燃えた感じの死骸は……うおぉっ!?
なるほど尻尾かっ。
超器用だなおい!
咄嗟に跳んでかわしたけど……うっひょおおお!
跳んだ所に火炎ですか。
流石レベル130……がしかし!
「秘技、火炎防御!」
って言っても、両手の剣を限界速度で身体の正面で振り回してるだけだが。
チャッピーの火炎の圧力は無理だが、この程度なら余裕だ。
「俺にこの程度の火炎は効かないんだよ!」
「あらやだ、レウス君かっこいい」
「あいつホントに12歳かよ?」
39で悪かったな。
39歳でこれやったら、ちょっと頭のおかしい人だろうが、この世界ならOKだろう。
……え、駄目?
着地、と同時に尻尾が戻ってきた。
頼むぞ竜の剣(爪)!
跳び、反転、空中で逆さになりその流れで尻尾ちょんぱ!
「ギャグァアアアアッッ!!」
もっかい反転して、着地。
尻尾の脅威半減!
もう一本の足を狙う。
右足の大半を竜の剣(爪)で斬り、残りをユグ剣で斬る……よし!
「倒れるぞ!」
「こ、こっち!?」
「わからん!」
「ビアンカ、どうやら当たりらしいぜ! こっちに倒れてくるぞ!」
「お前らも下がれ!」
「ガァッ!!」
よし、この距離ならOKだ。
倒れて来る方向の頭の着地点……あそこだ!
先回り成功。
「とどめだぁあああああ!!」
はい、ちょんぱ。
脳内と発言のギャップ?
気にすんな。
そういうお年頃なんだ。
「ふぅ」
「え、終わった……の?」
「まじか……」
討伐部位は……コブ二つか。
でけぇなおい、一つでスン二匹くらいあるわ。
まぁいいか、ちょんぱだちょんぱ。
あとは――
「グルルルルルルル……」
「おいおいおいおいまだこいつらいるじゃねぇか!」
「レ、レウス君、どうするの?」
どうもレ、レウスだよ☆
んー、通じるかな?
『お前、話せるのか?』
『……気のせいではなかったか、ハーフエルフの勇者よ』
『襲って来るなら相手になるけど?』
「お、おい、レウスは何て言ってるんだ?」
「私に解る訳ないでしょっ」
「黙ってて下さい」
「「あ、はい」」
『助けてもらった相手に襲いかかるなど、私の誇りが許さん』
『それなら帰るわ』
『何か礼は出来ないか?』
『……あんまり人を襲うなよ』
『襲いかかられない限りは襲う事はない』
『へぇ、そうなのか』
『主にこいつらが襲われる。私が襲われる事は皆無だ』
『まぁ、仲間が襲われたらやっちゃっておくれ』
『同族だろ、いいのか?』
『お前らは復讐や見せしめの為に殺す。人間……まぁエルフやハーフエルフもいるかもしれないが、そいつらは毛皮や金、名誉の為に殺すんだよ。負けたら何にも残らん。それだけだ』
『達観しているな』
『前にも言われたよ』
『なかなか面白い奴だ』
ちなみに俺もそうだぞ?
生きる為に食う肉は別として、襲いかかってこない敵以外は倒しませんよ?
倒したのは後にも先にも、キャスカとのレベルの張り合いの時のサウロスタウロスのみだ。
まぁそれも美味しく頂きましたけど。
敵意、殺意くらいはわかりますからね?
『お前もな。俺はレウスだ』
『私はデスウルフリーダーだ』
『お前達は固有名ってないのか?』
『デスウルフリーダーだ』
『それは種族名だろう? デスウルフリーダーが2匹いたらなんて呼び合うんだ?』
『……』
『お前性別は?』
『女だ』
『見えないな』
『仕方ないのだ。一族の統率をやっていると自然とこうなる』
『んー、あ、そうだ。名前欲しいか?』
『名前か……考えた事もなかったな』
『今は考えてるだろう? ……さぁ、どうする?』
『欲しいな』
『……よし、今日からお前はハティーだ』
勿論ハチ公からとったぞ。
オスだったらハチだったんだがな。
『ハティーか……良い名だ。有難く受取ろう』
『これからどうする?』
『仲間の遺体を埋める』
『どこに?』
『戦士達はあの戦場で戦い、あの戦場で死んだ。その場……遺体の真下に埋めるのが昔からの作法だ』
『よし、手伝おう』
『何っ?』
『途中からとはいえ、俺もあの戦いに参加したんだ。手伝わせろ』
『……ふん、本当に面白い奴だ』
『俺はお前を殺しに来た男だぞ?』
『ほぉ、勝てるのか?』
『余裕だな』
『……だろうな。出来れば殺すのは戦士を埋めてからにして頂きたい』
『いや、さっきのマッチョドラゴンのおかげで、ハティーを殺さなくてもよくなった。考えてもみろよ、殺す奴に名前を付けるか?』
『殺さなくても……というのはどういう事だ?』
『人間の世界のレベルシステムは知らないのか?』
『あぁ』
しばらくお待ちください。
只今説明中です。
『――って訳だ』
『人間も面白い事をする』
『それに対して怒らないハティーも面白いよ』
『聞いたところ、我々の一族はかなり高い位置にいるらしいし、私なんかはもっと上なんだろう? なかなか見る目があるじゃないか』
『……まぁそういう考え方もあるか』
『お前達!』
「「「ガルルルル……」」」
『こいつらは喋れないのか』
『成長したら中には喋れる様になる者がいるが、この群れにはいないな。……しかし』
『ん?』
『皆お前の事が気に入った様だ』
『狼にもてても嬉しくねーよ。さ、さっさと埋めてやろう。血の匂いで他の魔物が来てしまうかもしれない』
『そうしよう』
『あぁ、お仲間に言っておいてくれ』
『?』
『あの二人は食べちゃ駄目だと』
『ふふ、了解だ』
面白いワン公だ、ついつい話が弾んじまったぜ。
「お、終わったのか?」
「何でレウス君、魔物と喋れるのよ?」
「魔物に育てられたので」
「「へ、へぇ……」」
「とりあえずあいつらを襲わなきゃ襲われないって事です」
「わ、わかった」
「了解よ」
「んで、二人に頼みがあるんだけど……」
「レウス君の頼みなら聞いちゃうわ♪」
「命の恩人だ、なんでも言ってくれ」
「デスウルフリーダーが、さっきのデスウルフの死骸を埋葬したいそうなんです。手伝ってください」
「ま、埋葬か……」
「重労働ね……」
「死骸の真下にその死骸を埋めれば良いそうです。あまり浅いと臭いで魔物に掘り起こされるだろうから、出来るだけ深く埋めてあげて下さい」
「……はぁ、しゃあないか。いっちょやったるぜ!」
「レウス君の為に頑張っちゃうわ♪」
「彼らも手伝いますので……」
「「「ガルルルルルル……」」」
「「……わーお」」
これが本日一番大変な作業でした。
ワン公達とビアンカ、トゥースは墓づくり。
俺とハティーは血の匂いで群がる魔物の牽制兼、皆の護衛。
ビアンカが泥まみれでエロい……2回前かがみになってしまった。
前かがみの状態でマーダータイガーを3匹仕留めた。
普通の状態で十手ゴリラを7匹仕留めた。
疲れた状態でマーダータイガーを12匹、十手ゴリラを10匹倒した。
「だりぃ……」
「レウス君お疲れ様♪」
「これは?」
「水筒、見た事ない?」
「知ってますが、持って来るもんなんですか?」
「……なんか私達の感覚が間違ってるように聞こえるわ」
「ちげぇねぇ。ハッハッハッハ!」
まじ疲れた。
重労働の後にはうまい茶だぜ。
『お前らもお疲れさん!』
「「「がぉおおおおおおおんっ!!」」」
尻尾振ってるわ。
チャッピーを思い出すな。
……こんなんで疲れてるようじゃまだまだだな。
『レウス……』
『おう、ハティーもお疲れ』
『礼を言う。いや、礼を言っても言いきれない』
『俺からも町のやつらに、お前らに害がない事は伝えておくが、俺の年齢だ、失敗の可能性は高い。その時は……』
『その時は?』
『あきらめろ。血みどろの戦いでもすればいい』
『プッ……ハッハッハッハ! あぁ、そうだな。そうしよう』
『何が面白いんだかな……』
「なんか仲良さそうねレウス君」
「そういやちょっと前に、チャベルンから来た商人が魔物使いの話をしてたな」
「そう言えばそんな事があったわね。それがレウス君だって言うの?」
「商人が言ってた魔物使いの特徴思い出してみろよ?」
「えーっと……茶髪で、ハーフエルフで……青い服を着た……少年。あぁ、レウス君ね」
「だろう?」
「すごいわよねー」
「マーダータイガーの時の指示と戦い方、マッチョドラゴンの時に出した俺らの指示と戦い方……。そんじょそこらの勇者でも出来ねぇよ」
「そうね。130から上の魔物のレベルは、ほとんど戦士ギルドの上の人の好みで分けてるだけだから……。あの子、レベル130~=レベル149って意味知ってるのかしら?」
「どうでもいいんじゃねぇか?」
「そうね♪」
「面白い奴だ」
「うふふふ、ホント面白い子♪」
「お二人さん、全部聞こえてます」
レベル130~=レベル149って……適当だな戦士ギルド。
「聞こえるように言ってたのよ♪」
「なお性質が悪いです」
「そろそろ帰るかい?」
「えぇ、ダンジョンに潜ろうと思ってましたけど、思わぬハプニングで疲れましたし、もう夜ですからね」
「へー、上硬化を狙うつもりかい?」
「特硬化の魔石を採った事があるので、多分余裕でしょう」
「……」
「トゥース、驚くだけ損よ」
『レウス、何を話してる?』
『あぁ、ダンジョンに潜るのは今度にしようって話してた。今日はもう疲れたから帰るよ』
『この森のダンジョンか?』
『あぁ、明日にでも来るよ』
『何が目的なんだ?』
『どうした? やけに絡むな?』
『あのダンジョンは我等の棲み家だからな』
『……目から鱗だな』
『?』
『それなら話は早い。あのダンジョンに魔石はあるか?』
『あの温かい石の事か?』
『そうだ……って事はあるのか』
『ある。あれが欲しいのならくれてやろう。しばし待っていろ……』
「どうしたんだレウス?」
「何話してたの?」
「ここのダンジョンは、あいつらの棲み家らしいです」
「……目から鱗ね」
「俺もさっきあいつにそう言いました」
「で、魔石はあるってか?」
「アタリだそうです」
「すげぇな!」
「上硬化……100万レンジはするわよ」
「売りませんよ……」
「だよな」
おぉ、戻ってきた。
確かに灰色の魔石を銜えてる。
『受け取れ』
『ありがとな』
『なに、安いもんだ』
『じゃあ礼をやろう』
『それはレウスへの礼だ。その礼などいらぬ』
『まぁいいから、俺にはもう必要のないものなんだよ』
『どういう事だ?』
「……それって、バングル? しかもスピード系ね」
さて、どこに着けたもんか。
足……だと落ちるだろうしな。
『おし、ケツ向けろ』
『なっ!?』
『変な事はしねぇよ。いいから後ろ向け』
『……こ、こうか?』
なんで頬がピンク色になるんだこいつ……。
『こ、こら! そ、そこはっ……おいぃ……ぁ』
『変な声を出すな。ほれ、終わったぞ』
『ん? ……おぉ、雅な装飾だな』
尻尾の根元まで腕輪を通してやった。
『綺麗なだけじゃないぜ?』
『ちょっと最速で動いてみろ』
『ふむ……』
「うぉ!」
「はっや!」
「魔物にも魔石の効果が出るのか!」
「知らなかったわ……」
『これは……』
『それが人間の技術だ』
『なるほど……だがこれは卑怯だぞ?』
『小さい身体で努力してんだ。許してやれ』
『くれるのか?』
『言っただろ? 俺にはもう必要のないものなんだよ』
『ふふ……では、有難くいただこう』
『んじゃ、そろそろ帰るわ』
『レ、レウスッ』
『どうもレ、レウスだ』
『ぬぅうう……』
『なんだ?』
『ま、また来い』
『おう!』
あの体格で尻尾振りまくりだ。
スン以外で初めて見た普通の魔物だ。
口調が特にな。
さて、もう夕暮だ……帰って飯食って……寝よう。
「レウス君、帰ったら私と一緒にお風呂入りましょ♪」
「……」
前かがみなのをトゥースに気付かれた。
「レウスも男だな」
うっせハゲ。